リリカル遊戯王GX 第二話 魔法とデュエルと謎の敵なの!

「保健室が無事なのは不幸中の幸いだったわね」

保険医である鮎川は十代の体に聴診器を当てながら呟いた。
十代とオブライエン以外のメンバーは生徒たちを体育館へ集めている、
二人はこの異世界に飛ばされる前に酷く消耗していた。
デス・デュエル――デュエルをするたびに、身に付けさせられたデスリングにその闘気を吸い取られてしまう恐ろしいデュエル、
十代はそんなデュエルを何度も繰り返すはめになっていたのだ。
最後にデュエルをした時、この世界に飛ばされる直前の事を十代は思い出す。

「あのオレンジの人影……あいつが何かをしたんだとは思うけど……」
「考えるのは後よ。それにしても、困ったわね」
「鮎川先生?」
「保健室のベッド、2つしかないのよ」

すでにここのベッドには先客がいた。
一人はオブライエン、崩落する瓦礫から身を呈して十代を助けた時の怪我で今は寝込んでいる、
そしてもう一人は万丈目 準、黒いコートを着た彼もまた、デス・デュエルの犠牲者の一人だ。
鮎川が悩んでいると、万丈目は突然目覚めてベッドから降りる。

「俺はもういい、貴様が眠れ」
「万丈目、大丈夫なのか?」
「サンダー、貴様のような腑抜けと一緒にするな。……ん!?」

万丈目は自分が寝ていたベッドに目を向け声を上げる。
そこにはどうにも気持ち悪い小さなモンスターが三匹存在していた。

「あら、兄貴お目覚めぇ?」
―おじゃまイエロー― 攻撃力0 防御力1000 通常モンスター
「なんだ貴様ら! 何故実体化している!?」
「俺達に聞かれてもなぁ」
―おじゃまグリーン― 攻撃力0 防御力1000 通常モンスター
「どう? 実体化したら俺達も結構イケてない?」
―おじゃまブラック― 攻撃力0 防御力1000 通常モンスター

心の底から嫌そうな顔をする万丈目だったが、三匹のおじゃま達は楽しそうにその周囲を飛び回る。
はねクリボーまでそれに交ざり、万丈目はさらに驚きを深くする。

「お前の精霊まで!? いったいどういうことだ!」
「外はもっと大変な事になってるドン」
「剣山、みんなは大丈夫だったか?」
「デス・デュエルで倒れていた人も含めて、百人以上の生徒がここに飛ばされてるみたいザウルス。今頃丸藤先輩たちがみんなと話してる頃だドン」


その頃体育館ではちょっとした騒ぎになっていた。
無理もない、ここに来るまでの間に砂漠と化した外の世界を見てしまったのだ、恐怖と不安でいっぱいだろう。

「みんな、落ちついてくれ!」
「落ちつけるわけないだろ! いったい何が起こったんだよ!」
「小惑星が落ちて海が全部蒸発したとか……」
「俺はモンスターを見たぞ! 冗談じゃない、こんなとこいられるかよ!」

ヨハン達の声を聞かず、パニックになった何人かの生徒が外に向かって走り出すが、
いつの間にか出入り口にいたワニ(ジムが背負っていた奴である)によって阻まれる。

「Stop! こういう時は冷静さを欠いた者から倒れていくぞ!」
「でも、これからどうするの? 食糧とか、寝るとことか……」

小柄な少女、早乙女 レイが不安そうにヨハン達へ訪ねる。
彼女は中学一年になったばかりなのだ、デュエルでかなりの腕を持つことから高等部であるアカデミアに特別に編入されたが、
まだ13歳の少女にこの状況はかなり厳しいだろう。
ヨハン達もこの問いにはすぐに答えられなかったが、助け舟が出される。

「食糧に関しては大丈夫だよ、食糧保管庫とかは無事だったからね」
「トメさん!」
「寝床は毛布とかが用意されてるノーネ、人数分以上あるから平気なノーネ」

食堂のおばちゃんとして親しまれているトメさんと、
どこからか大量の毛布を持ってきていたクロノスの言葉に生徒たちは僅かに希望を見出す。
だが、続く会話にまたも落胆してしまった。

「トメさん、食糧はどれぐらいもちそうなんですか?」
「そうだねぇ……節約すれば、一週間はもつかね」
「一週間か……」

ヨハン達は「一週間猶予ができた」と考えるが、
他の生徒たちは「一週間しか時間がない」と考えてしまい、また騒ぎが大きくなっていく。
ヨハン達は再びこの騒ぎを止めるため動くこととなるのだった。

「……あら?」
「明日香さん? どうしたの?」
「そういえば、アモンがいないわ・・・…」

普段からほとんど使われず、こんな状況では誰一人として見向きもしない図書室に一人、アモンはいた。
明らかに人間の物ではない腕が入ったカプセルを目立たない場所に置いて、一人笑みを浮かべる。

