【円卓】chokerone
「作戦本部からの緊急指令により 諸君らには 国境付近の強行偵察に
向かってもらう。B7Rと呼ばれる この国境空域は 現在ベルカの強固な制空権下にある
作戦空域内には 敵の強力な航空部隊が配備されており 強度の磁場による通信混線も確認されている」
傭兵達がなのは達に注目する。
爆撃機迎撃任務ではマジシャン隊4機とガルム隊2機が撃墜数の7割を占め、ヴァレー基地が驚愕した。
そしてAnnex作戦でも攻撃を完璧に成功させている。
<フェイトちゃん、こないだの作戦だけどさ>
<何、なのは?>
真面目にブリーフィング聞いている風だが、2人は思念通話で先日の出撃について話をしていた。
<地上部隊への攻撃はできるだけ手を抜いたんだけど>
<やっぱり、なのはもそうだったんだ>
<うん、魔力反応も無いし、大した脅威もなかったからね>
<でも、僚機は大丈夫だった? ピクシーさんだっけ?>
彼女達の斜め前の椅子に座るくすんだ金髪の男はつまならさそうにプロジェクターの画面を見つめていた。
<お金の為に戦う傭兵なんてやってるからどんなに人かと思っていたけど、あんがい普通の人だったよ>
なのははピクシーをそう評価しながら、そういう自分達はどうなんだろうかと思うと笑えなかった。
お金の為に戦う傭兵稼業をする19歳の女子、その実は魔導師。すくなくともこの世界ではピクシーなど問題にならない異端の存在である。
その前に現実主義者の傭兵達には魔法などまず信じて貰えないだろう。
「膨大な地下資源が眠るこのB7Rにおいては 古の時代から 多くの血が流されてきた。
敵航空勢力とのコンタクトを認めた際の交戦は許可する。諸君らの実力が試される時だ」
面白くもない基地司令の閉めの激励は、全員が軽く聞き流していた。
《ガルム隊 フェンリル隊 こちらイーグルアイ 先行してB7Rに侵入し 周辺の状況を探れ》
《ガルム2 了解。 俺達にお似合いの場所と任務だ》
軽くファントムが加速し、イーグルがそれに続く。
《IFFの故障?反応は4つ いや、離れた地点に7つ、これだけだ。 円卓を知らないのか?》
《ベルカ空軍の機動を見せてやれ 機体の性能確認でもさせてもらおうか》
すぐにベルカ軍の無線が混信しはじめた。
暗号化通信なのに何故?とかその辺の設定はよくわからないのでツッコんだ描写はしない。
《向こうも気付いたみたいだね》
《円卓の鳥だ 油断はするな サイファー》
ここは円卓、死人に口なし・・・か・・・
なのははピクシーが出撃前にB7Rを評して言った言葉を唱えた。
生き残ることが正義、それが「円卓」ということらしい。
<2Bandits check direction 3-1-0>
<ありがとね、レイジングハート>
レイジングハートも空戦のコツを掴んだらしく落ち着いて的確な索敵を行えるようになったようだ。
《敵2機 方位3-1-0 向こうも気付いたようです》
《どうするんだ?サイファー》
空域警戒にあたっていたベルカ機と既に戦いが始まっていた。
なのはは空戦は先制に有利な位置を先に取ったほうが圧倒的に優位というのはミッドでもこの世界でも同じだと既に理解している。
低空から突き上げてくる大柄な機体には見覚えがあった。
双発機、途中で上に反り返った逆ガルウィング、下に垂れたスタビレーター、
<同じ機種だね>
<Let's finish a game with your skill this time. Master>
<うん、試してみようか?私達の実力>
ベルカのファントムとウスティオのファントムが弧を描きながら互いの後ろに廻り込もうとする。
《ピクシー、お願いがあるんだけど?》
《何だ、援護の要請か?任せろ》
《ううん。自由戦闘をお願いします。別の2機編隊が迫ってきてるよ》
敵の合流をまって2対4の空中戦をするか、1番機と2番機それぞれが1対2の戦闘をするかの違いだ・・・。
