ガジェットに、展性チタンが使われた。
こいつの意味は、あたしにだってすぐわかる。
対処方法をレポートにまとめてから現地の連中にあとをまかせて、
大急ぎであたしは新しい家に帰ってきた。
三年がかりではやてが作った、あたしたちの城、機動六課にだ。
やっぱし、あたしたちがいなきゃ締まるもんも締まらねーからな。
聞けばフォワード四人の選定も、とっくに終わってるって話。
なのはとフェイトが選んできたって、はやては電話で教えてくれたけど。
それに、あいつ…覚悟が帰ってきて、四人を早くも試し終わったとは聞いたけどよ。
これからあたし達が戦うのは、今までより数段強化されたガジェットに、
最近、各地に出没し始めた生物兵器人間。
それにヘタをしたら、零(ぜろ)みてーな強化外骨格も加わるっていうんだ。
生半なスパルタじゃ使い物になんねーぞ…
機動六課開設式より前に、そいつらの顔を一目見ておこうってことで、
あたしは眠たい目をこすりながら朝イチのレールウェイに乗り付けて、六課の朝メシに間に合ったわけだ。
…ガキの家出とカン違いしやがった駅員、てめーの顔は忘れねー。
てめーみてーなめんどくせーのを避けるためにわざわざ制服着てんのによ。
ま、あーゆーやつらを守るために戦ってんだよな、あたしたち。 うん。
おごってくれたジュースの味も、忘れねーでおくよ。


魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果

第十話『頂』


受付で用件伝えたら、はやてがすっとんで来た。
喰ってる途中だったらしーな…ケチャップついてんぞ。

「おかえりな、ヴィータ。 どこもケガ、してないな?」
「ただいま、はやて。 ケガとか、大したことねーよ。
 今日からでも戦闘訓練できっぞ」
ちょっと恥ずかったけど、はやてにはイの一番に送ったからな。
展性チタンガジェットとの戦闘映像のコピー。
知らなきゃみんな、それだけマズイことになりかねねーから。
あたしの苦戦と、おんなじことの繰り返しになっちまう。
それよりも。

「ついに始まるんだな、はやて」
「せや。 わたしらが、わたしらの判断でする戦いや。
 追うべき敵をある程度決められる立場に、わたしは立った。
 そのための部隊運営を、わたしは任された…責任、重大やで」
拳を固めて、はやては隊舎の天井を見上げた。
負った責任を重荷に感じてる様子なんか、全然なくて。
それでも、重荷だってことはちゃんとわかってて。
今のはやては、むしろそれが望むとこ、っつーか、どんとこい、みたいな感じ。

「肝心の新入りどもはどうなんだよ」
知りたいことを早速聞く。
これからの仕事は、早いうちにわかっておくに限るからな。
はやても、それをわかってくれてた。

「んー、やっぱり、なのはちゃん達みたいなわけにはいかないわー」
「そりゃそーだろ」
「でも、将来有望やで。 今、会うてみる?」
「うん」
あうんの呼吸ってやつだな。
あたしとはやて、ダテに十年一緒じゃねぇーよ。




食堂に入ったら、その四人らしいやつをすぐに見つけた。
二人組に別れてメシを喰ってた、女二人とチビ二人。
…わかってるよ、人のこと言えてーってくらい。
育たねえんだからしょうがねーじゃねーか。
大人に化けるのも、このミッドチルダじゃれっきとした犯罪行為だしよ。
ま、んなこた、どーでもいいわけだ。
だけど、あの二人組ふたつはもとからコンビか?
ずいぶん仲が良さそーで、そいつは何よりなんだけどな。
ああ、チビ二人の方は、ヤローの方がなんか気後れしてるけど。
女の方になつかれてんのか? 別にいいけどちゃんと仕事しろよ…

「みんな、こっち注目やでー」
一歩後ろから来たはやてが声を上げた。
四人とも気づいてこっちを見る。
隊長の声はちゃんと覚えてたか。
ん、さて。 何ごとも最初が肝心だよな。
咳払いひとつしてから、あたしはやつらの前に歩いていく。

「ひよっ子どもは、おめーらか」
「え、あ、あなたは?」
「上官の質問を質問で返してんじゃねえよ。
 機動六課に入隊したてのひよっ子どもはおめーらかって聞いてんだ」
ちまっこいあたしだからよくわかる。
ナメられるのは厳禁だ、マジで。
これでも尉官で、場合によっちゃ指揮だって受け持つのによ、
エラさは体格で決まるみてーな勘違いしてるバカは本気で多い。
それでもまあ話のわかる奴は探しゃあいるんで、バカどもへの話はそいつを通すんだけどな。
ここでばっかりは、任務が終わってハイサヨナラとはいかねーもん。
これから長い付き合いになる。そうでなくっちゃならねー。

