桜花とスバルはなおも大量のガジェットから逃げ回っていた。
そして四方八方から飛び交うガジェットのビーム砲が雨の様に降り注ぎ、
二人はその雨の中を縫うように走っていた。
確かにこれが普段なら弾丸の雨を物ともせずに強行突破可能な力を桜花は持っている。
だが今は前述の様に無傷で持ち帰らねばならない食材を抱えた状態である。
故にその様な事をしてしまえば食材に傷が付いて本末転倒な結果に終わってしまう。
しかしガジェットの数は多い。と言うかむしろどんどん増えてるんじゃないかってくらいに多い。
単純に戦うだけならこれでも構わないが、やはり食材の防衛こそが第一である為、
不利な点は否めなかった。が…
「とぉ!!」
その時、ガジェット軍団の一団がまとめて両断され、爆発四散した。
「え?」
突然の乱入者に桜花とスバルは呆気に取られていたが、爆煙が晴れた時、
そこにはなんとしっとレディの姿があったでは無いか。
「お…お前はこの間の変態覆面!」
「あの~…フェイトさんそんなヘンテコなマスク被って何やってるんですか?」
周知の通り、しっとレディの正体はフェイトである。しかもただしっとマスクから貰った
マスクをフェイトが被っただけで、首から下は何時も通りなので、冷静に見れば正体はバレバレ。
(そのくせなのはには気付かれてなかったけど…)
「私はしっとレディだ! 断じてフェイト=T=ハラオウンなどでは無い!」
「うわ~自分で正体ばらしちゃってるよこの人…。」
スバルはもう完全に呆れてしまっていたが、しっとレディは手近のガジェットを
バルディッシュで切り裂きながら叫ぶ。
「いいからここは私に任せて逃げろ!」
「分かった。だがこれだけは聞かせて欲しい。お前…何故私を助ける…。」
桜花はしっとレディを睨み付けながらそう訪ねるが、しっとレディはなおもガジェットを斬りながら答えた。
「それは…お前を破壊するのは私だからだ。」
「そうか…今日はご厚意に甘えて逃げてやるが…次は相手に立ってやる。」
桜花はそう言ってスバルと共に逃走を開始した。ちなみに、何故フェイトが
フェイト=T=ハラオウンとしてでは無く、しっとレディとして助けに入ったのかと言うと、
フェイトとして桜花を助けると言う行為自体が恥かしかったからに他ならない。
フェイト=しっとレディの乱入は後方からガジェットを操っていたナンバーズを驚かせていた。
「うわ! なんだあのキモイ変態マスク女は! しかも強いぞ! あんな奴がいたなんて…。」
「しかも桜花とやらはまた逃げ出したぞ! これじゃあ威力偵察にならない!」
ナンバーズは大騒ぎだったが、その中の一人が舌打ちをしながら前に出ていた。
「チッ! 所詮ガジェットはここまで…。私は直接アイツをぶん殴りに行かせてもらう!」
「ノーヴェ!」
ナンバーズNo.9のノーヴェは皆の制止を振り切って桜花へ向けて突撃を開始した。
しっとレディの協力もあって桜花とスバルはガジェットの包囲網を突破していた。
「やっとあのがぜっととか言う無人兵器を撒けましたね!」
「がぜっとじゃなくてガジェットね…。」
相変わらず外来語関係が上手く発音出来ない桜花にスバルも少々呆れ気味だったが、
とりあえずガジェットの方はしっとレディが食い止めてくれているのか
追手の気配は感じられなかった。後は機動六課までダッシュで帰るのみ…だったが…
「おっと! 逃がさんよ!」
「何!?」
突如壁を突き破ってノーヴェが桜花の眼前に出現した。
そして右腕に装着したガンナックルを持って桜花の顔面目掛けて殴りかかる。
「くっ! 伏兵か!?」
とっさに桜花は右腕で防御して受け止め、鈍い金属音が響き渡った。
