「休暇って言ってもあっという間だったね。」
「休暇ってそういうものだよ。」
なのはとユーノにミッドチルダが悪魔将軍に制圧されてしまった事など知るよしも無かった。
無理も無い。ジェネラルストーンから飛び出した悪魔将軍=恐怖の将=ダイアモンドマスクは
休暇中のなのはを除いた他の機動六課のメンバー達でも十分押さえられると判断されて
管理局はなのはに連絡をする事は無かったし、それが間違いと気付いた頃には既に
悪魔将軍の手によって全てのエネルギーを吸収され、全ての機能が停止していたのであるから。
そして休暇を終えて帰って来たなのはとユーノがミッドチルダの惨状に唖然とするのは必然だった。

「うわぁ! え!? ええ!?」
「一体何が起こったんだ!?」
なのはとユーノは一体どう反応すれば良いのか分からなかった。
地球のそれを遥かに凌ぐ程にまで高度に発達したミッドチルダの街並みは荒廃した
ゴーストタウンへ姿を変え、青く輝いていた青空は分厚くどす黒い黒雲によって覆い隠されていた。
そしてその彼方此方から飛び交う負の魔力が二人に悪寒を感じさせていた。

「人っ子一人いない…皆…どうしちゃったの? フェイトちゃん達は…?」
「一体誰がこんな事を…。」
なのはとユーノは彼方此方飛び回って周囲を探索していたが、人は愚か猫の子一匹いない。
管理局と通信をしていても、通信そのものが繋がらない。この様な現象は始めてだった。
「まさか次元震か何かで…?」
「にしては不自然な点が多すぎる。確かに街は荒れ果ててしまっているけど…
ミッドチルダの次元そのものには何ら破壊された様な様子は見られない…。
それに…何者かの攻撃を受けたと考えてもそれはそれで不自然だ。
人はおろか遺体や地面や建物に血が付着した跡さえ見られないなんて…。」
「管理局にはフェイトちゃんやはやてちゃんが残ってのに…一体誰がどうやってこんな事を…。」
「少なくとも…辺りに漂う負の魔力の正体がそうかもしれない…。」
「負の魔力…。」
「でもこの負の魔力は人間の物じゃない…。何て言うか…もっと異質な…。」
一度街の中に降りたなのはとユーノがこの空間全体に漂う負の魔力から
嫌な気配を感じ取っていた時だった。突如正面から何者かが歩み寄って来たのである。
「あ! 良かった誰かいたんだ…って喜ぶ様な状況じゃないよね…。」
「そうだよ…何しろ負の魔力はアレから放出されてるみたいだし…。」
『ほほぉ…まだ生き残っていた者がいたとはな…。』
突如なのはとユーノの方へ歩み寄って来た者…それは悪魔将軍だった。
「私達が出かけている間にここをこんなにしたのは貴方なの!?」
『そうだ。ここの人間には感謝しているぞ。この私…悪魔将軍が再びこの世に
復活する為の土壌を作ってくれたのだからな…バゴアバゴア!』
「悪魔将軍!?」
『どうやら貴様等二人は他所の世界に行っていた故に私に吸収されなかった様だな。』
「犯人が貴方だと言うのなら容赦はしないよ!」
なのはは瞬時にバリアジャケットを装着し、レイジングハートを構えた。
『何だ…この私と戦うつもりか? バゴアバゴア! 人間ごときがこの悪魔将軍に勝てると思うか?
だがまあ面白い…。この新しい身体に慣れる為の準備運動として軽く遊んでやろう…。』
次の瞬間だった。悪魔将軍の右手にバルディッシュが現れ、ザンバーフォームで斬り付けて来たのである。
なのはとユーノは思わず横に跳んでかわしていたが、背後にあった高層ビルは忽ち真っ二つになっていた。
「あれはフェイトちゃんのバルディッシュ!?」
『おっとまだまだこれだけでは無いぞ。』
するとどうだろう。今度は左手にグラーフアイゼンが現れたのである。
しかも悪魔将軍は巨大なギガントモードのグラーフアイゼンを片手で振り回しているのである。
「うそ! ヴィータちゃんのグラーフアイゼンまで!?」
「何故だ!? 何故こんな奴が…。」
『この世界には私の新たな身体になるに値する強さを持った者が沢山いたのでな。
だからこそ我が身に取り込ませてもらった。そしてどうやら…私が取り込んだ者達が
貴様の知り合いだったようだな…バゴアバゴア!』
「うそ…。」
なのはは絶句した。そして直ぐに理解した。フェイトやはやてをはじめとする
機動六課の仲間達が…ミッドチルダの人々がいなくなった原因は…この悪魔将軍に
取り込まれてしまったからなんだと…。そして確かに悪魔将軍の身体から
フェイトやはやて達の魔力の反応をかすかに感知されていた。
「そんな…フェイトちゃんもはやてちゃんも…スバルもティアナもみんな…。」
「うん…。この悪魔将軍と名乗る者に取り込まれたと見るしか無い。
しかもただ取り込まれたんじゃない。さっきのバルディッシュやグラーフアイゼンを
見る限り、その能力もそっくりそのままアイツの者にされたと見るのが妥当だろう…。」
かつて悪魔六騎士を自らの手駒としていた悪魔将軍はサンシャインのパワー、
ザ・ニンジャのテクニック、プラネットマンの宇宙的レスリング、ジャンクマンの残虐性、
スニゲーターの強靭さ、アシュラマンの魔力の全てを兼ね備えた存在だった。
それと同じ様に今の悪魔将軍はフェイトのスピード、ヴィータの怪力(?)、シグナムの剣術、
ザヴィーラの防御力、スバルの格闘力、ティアナの射撃力、その他もろもろ…
とにかくミッドチルダに存在するありとあらゆる者達の能力を自らに取り込み、
自分の技術としていたのである。
「そんな…と言う事は私達はたった二人でフェイトちゃん達全員を相手にしなければならないって事?」
なのはは愕然とした。しかし、悪魔将軍はそこを見逃してくれる程甘くは無かった。
『さあどうした? 最初の頃の威勢の良さは何処へ行った?』
悪魔将軍は脚部をマッハキャリバーに、腕部をリボルバーナックルへ変化させ真正面から突っ込んで来た。
「なのは危ない! 今は一時撤退するよ!」
「え!?」
ユーノがなのはの肩を掴むと同時にユーノの転送魔法が発動、悪魔将軍のリボルバーナックルが
なのはの顔面に直撃するか否かのギリギリのタイミングで転送に成功していた。
『逃げたか…。まあ良い。準備運動も兼ねてゆっくり探し…息の根を止めてやろう…バゴアバゴア!』
悪魔将軍は戸惑う事は無く、むしろ笑みを浮かべながらゆっくりと再び無人と化した街を歩き出した。

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最終更新:2007年08月16日 09:15