「逆に絶対助からないと言うのも確定されたワケじゃないけど…一応最悪の展開と
言う事も頭に入れておいた方が良いと思う。この宇宙超人名鑑には悪魔将軍に取り込まれながらも
助かった人についても記述されているけど…。」
「な~んだ。助かった人いるんじゃない。」
なのははホッとしたが、ユーノは真剣な顔のままだった。
「でも…それも超人だったりするんだよね…。超人は人間と違って、例え死亡しても
それが寿命による死亡で無ければある一定の条件さえ満たせば生き返る事が出来る。
つまり、そのままでも人間を遥かに超える程強靭であり、かつ【生き返る】と言う事が
可能な超人だからこそ将軍に取り込まれても助かる事が出来たって事なんだよ。
でも…これが人間の場合は…。」
「なのはは思わずゾッとして息を飲んだ。この状況でどうすれば良いのか分からない。
その為なのだろう…なのはは思わず筋違いな質問をしてしまった。
「ユーノ君…超人って具体的にどの位強靭だったりするの?」
「え? まぁ…その強靭さって言うのは超人によりにけりだけど…ただ回復力も
人間のそれを遥かに超越してるらしいんだよ。勿論超人にも限界や治らない傷もあって、
一度死んでから蘇った方が早い場合もあったするけど…それでも人間の治癒力を
遥かに凌駕しているんだ。例えば、何年も前になのはが負ったあの大怪我…。
あの時なのはは医者には再起不能と宣告されたり、なのはも今みたいに動ける様になる
までには物凄いリハビリをやったり大変だったよね?」
「うん…今考えてもあれは本当に地獄だったよ…。」
「でも…その傷でさえ超人なら数日程度で完治してしまうんだ。人間基準で全治7ヶ月の
重症を負った超人がたった3日でその傷を完治させたと言うデータも残ってる。」
「ええ!? 有り得ない!」
「なのはには悪いけど…それがあり得てしまうから彼らは超人と呼ばれるんだと思う。」
なのははまたもゾッとするしか無かった。数年前に負ったあの大怪我によって
再起不能になるか否かの瀬戸際に立たされたあの長い期間を超人は僅か数日で
終えてしまうと言うのか…超人はどこまで恐ろしい連中なのだろうと…
「で…その凄い超人の中でも特に飛び抜けているのが悪魔将軍って事なのかな?」
「うん…。いくら超人が強靭だと言ってもやっぱり生身なワケで、激しく動けば疲れるし、
攻撃を受ければその分傷付く。けど、悪魔将軍にはそういう概念さえ無いらしいんだ。」
「…。」
なのはは絶句してしまった。超人だけでも凄まじい事が分かって驚いていたばかりだと
言うのにさらに飛び抜けているなどと悪魔将軍とは何と言う化物なのだろうと…
しかし、そこでユーノが新しいページを開いてなのはに見せた。
「ただ…それでも過去に悪魔将軍に勝利する事が出来た者が一人だけいたんだ。」
「え!? 誰々!?」
「それは君の出身世界…すなわち地球から500億光年離れた大キン肉星雲第5番惑星
キン肉星の第58代大王キン肉スグル。彼は地球ではキン肉マンと呼ばれていて、
最初の頃こそ、王族として生まれながらブタ面な為にブタと間違えられて地球に捨てられて
地球人からドジでマヌケな落ちこぼれダメ超人と馬鹿にされていたけど、その底辺から這い上がり、
宇宙超人界において最も権威のある超人オリンピック史上初のV2チャンピオンとなり、
同じく宇宙屈指の権威を持つ宇宙超人タッグトーナメントでも優勝。
その他にも
地球を狙った様々な悪の超人や怪から地球を守る活躍をして現在では先に説明した通りに
キン肉星の大王をしている人なんだ。もっとも…宇宙屈指の超人に成長してもなお
ドジでマヌケな所は治らなかった様子だけど…。」
「そ…それは凄い…爪の垢煎じてティアナに飲ませてあげたいくらい凄いよ。」
