細かい所は中略するとして…ついに残るは総大将スカリエッティ一人となってしまった。
既に多数の武装局員がスカリエッティを包囲している。
「ジェイル=スカリエッティ! 貴様を逮捕する!」
名無し局員が名無しとは思えないくらいに格好良くそう叫ぶが、スカリエッティは
余裕の笑みを浮かべていた。
「フフフフ…諸君らがこの私を逮捕出来るとお思いか?」
「何が可笑しい!? 貴様のガジェットは全て破壊したし、戦闘機人も機動六課が対処した!
残るは貴様一人! 誰も助けに来ない状況で何故そこまで笑える!?」
だがなおもスカリエッティは余裕の笑みを浮かべる。
「諸君らは何か勘違いをしている…。この私がただ頭が良いだけのひ弱な研究者だと思ったかい?」
「何!?」
すると突然スカリエッティは自らの身を包んでいた白衣を脱ぎだしたでは無いか。
研究者のアイデンティティとも言える白衣を脱ぐとは一体どういう事か…
そしてスカリエッティは上半身裸になるのだが、そこには何と
鋼鉄の様に鍛え抜かれた強靭な筋肉の姿があったでは無いか。
「我々の最終兵器…それはこの私自身の肉体にあるのだよ。」
「何!?」
「かまうな撃てぇ!」
武装局員達がデバイス先端をスカリエッティに向けて魔砲を一斉発射した。
しかしどうだろう。スカリエッティの周囲にフィールドの様な物が展開されて
魔砲を全て防いでいたのである。
「フフフ…魔導師にこの私は倒せないよ。」
「うわぁぁぁ!!」
次の瞬間スカリエッティはその強靭な肉体から繰り出される強力な技の数々で
自身を包囲していた武装局員を一蹴、忽ちの内に全滅させたのであった。

「大変だー! スカリエッティが何か凄い事になってるー!」
「何ぃぃぃ!?」
スカリエッティが包囲網を突破した事実は戦闘が収束しかけていた各地の戦線を騒がせた。
無論その報告は激闘を終えて一息付こうとしていた機動六課の面々にも届いてくる。
「残るはスカリエッティ一人なのにどうして逮捕出来んのや!?」
「何でもスカリエッティが最後の最後に凄い隠し玉を用意してたらしいよ。」
「え!?」
そこで現場の映像が機動六課の目にも入るわけだが、直後に皆は唖然としてしまった。
無理も無い。映像では半裸のスカリエッティが徒手空拳だけで武装局員達を次々に倒していたのだから…。
「え…これ…何かの冗談ちゃうん?」
「で…でも…これ…何て言ったら良いのか…。」
「つまり…スカリエッティ自身が隠し玉だったって事ですか…?」
機動六課の誰もがスカリエッティを生粋の研究者タイプで、本人の戦闘能力は無きに等しいと
考えていただけに、映像の様に半裸+徒手空拳だけで武装局員を次々に倒しまくると言う
格闘家まがいの真似をするスカリエッティの姿は相当シュールな物に映ったに違いない。
「何でスカリエッティがあんなんなってるのかはこの際置いとくとして…
とにかく逮捕しにいかな!」
「了解!」
慌てて機動六課は再出動した。目標は半裸で戦ってるスカリエッティである。

「うわぁ! コイツ強いぃぃ!」
「どうだ? これが私の真の力だ! 魔導師ではこの私にはどうあがいても勝てないぞ!?」
なおもスカリエッティは半裸のまま徒手空拳だけで武装局員達を次々に倒しまくっていた。
もうまるで拳法映画でも見ている様な光景である。
しかも今のスカリエッティはただムキムキになっただけでは無く、強力なフィールドバリアや
AMFまで使用する事が出来た。これではいかなる魔導師も魔法を封じられてしまい、
スカリエッティの強靭な肉体から繰り出される技の餌食にされてしまう。

ムキムキ肉体派モードのスカリエッティには流石の機動六課も苦戦を強いられていた。
前述の理由で魔法が封じられてしまうなど、魔導師にとって相性が悪いと言う事もあるのだが、
それ以上にスカリエッティの肉体があまりにも強靭すぎるのである。
はっきり言ってこれは人間のレベルを遥かに超越する程の強靭さだった。
「一体何でや? 何でこんなにまで…。」
「知りたいか? この私が何故ここまでの力を手に入れたか…? なら教えてやろう!」
それが余裕から来るのか、はたまたなんてサービスが良いのか分からなかったが、
とにかくスカリエッティは説明を開始した。
「今まで秘密にしていた事だが…私は元々そっち方面。そう、つまり戦士になりたかったのだ。
一切の武器に頼らず己の肉体そのものを武器として戦う戦士にな…。だが…残念な事に
この私にそっち方面の才能が無かったのだ…これが…。努力ではどうにもならないくらいにな…。
だが…幸いにも私は人より勉学が出来た。だからこそ学問の道へ進み…研究者となった。
その目的は自らを強化して超人となる為の研究を行う事。人造魔導師も戦闘機人も
所詮は私自身を超人へ強化する為の実検の一つに過ぎないのだ。
そして見ろ! この私の肉体を! これこそついに完成した私の長年の研究結果!
