通路を進んでいく四人、電力の供給が生きているが道は薄暗く見通しは悪い。
だが戦闘機人であるノーヴェは一応の暗視モードを持っており、この程度の暗闇には簡単に対応できる。
さらに各種センサーを内蔵しており、中・近距離の索敵能力ではその能力には頼りになる。
『スバル、どのくらい進んだ?』
『えーと、マッハキャリバー?』
<大体、2000メートルと言った所です>
『今の所隠し通路らしきものは無し。・・・しかしどんだけ潜るんだこの一本道は?』
何が出てくるのか分からないので肉声は厳禁。すべて会話は念話で行われている。
『ノーヴェ、引き続きセンサで全周を警戒して、ギンガ前方に反応は?』
『今の所は何も・・・ただ、カーブあってそこまで遠い距離まで分かりません・・・』
『了解。気を付けて前進して』
なのはは潜ったのは失敗だったかと考え始めていた。思ったより長い秘密通路、しかもただ長いだけの通路。
考えても見ればあの二機、地雷伍長が言うに「伝説のアリーナのトップ、ナインボール・ハスラーワン」が
この通路の向こう側にあるであろう何らかの施設から出てきたとは分からないのだ。
しかもまったく同じ構成の機体が二機、なぜ居たのか?そして機体内には誰にも居なかった。
この先にさらに大きい危険があるかもしれない。もっと慎重に行動するべきだったかな?
指揮下にある三人を不必要に危険にさらしているのはあまり指揮官として褒められた判断とはいえない。
一旦態勢を整えて今回の調査はここまでにして引き返そうか?
そんな考えが脳裏をよぎった時、銀河から通路の終わりを知らせる連絡が入った。
『なのはさん、通路の終点です。ただ・・・、閉まり掛けのゲートと奥には下降するシャフトが見えます』

ゲートは簡単に開いた。そして先にあった下降用のシャフトには整然と付いた二機分の足跡。
「ここから出てきたのは間違いないみたいです」
「・・・やっぱり、降りなきゃ駄目かな?」
「あの・・・、なのはさん?」
ノーヴェが珍しくなのはに話しかける。
「どうしたの、ノーヴェ?」
「さっきから受信する通信の雑音の中におかしなノイズが入ってるんですよ・・・」
「・・・?とりあえずデコーダーの内容をレイジングハートに転送して。レイジングハートちょっと解析してくれる?」
<了解、マスター>
最近、指揮官的な任務の増加に伴いなのははレイジングハートに上級指揮官用OSを新たに組み込んでいた。
高い情報処理系を搭載し、指揮下の人員を確実に掌握し使用者に高い精度の情報を与え判断を助け、
一心同体の二人をさらに結びつける。
<・・・解析完了>
「はやいね、さすが、レイジングハート。やっぱりキャリバーズのお姉さんだ」
スバルが褒める。
<ありがとうございます。簡単なことです。再生しますか?>
「うん、お願い」
“Sound Only”と表示されたモニターに四人全員の耳目が集中する。
『・・・秩序を破壊する者』
『・・・力を持ちすぎた者』
「こ・・・これって・・・。あの時と同じ?レイジングハート?」
<・・・まったく同じ声です。先ほどドーム内で相対した機体の発した声と>
『修正が必要だ・・・』
『それが私の使命・・・』
おそらく何かがこの施設の下で蠢いている。
『修正プログラム最終フェーズ・・・』
無機質的な男女の声。なのはにはレイジングハートの言うとおりだと頷くしかなかった。
「行かなきゃ駄目かな・・・?」
なのはは迷っていた。もし同じ機体がいたら間違いなく交戦する事になる。おそらくこの奥にまだあの機体が、
まだ少なくとも一機は居る。もしかしたらさらに複数いることだってありうる。
だが、自分達が引き返したら?間違いなく上の施設“渡鴉の巣”に上がる。そうなればアリーナのレイブンに
少なからず被害が出るだろう。一応は降りかかる火の粉を自分の手で払える傭兵・レイブンではあるが、
過去のアリーナのトップを相手に出来るのが今揃っているだろうか?
管理局員の判断基準として魔導士の起した事件を解決する、その基準で今回はその範疇に入るだろうか?