「重い! なんと重い手ごたえだ! 貴様…一体体重どの位まであると言うんだ!?」
ナンバーズは戦闘機人として改造され、通常の人間を遥かに凌ぐ運動能力を持つ。
その中でも特に接近戦に秀でたノーヴェが本気で殴っても桜花を動かせなかった。
それどころかまるで重金属の塊を殴り付けた様な重い手ごたえを感じさせていたのである。
「女の子に体重を聞くのは失礼ってもんだろ!?」
スバルは叫ぶが、桜花は意外にも答えるつもりだった。が…
「私の体重は七百五十貫だ!」
「そんな聞いた事も無い単位言われてもどの位重いのか分かんねーよ!」
貫と言うのは重さの単位なのだが、元々貫と言う概念の存在しないミッドチルダはもとより
97管理外世界でも使われなくなって久しい単位なので良く分からない者もいるだろうが、
とりあえず説明させていただくと、七百五十貫とはすなわち2.8トンと言う事である。
「マジでぇ!? あんなちっこい身体で何で2.8トンもあるの!? どんな材質で出来てんだよ!!」
桜花の体重の余りの重さにスバルもノーヴェもビビりまくっていたが、その強固な機体構造や
超小型高性能原子炉に裏打ちされた強力な出力がある為、桜花にとっては2.8トンと言う
自重など何でも無かった。
「邪魔だ! 退けぇ!」
今度は桜花の右拳がノーヴェに襲い掛かる。機動力と言う点はノーヴェの方が上だったらしく、
その拳は回避されてしまったが、それでもノーヴェは若干の驚きを見せていた。
「人間を改造したワケでは無く、フルメカニック式のロボットのくせになんて
滑らかで素早い動きだ! なるほど…ドクターが欲しくなる気持ちも分かる…か…?
だが! そんな事されてしまえばこっちが困るんでな! 破壊させてもらう!」
出力は原子力稼動の桜花が遥かに上。しかし機動性運動性はノーヴェが勝っている。
だからこそそれを生かし、一発一発を確実にヒットさせて行こうとした。
「させるものか!」
スバルが二人の間に割って入り、ノーヴェの拳を受け止めた。
「昴さん!」
「桜花! 私の事は良いから今の内に! それと私は昴じゃなくてスバルね!」
「わ…分かりました!」
桜花の持つ食材に傷を付けさせてはならない。だからこそスバルが桜花を庇って
代わりにノーヴェの相手に立ったのであるが…
「悪いが今日は貴様に用は無い!」
「何!?」
ノーヴェはジェットエッジを全開させてスバルから高速離脱、すぐさまに桜花への追跡に入った。
「させるものか!」
だがスバルもマッハキャリバーを全開にさせてノーヴェを追う。そのスピードは尋常な物では
無かったが、ノーヴェも速い。だからこそ差が縮まない。そして二人より遥かに速力の劣る
桜花は忽ちノーヴェの接近を許してしまうのである。
「喰らえぇぇぇ!」
ノーヴェは拳を大きく振りかぶり、桜花に一撃喰らわせようとした。が…
「させないぃぃ!!」
「何ぃ!?」
またもスバルが二人の間に割って入り、ノーヴェの拳を桜花の代わりに受けていた。
「くはぁぁぁ!」
ノーヴェの拳をモロに喰らってしまったスバルは吹っ飛び、壁に強く叩き付けられて倒れ込んだ。
「昴さん!」
桜花は逃げる事を忘れスバルに走り寄った。
「大丈夫ですか昴さんって…ええ!?」
桜花は見た。スバルのダメージを受けた部分から内部のメカニックが剥き出しになっていた事を…
「す…昴さん…もしかして貴女は…。」
「そ…そうだよ…。私の身体も機械で出来てる。もっとも…私の場合は元々生身の人間だったのを
無理矢理機械組み込んでこんな身体にしたらしいんだけどね…。ちなみに私は昴じゃなくてスバルね。」
スバルは実は戦闘機人の実検体として作られた者の一人である。それが管理局の魔導師に
