本能に抗え! そして飛べ! 編

機動六課がヴィヴィオと言う小さな女の子を保護した。
その後、何故か機動六課で世話する事になってしまい、しかもヴィヴィオは
なのはとフェイトの事を「まま」と呼んでいたりした。

小さい子供であるヴィヴィオにとって身の回りにある全ての物が新鮮に感じ、
歳相応に好奇心旺盛な所を見せていたのだが、その際に桜花にも近寄っていた。
「わ~いろぼっとだ~、ろぼっとのおねえたんだ~。」
「私に近寄るな! 死ぬぞ!」
桜花はヴィヴィオに対し右手を突き出して止めながら、さらに左手で
頭部兜の桜三型光学熱線砲である日の丸を覆い隠していた。
桜花がこうなった理由はヴィヴィオが金髪な事にある。金髪=敵とプログラムされている桜花は
ヴィヴィオを敵として認識してしまう。それでもミッドチルダで暮らすようになった後で
学んだ要素によって敵と認識してはいけないと言う感情も桜花の中には存在していた為、
「敵として殺さなければならない」と言う感情と「その様な事をしてはいけない」と言う感情の
間で葛藤していたのである。でもこれでも自制しようとするだけまだマシな方である。
フェイトなんか未だに熱線撃たれてるし。
「と…とにかく逃げろ! 今直ぐに逃げろ! じゃないと…私はお前を殺してしまうぅぅ!!」
「うわぁぁぁん! ろぼっとのおねえたんこわいよ~!」
自分の本能を必死に抑えようとするあまり、物凄い形相になっていた桜花に
ヴィヴィオは本気で怖がって逃げていた。
「ハァ…ハァ…なんとか抑えられた…。これでなのはお姉様に怒られずに済む…。」
桜花は片膝を付いて息を荒くさせていた。彼女にとって下手な戦闘よりも
自身の本能を自制する事の方がよっぽど辛かった。そのくせ…
「寄るな敵国人!」
「ギャウ!」
やはりフェイトはたまたま近くを通りがかっただけなのに熱線で撃たれてしまうのであった。

「どうしてフェイトさんやヴィヴィオには反応してしまうのに、ユーノさんは平気なのかな?
ユーノさんだって金髪なのに…。」
何気無くスバルが桜花にそう訪ねるが、桜花はこう言った。
「どうしてかは私にも分かりませんが…何故かあの人だけは金髪なのに撃てない…
と言うよりむしろ撃ってはいけない何かを感じてしまうのです…。」
「そ…そう…。」
やはり理由がかなり曖昧だが、まあユーノに対しては平気と言う事だけは分かった。

機動六課において隊員達の食事を作ったり、衣服を洗濯したり、部屋の掃除をしたりするのが
桜花の重要な仕事である。と言うか下手に戦わせると強すぎて余計な被害を出してしまう。
出力を制御しようとして原子炉に手を加えようとしても、逆に原子炉から放射能漏れを
起こしてしまいかねないし、とにかく桜花はそっち方面の仕事を頼まれていた。

桜花は機動六課から出たゴミをゴミ捨て場に運んでいた。その中にはさり気なく
過去の戦闘で破壊したガジェットの残骸なども混じっている為、相当な重量になっているのだが、
桜花はそんなの全く構わずに平然と運んでいた。
「あ、なのはお姉様達今日もやってる。」
ゴミを捨て終わった後、桜花は機動六課の訓練が行われている事に気付いてそっちに見入っていた。
普段とても優しいなのはも訓練ともなれば厳しい。特にティアナを頭冷やさせた時など
流石の桜花も背筋が絶対零度にまで凍り付いた物だ。しかし、そこまでやった事にも
なのはがかつて無理をした事が原因で生死の境を彷徨った過去があったからと言う事を
知った時は桜花も納得した。だからこそいざとなれば自分が守ると密かに考えていたのだが、
もう一つ思う事があった。
「私も…空…飛びたいな…。」
残念ながら桜花は陸戦用に作られているらしく、飛行機能は持っていない。
だからこそ空中を自在に飛びまわれるなのは達に憧れを抱くのは当然の事かもしれない。
「いいな~私も空を飛びたいな~。でもなのはお姉様達が超音速戦闘機なら
私は重戦車…やっぱり無理な話なのかな…私は魔法と言うのも使えないし。」
桜花は少々落ち込んでいたが、かと言って魔法があれば飛べる物では無い事は分かってた。
実際スバルやティアナらは飛べない。それになのはなら桜花にこう言うだろう。
「重戦車と超音速戦闘機は使用用途が違うからそれぞれ自分向きのやり方をすべき。」
そこも桜花としても理解出来る。なのはも砲撃に関してはトップレベルだが、
機動力格闘力で言うならフェイトの方が上であるし、超広域破壊と言う点では
はやてが勝っている。人それぞれに得意分野が異なると言う事である。
だから桜花も頑丈な身体と超小型高性能原子炉から来る大馬力を生かしたやり方を
行えば良いと言う事なのだろうが…
「でも…やっぱり空飛びたい…。」
そう思う桜花であった。

