アニエスの祭壇:スバル・ナカジマ
マッハキャリバーの機動性でもステラに近寄るのは簡単ではない。
触手のを避けながら走らなければならないし直線で走れば蝗の群れが行く手をふさぐ。
スバルはそれらを落とし、あるいは振り払いながらでなければ前に進むことは出来なかった。
「えい!やあっ」
顔を狙ってきた触手を裏拳で落とし、足下に伸びる触手をローキックで跳ね飛ばす。
「はぁっ、たぁっ」
回転の勢いをつけたままもう一本たたき落とし、4本目にハイキックをめり込ませる。
勢いをつけた足の甲に蹴り潰された触手がちぎれ飛んでいく。
「わぁあああっ」
少し調子に乗りすぎた。
片足がまだ空中に高く上がっている間に、スバルと同じくらいの大きさの蝗が体当たりをしてきた。
「うわあああああっ」
マッハキャリバーは地面を離れ、支えを失ったスバルは転がる。
立ち上がろうと手を着くスバルの上に体当たりをしてきた蝗が顎をかちかち鳴らしながら、のしかかってきた。
「スバル!」
ティアナの声が飛ぶが、援護は期待できない。
エリオを取り巻く群れを落としていくので手一杯だ。
「うわぁ!」
蝗は鋭い顎をスバルの喉に向けて押しつけてくる。あれに首筋を噛まれたら、重傷はまぬがれない。
スバルは蝗の顔を掴み押し返す。このまま易々と喉に喰らいつかれるわけにはいかない。
それに対し蝗は脚力で顎を押してくる。
「うっ……」
蝗の脚力の方がわずかに強い。少しずつ、少しずつスバルの腕が曲がっていく。
スバルの視界が蝗の顔で覆われる。
蝗の顎がさらに大きく開いた。
「ひうっ」
何かがスバルの体の上を飛んでいった。
蝗はそれに吹き飛ばされ、空中で回転している。
「どきやがれ!この虫野郎」
スバルの上を横一文字に剣が振るわれる。
真横に切り裂かれた蝗が落ちて消えた。
「や、やっと着いたぜ」
肩で息をする柊蓮司が魔剣を振り抜いていた。
「なにやってんのよ、あんた!先に戦ってるんじゃなかったの?」
文句を言いながらティアナが魔力弾を2発、別の蝗に飛ばす。
「しょうがねえだろ!砲弾の蓋が歪んで開かなかったんだよ!」
切り返した魔剣がティアナの撃った蝗を二つに切る。
「いいじゃない。無事だったんだから」
柊蓮司の首を締めようとした触手を拳で粉砕する。
「で、あれを狙っているのか?」
柊蓮司の視線の先にはステラがある。
「そう、アニエスの要。その瞳を狙うのよ」
「よっしゃああああ」
柊蓮司の足音を背中に感じながら、スバルは飛び出した


通路:フェイト・T・ハラオウン
走るフェイトをなのはの砲撃魔法が追い越す。
ベール・ゼファーを狙い、一直線に進むそれは当たる直前に起動を屈折させあらぬ方向に飛んでいく。
空間歪曲魔法、ディストーション・フィールド。
フェイトは両手の二刀をあわせ、1つの大剣とする。

出撃前、緋室灯が言っていたことがある。
『……ディストーション・フィールドは攻撃の威力を下げて、当たりにくくする優れた防御魔法。でも、対処法はある。ディストーション・フィールドは特定の空間を歪める魔法。だから、使用者をその特定の空間から移動させれば無意味になる』

フェイトは手首を返し、剣の腹をベール・ゼファーに向ける。
「はぁあああああああああああっ!」
横なぎの一閃。
ベールゼファーが片手を迫る剣の腹に添え、その反動で宙を飛ぶ。
ダメージはない。
だが、狙いどおりでもある。この場から動いたベール・ゼファーは歪曲空間の恩恵を受けることはできない。
地面に降り立ったベール・ゼファーの口が動く。
光の粒子がベール・ゼファーの手に集まり、輝きを増す。
絶対命中の攻撃魔法、リブレイド。

柊蓮司からはこう聞いていた。
『あいつに弱点なんか無いぜ。どうにかする手がないわけでもないがな。魔法の詠唱途中、完成前にぶっ叩いてやるんだ。あいつとの力の差がありすぎるとそれでも魔法を使ってくるだろうが、あいつの力が下がっている時に速さに自信のあるフェイトならなんとかなるかも知れねえな』

