通路:フェイト・T・ハラオウン
城に突入したフェイト達は砲弾が掘り進んだ通路の中を飛んでいた。
円筒状の通路は砲弾の衝撃波のためか天井がかなり高くっている。
壁面の所々にある焦げ痕がいかに強い力で砲弾が撃ち込まれたかを示している。
あまりと言えばあまりの光景に、フェイトは砲弾の中にいる柊蓮司の事が気になった。
その時、背中に大きな気配を感じた。
存在を誇示するように叩きつけてくるこの気配。
間違いない。彼女だ。
フェイトは空中で反転。視界に気配の元をおさめた。
「ソニックフォーム!」
「Sonic Drive」
バリアジャケットが一部が消え、新たな形となる。
防御のために使われていた魔力のほとんどは速度と攻撃に回される。
使われる魔力も急激に増す。
このフォームを保持するだけで魔力の消費を強いられるが他に彼女に対抗する方法はない。
彼女が片手が光る。
光は瞬時にふくれあがり、刃となってフェイトに向けて走った。


通路:高町なのは
「ブラスター3!」
なのはも背後の気配を感じると同時に振り向いた。
「フェイトちゃん!」
光が走る直前にフェイトの前に回り込む。
レイジングハートを前に構え、全てのブラスタービットを全面に展開させる。
さらにカートリッジ数発の魔力を集中させる。
「Protection Powered」
光はブラスタービットのプロテクションを貫き、レイジングハートで作ったプロテクション・パワードに激突する。
「く、ううううっ」
光の熱量がなのはの体をあぶる。
バリアジャケット越しに熱さを感じるほどに目の前の光は凶暴な威力を持っているのだ。
「えぇえええええい!」
バリアと光が同時に爆発した。光はなのはを襲うことはない。
ブラスタービットでプロテクションを何枚も重ねていたおかげだろう。
爆発の煙が通路に立ちこめ、なのは達と彼女の間を隔てる。
高い足音が近づいてきた。
一歩一歩、靴音が重圧となる。
「フェイトちゃん」
フェイトに少しだけ視線を送る。
「うん、わかってる」
二つのライオットブレードを羽のように広げたフェイトがうなずく。
「ティアナ。ライトニング、スターズ両方の指揮はあなたがして」
「はい」
「エリオ、キャロ。ティアナの言うことをよく聞いてね」
「はい」「わかりました」
いい返事だ。
フリードの羽音が遠ざかっていく。
煙が少しずつ晴れてきた。


通路:スバル・ナカジマ
ウィングロードを走るスバルは後ろを少し見て、前に向き直った。
それでも気になる。
また少し後ろを見ようと首をひねった。
「スバル!もう振り向いたらダメよ」
ティアナの叱咤が飛ぶ。
「ティア、でも」
なのはが心配だった。
灯がなのはを助け出したとき、手足が赤黒く変色して、うわごとまで言っていた。
また、ああなるかも知れない。
「少しでも早くアニエス・バートンを倒すの。そうすれば、なのはさん達の助けになるわ。いいわね」
「……うん」
スバルはもう振り向きはしなかった。