仕事を全てとこなしながらも何だかんだでしょぼくれていた桜花を突然ヴィータが呼び止めた。
「おーい! 面白いビデオが手に入ったんだ! 一緒に見ようぜ!」
「びでお?」
「まあ良いからこっちに来いって!」
ヴィータは97管理外世界でさえDVDに取って代わられてしまい、今時すっかり珍しくなった
(百円ショップには腐る程おいてあるけど)VHSを片手に桜花を自室まで連れ込んでいた。
『そ~らに~そびえる~くろがねのしろ~♪』
ヴィータに見せられたビデオは「マジンガ-Z」だった。
桜花自身ロボットであるから、こっち方面に興味を持つのだろうと言うヴィータの計らいであった。
その内容は世界征服を企むドクターヘルの送り込む機械獣の侵攻にマジンガーZと言う
ロボットが立ち向かうストーリーなのだが、全身に多種多様な超兵器を内蔵し、
様々な状況に対応出来るマジンガーZも唯一飛行機能だけは持たず、敵の飛行型機械獣に
苦戦を強いられていた。
「やっぱり…飛べないとダメなんだな…。」
桜花は空からの攻撃に苦戦を強いられるマジンガーZの姿を自分に照らし合わせ、落ち込んだ。
だが…
「!?」
桜花の目が変わった。それはマジンガーZがジェットスクランダーと言う飛行パーツを
装備して飛行可能になり、飛行機械獣と互角以上に戦うシーンだった。
「これだ! この手があった! ありがとうございます! これで何とかなりそうです!」
「え? あれ? 何? え? おい何処に行くんだ!?」
突然立ち上がった桜花にお礼を言われたヴィータはワケが分からなかったが、
桜花はすぐさまにヴィータの部屋から出るなりヴァイスあたりから工具箱を借りて
ゴミ捨て場へ走った。そして先程ゴミ捨て場に捨てたガジェットの残骸を掻き集めるのである。
「これを材料に飛行翼を作ろう!」

さり気なく桜花はこの手のメカ作りが上手い。
滅ばなかったIFを辿った並行世界の彼女は掃除機を改造し、自身の動力炉と
直結して動かす事で戦車はおろかマクロス級や月さえ吸い込む超強力掃除機を作っていた物だ。
さて、こちらの彼女はガジェットの残骸を基にいかなる物を作り出すのか…

そうやって桜花あれこれ作っているとヴィヴィオがやって来た。
「ろぼっとのおねえたんなにやってるの~?」
ヴィヴィオは桜花が何を作っているのか興味津々な様子だったが、桜花にとっては大変だ。
「うわぁぁぁ! くっ来るなぁぁ!!」
桜花はとっさに両手で頭部の光学熱線砲発射口を押さえた。
何故ならヴィヴィオの金髪に反応して熱線を放とうとしていたからである。
ヴィヴィオはなのはに可愛がられているし、同じくなのはを慕う桜花としては
ヴィヴィオを撃ちたくは無い。しかし彼女の根底に存在する本能(?)がどうしても
反応し、熱線を放とうとしてしまうのである。
「ねえどうして? どうしてきちゃいけないの?」
桜花の苦悩など知る由も無いヴィヴィオは構わずに近寄ってくる。
「だから来るなと言っているぅぅぅ!!」
ついに耐えられなくなった桜花は熱線を発射してしまう。しかし、それでも
ヴィヴィオには当てさせまいと言う感情も働き、射線をずらしてヴィヴィオへの
直撃コースを避け、熱線はかなり遠くにあった高層ビルに直撃して崩れ落としていた。
「…と…これ以上近付くとあの建物の様になってしまうぞ…だから外で遊んで来い。」
「うんわかったよ~。」
やっとヴィヴィオが何処かに行ってくれたので桜花はほっと胸を撫で下ろしていた。
はっきり言ってヴィヴィオの相手は桜花にとって相当に気疲れする物である。
これがフェイト相手なら構わず熱線を撃っていた所であろうが。
何はともあれ、ヴィヴィオがいなくなった事で桜花は飛行装備作りに集中する事が出来たのだが、
これが後々大変な事に発展してしまうなどその時の桜花は想像出来なかった。

桜花の一言を真に受けたヴィヴィオは一人機動六課の外に遊びに行ってしまった。
そして、トコトコと歩いて行くヴィヴィオの様子を道に停車してあった車の中から
監視する怪しい影の姿もあった。
「あのガキを拉致すれば良いんですか?」
「おうよ。あのガキを拉致すればスカリエッティ博士から莫大な金を貰えるんだ。」
彼等は金に釣られた貧乏マフィア。金に困ってる所をスカリエッティに誘われて
大金と引き換えにヴィヴィオを拉致する依頼を受けた分かりやすい連中だった。
「でも何故やっこさんはあのガキを欲しがってるんですかね?」
「そんなの知るか。機動六課から出て来たって事はかなりのVIPって事なんだろうが…。
そこまで細かく考える必要はあるまい。とにかく行動開始だ。」
貧乏マフィアの二人は車から勇み外に出た。

