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第五十二話 『Hallucination of a tragedy』


「あ、クリスタルさん、あれは……」
 息が切れてきたディクシーが言う。
 ”あれ”とは、学校(長く使われていない為か、壁がズタボロになっている。この場合、やはり廃校と言った方が正しいのかも知れない)の事だ。
 恐竜を見つけてから数時間、二人がかりで恐竜を運んでいた為移動に手間取っていたが、ようやくエリア7にたどり着いたのだ。

 その八分後、廃校の玄関でディクシーとクリスタルはまず恐竜を傍らにあったベンチに横たわらせると、ディクシーは壁に背を預けた。
「さすがにちょっと……無理しちゃったかな」
 疲労困憊したかのようにぐったりするディクシー。そりゃそうだろう。二人掛かりとは言え、重い恐竜を何時間も運んだんだから。
 もちろん、此処で休む訳にもいかなかった。
 下手に目立つ玄関で暢気に休んでいる場合ではない。
 頭を打ち付けて気絶した可能性のある恐竜は、本来なら早期に治療をしなければならないかもしれなかった。
「私は保健室が何処にあるか探すわ、ベンチじゃあまり具合も良くならないと思うし……」

 瞬間、警戒していたクリスタルの神経に何かが飛び込んだ。視界をディクシーからあらぬ方向に回して。
 突然呼びかけられる、それと似た感覚(いや、その呼びかけを探しているのであり、本来は神経を反射する必要など無いかも知れない)が数時間前の様にまたクリスタルを襲った。
「――クリスタルさん?」
 不思議そうにクリスタルを見つめるディクシー。
「……この学校に誰か居るわ」
「え!?」
 もちろん予測などしていなかった訳では無いが、誰かが居る、と言うのは少なからず期待と不安がついてくるものだ。
 そう――特にこのゲームでは。
「少し闘志が感じられるわ、怯えているか警戒しているみたいね……」
「それってちょっと危ないんじゃないんですか?」
 だからと言って見過ごす訳にもいかないだろう。
 自分達が見捨てれば絶対に助からないのかも知れない。いや、彼女達からの論理からすれば、の話だが。
 それに恐竜が居る分、あまり二人で確認するのも恐竜にとって危険だった。
「私が見に行くから、ディクシーちゃんはここで待ってて。危ないって分かったらすぐに戻るから」

 はっきりと、しかしかなり慌てた様に身体を振り返りながらクリスタルは言った。
 その勢いを失わずに、クリスタルは走り出していた。
「クリスタルさん!?」
 制止など聞いていない。
 もしこの意志の主が重傷を負っていたら?
 もしこの意志の主が錯乱寸前になっていたら?
 もしこの意志の主が――

 ぞっとした。考えたくもない。そういう場合も考え、死なせる訳にはいかなかった。
 送信元は廊下の右側の突き当たりから二番目、日の入り具合が変わり、僅かな赤い足跡に気付いた。
 そう、出血しているのだ。クリスタルの焦躁に拍車が掛かり、更に移動速度を上げた。やはり廊下には激しく足音が響いた。
 この足跡には早めに気付けば良かった。これでは手遅れになってしまっているのかも知れない。
 クリスタルは速やかに扉を引き――


 クマトラはドアに手をかける寸前で気が付いた。
 両方の脚がふとももから靴にかけてぐしょぐしょに赤いペンキの様なもので濡れていたのだ。
 ファルコと戦っている時に出血中にも関わらず立ち上がった弊害かも知れない。
 これでは内側はもっと酷い事になっているだろう。今更考える事でも無いが。
 それからクマトラがドアを引こうとした時、

 勝手にドアが開いた。
 その先の空間には狐らしい頭の人間。
 また獣頭人間。瞬間、クマトラの頭にまたファルコの忌ま忌ましい表情が蘇る。

 思わずクマトラはリボルバーを持ち上げようとしたが、そっとその力の入ったクマトラの手に手を乗せられ、動きを止めてしまった。
「待って、私はゲームには乗っていないわ。それにあなた酷い怪我をしているじゃない」
 確かにクマトラのパーカーは血が完全に染み付いていた為、そう思われても仕方ないかも知れない。
 取り敢えず敵ではなさそうだったので、クマトラはリボルバーを下ろし、それから言った。
「悪い。傷はもう治っているから大丈夫だ」
「そうなの? ああ、確かにもう血が出ていないわね。よかった。私はクリスタルって言うの」
「ああ。オレはクマトラ。――それより」
 聞かなければならない。知っているなら。
「此処で誰かが殺されていたんだ。お前が来る前に、学校の中で誰かに会わなかったか?」
 その言葉を聞いてクリスタルと名乗った狐は顔をしかめた様だった。それ以前に視線はあの絞殺体に向いていた気もする。

