ウイングロードで突っ走った先にあるのは、狙撃型オートスフィア。
遠くからさんざ撃たれまくったけれど、
ティアの幻術が道を拓いて、やっとあたしの射程内。
半年に一度のBランク昇格試験、ここで落とせば、また半年後。
あたしだけじゃない、ティアの夢が、こんなところでつまづくのなら。
足をくじいたティアを放って、あたしだけがゴールするくらいなら。
そんな未来は、握った拳でぶち砕く。
あの日、あの時、あの人が、あたしにそうしてくれたように。
そして、もう二度と、守れないことのないように。

 神 聖 破 撃
ディバイン・バスター

魔力球、形成!
振り抜く右のリボルバーナックルで殴打、衝撃波、発生!
敵の攻撃全部はね飛ばし、無理矢理に隙をこじ開ける。
分厚い天井をぶち抜いて生きる道を創ってくれた、あの人の魔法。
間髪入れずにウイングロード、展開! ローラーブーツ、最大加速!
作った道は、あたし自身で駆け上って、極めるんだ!
右の振り抜きざま、左の素拳に込められた力は、
踏み出した足と同時に、真正面の『未来』にめり込む。

「 因 果 (いんが)!」

 あの日の空に 見つけた憧れ
 あたしは あたしの なりたいあたしに なる !


魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果

第九話『二人(前編)』


「因果だってよ、覚悟くん」
「否、あれはディバインバスターなり」
照れなくてもいいのに。
少し嬉しそうで、少し哀しそうな顔をしている覚悟くん。
やっぱり、一度は生命を助けた子だから、
わざわざ戦いの場に戻ってくるのを止めたい本音もやっぱりあって。
でも、あのとき、あの子を助けた魔法の名前を受け継いで、
誰かを助ける仕事を望んでくれた…伝わる思いも、うれしくて。
また映像に目を移したら、ティアナちゃんを背負ったスバルちゃんが、
制限時間ぎりぎり、全速力でゴールに突っ込んでくるところ。
合格は間違いなしだった。
満点はあげられないけど、見せてくれた奮戦と結果は、納得するには充分すぎる。
そんな、感激の目で見ていたから、あやうく気づかないところだったけど。

「危険だ」
「…まずいね」
ヘリから一緒に飛び降りた。
このままじゃ二人とも、ゴールの先にある瓦礫に正面衝突だから。
最後の最後でこんなミス…危険行為の減点は大きいけれど、
今はそんなこと、気にしている場合じゃない。
覚悟くんは覚悟くんらしく、正面から二人を受け止めきるつもりみたい。
だったらわたしはその後ろからアクティブガードで、さらにやさしく受け止める。
誰も痛くないように…そう、思っていたんだけど。
スバルちゃんのとった行動は、覚悟くんの予想も、わたしの予想も超えていたんだ。
わたし達が受け止める体勢をとるよりも前に、スバルちゃんは、ティアナちゃんをお姫様抱っこして。
…自分で、仰向けに転んだんだ。

「んんうううぅぅぅぅぅぅッ!」
歯をくいしばりながら、背中でアスファルトを滑ってゴールを通過。
ティアナを上に載せたまま、平手を地面についてブレーキ。
わたしと覚悟くんよりはるかに前の地点で、速度を完璧に殺して止まった。
正直、言葉もなかったよ。
だって…

「…ゴール、だよ、ティア」
「っの馬鹿ぁ!」
バリアジャケットの上着は摩耗しきって消滅して、
肩とか背中とか、こすった後が一直線に赤く残ってる…地面に。
痛い、痛いよ。 これは痛い、見てるだけで。

「なんてこと、なんてことしてんのよ!
 あんた…あんた、正気ぃ?」
泣きそうな顔で胸ぐらを掴み上げてるティアナちゃんに、
スバルちゃんは少し笑って答えてた。
血みどろの背中に、全然気づいてないみたいに。

「その…ティアが、足、怪我してるから。
 これで、公平かなって…」
「馬鹿言ってんじゃないわよ、なにが公平よぉ」
「それより、間に合ったよ、制限時間内に、ゴールできたみたい」
「んなの、どうでもいいわよっ、いくら、あんたが…」
覚悟くんが近づく。 わたしも近づく。
二人とも、それに気がついて、こっちを見た。
試験の結果は、今は二の次。
言ってあげなくちゃいけないことができたけど、
それは覚悟くんがやってくれそうだったんで、わたしは止まって待っている。
少しぼんやりした顔のスバルちゃんの正面に立つと、覚悟くんは。

「馬鹿者! 己が身を大事にせよ!」
開口一番で怒鳴りつけてくれた。
思わずきつく目を閉じるスバルちゃんに、かまわず続けていく。

「父と母より受け継ぎし玉身(からだ)。
 昇格試験ごときで、粗末に扱ってはならぬ」
「…ごとき、じゃ、ないです」
だけど、ここでまた。

「ティアの夢が、かかっているんです。
 ここでダメにしちゃったら、また半年先になるから。
 半年も遅れちゃうから、だから…」
スバルちゃんは、明確に反論してきたんだ。
この試験には、これだけのケガをわざわざしてまで受かる意味があるって。
それは友達の夢を守ることなんだ、って。
そう聞かされた覚悟くんは、少し、むずかしい顔をしてから。

