地上:ベール・ゼファー
結界が砕け散った。
赤い月は消え、空に光るは白い月。
舞い散る結界の破片と共に金色の光が舞い降りた。
光はフェイト・T・ハラオウン。
「来たわね」
フェイトは答えない。
左手を突き出し、周囲に円筒形の魔法陣を複数展開させる。
「プラズマスマッシャー!」
魔法陣から電光の槍が撃ち出される。
ベール・ゼファーの視界を埋め尽くすほどの槍がつるべ打ちに撃ち出される。
「不意打ちなら通用すると思った?」
それでもベール・ゼファーには届かない。
歪んだ空間は槍の直進を許さず、ベール・ゼファーを避けて上へ、下へ、左へ、右へ。
「あなたもあの娘と一緒に殺してあげるわ」
光が右手に集まる。
絶対命中の光が強さをましていく。
「リブレイ……」
頭上に気配を感じた。
影が走った。


空:緋室灯
結界が内側から光り始めると同時に加速。
ガンナーズブルームがトップスピードで接触する直前に、灯の目の前で結界が割れた。
スピードは落とさない。
可能な最高速で目標を目指す。
見つけた。
空中にとどまり手足をだらんと脱力している白い魔道師、高町なのは。
なのはに向け、わずかに軌道修正。
落ちた速度を再び上げる。
すぐそばで気配がした。
「緋室灯!おとりを使うなんて何をする気?」
人影がいる。
地上から瞬時に飛び上がった人影は破壊の力を持つ白い光を纏った手をふるう。
「ベール・ゼファー!」
灯はガンナーズブルームを軸に縦に半回転。
ガンナーズブルームに足を絡ませ宙吊りになる。
ベール・ゼファーの手は宙を斬る。
灯は速度を落とさない。
宙づりになったまま両手を広げ、なのはに飛ぶ。
ぶつかる直前になのはの背中に手を回す。
なのはの手が自分の背中をひっかくのを感じた。
指に力が入っていない。
ガンナーズブルームに魔力をつぎ込む。
灯もまた、限界を超えた速度で飛んだ。


空:ベール・ゼファー
「私を無視する気ね」
蠅の女王は獲物を逃がす気はない。
「フライト」
宙を蹴り、光を纏って空を飛ぶ。


内火艇:ティアナ・ランスター
エンジン音の響く内火艇に、ガンナーズブルームに乗った灯がなのはを抱いて突っ込んでくる。
ティアナとスバルは衝撃が加わらないように二人を受け止める。
放り出されたガンナーズブルームが床に激突。
滑りながら回転し壁にぶつかった。
パーツが砕け、外れていき、そこいらに散らばっていく。
焦げる臭いがした。
いくつかのパーツが煙を上げている。
壊れていく機械を見るのはいやなものだ。
だが感傷に浸っている暇はない。
ハッチの外、内火艇の後ろから魔力と音が迫ってくる。
打ち合わせ通りハッチギリギリに立ってクロスミラージュを構える。
目標が見えた。
高速で飛ぶ内火艇とそれに併走するフリードとフェイトを追ってくる。
内火艇も決して遅くない。
それなのに距離はどんどん狭まっていく。
「あんな女の子が!?」
構える両手の力が少し抜ける。
「ティアナさん!早く!」
エリオの叱咤が聞こえた。
「わかってる!」
手に力を入れ直す。
「フェイク・シルエット」


空:フェイト・T・ハラオウン
ティアナの作り出した幻影が少し外れた軌道を飛んでいく。
あまり外れたコースを飛ばすことはできない。
幻影がばれてしまう。
あと少しだけ騙せればいい。
光が空を走った。
ベール・ゼファーの魔力が幻影を切り裂く。
霧散する幻影を確認したベール・ゼファーは本物の自分たちを追ってきた。
「プラズマスマッシャー!」
再び雷光をとぼす。
あと少し、少しだけ。
「待ちなさい」
ベール・ゼファー手が内火艇をつかんだ。
途端、フェイトの視界は遮られる。
周りの景色が次元空間を思わせるものに変わっている。
ベール・ゼファーは腕だけを残し消えていた。
その腕もすぐに力をなくし次元空間に消えていった。


空:ベール・ゼファー
逃げる内火艇の前方に魔法陣が見えた。
アンゼロット宮殿に続くゲートだ。
そこに入らせまいと内火艇をつかむが遅かった。
内火艇はゲートに消える。
同時にゲートとなっている魔法陣も消えた。
アンゼロット宮殿とこの場所の空間は切り離され、ついでに腕も切り離された。
「逃げられたみたいね」
切り離された腕があった場所を見る。
「フリップ・フラップ」
それは事象をゆがめる魔法。
ベール・ゼファーが腕を切り離されたという事実は消滅する。
故に、ベール・ゼファーは当然そこにある自分の腕を見る。
元に戻った腕を伸ばし、空間を探る。
「ゲートを閉じた……いえ、破壊したわね」
追跡を封じるためだろう。
「よほど、あの娘達を買っているのかしら。アンゼロット」
さて、どうしよう。
ここから追跡はできない。
別のゲートの場所はいくつか知っている。
そこから、追撃を試みるか。
止めることにした。
アンゼロット城に襲撃をかけたこともあったが今はその時と同じではない。
アニエスが世界結界を食べていくことによる世界の混乱がアンゼロット城の防備を固めさせているだろう。
「そうね、なら……来るのを待ちましょう」
アニエスの居場所は知られている。
せっかく作った異世界の結界を壊される可能性が残るのはつまらないが、追撃が難しいなら迎え撃つのも悪くないだろう。
それにアニエスは世界を食べるほどに強くなる。
時間は味方している。
「お客様を迎える準備をしましょう。釜の中に料理を入れて煮込むの。ことこと、ことこと」
光の尾を引きベール・ゼファーは再び空を飛ぶ。
「ふたを開けるのはお客様。開けたらきっとびっくりするわ」
さあ、どうお迎えしましょうか。
とても、とても楽しみ。

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最終更新:2008年04月10日 15:19