この世の如何なる武器にも勝る究極の肉体がこれだぁぁぁ!!」
「な…。」
何と恐ろしい事であろうか。ついに明かされた衝撃の事実と真の野望。
余りにも予想外と言うか超展開過ぎて皆声が出なかった。
スカリエッティは他人のみならず自らまで強化改造すると言う狂気に走っていたのである。
いや、自らさえ強化改造する事が出来る覚悟があるのだからこそ
他人を平気に実験材料にしてしまえるのかもしれない。
驚愕する機動六課のメンバー達だが…スカリエッティは不敵な笑みを浮かべていた。
「フフフフ…私は嬉しいのだよ…今の様な状況こそ私にとっては好都合…。
この私の強化された肉体を思い切り振るう事が出来るのだからな! だからこそ私は今とても
機嫌が良い! 諸君等も私がこの手で苦しまずに一瞬で息の根を止めてやろう!」
「え!?」
スカリエッティは拳を振り上げて襲い掛かった。その踏み込みの力、跳躍力も
人間のレベルを遥かに超越していた。しかもスカリエッティの体から発せられる
AMFによって防御魔法も効き目は無い。さらにスカリエッティの拳のターゲットは
なんとしょっぱなからなのはに絞られていたのである。
「なのはちゃん危ない!」
「なのは逃げて!」
「なのはさん!」
「フハハハハハハ!! 死ねぇい!!」
なのはも何とか避けようとするがもう遅い。スカリエッティの拳はなのはの直ぐ
眼前にまで迫っている。防御魔法の恩恵も無しにこれを食らっては即死どころの
騒ぎでは無い。頭はおろか全身が破裂して哀れな肉片を晒してしまうかもしれない。
そして機動六課はしばらくの間肉が喰えなくなるのも必至だ。だが…
「ちょっと待った――――!!」
突然何者かがなのはとスカリエッティの間に割って入って来ていた。
だがそれだけでは無い。なんとスカリエッティの拳の一撃を受け止めていたのである。
これには初めてスカリエッティの表情が歪んだ。
「何ぃ!?」
「これがキン肉王族に伝わる【肉のカーテン】だ!! そんなへなちょこパンチは効かないよ!」
「万太郎君!?」
突如二人の間に割って入り、スカリエッティの拳を受け止めてなのはを救ったのはなんと万太郎だった。
「大丈夫だったかい? なのはちゃん!」
「あ…ありがとう…。万太郎君…。」
生命の危機を救ってもらったという事もあったが…その時の万太郎を不覚にも格好良いとか思ってしまった。
そう、確かに普段はドジでダメな豚男だが、こういう危機的状況にこそ真の格好良さを発揮するのが
キン肉万太郎と言う男なのである。
「くっ! 邪魔だ! どけぇ! この豚男!」
スカリエッティは再び拳を万太郎に打ち付けた。だが、万太郎はガードポジションを崩さず、
スカリエッティの強力な拳を受け止め弾き返していく。
「無駄無駄! 僕の【肉のカーテン】にはそんな物は通じないよ!」
キン肉王族の血を引く者は代々鋼の様な筋肉質のボディを持って生まれて来る。
その強靭なボディーのおかげでキン肉王族の超人レスラー達はその攻撃面において
他の超人レスラーの真似出来ない様なパワー溢れる破壊力抜群の技を幾つも開発してきた。
しかしキン肉王族の類稀なる筋肉ボディは防御面でも画期的な技を生み出しているのである。
それこそが「肉のカーテン」 独特のフォームで両肘で顔面をガードして身体を完全静止させ
呼吸を止め心を無にする。するとそのボディはどんなに敵からの攻撃を受けてもビクともしない
弾力性に富み、反発力もある肉の塊と化す。それはどんなに鋭利な刀や強引に放たれた矢も
跳ね返す程の堅固さ。かつてキン肉王族の始祖、キン肉タツノリは敵に捕らえられ、100人の
悪行超人から私刑を受けた時も…三日三晩この「肉のカーテン」で耐え切ったと言われる。
そして万太郎の父、キン肉スグルもまたウォーズマンやスニゲーターなどの強敵の
猛攻をこの肉のカーテンで凌いで来たのである。それだけ凄まじい防御力を持った防御技だった。
「なるほど…ただの豚男では無いと言う事か…。それに…お前は管理局の魔導師どもと違って
