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第四十一話『或いは凍てつく稲妻』


 リリーナの目に映っていたのは、リリーナを襲い、病院を破壊し尽くした白い、フワフワ。
 頭では分かっている。
 第六感も警報を鳴らしていたにも関わらず、リリーナの身体の神経には命令が届かなかった。
 間違いなく恐怖――と言うか衝撃――が遮っていたのだろうが、リリーナ自身は全く意識していなかったに違いない。
 全く予測していなかった、そんな訳ではなかった。が、今武器(デイパックに入っている物も別として、だ)も持っていないリリーナにとっては別種の衝撃が走っていただろう。
「あ……あ」
 そうでなくても、スピンが、側には居ない事――これまた、リリーナには別種の焦りを感じさせた。
 スピンは、まだ気付いてないのだろうか?
 リリーナは顔をフワフワの方向に向けたまま部屋に入ろうと、足を動かした。

 次の瞬間には、リリーナが背を預けていた壁に亀裂が走った。
 ――手が、拳が、伸びている!
 完全にリリーナ達を敵だと認識しているであろう白いフワフワは、距離があるにも関わらず、リリーナを的に右ストレートを繰り出してきた。
 このままではリリーナもボロ雑巾の如く片付けられてしまうだろう。

 構わず、リリーナは部屋に飛び込んだ。
 スピンも先程の轟音により、フワフワの存在を認めていた。
 スピンは近づいてくる白いフワフワを前に――
「窓から出るよ!」こう叫んだ。

 窓。
 リリーナ達からは10m程の距離はあっただろうが(当然だ。部屋自体廊下があって窓はその袋小路にあったし、スピンが調べていた棚と窓は対極になっていた)、
 白いフワフワから今、逃げ出す方法はそれしかなかったのだ。

「じゃあ早く……」
 リリーナが、「早く逃げましょう」と言いかけた途端、白いフワフワはリリーナ達にとって予想外の行動をとった。
「でんげきビリリ!」

 その直後、リリーナ達の視線に稲妻のようなものが走った。

「うわあッ!」
「スピン!?」
 完全に電撃を受けたスピンは仰向けに倒れる。
 リリーナも電撃を受けていたが、もはや雷の直撃(特に魔法関係の)を何度も受けても無傷だった彼女には何の関係も無かった。
 リリーナはまだ意識が朦朧としているスピンを抱えると窓へ走り――
「かみなりドッカン!」
 ――やめた。
 歩みを止めざるを得ない状況となってしまった。
 先程と違い一点に集中したであろう、雷は廊下の床にほとばしり、完全に吹き飛ばしたのだ。
 更に、跳ねた床の破片はリリーナが身につけていた腕輪を勢いよく飛ばした。
 どういうわけか、腕輪は不思議によく飛んだ。

 それがリリーナに更なる恐怖を植え付ける要因になったのかもしれない。
 リリーナは、立ち止まったまま動けなくなった。
 まだ視線が虚ろなスピンが掴んでいたデイパックは空いたままになっており、口からは救急パック(一応拝借したのだろう)、そしてフレイボムが覗けている。
 それを見て、リリーナは自分が背負っているデイパックの中を思い出した。
 リリーナは速やかに自分のデイパックの口を開け――

 ――ボクは、必死に戦っていた。
 すごく嫌な雰囲気の、冷たく真っ暗な瞳――
 ボクはさっきまで女の人に話し掛けられていた筈だ。
 なのに、この悪魔達は? 女の人は?
 疲れたような感覚が襲っていたが、ボクは休む訳にはいかなかった。
 そのまま、頭の中で冷たい何かはボクをまだまだ沈ませていく。
 ボクはいったいどうなっている?
 目の前の悪魔はまだじたばたと必死の抵抗を続けていた。

 ――リリーナは、革張りの表示の本――魔導書の存在をデイパックの中に見た。
 見た事の無い魔導書だったが、魔導書さえあればこっちのものだ。
 直ぐさま取り出し、魔導書の力を解放する。
 リリーナは手に取ると、迫りくるそれに――

「ブリザーッ!」
 ――魔力をぶつけた。
 空気中の水分が凝固し、それは直接フワフワの脚を凍り付かせる。
 完全に床に張り付いた氷は、フワフワの動きを封じた。
 リリーナ自身使った事が無い魔導書だったが、望んでいた結果が得られた。
 ――誰も、死なせたくはなかったのだ。
 後は一刻も早く窓から脱出しなければならない。
 焦りを直に感じながら、リリーナはスピンを抱え、窓へ飛び込む――

「でんげきビリリ!」
 フワフワは再び電撃を放った。
 リリーナはスピンを庇い、床が吹き飛び、露出した土を踏みながら、後僅かの距離を走り続けた。
 スピン自体はそんなに重くなかったし、スピンのデイパックを合わせてもまだリリーナには耐えられる重さだった。
 それでも、リリーナの腕と、腕から下には重力がそのままかかっていた為、当然だが普段より動きは鈍い。