もう一つのウスティオ部隊、フェンリル戦闘隊の支援を得るには距離が離れすぎている。
どちらにせよ不利とはいわないが有利でない状況には違いない。
《ガルム2了解、落とされんなよサイファー》
片翼が赤く塗られたF-15はパワフルなエンジンで一気に上昇する。大きなインメルマンターンで新たなベルカ編隊に向かっていった。
ピクシーが見た新たな編隊はもはやお馴染みの敵機、MIG21フィッシュベッド
なるほど、サイファーは同じ機種、ファントムを相手にして自分の腕を証明しておくというつもりか・・・
1対2の戦闘を勝利すれば凄腕の戦闘機パイロットとして箔がつく。しかも同じ機種となれば純粋に腕の勝負。
ピクシーも若気の至りで似たような戦闘を挑んだことがある。
それはあまり良い思い出ではなかった。・・・若い奴はとかく無茶をする。腕に覚えがあるならなおさらだ。
もっとも自分の腕に自信が無くなったら戦闘機パイロットはおしまいだ。
ピクシーは早めにコイツらを落としてサイファーの支援に向かう必要があるなと考えた。
《サイファー FOX2》
FOXコールを聞いて驚いた。サイファーめ、もう後ろを取ったのか・・・
《スプラッシュ1》
早い!同じファントム同士の戦闘、しかも1対2の状況を苦にもしないとはね。
こちらも負けてられない。
《ガルム2 エンゲージ》
結局、今回もなのはとピクシーのガルム隊は大活躍だった。
前哨戦でMiG21を4機、F-4Eを4機撃墜していた。
ちなみにピクシーの戦果はMiG21を3機である。
《今日も無事生き残ったな。サイファー》
《じゃ、みんな後は頼んだよ。くれぐれも気をつけてね》
《あら、番犬はもう巣に帰る時間なの?お疲れ様でした》
なのはの挨拶に、シャマルが戦闘行動中とは思えないほど愛想良い返事する。
《そちらも頑張れよ、マジシャン隊》
フェンリル隊からも通信が入った。
マジシャン隊の4人はフェンリル隊についてはF-5Eタイガーの2機編隊ということぐらいしか知らない。
3機のF-4Eと1機のMiG21を仕留めているので彼等としてもまずは満足できる戦果といったところだろう。
《ええ、任せて。その代わりガルム1を宜しくお願いね》
《マジシャン隊のネメシスか?一体ガルム1を何から護る必要があるんだよ・・・》
フェンリルリーダーが苦笑まじりにぼやく。
彼が目をつけた敵編隊に向かおうとしていた時、既に白いファントムが全機撃墜していたのだ。
ヴァレー基地で白い途装のファントムに乗る傭兵はサイファー=なのはしかいない。
飛んでいる機はウスティオ軍機ばかりだった。
ガルム隊の2機は活躍したぶん、武器も燃料の残りも心許ないということでフェンリル隊と共に先にヴァレーに帰還した。
というより、
もともとガルム隊とフェンリル隊の計4機でB7Rの外縁空域で制空を担当し、
ベルカ軍の注意をひきつけてからマジシャン飛行隊と別の1隊がB7Rの奥を分担して強行偵察するという作戦になっている。
《マジシャン隊に告ぐ、空域B7Rに侵入しろ》
《警告! エリアB7Rに高速で侵入する機影 新たに捕捉》
《マジシャン4から1へ敵の増援 おそらく本隊ですね》
イーグルアイには公式に無線で連絡を送ってからマジシャン4こと、シャマルはマジシャン1、編隊長のはやてへ思念通話を送った。
<こちらシャマル、増援部隊に魔法反応あり>
<シャマル ソレほんまか?>
<こうも早く出てくるとは、ツキがあったということだな。いかがされますか? 主>
<そんなん 決まっってるやん>
シグナムの問いを受け、思念通話で回答しながら即座にはやては機首をめぐらした。
アフターバーナー全開にし一気に加速する。普通なら気絶するような強いGだが、
魔法で手足のように支配している翼は、むしろ心地よい。
マジシャン隊に先行していた味方の戦闘機3機が相次いで落とされた。