「返事はどうしたよ!」
「は、はいっ」
全員、あわてて起立した。
カチカチになりながら敬礼もだ。

「す、スバル・ナカジマ二等陸士です」
「ティアナ・ランスター二等陸士です」
「エリオ・モンディアルです、三等陸士です」
「き、きゃ、きゃ…キャロ・ル・ルシエ、三等陸士、ですっ」
「よーし、その調子で早いとこ顔を覚えてもらいな。
 戦いは連携が命だからな、となりにいる奴の名前がわかんねー奴は死ね」
…ま、んなこた、ねーみてえだがな。
じゃ、あたしも名前を覚えてもらうか。

「あたしはヴィータ、三等空尉だ。
 分隊の副隊長をやることになってる。
 訓練教官としてバシバシしごいてやっからそー思えよ」
「はいっ」
「いい返事じゃねーか。だけど、返事だけで終わるアホはいらねーんだからな」
「はいっ」
「よし、好きにメシ喰ってろ。解散」
手応えはよかったと思ったよ。 好感触だな。
見た目だけであたしに反発する態度のやつもいなかったし。
そういうのがいないのはホント、面倒くさくなくていい。
訓練の効果、全然違って来っかんな。
…だけどな。

「ヴィータ」
「覚…」
サイテーのタイミングを零式以上にきわめてるよな、てめぇ。
そりゃあよ、三年ぶりだし、ちったぁ再会も楽しみにしてたよ。
おめーに貸したそれ、返してほしかったよ。
だけどよ、おめー、その…

「きみからの借り物を、今返そう」
空気読めよドチキショオぉぉ!
両手使って大事そうに差し出すんじゃねぇ!

「な、なに言ってんだか、全然わかんねーよ」
あたしはすばやくしらばっくれた。
我ながら上出来だったと思ったんだけどな。
うしろで誰か、肩をふるわせてる気配を感じる。
…笑うな、笑うなよぉ、はやて。

「返すやつ、間違ってねーか?」
「間違うものか。
 きみが貸してくれたこれに、何度力をもらったかわからぬ!」
ぐあああああああああ!
やっぱこいつわかってねぇぇぇぇ!
三年間なにやってたんだよ、てめっ。
脳ミソに筋肉詰めこんで、頭の中身は空ッポかよ。

「はやてにも聞いたのだ。きみがこれを、どれほど大切にしていたか…
 それほどのものを借りて、今おれがここに帰ってこられたこと、感謝は言葉に尽くせぬ」
ああああてめえ。
アツいセリフが途方もなくサムいんだよ。
あたしを凍え死にさせる気かよ。
見てんじゃねえよ新人ども。殺されてーのか。
ぽかんとした目であたしを見るな。

「ぷぷっ」
はやてが吹いた。
それから、盛大にむせて咳をしまくった。
…こらえきれねーほど、笑いこらえてたのかよぉ。
で、隊長が吹いたってのはな…隊長じゃなくても関係ねーかもしんねーけどよ。
ああ、そうだよ。伝染だよ。連鎖ゲロだよクソヤロー。

「ぷ」
「くくっ」
「ぐっ、ゲホッゲホッ」
「クス」
一斉に吹きやがったな、てめえら。
それでこらえたつもりかよ、おい。
いや、むしろ、ガマンしねーで笑ってくれよ。
なんだよこの微妙でいたたまれねーって空気は。
あたしが何したってんだよ。
ぬいぐるみが好きで何が悪いんだよ。
そんな困ったよーな目で見るんじゃねーよぉ。
…頼む、誰かあたしを殺してくれ。
いっそのことひと思いにやってくれぇ~。

「どうした、ヴィータ?」
「……」
あー、当然のようにフシギな顔して聞くよな、てめえ。
自分が何したか、わかってんのかな。
わかってねーよなぁ、絶対。
あたしがこんなに死にてぇのは誰のせいなんだろーなー。
なーなー、教えてくれよ…

「…つーか、殺す!」
「!?」
どうもあたしは、とびかかったらしい。
前後数秒の記憶が飛んだ後、あたしは全員がかりで取り押さえられていた。
あたしの、のろいウサギも…気づいてみれば、手の中にあった。









流れがよくわからなかったけど、モニター室に連れてこられて、
あたし達は覚悟さん…葉隠陸曹とヴィータ副隊長の実戦訓練を見学することになった。
部隊長が言うには、この際いい機会だから…だそうだけど。