保護され、養子として育てられて今に至るのだが、ここで桜花は理解した。
何故自分がスバルに対し親近感を感じられたのかが…。
「と…とにかく私の事は放っておいて…逃げて…早く…。」
「そんな事は出来ません! 私が貴女をおぶりますから一緒に逃げましょう!」
桜花は大急ぎでスバルを抱き上げようとしていたが…次の瞬間ノーヴェの拳が二人を叩き飛ばしていた。
「だから逃がさないと言っているだろう!?」
「くっ!」
派手に地面に叩き付けられる桜花だが元々頑丈な為にダメージは薄い。
そして素早く立ち上がっていたのだが、ここでまたある事に気付く。
「あああああ!!」
桜花がそれまで何としても守り通して来た食材…それが先程のノーヴェの拳によって
グチャグチャにされてしまっていたのである。
「そんな…そんな…。」
「何だ? 大事そうにしてるから何かと思えばただの魚や野菜じゃなか。別に高級な物でも
無い何処の店にもおいてそうなもんだし? 笑わせるな!」
ノーヴェは地面に落ちていた食材を踏み潰していた。
「…………………!!」
その時、桜花の中で何かが切れた…
確かにそれはただの食材。何処の店にもおいてあるただの食材。しかしそれは桜花の慕うなのはに
とっての大切な人の一人であるユーノの為の料理を作る為の掛け替えの無い食材だった。
それを無情にも踏み潰された桜花の怒りは…想像を絶する物だった。
次の瞬間桜花の全身の装甲が開くと共に大量の水蒸気が噴出し、超小型高性能原子炉が唸りを上げ、
頭部兜の日の丸がまばゆい光を放った。
「全ての力を解放して熱線を放つ…威力は通常の50倍になるぞ!」
「何を言うか! そんなこけおどしに引っかかる私じゃない!」
ノーヴェは桜花へ向けて再び拳を放とうとした…が…
「跡形も無く消し飛べぇぇぇぇ!!」
「何ぃぃぃぃ!?」
桜花の頭部から超極太の熱線が放たれ…射線上にある全ての物を飲み込んで行った…
しかも…遥か後方で戦っていたしっとレディやガジェット軍団も丸ごとに…
「おひょぉぉぉぉぉぉぉ!!」
桜花の50倍熱線に飲み込まれたしっとレディは断末魔の叫びをあげながら
誰にも知られる事無く寂しく消滅して行った…
「はぁ…せっかく買った材料が全部駄目になっちゃいました…。」
「過ぎた事は仕方が無いよ…二人で素直に謝ろう?」
桜花とスバルはヨロヨロと元気無さそうに機動六課に帰って来た。
無理も無い。戦闘による疲労とダメージ、さらに食材がダメにされてしまった事による
精神的なダメージが二人を心身ともに萎えさせていたのである。そして二人で
一緒に謝ろうとしていたのだが…そこでは美味しそうに食事をするユーノの姿があった。
「いや~やっぱりなのはの手料理は最高だよ。」
「どういたしまして、ユーノ君♥」
「あれ…?」
余りにも予想外な展開過ぎて二人は何が起こったのか良く分からなかったが、
どうやらなのはが作った料理がユーノの狂った味覚を修正してくれていた様子だった。
「え? 何? じゃあ私達の苦労って何だったの?」
「もう良いよ…あんたら結婚しろ…。」
見てて痛い程仲良さげななのはとユーノの姿に二人は呆れながら
精根尽き果ててその場に倒れ込むしか無かった。
そして…あれ? 消滅したんじゃなかったの? って言う突っ込みさえ物ともせずに
帰還したフェイトは恨めしそうな目でユーノを睨み付けていたという。
「殺したい…フェレット男を今すぐに殺したい…でもそんな事したら…なのはに嫌われる…。
でもフェレット男を殺したい…でもそんな事したらなのはに嫌われる…でも(以下無限ループ)」
ナンバーズが桜花に嫉妬しました 編 完
最終更新:2007年09月15日 19:50