《マジシャン隊、敵はエース部隊のようだ。手強いぞ》
《味方が墜とされてから警告されてもな。遅いし無駄というものだ イーグルアイ》
《・・・、余裕そうだなブレイズ》
シグナムに手厳しく指摘されると、低音が魅力的な空中管制官もちょっと凹んだらしい。
くっくっくと笑いをかみ殺しながらはやては仲間達に指示を送った。
《まず、この機のXLAAで敵の鼻っ柱を叩く。編隊をフィンガーチップに組みかえるで》
《了解!》
《うん、任せるよ》
《わかりました》
マジシャン隊はダイヤモンドからフィンガーチップに編隊を瞬時に組み替えた。
《いい腕だな、マジシャン隊》
イーグルアイから賞賛の言葉が入る。
だが、実は難しいのはポジションを変えるフェイト達ではなく、僚機にポジションを決定させる編隊長機のほうなのだ。
《ネメシスはタリズマンとエレメント組んで自由戦闘。ブレイズはドッグファイトに誘いこんでくれへん?
メビウスが一撃離脱をしかける。でも、あんまし離れると間に合わんから注意してな》
<はやて、大丈夫?魔力反応のある相手と戦うんだよ?>
心配そうにフェイトが思念通話してきた。
<戦いはいつも未知なことだらけなものだ テスタロッサ>
さすがに戦歴の古さだけでいうならフェイトもはやてもヴォルケンリッターには適わない。
シグナムは情報を軽視しているのではなく、情報不足を理由に敵に主導権を渡してしまう不利についても経験上良く知っていた。
<そっか、みんなうちの実力を知らんのやったな>
ふっふっふと誰が聞いても悪役にしか思えない笑い声にのせてはやてがうそぶく。
<リィン。ちょっと準備運動してみよか?>
<はい、いつでもOKですよ。はやてちゃん>
はやて機の空席のはずの後部オペレーター席にはハーネスでブラックボックスが固定されていた。
いかにも怪しげなその箱には"りぃんはうす"と書いてある。
スロットルレバーを全開に叩き込んだはやての機は、轟然と加速し、フェイト達を一瞬にして後方へ置き去りにした。
機体に似合わないクイックなロールと旋回、横滑りさせることのない綺麗なループでピタリと元どうりの編隊の位置に帰ってくる。
<いい感じですよ。はやてちゃん>
<リィンもな。前回よりも機敏に動かせるようになったんちゃうか?>
<へへ、このひこーきのマニュアルは全部記憶しましたですぅ>
《見事な機動だが、遊んでる場合か?》
《戦闘前に機体の確認や。気にするなイーグルアイ》
《・・・・・マジシャン隊、現在の速度のままだと、あと20秒で交錯するぞ》
呆れて気力を失っているイーグルアイが想像できた。
第10航空師団第8戦闘飛行隊 通称グリューン隊
フクロウの目を持つ男に率いられた曲者揃いのエース部隊。
《状況を確認。相手は4機だ》
《楽しませてもらうとするか》
傲然とした物言いはこれまで戦績と自信に裏づけされていた。4機のホーネットが円卓を駆ける。
決して綺麗な編隊ではない。だが、それは生き残るために必須条件なのか?と
ベルンハルド=グリューン1=シュミッドは考えた。馬鹿馬鹿しい。
理屈どおりに綺麗に飛ぶのは上手い奴、しかし理屈どおり上手い奴は先読みしやすい。
それならば予測できない生き残る飛び方・戦い方を選ぶ・・・。
ほぼ同じ高度で互いに正面から迫る。
HUDにミサイルがロックしたことを示すマーカーが点る。同時にレーダー照射のミサイル警報音。
《グリューン各機、ミサイルを活性化しろ》
一斉にミサイルが迫るがそれと同じタイミングでグリューン隊もミサイルを放っていた。
《真正面からの渡り合いだ 各機、びびんなよ》
正面からのヘッドオン。シュミッドは1機ぐらい うまくいけば2機落とせるだろうと考えていた。
ウスティオ軍機の1機から放たれた4発のミサイルが迫るのにあわせ、急激なロールでギリギリに避ける。
直後に敵編隊が迫り、シュミッドは照準もあわせず機銃を放って牽制を加えた。