「それはどうかと…でももしキン肉マンの活躍が無かったら…かなり昔の時点で地球は悪行超人に
制圧されてて、地球に住む多くの人の命が失われていただろうし…そうで無くても
奴隷か何かにされていたと思う…。そして…僕となのはが会う事も…無かったかもしれない…。」
「そんな…考えられない…。」
ユーノや魔法と出会わないどころか…悪行超人に奴隷にされていたかもしれない
と言うIFを想像してなのはは真っ青になっていたが、ユーノは続けた。
「そして彼が地球で活躍していた時代に悪魔将軍が出現した事があって、
長い歴史の中で唯一悪魔将軍を打倒する事が出来た人でもあるんだ。」
そう言いながらユーノがなのはにあるページに載っていたとある写真を見せる。
それこそキン肉マンがキン肉ドライバーで悪魔将軍を倒した瞬間の写真だった。
「あれだけの力がありながら…プ…プロレス技でやられちゃうの?」
「それだけキン肉マンも強かったって事さ。」
やっぱり超人の事が分からなくなってしまうなのはだったが、少なくとも
悪魔将軍を倒す事が出来た人が過去にいた事は理解出来た。
「そうだ! そのキン肉マンって人にもう一度頼めば…。」
「無理だよ。」
「え!?」
せっかく良いアイディアが出たというのに速攻で否定されてなのはもビビッた。
「確かに全盛期のキン肉マンはキン肉族特有のどんな攻撃も跳ね返す強靭な筋肉の鎧で
身を守り、ナチュラルな筋肉から来る強力なパワーと48の殺人技&52の関節技+αに
裏打ちされたテクニックを併せ持ち、さらに火事場のクソ力と呼ばれる
一種のオーバーブーストも備えた当時最も完全無欠に近い超人と言えた。
けど…それはあくまでもう何十年以上も昔の話…。今のキン肉スグル大王は
もう結構なご高齢でね…もうこんな感じにまで身体が衰えてしまってる…。」
ユーノが気まずい顔で別のページの写真を見せると、確かにそこには
もう老いてやせ細ってしまったキン肉スグル大王の写真が載っていた。
「うわぁ! 本当に骨と皮だけになってるの!」
「それに…仮に全盛期のキン肉マンだったとしても…悪魔将軍ともう一度戦って
勝利する事は不可能なのかもしれない…。」
「ええ!?」
「何故ならばキン肉マンが悪魔将軍に勝利する事が出来た事も殆ど運に近く、
キン肉マン一人の力だけでは無く、仲間の正義超人達の応援があって初めて出来た事なんだ。
それに、キン肉マンは何とか将軍に当時完成したばかりの新必殺技、キン肉ドライバーを
決めて勝利する事が出来ただけで、悪魔将軍が使っていた技を攻略する事は出来なかった。」
「そんな…。」
「それだけじゃない。その時の悪魔将軍はサタンそのものでは無く、サタンと結託した
ゴールドマンと言う別の存在が悪魔将軍と言う形を取った者だったんだ。つまり悪魔将軍であって
悪魔将軍で無い存在…。実際キン肉マンとの試合においてもゴールドマンの中に残った
良心による戦意喪失で悪魔将軍崩壊と言う決着になっている。でも…今ミッドチルダを
たった一人で制圧した悪魔将軍は違う…。完全なサタンそのものによる存在…。
だからキン肉マンの時の様に上手くは行かないと思う…。」
なのはは改めてキン肉マンがキン肉ドライバーで悪魔将軍を倒した瞬間の写真を見直した。
確かにその時のキン肉マンは勝てた事以前に戦えた事が奇跡としか思えない程にまで
全身がボロボロであり、確かにもう一度戦って勝つ事は不可能かもしれないと悟った。
「ぜ…絶望した!! 悪魔将軍があまりにも付け入る隙が無さ過ぎて絶望したぁぁ!!」
二人は一斉にどこかのネガティブ教師みたいなセリフを吐いていたが、叫びたくなる気持ちも分かる。
余りにも絶望的過ぎる状況…。こんなバケモノをたった二人でどうやって倒せと言うのか…。