「行くしかないですよ。大丈夫です、陸戦Aランクが三人、空戦のSSランクがいれば解決できないこと
なんてありません!!」
スバルはどこに行ってもスバルだ。なのはは思った。
楽観的、だが精神的な強さを併せ持ちどんな苦難にも立ち向かう。
しかもそれを人に伝染させ他者に力を与えることが出来る。それが出来る人間は少ない。
なのはが決断した。
「よし、行こう!!」
「「「はい!!」」」
シャフトの操作系統にレイジングハートで介入、コントロールを乗っ取る。
<操作系統を手中に収めました。下降させます>
「よろしくね、レイジングハート」
シャフトが下降する。
「しかしどこまで潜ればいいんだよ。中でドンパチやって崩れて生埋め、そんなの嫌だぞ」
「大分昔からある施設みたいだし、強度的には大丈夫なんでしょう」
ノーヴェが文句をつけ、それをギンガがたしなめる。
地下奥深くへとシャフトは降りていく。

「終点みたいだね」
シャフトが停止した。前方には上と同じようなゲート、もしかしたら最初に戻ったんじゃないかという
錯覚をしてしまうほど同じような構造。
その先にあったのは再度伸びる長い通路。
「隊形を変えよう。各人間の距離を詰めてスタック隊形、私が後方に回るよ。ほぼ間違いなく敵性の魔導士が
いることに注意して」
「「「了解」」」
返事と同時に通路での移動時の隊形に変わる。狭い屋内での基本的な密集隊形、スタックを組む。
だが装備の殆ど同一のナカジマ三姉妹と航空魔導士のなのはがいては前進速度を合わせ辛い。
一番怖いのは後方から強襲される事だがそれは自身ので奇襲は避けれる。
もし、前方から出てきたら?少なくとも自分の砲撃は前衛の誰かを巻き込む。
施設内での突入の先頭は指揮官が勤めるものではない。なのははナカジマ三姉妹の接近戦闘のレベルには及ばない。
交戦距離の近い状況では火力よりも一発の打撃力が大きいほうが有効だろう。
「スバル、先頭を代わって。私が二番、ノーヴェは三番目で行きましょう」
「了解、ギン姉」
「私が二番の方が・・・。ギンガ姉が後方からスバル姉と私を指揮したほうが良くないか?」
「ノーヴェはセンサーで前後に注意を向けておいて。・・・それにね」
ギンガが左手をノーヴェの頭に置く。
「・・・ギンガ姉?」
「まだ調整が終わってないでしょ?ちょっとでも反応が遅れたらあなただけでなく皆が危険だからよ」
「うん・・・」
デバイスが装着され、硬くなった左手で頭を撫でてやる。昔、自分を三人がかりでふっ飛ばしてくれた相手である
はずだがそれが無かったかのように優しく接している。
「あ~、ノーヴェばっかしず~る~い~。ギン姉、わたしもわたしも!!」
スバルが警戒をほっぽり出してギンガに擦り付く。
「はいはい、でもスバルの分は後。今は任務に集中しなさい」
ギンガがスバルをたしなめるとノーヴェから手を離し、通路の向こう側を向く。
「さあ、行きましょうか」
通路を進んでいく。途中にあるゲートは開閉システムにアクセスするだけで簡単に開いた。
殆ど何も無い、証明だけが照らす無機質な通路。
「浮遊機雷見っけ。今までと同じ、透明化処置されてる」
「ノーヴェ、生きてる?」
「電子関係の機能は死んでる。けれど中の装薬と機械式信管は生きてるから垂れてるワイヤーに注意して。
多分触れたら簡単に炸裂するよ」
「了解。気を付けて行こう」
浮遊機雷が仕掛けられているがこれを避けて前進する。一人でも触れれば全員に少なからずダメージを与える。
爆破処理をすれば寝た子を覚ますかもしれない。無力化していけば時間がかかる。
「またゲート?よほど重要な施設なのかな?ノーヴェ、ゲートの先はどう?」
「無理だ。ゲートが厚い上に妨害する何らかの処理がされてる」
「スバル、停止。突入用意、なのはさん、いきます」
「了解・・・、さっきから同じ様な部屋ばかり・・・、気をつけてね」
そういうとレイジングハートを構える。
「開けるよ、・・・GO!!」
<ゲート、オープン>
レイジングハートが開く。それと同時にスバルが一直線に突っ込み、ギンガとノーヴェが左右に突入する。
「え!?」
「嘘!?」
「マジかよ・・・」
最初に入ったスバルが目を疑い、続いて突入したギンガとノーヴェも信じられなかった。
そこにはアリーナで交戦し、撃破した機体と似たカラーリングの機体が数機、未武装の待機状態で格納されていた。
足元には待機状態から下に落ちたのかこちらにもバラバラになった機体が散乱していた。
「本当はこんだけ沢山いたってことかよ・・・」
「まさに不死身って事ね・・・、一体が倒されてもストックしてある機体からまた出せばいい・・・」
「でも・・・、気付かれずそんなことができるものかな?」
「残骸が散乱しているのを見ると大半が機能しなかったみたいだね。・・・これだけの施設を隠して
運営出来てたなんて・・・」
その場にいた四人は背筋が凍った。もしこれらの機体が完全な戦闘態勢をとって待ち受けていたら?