だがグリューン隊の放ったミサイルは敵編隊に一発も命中していなかった
《外れた?》
《一発もあたらないだと!》
グリューン隊に一瞬の驚きが走るが、ベルカのTOPエース達は状況をすぐに把握した
《いつものように奴等を仕留めるぞ グリューン3任せる》
《3 了解》
機敏な動作で森林迷彩のホーネット4機が編隊を解く。
急激な機動というよりもいつの間にか編隊が崩れたようにも思え、地上からみると下手糞揃いにしか見えないだろう。
グリューン3のウルフ・ショルはベルカ空軍に入隊して以来、今の編隊長に出会うまでは訓練でも1回たりとも敗北を味わったことはなかった。
ウスティオ軍機が背後に迫っても緊張はするが動揺はしていない。
背後をガラ空きにするのも予定のうちだ。
体中の感覚が冴え渡り、愛機の隅々にまで神経が行き届いたような感覚がショルを支配した。
高度計のカウンターが狂ったように数字を減らし、3000フィートに達したところでショルはFA-18ホーネットの機首を引き起こす。
前方に見える敵、ウスティオの傭兵は遠距離では良く似た形状の機らしい。
《ドッグファイトで腕勝負か・・・だが、生憎と貴様に勝ち目はない!》
《ふっ、随分自信たっぷりな言い草だな》
ウスティオの傭兵は女なのか?とショルもいささか驚いたが、だからといって見逃してやる気はなかった。
ミサイルロックと同時にAAMを放つ。激しい機動の中で一瞬生まれた絶好のチャンスだった。
だが、ウスティオ機はインメルマンターンと左旋回の巧みな組合わせてミサイルのロックを外そうとしながら
グリューン4の背後に迫ろうとしていた。
《グリューン4 後ろに一機!》
ショルは同僚の背後を取らせないようにする為、逃げるウスティオ機に再攻撃を行なおうと一旦高度を取った。
自身がミサイルの回避を行いながら背後に迫り、僚機へミサイルロックをかけようとするとは
- 糞っ、あのパイロット、抜け目ない機動を組み立てやがる!
ウスティオ機は急激な機首のスナップアップで翼端からベーパーを引きながら、
かなり強引なターンでショルが放ったミサイルをかわしきった。
《ふむ、さすがエース部隊だ。攻撃タイミング見極めが鋭い》
《ウスティオの傭兵も結構やるようだが、選択を誤ったようだ》
今度はグリューン4に対してウスティオ機、ホーネットと似たシルエットを持つ中型の機体、
淡い紫系の途装が特徴的なMiG-29ファルクラムが襲い掛かる。
さらにグリューン3がウスティオのMiG29の背後を取ろうとしたところに、別の方位の空に滲みを見つけた。
FA-18ホーネットよりもコンパクトな単発機の機影だった。
負けることなど微塵も考えていないショルの飛び方が更に鋭さを増す。
スプリットSを描きながら新たな敵とお互いに位置を奪い合おうと複雑な軌跡を織り成していた。
《各機、奴らの機動に惑わされるな》
編隊長のシュミッドは2番機のファビアン=ロストと共にそのウスティオ機を巧みな連携で追い回していたところだった。
MIG31フォックスハウンドは出力こそ図抜けているが空戦性能に優れた機ではない。
どうしても単純な一撃離脱戦法になるが、その機体は空を突き進むというよりも、大海の回遊魚のような自然さでB7Rの空を泳いでいた。
その飛び方はシュミッドが出会い、撃墜してきたどんなパイロットにも無いものだった。
ベルカ軍にも同じ機を使う嫌われ者のエース部隊がいるが、あの連中にはここまで華麗な飛び方は真似できまい。
白と濃紺のツートン途装を基調に山吹色のストライプ、高速性能に割り切った豪快な機体とは裏腹になかなか上品な配色だ。
だが・・・
だが・・・・良い腕だが・・・
それだけでは空は生き残れない・・・
技量の前に戦意にかけるのは戦闘機乗りには致命的な弱点だ。アクロバット機にでも乗っておれば撃墜されずに済んだものを!