そっち方面の方が得意と見た。お前…名はなんと言う?」
「僕は万太郎…キン肉万太郎だ! 本来僕はこの世界の超人じゃないし…あんた達の
戦いにだって関係は無いけど…そんなの関係無い! 僕は正義超人として
この世界に住む全ての人の命を守る為にお前と戦う!」
今までのドジダメさが嘘の様にこの時は万太郎は渋く格好良かった。
これが何時もならきっと機動六課のメンバー達にも豚男帰れとかブーイングが
来ていたかもしれない。既に過去に何度も機動六課や戦闘機人達に袋叩きにされるなど
ドジダメな所を見せてしまっているだけに。だが…今の万太郎にはそれを言えない…
いや、言ってはいけない何かを皆は感じていたのである。
「正義超人…? そうか…以前聞いた事があるな。数多ある世界の中の一つに
生まれながらに人間を遥かに凌駕した特殊な生命体と人間が共存している世界があると…。
なるほど…貴様がその人間を遥かに凌駕する特殊な生命体と言う奴か…。羨ましい事だ…。
この私が望み…どんなに鍛えても手に入らず…この様に数多の実検と試行錯誤の果てに
ようやく成功した改造と言う手によってここまでの肉体を手に入れたと言うのに
貴様は生まれながらにその様な強靭な肉体を持っている…。実に羨ましい…。そして憎い!
ならば貴様からまず最初に殺してやろう…。貴様のナチュラルに人間を超越した神秘の超肉体が
勝利するのか…この私の長い長い研究の果てに完成した強化肉体が勝利するのか…勝負だ!!」
「来るか!?」
万太郎はファイティングポーズを取った。だが、スカリエッティが振り上げたのは拳では無く、
何かのコントローラーの様な物だった。そしてそのボタンを押した直後、聖王のゆりかごの方で
動きがあり、なんと聖王のゆりかごの甲板上にプロレス用リングが出現したのである。
「ゲッ…ゲェ―――――――――!! 聖王のゆりかごの上にリングが現れた―――――!!」
「あの聖王のゆりかご特設リングで勝負だ!」
スカリエッティは聖王のゆりかごの甲板上に現れたリングを指差してそう叫ぶが…
「あ! あれが噂に聞く聖王のゆりかご特設リング!」
「わぁ! ユーノ君!? 無限書庫にいたんじゃなかったの!?」
「まあ細かい事は言いっこ無しって事で…。」
なんと言う事か、突然無限書庫司書長ユーノ=スクライアが現れたでは無いか。
これにはなのは達も相当焦るのだが、ユーノはまるで三面拳雷電みたいな顔になって
(態々額に大往生とか書いてる)説明を始めたのである。
「聖王のゆりかごの持ち主であった古代ベルカの王は相当な格闘技好きで、
聖王のゆりかごにも格闘技用の特設リングを作らせたと言う…。そして各地から腕利きの
格闘家を集めて戦わせ…勝利者には莫大な賞金を払ったと言われているんだ。
ただの作り話かと思っていたらまさか実在したとは…。」
「じゃ…じゃああのリングがその古代ベルカの王が作らせたって言う…?」
「うん…民明書房の本にそう書いてあった。」
「うわ~…何か一気に胡散臭さ全力全開になっちゃった…。」
ユーノがせっかく格好良い所見せたのになのはは呆れてしまっていた。
「さあ万太郎とやら! この私の挑戦を受けるか否か聞かせてもらおう!?」
「ようし分かった! 受けて立つ!」
万太郎は格好良くスカリエッティの提案を呑むが…下半身はやっぱりチビッてたりする。
「Ⅱ世! もういい加減チビるのはやめて下さい!」
「だってやっぱり怖いんだも~ん!」
「やっぱり何時もの豚男や…。」
下半身をチビらせながらミートに叱られている万太郎の姿を見て、その場にいた誰もが
呆れてしまっていた。勿論スカリエッティも。特になのはに至っては…
「(命の恩人に対して申し訳無いけど…こんな人を一瞬でも格好良いと思った私が馬鹿だった…。)」
と、内心思っていたりする。

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最終更新:2007年08月28日 19:20