通路:高町なのは
足音が止まった。
煙が晴れ、彼女の姿が見えてくる。
裏界の大公。蠅の女王。
巨大な魔力を持つベール・ゼファーが前と同じ微笑みでそこにいた。
「意外ね。あなたたちが足止めをするの?」
「あの子達じゃ、あなたの相手にならないから」
ベール・ゼファーが静かに髪をかき上げる。
「なら、こう思っているの?自分たちなら、私に勝てるって」
答えは「いいえ」だ。
だが口には出せない。出せばくじけてしまう。
なら「はい」と答えることは?
それも出来ない。
柊力の影響下でも未だ存在する自分たちとベール・ゼファーの差が強がりすらも許さない。
「それとも私とお話でもしたいのかしら?」
なのはは首を横に少し振る。
ベール・ゼファーから目は話せない。
少しの隙が致命的なものとなる。
「してあげてもいいわよ」
「え?」
意外な答えに手の力が抜けそうになる。
「ただし、私の僕になるのなら」
ベール・ゼファーは両手を広げる。
2人を迎える聖母のように。
「そう、私の僕になりなさい。高町なのは、そしてフェイト・T・ハラオウン。私の力となり、世界を滅ぼす助けとなりなさい。そうすれば、貴方たちを殺さないでいてあげる。それだけじゃないわ。人の身では望んでも得られない力を与えましょう」
「できない……わ」
「そう」
「私達は、みんなを助けるためにここに来たの。それに、あなたの僕になったらあなたと対等に話せなくなると思うの」
「私と対等に?人間のあなたが私と?面白いわ。でも、それなら戦うしかないわね」
なのは首を縦に振る。
ベール・ゼファーはなのはの目の奥をじっと見つめた。
「痛くはなかったの?」
何も答えないなのはからベール・ゼファーは目を離し、今度はフェイトを見る。
「怖くはなかったの?」
そして、ベール・ゼファーは2人に遠くから見るような視線を送る。
「それでも私と戦うの?」
「戦う。世界を守るため、そしてその後、あなたと話すために」
「戦ったら私が話す気になると思うの?太古からウィザードと戦い続けた私が!」
ベール・ゼファー声が、魔力が嵐のごとく荒々しく吹き荒れる。
「今はダメかも知れない。でもこの次なら。私がダメでも、その次の人なら。その次の次の人なら……そんな未来のために、あなたと戦うの」
荒れ狂う魔力は瞬時に落ち着き、今度は凪のように静まる。
「私の前にそうやって立つウィザードはいつもそう。貴方たちはウィザードじゃないけど同じね。強情で、頑固で、不屈で……それで、強い!そして、いつも私の邪魔をする。だから、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン。ここで貴方たち2人を倒させてもらうわ!」
ベール・ゼファーの口から呪文が紡ぎ出される。
「はあぁああああああああっ」
黒い球体を周囲に浮かべる魔王に雷の剣を広げたフェイトが走った。


アニエスの祭壇:ティアナ・ランスター
ティアナ達は飛び込んだ。その部屋がこの城の最奥だとすぐにわかる。
部屋の中央でこの世界まで追ってきたステラが8の字を描いて飛んでいたからだ。
人間の目のような独特の模様が着いた球体がティアナ達をじっと見つめていた。
その言い方ももう正確ではないだろう。
ステラは目のような模様のある球体ではない。
魔王の目、そのものなのだ。
自分たちを見つめている魔王は何をするつもりなのだろう。
それもわかる。
その部屋には巨大な蝗が何匹もいた。
壁や天井には動物の内臓にある絨毛のように触手が無数に生えている。その触手達は近寄ればティアナ達を即座に打ち倒そうと体をたわめている。
それらはステラの動きに会わせて揺れていた。
ステラの指示を待っているのだ。
ステラがぎらりと光った。
ティアナ達が入ってきた入り口が収縮し、閉じて無くなる。
「なのはさん達がくる前に私たちを倒そうってつもりね」
ティアナはクロスミラージュを持つ手を交差させる。
「そうはいかないわ。みんな、ステラを狙うわよ。魔王の目を破壊すれば、アニエスを倒せるわ!」
「うん」「はい」「はいっ」
スリップ音を立てて加速するスバルに蝗が顎を開けて襲いかかる。
「援護するわ!」
ティアナの魔法弾がその蝗の顎を砕く。
次の蝗がさらにスバルの肉を削ごうとするがそれまでにはさらに前進できるはずだ。
「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を」
キャロの詠唱を聴きながらティアナはスバル頭上の蝗を落とした。
奥の祭壇に捧げられたインテリジェンスデバイス・オッドが魔力光を受け、光った。

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最終更新:2007年12月26日 10:56