アットウィキロゴ

第四十六話『コンプレックス・ライジング』


クマトラは地図を片手に(少しパーカーの血が滲んでしまっていた)北に向かっていた。
 やはり人が集まるであろうエリア2。そう、もしかしたら、もしかしたら仲間と再会出来るかもしれない。
 それが僅かな希望でも。否、もはや、それに賭ける他なかった。
 第一、もうゲームに乗った参加者を認めた以上、そう安々と走るわけにもいかない。
 胸の傷はもう塞がったし(それでもまだ痛みが残っているしパーカーが血まみれになったけれど)、確かに普通に走る事も出来るだろう。
 だが、銃とシャトーロマーニがあるとは言え――不意をつかれたら終わりかもしれない。
 慎重にいかなければ、自分も死体の仲間入りを果たす可能性だってある。
 そう、あの鳥人間(あのクソ鳥)に撃たれたモナのように。あれはあまりにも呆気なさ過ぎた。
 ――自分だってそうなってしまわない、と言えるだろうか?
 今でも、その恐怖と緊張は襲い掛かる。いつまでもついてくる、死神が。
 だが――立ち止まっていたところで何になる? それこそ、そのマーダー達の格好のターゲットではないか。
 奴らはこのクソゲームの『優勝賞品』が目当てなのだから。
 奴らから見れば鳥人間、モナとそいつを除いたあと58人(信じたくないがこれからも減り続ける。絶対)を殺せば――優勝だ。
 恐らく、もうゲームに乗った奴はもう人を人として見ていないのだろう。
 何故なら、そいつ自身、もう人間じゃないんだから(いや、鳥人間はその通りなのだが)。

 やはり――進むべきだろう。それしかない。
 もう誰も犠牲者になんてさせたくないし、悲しませたくもなかったから。

 茂みをかわしながら進むと、学校が見えた。
 エリア7なのであろうそこは、太陽の光線を大量の窓ガラスが水の様に湛えていた。
 もしかしたら、もしかしたら。ここに仲間が居るのかもしれない。
 或いは、協力してくれる人が、隠れているかもしれない。胸がどきどきした。
 急いで走りだして、そっとドアを開けてから、入った。中は、しんと静まっていた。
 誰もいない――? いや、もしかしたら、隠れているだけなのかもしれない。
 クマトラが歩くたびにこつ、こつと廊下に足音が響いた。
 きっと、この教室に居るのだろうか? クマトラは出口から近い、右側の廊下の突き当たりから三番目のドアを開けた。
 この部屋には誰もいなかった。太陽あまり入ってこないのか、廊下に比べて薄暗かった。
 他の部屋は、どうなんだろうか?
 クマトラは右から二番目のドアを開けた。
 やはり、その教室にも誰も居なかった。
 ――机の向こう、何か二つ転がっている以外は。

 クマトラは目を見開いた。
 クマトラはここに生きている参加者が居ると思い込んでいたので、余計全身を打ち付けられるようなショックを襲った。
 机をだっと回り込んだ。
 そこだけ整然と並ばれていた机が崩れており、仰向けに少女が倒れていた。
 ピンクの防寒着を着ていて、身体はまともに見えるのだけれど、その顔は鬱血して腫れ上がり、もうぴくりとも動いていない。
 その目は、先程クマトラが見開いたより、極限まで飛び出していた。もちろん、もう虚ろに視線が一点に集中している。
 とにかく、死んでいるのは間違いなかった。問題は――
 もう一方の、赤と黄色のラインの服。崩れた机に隠れた上に薄暗く、よく見えなかったのだが――
 似ていたのだ。仲間のリュカの着ていた服に。

 身体全体は見えなかったが、まさか――?
 少女から離れ一瞬逡巡した後、ぐっと机から覗き込んだ。
 ――シャツだけだった。
 クマトラは一瞬、安堵はしたのだけれど、やはり疑問を感じずにはいられなかった。
 何故、ここにリュカのシャツが転がっている、しかも死体が置いてある部屋に?
 少なくともリュカはここには居た、と言うことになる。
 それなら――この少女の死体は?
 誰が殺したと言うのだ?
 まさか、リュカが?

 いや、誰かに襲撃されたのかもしれない。
 それで、リュカの代わりに少女が犠牲になった。
 だが、それではシャツが転がっていることを説明出来ない。
 リュカは――

 そこでクマトラはようやく気付いた。そう、リュカは少なからず心の闇を抱いている。
 いつも、我慢していたのだろうけど。
 それでも――失った”それ”を取り戻すためにゲームに?
 リュカの闇は、クマトラには計り知れないのだろう。
 多分、クマトラが知った自身の秘密以上に、リュカは”それ”により、大きく傷ついている(いや、傷ついているってレベルじゃないかもしれない)。
 だが――そう説明すれば死体とリュカの居た形跡は合うのだ。
 紛れも無く、リュカが少女を殺した。
 それに――シャツはシャツで、何か着るものを支給されて、リュカはそれを着たのだろう。
 いや、それならば第三者に襲撃された、と解釈しても――

 ――キリがなかった。
 とにかく、リュカが居た事は確かなのだ。
 ならば、リュカ本人に会って確かめればいいのだ。他にどう考えられる?

 クマトラはシャツをデイバッグに詰めた後、少女を抱き起こした。
 やはりまだ目玉はぎょろりと飛び出しており、口の中の舌も異様に膨れていた。
 それに――既に死後硬直が始まっていた為か、人形を扱っているような感覚に襲われた(人を人形だと? クソ)。
 少女を並べた机の上に乗せて、目を伏せさせた。それから、両手を胸の前に添えた。
 今はこれ位しか出来ないだろう。無駄にPKファイアーを使って火葬、も目立ちすぎて無理だった。
 立ち上がり、ほんのすこし、少女の死体を見下ろした後、踵を返して急いだ。

 ――早く、リュカ達を捜さなければ。

 午前十一時が近づいていた。

【一日目/昼】
【名前:クマトラ(MOTHER3)】
健康状態:左胸が少し痛い(戦闘には影響は無い)、PP消費-中
武装:コルト・ハイウェイパトローマン@実在兵器/残り6発(予備弾1発)
所有物:支給品一式×3、シャトー・ロマーニ@ゼルダの伝説ムジュラの仮面(残り250cc)、ナマクラヤイバー@マリオストーリー(装備していない)、リュカの服、武器0~4(本人確認済み)
現在位置:H-5
基本行動方針:リュカたちを探す
第一行動方針:誰も悲しませない
第二行動方針:リュカたちを探す
第三行動方針:リュカから学校の事を聞き出す
最終行動方針:ゲームを潰す】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年12月09日 22:34