《グリューン2 FOX1》
シュミッドはこれは部下のロストに美味しい所をもって行かれたなと舌打ちしかけた。
ウスティオ機はこれまでの飛び方を一変させ、ミサイルを振り切る勢いで轟然と加速を始めた。あっという間に雲の向こうに飛び去る。
《うわぁぁああああ》
《どうした?グリューン4?応答しろ!》
MiG29ファルクラムに背後を取られた形となっていたフリッツ=グリューン4=フェルスターはテストパイロット出身でもあり、
機体の限界をギリギリで超えない微妙な領域を使いこなすことで戦いを生き残ってきた。
機体の各部にまで体中の感覚が隅々にまでいきわたった者でなければできない。
《こいつ・・・何故振り切れない!?》
性能領域で機動できるファイターパイロットはいる。
しかし、殆どは短時間の単純マニューバばかりだ。
だが、こいつはどうだ?この俺が、テストパイロットだった俺が、限界で操っているのに、振り切れる気配が無い!
フェルスターの視界の端を光の粒が走り抜ける。機体を左右に振って射撃軸線に乗せられないようにしつつ、降下して振り切る。
ミサイル警報に加えて、対地警報も加わって鳴り響くが、勇気をもって堪える。雲の切れ目からB7Rの赤い大地がはっきりと見えた瞬間
にロールを打ちながら機体を引き起した。遠心力で体中の血液が足元に集まるのを感じる。
まだ雲から出てきていない敵のさらに後ろに回り込んでケリをつけてやる。
雲を利用したフェルスターの得意の戦法だ。
雲の中から飛び出してくる予測位置に機首を向ける。確信をもってフェルスターは蜂の一刺しを企んでいた。
予測とはいうがほとんど確信だった。フェルスターには機体性能の把握にスバ抜けた才能がある。
この才能が開花したお陰でテストパイロットとして成功し、TOPエースとしてグリューン隊に加わっているのだ。
予想通りの所から2枚の垂直尾翼の機体が雲の中から飛び出してきた。斜め後ろからミサイルロック。
《これで形勢逆転だ》
《なるほど、気象を活用した上手い策だ・・が、》
この位置関係だとまず外れない。確信をもって発射ボタンを押し込もうとした。
その時にフェルスターは強烈な振動と音と共に白い光に包まれた。
《うわぁぁああああ》
《どうした?グリューン4?応答しろ!》
射出シートで打ち出され、B7Rの大地に降り立ったフェルスターは空を見上げ、自分を撃墜された理由を悟った。
ファルクラムの隣に並んで無骨ともいえる直線的で大柄な機体が空にいた。
それは、まさに主人と忠実な騎士の関係のようにも思える。
《信じとったけど、追いかけっこを見てるのはあんま、気分ええもんちゃうからな》
《フォローありがとうございます。主》
《わるいけど、ちょっとコッチも手伝ってくれへんか?》
《うわぁぁああああ》
《どうした?グリューン4?応答しろ!》
ベルンハルド=シュミッドはグリューン4が撃墜されたことに驚き、罵り、吐き捨てると、動揺は全く無くなった。
むしろシュミッドはこの状況を心から楽しんでいた。
雲の合間から出て来たMiG31フォックスハウンドはシュミッド達のほうに向かってきた。
但し今度は単機ではなく、傍にMiG29ファルクラムが控えている。
《あれはフェルスターとやり合っていた奴だ!》
グリューン4、フェルスターとは通信が途絶えたままだ。状況は明白だった。
グリューン隊の機が落とされた?これまでに無かったことだ
《ウスティオの傭兵が! だがイイ腕だ。褒めてやるぜ》
