――プロローグ―― 

 黒煙漂う瓦礫の町を、一人の兵士が銃を構えて走っていた。
 EDF――地球防衛軍のボディアーマーに身を包み、大型ライフルを抱える一人の兵士。彼は無言のまま、一面灰色に曇った空を見上げた。
 バイザーごしに見えるのは、まるで月と見紛うほどに巨大な機械仕掛けの球体。
 もちろん、それはただの球体ではなかった。
 銀河の果てより襲来した残虐なる『異邦人』。地球生命のほとんどを焼き払った侵略者達の『星舟』だ。
 『星舟』の周囲に浮かぶ砲台の一つ一つが、地上に向けてレーザーの雨を、光弾の嵐を撒き散らす。
 彼はとっさに横っ飛びに転がった。 
 光弾は、数瞬前まで彼のいた場に着弾。爆風でアスファルトを抉り取る。
 直撃は免れたものの、容赦の無い突風が横殴りに襲ってきた。
 彼の体は宙を舞い、数メートル先の地面へ叩きつけられた。
 全身を走る激痛に顔を歪めつつも、手もとのライフルを握り締め、それを落としていないことを確かめる。

『ライサンダーZ』

 人類の技術と『異邦人』の技術を合わせて作られた地球最強の兵器。
『星舟』を撃墜できる可能性を持った、絶望の中の只一つの希望を。

<<本部! 応答願います! 負傷者多数! 戦線を離脱しました!>>
<<だれか戦場に残っている者はいるか……誰が、誰が戦っている……誰かはわからない……>>
<<俺は見たぞ。『』だ『』が戦っている……たったひとりで……!>>

 ひび割れたヘルメットに響く仲間たちの声を聞きつつ、彼は痛みを堪えて立ちあがる。
 自分が満身創痍であるとは間違いない。
 開戦から今日まで、彼は信じられないほどの無茶を繰り返してきた。
 肋骨は半分以上へし折れて、口を開けば血が絶えることなく溢れ出る。
 体中打撲と火傷と切り傷だらけで、これ以上無理をすれば確実に死んでしまう。
 しかし彼は戦いを止めようとは思わない。
 自分の、いや、地球人類の全ての未来を狂わせた悪魔の『星舟』。
 奴への怒りが今の彼を支えていた。
 地球を壊滅させた奴等を倒すためにも、思いを託して散っていった同士達に報いるためにも、この戦いは負けるわけにいかないのだ。

 怒りを込めて『星舟』を見据え、銃口を向けてトリガーを引き絞る。
 爆発のような銃声と共に、凄まじいまでの衝撃が彼の体に襲いかかる。
 全身の傷口が開き、火炎であぶられたような激痛が一斉に弾ける。
 苦痛を代価に撃ち込まれた銃弾は小型砲台の一つに直撃。
 中心を撃ちぬかれた板状の砲台は、炎を吹き上げ落下した。
 それを合図に彼は飛び出し、叫び、走り、撃った。
 死体を越え、瓦礫を越え、炎の中を掻い潜り、銃を構えて天を撃つ。
 光の雨がアーマーを削り取り、体に新たな傷を刻みこむ。
 それでも彼は止まらない。
 光の刃に打ち抜かれ、光弾の爆発に吹き飛ばされても、彼は苦痛をものともせずに立ちあがる。
 死への恐怖は感じない。痛みに構う暇など無い。
 千切れかかった耳に突き刺さる風の音は、戦火に散った幾多の英霊達が『地球を守れ』『奴らを倒せ』と叫んでいるようだ。

 こらえきれなくなったように、『星舟』から爆炎が噴き上がり始めた。
 いかなる攻撃も寄せつけなかった装甲のあちこちから、炎が噴き出していた。
 銃弾を撃ちこむたびに聞こえる奇音は、まるで『星舟』の断末魔のようだ。
(見ていてくれ、みんな)
 霞む視線の先に勝利を信じ、火を吹く『星舟』に標準を合わせる。
(これで……最後だッ!)
 そして、全てを終わらせるべくトリガーに指を掛けた。そのときだった。

 ふと彼は足下に奇妙な感覚を覚えた。
 視線を足下に向けた彼は我が目を疑った。 
(……ッ!)
 足下から黒い靄のようなものが立ち上ってくる。
 そして、靄に包まれた部位は感覚を失い、靄は上へ上へと昇ってくる。
 『星舟』の攻撃か?
 そう思って視線を向けると、なんと『星舟』も黒い靄に包まれ消えていくではないか。
(『星舟』じゃない? では、これはなんなんだ?)
 しかし、彼の疑問に答える者はなく、足首から膝へ、膝から腰へ、腰から胸元へと、彼の体は次々と闇に溶けていく。
 自分が消えてしまう。彼はこの戦いで初めて恐怖を感じた。 
 だが、もう逃げられない。
 声を上げる間もなく、口にも冷たい闇が流れ込む。
 耳も、目も闇に沈み込み、視界が一面の黒に変わる。
(ここまで……なのか……)
 闇色へと染まっていく頭の中で彼は必死に抗った。
 しかし闇は無情に彼の全てを包みこみ、闇の中へと溶かしていく。
(まだあいつを倒していないんだ……仲間も戦っている……なのに……こんな……畜生……)
 意識が急速に拡散する。
 そして、彼の全ては闇に溶け、『地球上』から消え去った。

――二〇一八年 某月某日 

 東京での決戦の中、突如として『星舟』は姿を消した。
それと時を同くして、世界中の『異邦人』も謎の闇に包まれ、その全てが地球上から消え去った。
後にEDF臨時本部は『星舟』の撃墜を表明する。
この世に再び満ち溢れた平和。
人々は世界の破滅回避を喜び、勝利の美酒に酔いしれた。
その狂騒の中で、『星舟』と共に消えた『彼』のことを省みる者は、一人もいなかった。

 彼らは知らなかった。
遠い時空の彼方で、『彼』と『異邦人』との新たなる戦いが始まろうとしていることを。

暴風の名を持つ『彼』 時空の番人たる『魔道師達』 そして『破壊の異邦人』
出会うはずの無い三者が一同に会すとき、魔道の都は戦場へと変貌する……。


魔法少女リリカルなのはStrikerS――legend of EDF――


To be Continued. "mission1『遭遇』"

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最終更新:2008年05月28日 00:17