「叩きのめしてやっかんな」
「機嫌を損ねたならば謝罪するが、訓練上で黙って屈する気などなし」
「それでいいんだよ、手加減できるとでも思ってたのか」
「思わぬ!」
訓練場では、二人とももう準備完了してた。
シチュエーションは市街戦。
ヴィータ副隊長は鎚型のデバイスをふりかざして、空から葉隠陸曹をにらんでる。
だからといって、素手の陸曹が負けるとは思わない。
あの人の強さは、あたしが一番知ってるんだからっ…

「思わぬゆえに、爆芯着装にてつかまつる」
「爆芯? 零(ぜろ)はいねぇのに?」
「カリム、ヴェロッサ姉弟より賜りしカスタム・デバイスなり」
「へぇ…おめーともあろー奴が、武器に頼ってなまってなきゃいいけどな」
「それは拳に聞いてみよ。 …征くぞ富嶽(ふがく)!」
陸曹が、制服の胸に留めてあったボタンを空にかざす。
一瞬、光ってから現れたのは、あたしと同じ、シューティングアーツのブーツ。
だけど、ちょっと見ればわかってくる。
異様に武骨にできたあれは、他に何か、別の仕組みを内臓していることを。

「デバイス? あの人、使えるの?」
横ですっとんきょうな声を上げたのはエリオ君。
キャロちゃんと一緒に陸曹と戦い試されたって聞いてはいた。

「使えると、おかしいの?」
すぐ、聞いてみる。
あたしもあの人のこと、あんまりくわしく知ってるわけじゃないから。
だけど、エリオ君の教えてくれた事実は、おどろくには充分すぎて。

「魔法の資質はゼロだって、フェイトさんが言ってたし…
 ぼくらと戦ったときも、魔法らしい攻撃はひとつも」
「資質ゼロ? そんなはず…」
あたしよりもティアが驚いてた。
驚くこと自体は当然だと思う。
だって。

「あの人、現に私達の前で、ブーツを使った加速を…」
「おしゃべりはそこまでや、始まるで」
そこで、部隊長の制止がかかった。
戦闘開始のシグナルが点灯する。
そっちを向いたときにはもう、戦いは始まってた。
正確に言うと、二人の姿が消えていた。
もっと正確に言うと…目で追えなかった。
鉄扉(てっぴ)を叩くみたいな音がちょっと聞こえたと思ったら、
気がつけばヴィータ副隊長が空から鉄球みたいなものを地面に撃ち込んで、
その先にいた覚悟さんが爆発の中から飛び出してきてローラーブーツで壁走り、
三角跳びから三角跳びでビルの間を飛び回ってヴィータ副隊長の頭上をとって、
で、それをヴィータ副隊長もだまって見てなくて、なんかグルグル回り始めて…
もう、なにが起こってるんだか全然わかんないよぉ!






開幕直後より真っ向勝負をいどみ来たヴィータは、
おれの拳を柄にていなし、遠心力のままに脇腹へ打ち込んできた。
身軽ながらも一撃必殺、まともに受けるわけにはいかぬ。
左膝にて柄を蹴り上げ防げば、その威力をそのまま利用しヴィータは飛翔。
身体の軽さと得物の重さ、双方を活かしきった挙動は
おれに三年間という時の流れを改めて教えるものであった。
当然なり、心技体練り上げたる戦士ならば!
富嶽(ふがく)を発動、ふりそそぐ飛燕(シュワルベ・フリーゲン)かいくぐりて壁を走る…
カートリッジ一発消費。あと四発だが不自由なし。
壁から壁へと飛び…とったぞ、頭上。

「来るかぁぁ――ッ 覚悟ぉー」
「受けるかぁぁ――ッ ヴィータ!」
「てめーに背中を見せるかよッ」
「なれば勝負はこの一閃」
「あとで吠えヅラかくんじゃねぇぞ」
「零(ぜろ)の拳に二言無し!」
わが積極を迎えて撃つは、グラーフアイゼンが回転奥義。
かつて因果極めたりといえども、戦士三日見ざれば刮目して見よ。
おれが繰り出すと同時に放たれた一打はひとまわり遠く、だが先におれの下腹に到達せんと唸りを上げていた。
だが恐れぬ! ヴィータはおれに背を向けぬと言った!
これに全力全開にて当たらぬほどの無礼無粋があろうものか。


零式積極正拳突 (ぜろしき せっきょく せいけんづき)