「・・進もう」
なのはが決断を下す。

まだ続いている通路を進む。この通路は一体どれだけ進めばいいのか、四人にはまったく分からなかった。
スバルがゲートの前に立ち振り返る。なのははそれに合わせてレイジングハートを構え、ゲートを開く。
全員が無言で、念話も無い。
「また!?」
スバルが声を上げる。今度は先ほどの部屋と違い残骸が散乱する事も無い、照明の行き届いたきれいな部屋。
部屋の左右の壁には未武装の機体が六機、格納されていた。
「・・・」
誰も声を発さなかった。
旧暦時代の施設から隠し通路で繋がる大深度地下施設。誰も知らぬ地下の闇の深い場所で眠る何か。
それが目を覚まそうとしている。いや、もう目を覚ましている。
もしかしたら自分達がここに来たのがそれの引き金を引いたのか。あらぬ想像が脳裏に浮かぶ。
『私は守るために生み出された・・・』
「・・・また!!」
今度は雑音交じりの通信ではなく、殆ど雑音の無いクリアーな通信だった。
『・・・私はその使命を守り、破壊された世界達をを再生する』
『全システムチェック終了・・・』
『力を持ちすぎた者はすべて排除する』
この先にまだいるであろう何かの呼びかけ。かつて昔の船乗りに恐れられたというセイレーンの歌声のように。
「ギンガ、スバル、ノーヴェ、どうする?一旦引き返して態勢を整えてからもう一度・・・」
「「「いきましょう!!」」」

次に入ったのは今度は明らかに戦闘で破壊された残骸が散乱している部屋だった。
残骸は焼け焦げ、外観も内部も酷く損傷していた。
柱や壁には激しい戦闘があったことを示す弾痕と爆発痕。
「わたし達以外の誰かがここに来たって事?」
「同士討ち・・・、まさかそんなことは無いでしょうから、おそらくは・・・」
「・・・でも、一体誰が?」
「・・・ん?カートリッジか?」
ノーヴェが散乱する残骸の中から筒状の物を拾い上げる。
「デバイスの汎用の魔力カートリッジじゃないね、大口径機関砲に使われる専用カートリッジの空薬莢だよ」
それを見たなのはがノーヴェに解説する。
「へぇー、ということは間違いなくここに誰か来てこいつらを破壊したって事ですね」
「どうして?」
「こいつらは大型機関砲なんて装備してないです」
「でも来たといっても、大分前ですよ。ここに来る前にあった残骸にひどく錆が浮いてるのがありました」
なのはとノーヴェの会話にギンガが入る。
「開きましたよー」
スバルが通路の先にあるゲートを勝手に開いていた。
恐る恐るスバルがその先を覗き込む。
「あれ?行き止まり?」
「よく見なさい。あそこに穴が開いてるでしょ?」
「あ、ほんとだ」
四人が縦坑内を覗く。内側は十分な明るさがあった。だがその先に何があるのか、
その先が深い闇で全く分からなかった。
「・・・降りますか?」
「わたしから降りるよ。何かあったらすぐに降りてきて」
その言葉にナカジマ三姉妹は顔を見合わせ、なのはを見る。
「なのはさんが降りなくても・・・私が行きますよ?」
ギンガの言葉になのはが頭を振る
「ううん、降りるのは私が行くよ。三人は何かあるまでここで待機、分かった?」
なのはが縦坑の入り口に足をかける。
「じゃあ、行って来るね」
「気をつけてください・・・」
スバルがそう言うとなのはの姿は縦坑に消えていった

なのはが縦坑を降りていったその先、広い薄明かりを従えた闇に包まれた空間にいたのは背中に細身の機体に
不釣合いなぐらい巨大な高機動ユニットを背負った機体。機体のカラーリングは一部の地金むき出しの部分を除き、
ナインボールという機体と変らない。だがパーツの形状は大分変り、武装も一見だが変わっている。
そして肩には⑨のマーキング。
「あなたは・・・一体誰なの?」
思わずなのはが聞く。相手が答えるはずのない質問。