先ほどまではひたすら逃げを打っていたフォックスハウンドから向かってくる。
グリューン隊とは違いファルクラムとの緊密で綺麗な編隊飛行。
シュミッドはロストを連れて一気に高度を稼ぎループに入る。
《そら、おおきにな》
ロストの憎まれ口に、フォックスハウンドから返信が入り、シュミッドは絶句した。
若い女? あのじゃじゃ馬戦闘機をあれほど巧みに操るとは・・・相当の疲れもあるだろうに・・・
グリューン2のファビアン=ロストはその見た目から想像するよりもインテリで「おおきに」という意味を知っていた。
ノースポイントの一部地域で使われる表現方法だ。
思うところがあって試しに同じ地域で使われている慣用句的表現で問い直す。
《儲かりまっか?》
《ぼちぼちでんな》
フォックスハウンドのパイロットもロストの問いかけに咄嗟に反応したようだ。
ふん、成程ね・・・・こいつら、生え抜きのウスティオ空軍ではないな。
ノースポイントの援軍・・・いや、ウスティオがノースポイントと安全保障条約を結んでいたとは聞いていない。
それに今は東の大陸では隕石問題で国をあげての大騒ぎ、他国の戦争を心配するどころじゃないだろう。
となると、・・・・傭兵か・・・
《型に はまらない飛び方をしている 面白い。 何処の傭兵だ?》
隊長のシュミッドも同じ結論に達していたようだ。
西の空ではグリューン3が単発の戦闘機と縺れるように2本の糸を空に撚り上げていた。
グリューン3のショルは1対1の空戦を心から楽しんでいた。
《生き残るのは俺だ》
《死ななくてもいいから、退いてくれないかな?》
混線で入ってきた敵パイロットの声は意外にも穏やかなものだった。
《フン、貴女こそ。 死ねとは言わんよ。俺のささやかな願いを聞いてくれれば、だが》
《あら 何かしら?》
《貴女のコクピットの横か頭上にある縞々模様のレバーを思いっきり引っ張ってくれればいい》
脱出してくれれば撃墜する必要もないのだがなと思う。だが、被弾してもいないのに愛機を捨てる戦闘機パイロットなどに存在意義はない。
《さすがにそのお願いはちょっと叶えてあげられないね》
ショルは急激なピッチアップをすると見せかけ、一瞬のフェイントをかけて右ロール。
ウスティオ機が勢い余って飛び出してきた。後ろを取れば、相手パイロットの心理が
手に取るように判る。フラップ、ラダー、エンジンノズルの動き。普通のパイロットには見えない筈の情景が見える。
自分の目そのものがレーダーになっている感覚という感覚はそう簡単に説明できるものではない。
《何っ!?》
ウスティオ機は何の予兆もなく勢い良く機体をロールさせて急旋回をはじめた。
同時に急激に速度と高度を稼ぐ。事前に察知できるはずの予兆が一切感じられなかった。
こんな事はショルには今までになかったことだ。慌てて操縦桿を倒し、背後を取ろうとするが、空戦での咄嗟の遅れは致命的だった。
コンマ数秒の遅れが、1秒の遅れを産むきっかけとなり、3秒の遅れにつながる。実戦は運だけで生き残れるほど甘くもなく、
実力だけで切り抜けられるほど合理的でも無かった。
小柄な機体には単発でも十分にパワフルなエンジンの力を借りて、強引とも思えるが、スムーズな機動の変化でそれを感じさせない。
格闘戦闘機の長所を存分に生かした旋回で後ろにつく。
《もらったよ!》
"プラズマランサー"
最終更新:2007年09月24日 09:44