「お嬢ちゃん? ペロペロキャンディーあげるからおじちゃんと一緒にこない?」
貧乏マフィアの二人はいつの時代の誘拐犯だ? って突っ込みをいれてしまう様なやり口で
ヴィヴィオを誘おうとしていた。今時こんな手に引っかかる奴いねーよって思われていたが…
逆に古典的手法と化してしまった事で皆の記憶の中からも忘れられ、最新の手法よりも効果を
発揮すると言う事態となっていた。
「わ~いぺろぺろきゃんでぃ~。」
案の定ヴィヴィオはペロペロキャンディーを口に銜えて貧乏マフィアの二人に付いて行ってしまった。

ヴィヴィオがいなくなった事で機動六課では大騒ぎとなっていた。
「ヴィヴィオー! 何処に行ったのー!?」
機動六課のメンバー達が仕事をそっちのけで彼方此方を探し回っていた。
特になのはなど滅茶苦茶に必死である。
「何処にもいません!」
「便所にもいなかったぞ。」
本当に色んな場所を探し回ったのか、みんな息切れするような状況になっていたが、
それでも見付かる気配は無く、皆を余計に不安にさせていた。
「もしかしたら…外かもしれません…。」
そう言ったのは桜花だった。
「私のせいです…私が外に遊びに行くように言わなければこんな事に…。」
桜花は頭を抱えて自己嫌悪し始めた。自分の些細な一言がこんな事を
引き起こしてしまった事が許せなかった。が…
「何だ…外に遊びに行ってるだけか。」
「焦って損しちゃったな。」
「なら夕方になれば帰って来るよな。」
「え…。」
誰もが顔に笑みを浮かべ、桜花を責める者はいなかった。
「だからさ…自分を追い詰めるような事はしないで。」
「あ…ありがとうございます…。」
周囲の皆から直接フォローを受けて桜花も安心しかけようとしてたが…
「ヴィヴィオさんならさっきマフィア風の二人組に誘拐されましたが。」
「ゲェ――――――――――!!」
突然現れたとびかげの一言によって事態は急展開を迎えていた。
「って言うかこの人誰!?」
「最近管理局に出来たばかりの特務課の忍者とびかげさんや!」
はやてがそう説明してくれていたが、いつの間にかにとびかげが管理局に潜り込んでいたのは驚きだ。
「早く助けないと身代金を要求されちゃうかもしれませんよ~。」
「わ…やっぱり私のせいだ…私のせいだぁぁぁぁぁ!!」
桜花は頭を抱えながら近くの壁に頭突きを始めてしまった。
「私がうっかり外に遊びに行けなんて言わなければこんな事にぃぃぃぃ!!」
「わぁぁぁ!! やめてやめて!! 壁が壊れるよぉぉ!!」
って行った時には既に遅く、壁は桜花の頭突きで完全に破壊されていた。
「こうなったら私が責任を取ってびびおを助け出して来ます!」
「びびおじゃなくてヴィヴィオね。」
桜花はそのまま外へ走り去ってしまうが…そこでなのは達はある事に気付いた。
「あ…桜花にヴィヴィオ任せたら…むしろ桜花がヴィヴィオの金髪に反応して
熱線撃ったりするんじゃないかな~なんて…。」
「ヤッベェ―――――――――――!!」
「とにかく皆で桜花より先にヴィヴィオを救出しないと!!」
「機動六課出動や!!」
こうして桜花に遅れて機動六課も出動して行ったが、とびかげの姿はいつの間にか消えていた。

桜花はヴィヴィオを探して街中を走り回っていた。
「早く! 早く見付けないと!」
桜花は怖かった。ヴィヴィオがどうかなると言う事よりも、ヴィヴィオが大変な事に
なってしまったが故になのはが落胆する事…それが桜花にとっては何よりも怖かったのである。

桜花が必死に走っていた頃、機動六課の皆様もヴァイスの操縦するヘリに乗って
ヴィヴィオ探索に勤しんでいた。
「早く早く! あの子より先にヴィヴィオを見付けないと熱線でヴィヴィオが撃たれちゃうよ!」
「こっちだって全力で飛ばしてます!」
なのはは滅茶苦茶に狼狽しながらヘリの操縦桿を握るヴァイスへ催促を続けていた。
誘拐犯によってヴィヴィオが何かされるよりも、桜花に熱線を撃たれてしまう事の方が
遥かに恐ろしいのだから。

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最終更新:2007年09月15日 19:52