「・・・ターゲット確認、排除開始」
相手が返事と思わしき言葉を返す。とてもではないが話し合う余地があるとは思えない、内容。
「いいよ、そっちがその気なら・・・何度でもやって、徹底的に打ちのめしてあげるから!!」
なのはが啖呵を切る。
「レイジングハート、対高機動目標モード、高速目標に最適化。ブラスト・ストライク!!」
いつものように槍のように形態を変化させたレイジングハートを構えるなのは。
その先にいるのは不気味に静かに立つ、魔導甲冑を着た何か・・・。
ナインボールが腰を落とし前屈みの姿勢をとった。
『来ます!!』
スバルが警告を発する。相手微妙な体重の移動を見抜き、動きを読む、突撃ストライカーの必須技能。
だが、相手は接近戦を挑む訳ではなかった。
「・・・誘導弾!!ギンガ、スバル、シールド展開!!ノーヴェは私の後ろに!!」
誘導弾を大量に発射、先手を取られた。
「アクセルシューター、シュート!!」
誘導弾を迎撃する為、アクセルシューターを射出。だが迎撃が間に合わなかった誘導弾が近接信管で起爆、
さらにアクセルシューターに迎撃された誘導弾も破片と魔力片をバラ撒く。
「・・・っく!!」
「ノーヴェ、そっちに行ったわ!!後方の上!!」
「早えよ!!」
なのは達の注意が誘導弾に向いた一瞬の隙を突いて高速移動。
背後を取った相手が後衛だったノーヴェにブレードで斬りかかる。
警告を聞いたノーヴェはジェットエッジで急旋回、後ろに回った相手と正対。斬りつけられるブレードを回避する。
「ん?・・・わ!!」
ブレードから光の刃が浮き出たと思えた瞬間、それがなのはに向けてまっすぐ向かってきた。
<プロテクション>
レイジングハートがオートでシールドを展開、光の刃はシールドと接触した時、爆発霧散した。
「みんな、ブレードから出る光刃に注意して!!」
「ノーヴェは回避に専念!!スバル、上へ!!」
「了解、ギン姉!!」
「こいつの動き、さっきのヤツと違う!!」
スバルがノーヴェの後方からウイングロードで目標に肉薄、ギンガは後方に回り後ろを取る。
ノーヴェが避けたブレードから発生した光刃を左二の腕の装甲板で受ける。
「熱!!ギンガ姉、スバル姉、気を付けて!!受けすぎると熱が!!排熱が・・・」
「ノーヴェ、回避!!」
ノーヴェの警告をかき消してスバルが後方から指示。それを聞いてノーヴェが腰を落とす。
「リボルバーシュートォォーー!!」
危険を感じたノーヴェは正面から離脱。一瞬前までノーヴェが居た場所を光弾に暴風が通過、
「・・・嘘?」
並みの相手なら吹き飛ばされる一撃を相手が両手をクロスさせ耐えて見せたのだ。
衝撃を受け止め、一瞬だがナインボールの動きが固まる。その瞬間を後方に回っていたギンガが逃さない。
背中を見せていた相手に左手のリボルバーナックルを叩き突けるためにさらに近接。
「・・・くっ、トライシールド!!」
だが相手の硬直は本当に一瞬、しかもまるで見ていたかのように右に半身を取ると右手のチェーンガンを発砲。
実態を有した魔力弾の連発に堪らずギンガはシールドを張りつつブリッツキャリバーで右に直角カーブ、
だがそれを追うように正確に狙いを付けて相手は追撃する。
「ブラストショット!!」
なのはのレイジングハートの先端に光が収束。収束した光が数条のピンク色の光線を放つ。
相手は半身から左構えに戻ると自身の正面に飛んで来た一弾にシールドを形成、霧散させる。
だが回避されることを前提とした射撃だ。今は相手の動きのデータを取る事が重要。
左側に滑りながら左手に持ったパルスライフルを連射。なのはは射撃で相手を追うが巧みな機動を取り捕らえられない。
「早い!!でもすごい機動・・・」
なのはが感嘆を漏らす。ここまで綺麗に回避できるフェイト位なモノだ。だげすぐに気を取り直す。