 にも関わらず、クリスタルはその答えに返答する事は出来なかった。
 ――絶叫。
 甲高い、悲鳴が聞こえたのだ。
 クリスタルがはっと、あの廃校の入口に顔を向ける。
「ディクシーちゃん!?」
 とにかく、誰かが何かに襲われているのは分かった。
 緊急事態。止まる悲鳴。もう次の瞬間にはクリスタルよりもクマトラが走り出していた。
 クマトラはリボルバーを腰に差し込むと、デイパックにほぼ強引に手を突っ込む。
 そこから何か太く、長い棒状の、しかし途中で曲がったような鉄の塊を取り出した。
 もちろんクマトラはこれが何なのか確認済みだ。
 ルイージ、ファルコと連戦してきて戦闘中ほとんどデイパックに触れる機会が無かったが、今なら僅かながらインターバルが残されている。
 説明書を流し読みして覚えた知識をフル活用して役に立てるチャンスがやっと来た(出来るなら来ないで欲しかった)訳だ。
 クマトラはすぐに両手で”それ”を構えた――


 もはやディクシーの両手は機能しない、と言っても良かった。
 何故なら殆ど両手の手の平や甲が焼け爛れ、特に右手の指は全て吹っ飛んでいた。
 それより数十秒前、急に恐竜が起き出してこちらを見たのだ。それは良かったとしよう。
 だが突然ディクシーの身体をポニーテールごと、舌を巻き付けたかと思うと引っ張り始めたのだ。木づちまで床に落ちてしまった。
 まるきりカメレオンが虫を舌を伸ばして食べる、それの様に、ディクシーを胃に導くかの様な行動。
 それで危険を感じない筈があるだろうか?
 ポニーテールはもう動かなかったが、まだ手は動かせた。一本のペンシルロケットを手元にたぐり寄せ、発射しようとした。
 そうした所、ペンシルロケットが暴発したのだ。さもそれが正常な機能であるかの様に問題無くディクシーの手の中で爆発した。
 瞬間、ディクシーは見て、キョトンとした。
 先程まで動かしていた自分の指先(多分親指)が天井に向かってタル大砲で打ち出されたか如く、勢いよく飛んで行ったので。
 やはり痛みが爆発し、ディクシーは絶叫を上げたが、それも長くは続かず、込み上げる痛みでそのまま気絶してしまった。
 その瞬間、一瞬だけ赤い帽子が瞼の裏に写った筈なのだが、ディクシー自身それを確認出来たのか分からなかった。

 ヨッシーが気が付いた時には目の前には何故かベビークッパ(ああ、本気で何も知らない無垢な瞳だ。それ故に恐ろしい)。
 そう、あうやく命を落としかけた、今は昔のクッパ城の決戦、巨大なベビークッパがまだ幼いマリオを背負ったヨッシーを圧死させようとしたのだ。
 完全にそれは恐怖として刻まれてきた。あの時、その残滓を『もう起こらない事』と否定してきた。
 何故それが目の前にまた存在しているのだとか、何故自分がそんなものの近くに居るのだとかはどうでもよかった。
 もはや正常な思考が働かなくなったヨッシーに出来る事は、『食べる事で存在を否定する事』のみ。
 そう、また現れたならまた否定してしまえばいいのだ。
 自己擁護の為の本能は確実にヨッシーの精神を侵食していく――


 クマトラはイサカ M37――散弾銃にしては軽い部類に入るショットガンを構えながら玄関に滑り込んだ。
 目の前には手が焼けたサルを舌を伸ばして食べようとする恐竜。
 どう見たって、加害者は恐竜だ。
 ゲームに乗っているんだか錯乱しているんだか分からなかったが、このままでは明らかに危険だった。
「やめろ!」
 降伏勧告。相手は行動を止めない。――クソ!
「やめろと言っているんだ!」
 クマトラは速やかにショットガンの引き金を絞った。
 切り詰められた銃口から火炎が飛び、見事に捕らえられた口元が舌ごと吹き飛んだ。
 支えを失った舌がボトリと落ち、サルも同時に落ちる。
「でっていうッ」
 訳の分からない叫び声を上げそれでも狂気に満ちた目は変わらない。
 恐竜特有の鱗があるのか、それで散弾が防がれるのか、そんな事はどうでもよかった。
 とにかくクマトラが考えるのは出来るだけダメージを与える事だった。

 連射だ! 一気にダウンまで追い込んでやる!
 クマトラはトリガーを引いたまま、銃の前床――フォアエンドをスライドさせ始めた。
 説明書に書いてある通りならトリガーを引いたままポンプアクションを行うだけで、ほぼセミオート同然で散弾を放つ事が出来る。
 そう言う訳だ、クソ恐竜!