 電流はリリーナを伝って少なからず、スピンにも襲い掛かった。
 それでも、スピンは妙に安心しきれていた。何故か――

 マロの動きを止めていた氷にも電流が当たり、溶けていく。
 発生した水に別々の性質を持った電撃が広がり、水はそのまま分子レベルに分解された。
 更に、衝撃で電球が割れ、火花が散った。
 ここまで、本当に一瞬の出来事だったのだが、分解された水、つまり大量に発生した酸素ともう一つの”それ”は火花に反応してしまったのだが、その事を三人は理解していた筈がなかったのかもしれない。

 もう一つの水の”原子”、水素は――そのまま火花に対し、ありのままの反応を示した。

 一瞬だけ、リリーナとマロの目に光が映った。
 スピンには恐らく見えなかっただろうが――
 まず、浮いた様な感覚がリリーナとマロを襲った。
 無論、理解していなかった全員(若干一名除く)は驚くだけだ。
 だが、すぐに身体で覚えた。

 病院と、その周辺には綺麗な爆発音が響いた。
 凄まじい音色、或いは反響として島全体にも響くだろうが、それが他の参加者に伝わるかどうかは全く怪しい物だった。
 病院は、無残な姿を太陽に照らされている。
 本当に、コンマ一秒以下の世界で偶然が重なった結果――


 マロもリリーナも体中が熱かった(そりゃほぼ全身がこんがりと焼かれているのだから当然だ)し、リリーナはほとんど投げ出されている状態になっている。
 だが、不思議とリリーナは胸の辺りに熱さは感じていなかった。
 実に妙な事だが、リリーナがスピンを抱えていた部分だけには爆風は届いていない。
 この後リリーナは背中に目を見開き、昏倒に近い程の痛みを打ち付けられるが、それまでは実に安堵していただろう。

 その背中に衝撃が走る瞬間には、リリーナの瞼の裏に幼馴染みの顔が、一瞬だけ浮かんだ。

 ――
「……リリーナ」
 漸くスピンが感覚を取り戻した時には、次のような光景がサングラス越しに映った。
 部屋の中を舞うホコリよろしく、ボロボロになったフワフワの着ていたパンツが空中を浮いていた。
 身体は四散したのか、蒸散したのか分からないが、消滅していたのだろう。
 姿は病院の一部だった瓦礫の中にも見出だす事は無かった。
 スピンからすればどうでもよかった事だが。
 そして、スピンの隣には、倒れているリリーナの姿が――

「リリーナ!?」
 ひどかった。
 体中――特に左脚が酷く焼け焦げ、背中には病院の一部だった破片が幾つも深々と刺さっていた。
 とにかく――もう致命傷を負っていたのはもうスピンでも分かる。
 何故? どうして?
 自分はリリーナを守れなかった。
 その事に、スピンは少なからず自責も感じていたのかもしれない。

 それでも、リリーナはまだ息があった。
「リリーナ、そんな……」
「……いいのよ」
 リリーナはスピンを見ると、にっこりと笑顔を見せた。
 それでも痛みに耐えていたのか、笑顔の後は少し顔を歪ませる。
 スピンは哀しい表情のまま、「でも」と言いかけた。
 それでも、リリーナはまだ笑みを作ったまま、「私は、誰だろうと誰かが傷つくのが嫌だったから」と答えた。
 それは酷くスピンの心に響いた。
「でも」
 スピンは続ける。
「ボクがリリーナを守るつもりだったのに……どうしてリリーナがボクを守るのさ?
 他人は良くても、自分はどうでもよかったの?」
 スピンのサングラスには僅かに涙が伝っていたが、リリーナは逆に、「ふふ」と、少し微笑んだ。
 後は、ただスピンを元からの優しい瞳で見つめているだけだった。
 リリーナ自体は、最後に幼馴染み――ロイに会えなかったのは辛かったが、それでも心は満足感で埋められていた。

 そのまま、リリーナは約一分後に死んだ。
 スピンは、リリーナの顔を自分のスカーフで拭った後、信頼する団長の事も忘れて、しばらく涙を流した。

【K-2…病院の近く 朝】
【名前:スピン(星のカービィ)
健康状態:悲しい
 武装:無し
所持品:支給品一式 フレイボム@FE烈火/残り3個 救急パック(箱。中身は未確認)
現在位置:K-2 病院の外
基本行動方針:ドロッチェと合流する
最終行動方針:ドロッチェとゲームから脱出する
備考:スカーフが少し汚れています】

【マロ@マリオRPG 
健康状態:死亡確認
現在位置:K-2 病院

【リリーナ@FE封印
健康状態:死亡確認
 所持品:支給品一式 ブリザーの書@FE紋章
現在位置:K-2 病院の外

※病院のほとんどが崩壊しました
※K-2の広範囲に爆発音が響きました。
※邪神のメダリオン、マロの死体は病院の瓦礫に埋まりました。
瓦礫を退かさない限り、回収は不可能です。@wikiへ

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最終更新:2007年12月09日 22:32