「レイジングハート、射撃支援モードでブラスタービットを展開。火力支援を」
<了解、展開します>
なのはの後方にブラスタービットが展開。数は四基。
「みんな、追撃は待って。正面から追撃するのは危険なの。態勢を立て直そう」
「「「了解!!」」」
一旦距離をとった相手が強烈な逆噴射とブレーキをかけて停止。だがそれも一瞬、今度は上に飛び誘導弾を
撒き散らしながら頭上を飛び回り、右手のチェーンガンと左手のパルスライフルで地上を掃射する。
誘導弾が着発信管や時限信管で炸裂し、実体弾が地面をえぐる。
「こいつ!!・・・って、わぁ!!」
スバルが付近に着弾した誘導弾の爆風に吹き飛ばされ、ひし形の陣形が崩れる。何もかも計算尽くだと
いわんばかりにスバルとなのはの間に開いた連携の穴からなのはに近接する。
「スバル姉!!野郎!!」
「ノーヴェ、熱くならない!!冷静に戦いなさい!!」
「でも!!」
簡単に冷静さを失うノーヴェをギンガが止める。
「スバルなら大丈夫よ。なのはさん!!」
「私も大丈夫、でも接近戦だから支援して。レイジングハート魔力刃を展開!!」
なのはが頭上に上がる。アクセルフィンを高機動モード、レイジングハートは長槍のごとく魔力刃を展開。
運動は確かに苦手、接近戦も不得手。だが色々な人に教えられそれなりにモノにしたつもりだ。
そもそも自分は御神流の末裔の一人!!
「はぁぁ!!」
自身の前面にシールドを半面上に形成し肉薄する。
今回は確実に一瞬の隙が出来た。それを逃さないでさらに肉薄、レイジングハートの鏃の先を向け加速突入。
誘導弾が炸裂するがシールドで止め、パルス弾に実体弾もシールドで受け止める。
「そこぉぉ!!」
間合いに入る。自身の利き腕である左手を軸に槍-杖-で右腰より逆袈裟懸けに刃が軌跡を描く。
加速した為、相手の取ったタイミングより数瞬早く動く。相手は空中で回避機動、
それでも刃は相手の左胸部を浅く薙いだだけ。
だがこちらの間合いはあちらの間合いでもある。左・二の腕のブレードが光を収束、光刃が煌めき高速で振りぬかれる。
なのはが最小限の機動で回避。
「あ!!」
気付くのが遅れ反応も遅れた。相手は右・二の腕にもブレードを格納していた。そのブレードが同じように光を収束、
斬りつけられる。
回避しようと後方に動く。今度はこちらの反応が遅れる番、こちらは左肩の外側を斬り付けられる。
この程度ならかすり傷、いや傷の内にも入らない。だが押し続けられれば自分は不利になる。
自立行動に設定していたブラスタービットが発砲。レイジングハートの組上げた制御管制プログラムは優秀、
各々が射線を変えた偏差射撃をくわえる。それをナイン・ボールは自身命中する射線だけを防御、
不気味に飛び続ける。

「なのはさん、下がって!!」
スバルがウイングロードで近づいてくる。援護するようにノーヴェはガンナックルから光弾を打ち出す。
ノーヴェの光弾が左手のパルスライフルに集弾する。魔力収束パックの部分に被弾したのかライフルが
強烈な光を発した。それを惜しむ素振など見せず、逆にノーヴェに投げつける。
「うわっっ!!」
「ノーヴェ、いいよ!!」
「おおりゃぁぁーーー!!!!」
スバルの右手のリボルバーナックルが光を放ち打ち込まれる。相手は避ける気も逃げる気もない。
それを正面から両手をクロスさせ受け止める。
「よっぽど自信があるのね・・・」
ギンガがあきれる。ギンガはなのはの後方をウイングロードで走り、頭上を飛び越えてスバルを相手に対する
目隠しにして接近していた。
「クリーンヒッットォォーー!!」
正面から襲い掛かる衝撃をブースターを出力最大に噴かし受け止めたのか背後に噴射煙が巻き上がる。
「耐えた?」
まだ相手は浮いていた。だがそこにスバルを飛び越えたギンガの駄目押しが入る。