「……ん?」

ふと外の様子を見ると、見覚えのない複数の人間がアカデミアに向かって歩いてくるのが見えた。
アモンはしばらく様子を窺い、モンスターの類ではない事を確かめると体育館へと向かう。



アモンに教えられてヨハン達はアカデミアに近づいているという者達を見に外へ出る。
大半が見慣れぬ格好をした女性だったが、意の一番にボロボロの格好の男が大きく手を振りながらこちらへ駈け出した。

「おーい! みんな、俺だー!」
「あれ、この声どこかで聞いた覚えが……」
「確か……誰だっけドン?」
「二人とも、同じ寮の人なんだから思い出してあげて……み、えっと、あれ?」

翔に剣山に明日香まで、誰も男の名前を思いだせないのを見てその男はその場に座り込んでいじけ始める。

「ふっ、いいんだ、わかってさ……どうせ半年以上いなくても誰も気にせずにいたんだ……」
「み、三沢さんしっかり!」
「きっと度忘れしちゃってるだけですって、た、多分……」

慌てて回りの女性――なのは達が男、三沢を励ます。
翔達も名前を聞いてようやく思い出したようで、「ああ、そういえば最近見なかったような……」と頷いて納得する。

「ヘイ、スモールガール、あの三沢って奴はいじめにでもあってるのか?」
「私も会ったことないから……って、その呼び方何だか嫌なんだけど」

ジムとレイが話してるのを横目に、ヨハンは三沢やなのは達に歩み寄る。
……誤解の無いように言っておくが、遊戯王GXの主人公はヨハンではなく今保健室で寝ている十代なのであしからず。

「俺はヨハン、このデュエルアカデミアの留学生だ。あなたたちは?」
「私たちは時空管理局の魔道士です、えと、自己紹介は後々ということで、とりあえず中に入れてもらって構いませんか?」


十代やオブライエンも話を聞きたい、ということだったのと、
体育館に行ってまた無用な混乱を起こすのを避けるために、ヨハン達は保健室へと集まっていた。
さすがに全員は入れないので、剣山やジム、フリードなどのスペースを取る者は外にいる。

「えっと、その時空管理局っていうのが何なのかはわかったけど……」

なのは達から説明を受け、明日香は困ったように呟く。
確かに今までも異世界だったり、カードゲームをするだけで命を奪われかけたりと非常識な生活だったが、
真正面から堂々よ「魔法使いです」などと言われても信じにくい。
モンスターは信じたじゃないか、という声が上がりそうだが、やはり自分たちと同じ姿かどうか、というのは偏見ではあるが大きいのだ。

「皆さんは三沢さんがこの世界に飛ばされた事故とは違う理由でこの世界に飛ばされたんですよね?」
「はい、あくまで予測でしかないですが」
「そうか……帰る手段は無いんだな」

ヨハンとのやり取りを聞いていた三沢が項垂れる。
彼はシュタイン博士という量子力学の研究をしている人に憧れ、
半年以上前からずっとその研究をしていたらしい(その間誰一人としていないことに気づかなかったのは伏せてある)
ある日、実験中の事故によってこの世界に飛ばされてしまいモンスター達から逃げ回っていたそうだ。

「シュタイン博士は、この世には12の次元世界があるとおっしゃっていたが……実際にはもっと無数にあるんだな」
「でも、個人レベルでそこまで見つけるなんて並大抵のレベルじゃないわ、天才なんて言葉じゃ足りないかも」

ティアナの言葉に三沢はどこか嬉しそうな表情になる、自分の憧れの人間が褒められるのはやはり嬉しいのだろう。
それまで黙っていた翔が、恐る恐るなのはへと尋ねる。

「あの……もしかして僕ら、無断で別の世界へ飛んじゃった、ってことで何か罪になったりするんですか?」
「ああ、そんなことは無いですよ、悪意があったというならともかく、皆さんは被害者ですし」
「それにこの世界はまだ管理局の管理下にありません。私たちに強制力はないですよ」

