内火艇:八神はやて
フェイトからベール・ゼファーについての報告を聞いたはやての顔から汗が一滴落ちる。
あの結界内でなのはがどのような状態にあるのか解らない。
しかし考えられる状況はぞっとするには十分なものだ。
ついでフェイトから作戦が提案される。
それは綱渡りのように危ういものだった。
「でも、その方法やとなのはちゃんが魔法を使う最後の一瞬を待たんといけんよ。それまでなのはちゃんを、ただ見とるだけになってしまう」
(なのはは最後まで諦めない。だから絶対、一瞬は来る)
他に即座に取れるような手段はない。
はやては自分の手を見る。
握りしめられ白くなり、緊張しきっている。
一度広げ、もう一度握る。
「わかった。やるよ。そっちの準備は?」
(いつでもいける)
「なら、後はこっちやな」
(それからはやて……今は戦うことは考えないで)
念話が切れた。
顔を上げ、ティアナとスバルを見る。
「みんな、なのはちゃんを助けるよ。わかっとると思うけど、あの結界の中で戦っとるはずや」
二人が黙ってうなずく。
「結界はフェイトちゃんが何とかしてくれる。同じタイミングで突っ込んでなのはちゃんを助ける。スバル」
「はい」
スバルの顔にも汗が浮かんでいた。
疲れではなく、緊張の汗だ。
「それはスバルがやって。全力で突っ込んでなのはちゃんを確保。それから、できるだけ速く離脱。ええな」
スバルは答えようとする。
「……待って」
答えは遮られた。
離陸時にスバルが連れてきた緋室灯だ。
「……それは私がする」
静かに宣言する。
一瞬誰もが次の言葉を継げなかった。
それをティアナが破る。
「なによ、それ。うちのスバルじゃできないって言うの!?」
灯は首を縦に振る。
ティアナは再び口を詰まらせる。
「貴方たちじゃベール・ゼファーの相手にならない」
スバルとティアナを見て、はっきりと言う。
「灯さんなら相手になるんかな?」
なにも言わず肯定。
「1回だけなら。だから、その1回で助ける」
はやては1回目をつぶり、開いた。
「灯さん……頼むね」
ハッチに向かう灯をティアナが止める。
まだ納得できなかった。
「そんな……それに、あなた空を飛ぶあの道具持ってないでしょ。スバル以上に速く走れるの?」
灯は振り返りながら空間の中に手を突っ込む。
「……問題ない」
はやては口を驚愕で開き、笑いで眼を細めた。
「そんなとこにあったんか、それ」
灯の両手には巨大な銃、ガンナーズブルームがあった。


内火艇:スバル・ナカジマ
ハッチが開く。
ガンナーズブルームを宙に浮かべた灯をスバルの声が止めた。
「待って!」
灯がスバルを見る。
スバルの言葉を待つ。
スバルはどうしても1つだけ言いたいことがあった。
「ティアはあんなこと言ってたけど、同じこと言いたいと思うの」
吹き込む風が声を消しそうになる。
「なのはさんを……なのはさんをお願いします。なのはさんを助けて」
髪を風にあおらせながら灯がガンナーズブルームにまたがる。
宙を舞うガンナーズブルームはすぐに内火艇の壁に隠れてしまう。
スバルは灯が微笑みながらうなずいてくれるのを見た。


結界内:高町なのは
なのはは左手をだらりと下げて空に浮かんでいた。
左手は動かない。
ヴァーティカルショットを受けた瞬間、左手は不自然にねじくれ、嫌な音を立てた。
今は痛みすらない。
それが自分の左手が決定的に壊れたことを教えてくれた。
「これじゃ、お話も聞けそうにないな」
「どんなお話が聞きたいのかしら?」
つぶやいたつもりだったがベール・ゼファーの耳には届いていた。
「何故、ステラを使うの?悪いことじゃなかったら、協力できるかも知れない」
「そう、なら無理。協力できそうにないわ」
ベール・ゼファーが赤い月を見上げた。
「だって、魔王のすることは決まっているでしょ?世界を滅ぼすこと、それが私の目的だから」
「だったら、そんなの……絶対に止める!」
レイジングハートを、動く右手だけで振り上げる。
「やってご覧なさい」
ベール・ゼファーが手のひらに作り出すのは、なのはの左手を砕いた黒い球。
「ヴァーティカル・ショット」
黒い球が迫る。
シールドは作らない。
フィールドも作らない。
どうせ役にたたない。
そして、避けれもしない。
なのははフェイトほど速くは動けないからだ。
体を少しだけずらす。
「きゃぁあああああああああああああああああっ」
黒い球がなのはの左足をねじる。
激痛は一瞬だけ。
冷たい無感覚がやってくる。
その後には黒い球が残したベール・ゼファーの魔力が残滓となって充満した。
「これが……今の私の……全力全開!!!」
ミッドチルダの魔法陣が展開される。
オートプロテクションをカット。
アクセルフィンの出力も最低に。
レイジングハートの処理能力を魔法の完成に注ぎ込む。
「スターライト……」
拡散して消えるはずのベール・ゼファーの魔力がなのはの魔法陣に収束する。
さらに、カートリッジロード。
ありったけの魔力を注ぎ込む。
「ブレイカーーーーーーっ」
魔力が砲撃となって降り注ぐ。
歪曲空間を力任せに貫き、ベール・ゼファーの左手を焼く。
だが、それだけ。
魔力光は軌道を変え、空高く舞い上がる。
光は月匣の境界に当たり、星のように散っていく。


結界上空:フェイト・T・ハラオウン
バルディッシュをザンバーフォームのまま維持していたフェイトは待っていた一瞬を見た。
なのはの魔力光の色に輝く月匣。
バルディッシュの切っ先を光に向け、全力で飛ぶ。
少し遠い。
内側から輝く魔力光が次第に輝きを減じていく。
「間に合えっ!」
ソニック・セイルに魔力を注ぎ込む。
光る羽が限界を超えて光る。


結界上空:柊蓮司
魔力を纏う剣を振る。
魔力は渦巻く風となり、フェイトの背中に飛ぶ。
「エア・ダンス」
魔法が完成した。


結界上空:フェイト・T・ハラオウン
体を包む風が1つの力になった。
全ての風がフェイトを助ける。
フェイトが飛ぶために吹く。
より速く。
速く。
速く。
「たぁあああーーーーーーーっ」
ザンバーの切っ先がなのはの色に光る月匣の境界と激突する。
さらに押し込む。
刃の全てが月匣の中に埋没する。
月匣が砕け散る。
ガラスの音を立てて。

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最終更新:2008年04月10日 15:10