「シールドブレイク!!」
相手のシールドを突き破り、左手のリボルバーナックルを本体に叩きつけて相手を吹き飛ばす。
「この野郎・・・、ハンマーダウン!!」
それでも立ったまま受け止めて地面を滑るナインボールに今度はノーヴェの蹴りが炸裂。
だがそれでも相手は倒れなかった。背中の高機動パックの噴射を絶妙に調整し、機体自身のブースターを噴かす。
「レイジングハート、全ブラスタービットを収束射撃モードへ」
<チャージング完了>
なのはは丸い魔法陣の中心に立つ。左右両翼に従えるのは四基のブラスタービット。そのすべてが魔力をチャージング。
「ディバインバスターーー!!!」
追い討ちをなのはが仕掛ける。

「まだ立ってる・・・?」
「まるでロストロギア級の魔導甲冑じゃない・・・」
砲撃の着弾後、立ち込める煙が退いた中から姿を現したのは赤と黒の機体、ナインボールだった。
一応のダメージを負っているようだが、もし、戦意と言うものがあるというのなら決して衰えていない。
「・・・なのはさん、わたしのISの使用を許可してください」
スバルがなのはに声をかける。
スバルのIS・振動破砕は部隊長の許可なく使用できないようロックがかけられていた。
下手に使用して間違いが起こらないように。
「・・・いいよ、部隊長権限でロックを解除。レイジングハート、確認と記録をお願い」
<解除命令を確認、デコーダに記録します>
「マッハキャリバー、お前も記録しておいてね」
<無論です、相棒>
なのはが一応は決められた手続きを踏んで解除する。なのは自身はスバルが間違った使用方法をしないと
分かっているが一応は規則だ。もし無断使用させればただでさえ微妙なスバルの立場が危うくなる。
スバルが両目を閉じる。一寸閉じられた瞳が開かれるとスバルの青い目は金色の目に変わっていた。
「・・・ありがとうございます」
「まだ終わってないよ、お礼は終わった後!!」

なのはが言い終わると同時にまたナイン・ボールが飛んだ。
「また!!」
だが先ほどとはまったく違う動きだった。直線的な動きを繰り返す。動くたびに右手のチェーンガンが、
背中と両肩のランチャーから誘導弾が、ばら撒かれる。先ほどとは比べ物にならないほど激しい爆撃。
射撃に専念するかと思えば、タイミングを確実に計り、いきなり急降下するとブレードで斬りつける。
高速で空を動く相手は地上に居る人間にとって苦手なんて物ではない、天敵だ。
「ツーマン・ターセル!!ギンガはスバルと、ノーヴェは私の後ろ、直近に!!」
すばやい移動と放たれる実体弾と誘導弾に翻弄されながらなのはが指示を出し、全員が配置につく。
「ノーヴェ、私の空戦機動について来れる?」
「勿論!!」
「オーケー、・・・行くよ!!」
なのはが飛ぶ、その後ろをエアライナーを展張、ノーヴェが追う。
『ギンガ、スバル、ノーヴェ、四人で連撃しよう。一人で連撃しようと思わないで、さっきみたいに連携を取って、
一人一撃づつ。決めよう!!スバルが言った通り、この四人が揃えばどんな事件だって解決できる!!』
『『『了解!!』』』
アクセルシューター、スフィア展開、近接設定!!」
正面から向かうなのはが周囲にアクセルシューターのスフィアを展開その数、二十。
「シュート!!」
一斉に襲い掛かる、魔力弾の群れ。管制はレイジングハートが半分、残り半分は自立制御。
同時にブラスタービットも射撃を開始、こちらは自立制御で砲撃を打ち込む。
それらを平然と正面から受け止めるナイン・ボール。
「いくよ!!」
なのはが敢然と槍の如く-杖-レイジングハートを振り上げてナインボールに襲い掛かる。
「あぁ!!」
なのはの一撃を受け止め、さらにシールドを任意でバースト、なのはの動きを止め、追い討ちでなのはのシールドに