なのはとフェイトの言葉に一同胸を撫で下ろす、
やはりどこか不安だったのだろう、こんな見知らぬ世界で犯罪者扱いはごめんである。

「本局に連絡して皆さんの元の世界を探してもらいますね」
「元の世界が見つかったら、俺たち帰れるのか!?」
「よ、よかったぁ、一時はどうなる事かと……」

十代達は安堵感から一気に緊張が解けるが、
なのは達は逆に表情を強張らせる。
万丈目がそれに気づき、聞きたくないと思いつつも問いかける。

「お、おい……どうした?」
「……フェイトちゃん」
「ううん、私もダメ、エリオ達は?」
「僕たちもダメです……」
「私もです」
「本局との通信が、通じない……」

呆然と呟いたスバルに、十代たちに再び絶望感が蘇ってしまう。

「ど、どういう事だ!?」
「わ、わからない、念話をしようとするとノイズが……ジャミング?」
「みんな、少し離れて」

なのはの言葉に従い、全員が保健室から出る、
十代とオブライエンも大分回復してきたようだ。
なのはの足元に魔方陣が現れ、十代達は「おお!」と驚き――乾いた音を立てて魔方陣が砕け散る。

「な、何が起こったザウルス?」
「ダメ……転移魔法もキャンセルされる」
「そ、それじゃもしかして、私たちも帰れない……?」
「そうなる、ね……」
『んなっ……!』

なのは達の会話から、十代達は希望が断たれた事を知る。
一度期待を持たされてから叩き落とされる方が答えるものだ、翔は沈み込んでしまっているし、レイに至っては不安で顔が青くなってしまっている。
だがヨハンやアモン、オブライエンに明日香といった冷静なメンバーもショックは受けていたもののまだ思考を巡らせる余裕は残っていた。

「と、とにかく、そういうことなら俺達は同じ立場ってことだな」
「そうなるとまずいな、食糧の配分等を考えるとまた騒ぎになるかも……」
「あ、食糧なら大丈夫です」
「数日分なら持ってきていますし、その気になれば一週間ぐらいは水だけでも」
「なるほど、未知の場所へ向かうなら必須のスキルだな」
「そ、そういうものなの?」

食事の心配はしなくていい、というのは助かるが、だからといって状況が変わった訳ではない。
ゴール直前で振り出しに戻ってしまったようなものだ。

「体育館のメンバーにも人数が増えたことを伝えないとな……」
「いつモンスターが来るかわからん、単独行動は控えさせるべきだ」
「俺は全員でいるなど御免だぞ! 窮屈でかなわん!」

全員で話し合い、数人のグループ毎に行動することを決定する。
なのは達は色々試し、念話を始めとした通信手段と転移魔法のみが使えなくなっていて、他の攻撃・防御呪文などは使える事が判明した。
十代達は自力で自分の世界へ帰る方法を、なのは達は魔法を封じている存在を探すことをそれぞれの方針とする。

――時は過ぎ、夜

「……?」
「えっと、ごめんマルタン君、ちょっと着いて来て欲しいんだけど……」

毛布に包まり寝ていた男子生徒、加納 マルタンは突然レイに起こされゆっくりと立ち上がる。

「どうしたの……?」
「や、えっとそのー……とにかく一緒に来て!」

レイは何故か頬を染めながら無理矢理どこかへ連れて行こうとする。
マルタンは首を捻りながらついて行くのだった。


「馬鹿な!?」

自らの組んだグループから密かに離れ、アモンは図書室へ来て驚愕の声を上げた。
カプセルに入っていたはずの腕がなくなっていたのだ、無論一人でに出ていくわけがない――とは言いきれなかった。

「馬鹿な、俺以外を選んだというのか……!?」

アモンは歯を食いしばり、とても十代達の前にいた時からは想像できない怒りの表情に変わっていた。


オレンジ色の人影、そうとしか形容できない「それ」は跳ぶようにアカデミアの廊下を進んでいた。

『闇……心に大きな闇を持つ者……』

突然現れた魔法使い達にもそれぞれ闇はあったが、どれも光に抑え込まれてとても憑けそうにない。
とりあえず外部との連絡手段は断ってやった、あいつらがいるだけなら構わないが「彼」まで連れていかれては困るのだ。
その影は更に進んでいき、二つの人影を発見する。

『見つけた……』

影はスピードをあげ、人影――レイとマルタンへと近づく、そして……

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

レイの悲鳴が夜のアカデミアに響き渡った。

続く

なのは「本局との連絡は途絶え、十代君達の元の世界の人達も手だしができない……」
十代「それでも諦めないぜ! デュエルも人生も、最後の1ターンまで分からないんだ!」

次回 リリカル遊戯王GX
 第三話 飛べスバル! ペガサスに乗る魔法拳士!

十代「こ、こんなデュエルもありなのかぁ!?」


十代「今回の最強カードは、って今回はデュエルしてないんだったか」
なのは「なら、今回はこれで!」

機動六課 フィールドカード
「スターズ」「ライトニング」「ロングアーチ」の名前がつくカードの攻撃力と防御力が300ポイントアップ
そのカードが破壊された場合、デッキからカードを一枚除外することで破壊を無効にする

十代「次回もよろしくな!」
なのは「ガッチャ! なんちゃって♪」

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最終更新:2007年11月17日 16:43