「その意気やよし」
「…わっ?」
「よくぞ、これほどになってまで守り抜いた」
脱いだ機動六課のジャケットを、スバルちゃんの背に放り投げるようにかけた。
当然だけど、覆い隠された傷口の部分から、すぐに血で汚れていく。

「だが、できるだけ自ら傷を負うことは避けよ。
 おまえの友も喜ばぬ」
目配せされたティアナちゃんも、一瞬遅れて弱々しくうなずいた。
覚悟くんは満足するようにここから立ち去ろうとして、
その背中をまた呼び止められる。

「あ、あのっ、これ、上着」
「医務室で処置を受けて後、返しに来るがいい」
「でも、血で…」
「おれもあの時、きみの服をおれの血で汚したはず。
 これにて公平!」
「…………」
あとは覚悟くん、振り返りもしなかった。
これからは、守るべき誰かじゃない。
一緒に戦っていく後輩になる。
覚悟くんに言わせてみれば、スバルちゃんは生命の恩人で。
スバルちゃんがいなければ、火事の中、一人で力尽きていて。
そんな子を戦わせるのはやっぱり嫌って本音は、きっと、どうにもならない。
でも、そんな覚悟くんだから、わたしはすっごく期待してる。
絶対に死なせたくなくて、その上、スバルちゃんの戦う意志が揺るがないなら。
覚悟くんは、スバルちゃんにティアナちゃん、それとまだ来ていない二人にも、
育てるために全身全霊を尽くしてくれる。 これは確信かな。
その後、試験が終わった二人に、すぐ機動六課の話を持ちかけた。
二人が出会った、あの怪人の背後関係を今は追っているって説明した。
だから多分、他よりも、ずっと危険で血なまぐさい仕事を請け負うことになるよ、って。
断りたければ、断ってもいい。 二人にはその権利があるから、って。
…答えはね、ふたつ返事だったよ。
これからよろしくね。 スバル、ティア。
わたしも、二人を絶対、死なせたりしないから。











スバル・ナカジマ、およびティアナ・ランスター。
この二名は良し。
だが、もう二名はどうか?
エリオ・モンディアル、およびキャロ・ル・ルシエ。
魔導の素質すぐれたるフェイトの養子二人。
スバルとティアナが今回の試験にて勝ち取った陸士Bランクを、
エリオなる少年、すでに保有しているも、それだけでは信用できぬ。
精神(こころ)伴わぬ戦闘力は危うき候。
たとえるならば、嵐に揺らるるいかだの上、樽に詰まったニトログリセリンに同じ。
保有する大破壊力、正しく扱えねば自らを滅ぼす。 これ父、朧(おぼろ)の教えなり。
ゆえにおれは問わねばならぬ。 両名の、戦士としての了見を。
別にフェイトを信じぬわけではないが、こればかりは拳を突き合わせねばわかるまい。
両名を機動六課官舎に呼びつけて早々、おれは模擬戦を申し込んだ。
むろん、フェイトが立ち会う。 養子二人がこれより志望するは、殺意うずまく戦場なれば、
むざむざ死にに行かせるを承知するわけもなし。
ただ、これだけを言って、この模擬戦を許したのだ。

「私は信じてるよ。 二人の持ってる、ゆずれないもの」
「その言葉、覚えたぞ」
模擬戦場には、基礎的に廃墟を設定。
高速道路跡上にて、おれと両名は向かい合っている。
紅の少年と、桃色の少女。
まだ年端もいかぬ子供…
とはいえ、おれとて十歳にして零式鉄球をこの身に埋め込んでいるのだ。
そして、さらには。 あの高町なのはも、フェイト・テスタロッサ・ハラウオンも…
はやてまで、十歳に届かずして実戦に身を投じているという。
すなわち、身体未成熟であろうが、面影に幼さ残っていようが、あそこにあるは未知の敵。
いささかなりとも、あなどる気は無し!

「正調零式防衛術(せいちょう ぜろしきぼうえいじゅつ)、葉隠覚悟…参る!」
「…エリオ・モンディアルと、ストラーダ!」
「う、あ、あの…」
紅の少年、エリオは槍を掲げて返礼したが、
少女は気後れしきって何も言わぬ。
早くも底が知れたか? そのようなわけはあるまい。

「名乗れ! 戦う前から気迫に呑まれてどうする!」
一喝。 これでひるんでしまうならば、戦場に立つ資格なし。
だがそこで、傍らにいたエリオ、少女の背を軽く叩き、
振り向く少女に目を合わせ…うなずく。
そして再び、槍をこちらに構え、突き出す。
宣戦布告、確かに見たり。
少女もまた、気合いを入れ直し、今度こそ名乗った。

「召喚師、キャロ・ル・ルシエ!
 フリードリヒと、ケリュケイオン!」
エリオから多少の力をもらったか。 それも良し。
少女、キャロの背に隠れていた竜、フリードリヒも姿を現わし、開幕準備完了。

「…来い!」
戦士の礼にて、相手つかまつる!

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年09月03日 20:46