左の拳を打ち込む。堪らず吹き飛ぶなのは。
「おい!!」
「あなたの相手はこっち!!」
ギンガとノーヴェが両翼から一撃づつを加える。
二人同時の一撃、ノーヴェは右手で、ギンガは左手で。若干ノーヴェの一撃が早く打ち込まれる。
相手はそれに合わせて新しいシールドを展開。そこにギンガの拳が接触。
「ロードカートリッジ!!」
ギンガの目が金色に変わる。戦闘機人としてのリミッターを解除、そして
リボルバーナックルのカートリッジをロード、左拳の指先を伸ばし・・・。
「リボルバーギムレット!!」
左手が高速回転し伸びる。シールドに接触したドリルはそのままシールド表面で空しく回転、。
「まだまだぁぁーー!!」
さらにカートリッジをロード。だがナインボールは右手のチェーンガンを向ける。
「わたしも居るんだよ!!」
ノーヴェが金色に輝く右手のガンナックルを最高出力で叩きつける。
衝突の瞬間シールドが過負荷に耐え切れず消滅。
だが右手のチェーンガンが火を噴くのとほとんど同じだった。
「ギンガ姉!!」
ノーヴェがギンガの横から飛び込む。重なる二人を薙ぎ払うように発砲炎が光る。
「ギン姉!!ノーヴェ!!」
「スバル、行きなさい!!」
ギンガの声が聞こえた。
「振動破砕でやる、行くよ相棒!!」
<了解、ロードカートリッジ>
スバルの勢いに思わず後ずさる相手を見据えスバルがIS・振動破砕を発動。
リボルバーナックルにベルカでもミッドチルダでもない、丸く青い二つの結界が方陣が生まれる。
「・・・ぶっ潰す!!」
機械のみならず生身の肉体に対しても使用すれば確実に機械や生体組織を破壊するスバルの技。
「リヴォルバーナッコォォォーーー!!!」
正面から相手の胸の地金剥き出しの装甲を狙う。
両手をクロスさせナイン・ボールが機体を守る。だがスバルはそれを気に止めもしないで右の拳を打ち込む。
両腕に直撃。そのままの体勢で押される機体。
「もう・・・、一ッッ発!!」
そう言いながらやわらかい体を生かし思いっきり右足を振り上げ両腕を弾く。
一瞬だがスバルに怯えの様な感情が感じられた。だが・・・この相手に情けをかけるほどスバルには隙はない。
がら空きになった胸部にもう一度、右の拳を打ちつける。
「おおりゃぁぁーーー!!!!」
前面の装甲板をつきぬけ内部に拳が入り込んだ瞬間、振動破砕を発動。
ナイン・ボールが吹き飛び、地面に叩き付けられる。おそらく、どんなに強力な装甲板をつけてもスバルの
振動破砕から逃れることはできない。
スバルがウイングロードから打ちつけた相手を見下ろす。
「なのはさん!!」
後方から桜色の光、光や音すら通らないこの大深度に太陽のごとく桜色の光が広がる。
そこには桜色の魔法陣の中央に立つなのはが居た。見据えるのはスバルの渾身の一撃を受けたナインボール。

「ブラスタービット、バインド形成、拘束!!」
ピンク色の光が相手に絡みつき、動きを拘束する。
「アクセルチャージャー、安全制限解除!!」
なのはが構えた槍-杖-レイジングハートがカートリッジをロード。
「エクセリオンバスターACS、ドライブ!!」
スバルの振動破砕を受け、機体内に想定以上のダメージを受け動きが鈍くなる。そこになのはのバインドがかかる。
バインドを必死に引き千切ろうとするがそう簡単に抜け出せるほど甘いバインドをなのははかけない。
代わりにシールドの出力を上げる。
「ブレイク・・・」
レイジングハートから発生した六枚の羽がさらに大きく雄雄しく舞う。
「シュート!!」
桜色の光が数条、再びナインボールを包み込む。同色の炸裂した光は方円上に広がり闇を照らした。

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最終更新:2008年02月24日 20:55