 一発目に放たれた十二ゲージの空薬莢が排出され、すかさずもう一発を放とうと銃口が吠えた。
 二発目、ヨッシーの左肩口に辺り、左腕が千切れて吹き飛んだ。
 その直後、やっと現場に到着したクリスタルが「あ」と声を漏らした。気にせずクマトラは行動を続ける。
 三発目、ヨッシーの胸を大きく刔った。
 身体が吹き飛びそうになったヨッシーに間髪入れずに四発目、今度こそヨッシーの顔が弾け、
 ストロベリージャムの様なものを明らかに飛び散ちらせながらどっと倒れた。

 それで弾切れだった。イサカM37の総弾数は四発なのだ。
 最後の四発目のプラスチック・シェルが静かに床に飛び出した。
 ヨッシーの上半身はすっかりぐちゃぐちゃになっており、そこからはただとろとろと水溜まりが広がった。
 もう動く様子なんてなく、今度こそ気を失った訳ではなく完全に死んでいた。
「あ」クリスタルがまた声を上げた。「あ……」

 そのクリスタルを尻目にクマトラはディクシーに駆け寄り、手を翳す。
「ライフアップα」
 もうPPも少なくなっていたのでこの程度の治療しか行えない。
 それでも、辛うじて火傷の後は緑の光に包まれ、少しずつ癒えていく。
「先に言うぞ。恐竜を撃ったのは仕方なかった。それは分かるな?」
 確かにほとんど仕方のない状況だったのかもしれない。
 恐竜はゲームに乗ったのかもしれない。
 それでもしばらく、クリスタルはその場に立ち尽くしたままだった。

【H-5/昼】

【名前:クマトラ(MOTHER3)】
健康状態:左胸が少し痛い(戦闘には影響は無い)、PP消費中
武装:イサカM37@実在兵器/弾切れ
所有物:支給品一式×3、コルト・ハイウェイパトローマン@実在兵器/残り6発(予備弾1発) シャトー・ロマーニ@ゼルダの伝説ムジュラの仮面(残り250cc)、ナマクラヤイバー@マリオストーリー(装備していない)、リュカの服、武器0~3(本人確認済み)
現在位置:H5
基本行動方針:リュカたちを探す
第一行動方針:誰も悲しませない
第二行動方針:リュカたちを探す
第三行動方針:リュカから学校の事を聞き出す
最終行動方針:ゲームを潰す】

【青い狐とピンクのサル】
【名前:クリスタル@スターフォックスシリーズ】
[状態]:放心状態
[装備]:トリプルスター@星のカービィシリーズ、ヨッシー
[所持品]:支給品一式、ペンシルロケット×3@MOTHERシリーズ、バンパー@スマブラシリーズ
現在位置:エリア7(H-5)/廃校の中
[思考・状況]
基本行動方針:困っている人がいたら手を差しのべる
第一行動方針:頭の中を一旦整理する
第二行動方針:フォックス達と合流する
最終行動方針:ゲームからの脱出
[備考]6本あるペンシルロケットの内、3本をディクシーに譲りました。】

ディクシーコング@ドンキーコングシリーズ】
[状態]:右手喪失、左手重傷(動かす事も不可能)、気絶
[装備]:木槌@アイスクライマー
[所持品]:支給品一式、ペンシルロケット×2@MOTHERシリーズ(クリスタルから譲ってもらった)、絵描きセット@星のカービィシリーズ
現在位置:エリア7(H-5)/廃校の中
[思考・状況]
第一行動方針:ドンキー、ディディーとの合流
第二行動方針:とりあえずクリスタルに着いていく
第三行動方針:この恐竜を介抱するため、エリア7で休息をとる
最終行動方針:ゲームからの脱出】

【名前:ヨッシー@スーパーマリオシリーズ】
[状態]:死亡確認


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最終更新:2007年07月01日 00:50