動きの邪魔になる大剣を二刀に分ける。
地を蹴り、瞬時にベール・ゼファーを間合いにおさめる。
光が解放される寸前に、二刀でベール・ゼファーを挟み込む。
ベール・ゼファーは手を交差させ、右手でフェイトの右の剣を、左手で左の剣を挟み、止める。
「前より随分早くなったわね。高町なのはも随分魔力が増している。力を隠していたのかしら。私も舐められたものね」
剣をねじり、ベール・ゼファーから引きはがす。
「そんなことっ」
できるはずがない。
あの時は全ての力を出し切る前に圧倒的な差でねじ伏せられ、叩きのめされたのだ。
今どうか。
ベール・ゼファーの指先に血の流れない傷がわずかにできていた。
光と闇のプラーナの色を見せる傷。
その傷が柊蓮司の力とライオットフォームにより、力の差が縮まったことを示している。
「でも、これで勝てる気でいるの?」
それでも差はまだ大きい。
ベール・ゼファーが片手を振り上げる。
下がろうとするが間に合わない。バランスを崩しすぎている。
予想外だった、魔法主体と思っていたベール・ゼファーがフェイトの速さに対応するために詠唱時間のかかる魔法ではなく格闘戦を挑んできたのだ。
「それでも!」
なのはの砲撃魔法がベール・ゼファーの手を直撃し、爆発を起こす。
その間にフェイトは間合いをとり、二刀を構えなおした。
「私たちは負けない」
フェイトはブラスタービットの援護射撃の中を走った。


空:八神はやて
迫る蝗の大群に対してはやては逃げるしかなかった。
飛べるものの空戦を専門としていない陸佐のはやては飛びながらの回避は得意ではない。
だが、地上に降りることも出来ない。空中と地上の両方の蝗に襲われるだけだ。
「あ、あかん」
追いついた群れの1つがはやてに食らいつこうとする。
内火艇のエンジン音が響き、群れに突入する。
装甲をわずかに食いちぎられながらもジェットと急制動、急加速で群れを散らす。
大群としての攻撃力を失った蝗たちは別の群れと合流すべく四散していった。
「いけんよ、ヴァイス君。内火艇は命綱なんよ。無茶せずに、な」
はやての広域魔法が最大の効果を発揮するためには、目標の観測とそのデータを処理し、最適の攻撃ポイントを割り出す必要がある。
そのためにはリィンⅡとの融合、あるいは後方での優れたコンピュータとオペレーターによる補助が不可欠になる。
そのどちらも遙か遠い通信すらも届かないクラウディアの中だ。
今はそれらの代わりを内火艇の機材とオートプログラムが行っている。
熟練オペレーターの補助の無いオートプログラムでは最適解など望めるはずもなく、得られるのはせいぜい最適解があると思われる範囲だけだ。
だが、それでもあると無しでは大きく違う。
もしはやて単体で戦っていれば、いかに広域魔法といえど多くの無駄玉を撃っていたことだろう。
そして、無駄撃ちを補うためにさらに多くの魔法を使わなければならないはやてはあっという間に消耗してしまう。
故に内火艇は命綱なのだ。
「わかってますよ、隊長。こっちも考えながらやってますから」
内火艇の耐久力はバリアジャケットを考えてもはやての数倍はある。
それでもはやては仲間が身を挺しているのを見ると高ぶる感情を抑えきれない。
指揮官としてあってはならない感情かもしれない。
しかし、はやてのそれを抑える術はまだ未熟だ。特に、勝ちを拾うのが難しい今は。
かわりにはやては感情を行動に変えた。
「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ」
ここは自分が支える。
その思いを魔力に込める。
「フレース・ヴェルグ!」
いくつかの群れが白い光の中に消える。
1つ光が飛ぶ度にはやては苦痛を感じる。
それでもはやては打ち続けた。


アニエスの祭壇:スバル・ナカジマ
「たあああっ」
駆け込んできたエリオがストラーダの槍先に展開する魔力の刃で触手を一束根こそぎ刈り取る。
スバルは短くなった触手を踏みつけて前進。少し進むと、前に降りてきた蝗の群れが突進してきた。
「スバル!進んで!」
二丁を操るクロスミラージュ特有の速射性を駆使してティアナが群れを分断し隙間を作っていく。
スバルはその隙間に割り込みさらに前進する。
「きゃああああっ」
後ろからティアナの悲鳴が聞こえる。
「大丈夫です」
スバルは振り返りそうになるが、振り返らない。
キャロの声と爆音でなにが起こったかわかるからだ。
フリードの火炎が蝗からティアナを守ったに違いない。
スバルは前方に意識を集中する。
ステラまではもう少し。
だけど、地面は触手が覆っていて一気に突破はできない。
なら
「マッハキャリバー!」
「Wing Road」
伸びる光の道はステラの元へ。
スバルはその道を駆け上がる。
だが、それを黙ってい見ている敵はいない。
空中にいた新たな群れが光の道の上で壁となって立ちはだかる。
「ディバイン・バスター!」
シリンダーの呻りに魔力を重ねる。
壁にぶつかる直前に手を突き入れた。
「シューーーーートっ!」
迸る光の渦の中に捕らわれた蝗はあるものは落ち、あるものは消えていく。
光が消えたとき、そこにあるのは群れに出来たトンネルだった。
「柊さん!」
「まかせろ!」
魔法の力をもって、柊蓮司は蝗のトンネルを一足で通過する。
次の一足で魔剣を振り上げる。
ステラはすでに間合いの中。
いかに動こうが対応可能だ。
「魔器解放!」
束から施されたルーンが順に光り、剣先の宝石に及ぶ。
魔剣は膨大な魔力を蓄えた魔法陣を宿す。
「くらえぇええ!」
柊蓮司は真正面に捕らえたステラに持てる最大の攻撃をたたき込んだ。

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最終更新:2007年12月27日 18:37