           対

  噴 推 打 法  ラケーテン・ハンマー


一打と一打、ここに激突。

「…ぐふっ」
「がはぁ、っ…」
おれとヴィータ、地に伏したるは共になり。
双方の一撃到達せしはまったくの同時、寸分の狂いなし。
水月と水月にめり込んだ拳と槌は、互いの威力の半ばを相殺。
残りの半ばで反吐を吐かせ、空中よりもつれ合うように落下。
勝負はすでについている。
仰向けにて見上げる蒼天が美しい。

「げふっ…あ、相打ちかよ」
「腹、突き破りて共に死したか」
「訓練で死ぬトコだったな」
「きみの強さが予想を超えた…」
「ンなこと聞いてもウレシくねぇーよ、勝たなきゃよ」
足を振りて勢いよく立ち上がるヴィータ。
おれも立つ。訓練場は寝転がる場所ではない…
おもむろに話し始めるヴィータは、しかし空を見上げたまま。

「話聞いたか、新型ガジェットのこと」
「展性チタン精製技術の流出か」
「これから、あーゆーのばっかりになると思う。
 新人どももそうだけど、あたしたちも強くならなきゃ死んじまう。
 場合によっちゃ、『後ろから狙われる』覚悟だってなきゃいけねーかもしれねーんだ」
「うむ…」
「だからよ」
グラーフアイゼンを肩に担ぎ、場外に歩き出しながら、ヴィータは言った。

「おかえり」
「…ん?」
「味方は何人いても足りねぇって言ってんだよ。
 だから、おかえり」
いつわることなく言うならば、その言葉は嬉しいものだった。
だが、おれは葉隠なり。
牙なき人の明日のためにあるこの身は、誰かのための戦士であってはならぬ。
平常の安息に居座ってはならぬ。非常心にて非情に立ち向かうのが、このおれの天命なれば。
なればこそ、言わねばならぬ。

「おれは、ここに…戦士として戻ってきたのだ、ヴィータ。
 それ以上でも、それ以下でも…あってはならぬ」
好意をふみにじる発言である。
どのような蔑みも受け入れねばならぬが…
ヴィータは、その場に立ち止まり。

「忘れたのかよ、おめー、シグナムになんて言われたのか」
そして、振り向くこともなく。

「どう思おうが、あたしたちの勝手だろ…」
また、何ごともなかったように歩き始めた。






決着がつくまで、時間にして三十秒くらいだった。
ほとんどあっという間に決着がついたのは確かだけれど、
それは瞬殺だったとか、そういう意味じゃ全然なくて…

「……」
みんな、黙ってた。
何も言えなかった。
だって、どっちが有利で、どっちが不利とか、
戦闘の経緯を把握できたのは、あたし達四人の中には誰もいなかったんだから。
レベルが、違いすぎる。
覚悟はしてたけど、実感する差が重すぎた。
これからあたし達は、あの人達と同じところで戦うんだ…

「あれが、みんなのいつかたどりつく場所や」
後ろから八神部隊長が、あたしとティアの肩を叩いた。
それから、エリオ君とキャロちゃんの肩も、同じように叩く。

「無理や、勝てっこない思うかも知れへん。
 わたしかて、十年前なら同じこと言うたやろな」
正面にまわり込んで、あたし達ひとりひとりの目をのぞき込んでいく。
今、思っていることを包み隠さず言い当てながら。

「でもな、それは違うんよ。
 みんな、ちょっと先を歩いているだけなんや」
語気を強める。
自信たっぷりに。

「立ち止まらなければ、いつか追いつく背中や」
そんな、簡単に言うけど…
そんな風に思ったけど、そんな思いも見透かしたみたいに。

「わたしの目は確かやで? 高町一尉の目も、テスタロッサ一尉の目も。
 もちろん、葉隠陸曹の目も、や…わかってるんやろ? スバルちゃん」
「…え、あ、あたし、ですかぁ?」
「覚悟しとくんやな、覚悟くんの意気込み、すごいで」
八神部隊長は面白そうに、にぃっと笑って。
あたし達に背を向けて、部屋を出ていこうとする。
すこし、ぽかんとしてから、あわてて続くあたし達。
その勢いというわけじゃないけれど、あたしは聞いた。

「ま、待ってください」
「んー、なんや」
「あの…八神部隊長と葉隠陸曹って、どういう関係なんです…?」
こんな立ち入ったことを聞いてどうするんだろう。
そう自分で思いながらした、ためらいがちな質問に、
部隊長は、ほとんど即答で答えてくれた。

「機動六課では上司と部下。
 せやけど、個人としては…家族のつもりや」

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最終更新:2007年11月05日 19:32