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誓い ◆ZqxRMEDNEs



シーダ、放送でその名前が呼ばれた時。マルスはまず自分の耳を疑った。次に放送の真偽を疑った。しかし、それらの可能性を全て自身であり得ないことだと認めてしまった。

そしてマルスは少しだけシーダの為に黙祷を捧げた。本当はいますぐ駆け出して彼女の生死を確かめたい。

しかし、そうできない理由があった。だから今少しの間だけシーダの死を考えないように数秒間の黙祷を行って茂みの中に声をかけた。

「そろそろ出てきたらどうだ」

その一点を睨みつけたままそう告げる。

それに答えは返ってこない。いや、数秒間の後に茂みの中から一人の男が現れる。

「その剣を下げてほしいのサ。こんな状態で戦おうなんて思わないのサ」

足を引きずりながら両手をホールドアップの状態で。

その足の怪我はかなりの重傷なのだろう、体を一本の太い木にもたれかけさせたその姿からは戦意など感じえない。

マルスは剣をしまう。

「では、聞かせてもらえるか?何があったのかをな」

マルクは余りにもうまくいくことにより浮かぶ笑みをこらえ話をする。



話を聞いた後、マルスはため息をひとつついて言う。

「つまり、ディディ、メタナイト、ロイそしてドロッチェ。この四人に襲われたということか」

「そう、そうなのサ。あいつらは本当に恐ろしい奴らなのサ」

うっすらと涙すらも浮かべさせながら語る。その姿を見れば同情を感じ得ない者などいないだろう、それほどの演技であった。

マルスはため息をひとつつく。

「そうか、そんなことがあったのか。それは災難だったな」

マルスの声はあくまで静かだった。

マルスはマルクに同情していたがシーダの名前がマルクの口から出なかったことに喜んでいた。

それはかすかな表情であったが、マルクは感じ取ったのだろう。

「あんたナンなのさ?ぼくの仲間を侮辱するならゆるさいのサ」

「あぁ、いやそんなんじゃないんだ。ただこのゲームに自分の大切な人が参加させられてるんだ、すまなかった」

「そうだったの、こっちも悪かったのサ。良ければ名前を教えて欲しいのサ」

「あぁ、まず俺の名前は……」

その時だった、空気を震わす振動が二人の元まで届いた。それはクッパが発した叫び声だったのだが、二人にはそれが何かを認識することは出来なかった。



あまりにも異質なその音は二人にそれが一人の人物が発した声だという発想をわかせなかった。

「いったい何なのサ」

「分からないけど……」

困惑しながらも危険を感じる二人に茂みの中から新たな声がかけられる。

「貴様らに聞きたいことがある」

そこにいたのはブラックシャドー。傷ついた体でありながらその姿は以前と変わりなく、威厳を保っていた。



マルスとマルクの二人が出会う少し前、ブラックシャドーは傷の痛みに僅かに呻きながらも身を起こす。

悪の帝王としての意地とでもいうのだろうか、敗北を許すことは出来なかった。

傷は酷く痛むが我慢出来ない程ではない。もちろんこれはブラックシャドーだからではあるのだが、簡単に見積もっても腹部の骨折箇所は十では収まらないだろう。

ブラックシャドーはその強靭な意志で痛みを無視して歩き出す。

しばらく歩くと話声が聞こえてきた。もちろんブラックシャドーにそれを避けて通るなどという思考など存在しない。

そして、ブラックシャドーは特に警戒することも無くその二人組に声をかけたのだった。



「いったいお前は誰なのサ?」

突然現れたブラックシャドーに驚いたように叫ぶマルク、そのマルクを庇うようにマルスはマルクの前に立つ。

だが、ブラックシャドーにとっては二人に警戒されることなどとるに足らないことなのだろう。トーンすら変えることはない。

「そんなことはどうでも良いだろ、それよりお前だな。さっきずれてたこと言ってたのは」

マルクに向かってそう言う。その表情はまるで新しいおもちゃを見つけた子供の様な笑顔であった。

「お前なんなのサ。まさかゲームにのってるのか?」

「そのようなこと聞かなくても解るだろ。特に貴様のようなものにはな」

「いったい何が言いたいのサ」

「もう止めようぜ。お前の嘘は単純すぎるんだよ」

「嘘だって、僕が嘘なんか言うもんか」

ブラックシャドーはため息をひとつつく。
「全く……仕方ないな。じゃあ、一つずつ言ってやろうか。まず、このゲームのルール上こんな短期間に四人もの殺人鬼たちが協力することなんか有り得ない。あともしそのようなチームが有ればザックの一つも残さないさ、勿論生存者なんてもっての他だ」

このゲームのルール、すなわち最後の一人になるまで残ること。つまりはチームでの優勝狙いは確実に破綻する。

勿論これが成立する条件もある。一つ目は対等な立場ではなく、一方的に誰か一人を優勝させるためだけに組んだ場合。

そして二つ目、裏切ることを前提として前半の人数が減るまで戦う場合。しかし、どちらもそれが成立するのが早すぎる。

「元々の知り合いが四人ゲームが始まってすぐに出会うなんて偶然は有り得ないしな」

横で二人の話をマルスは黙って聞いている。いつしか剣は抜かれていた。

しかし、マルクは慌てることなどしない。マルクは一流の嘘つきであった。

「これは僕の予想だけど……あいつらは主催者達が用意したジョーカーなんじゃないかな」

マルスは何も言わない。ブラックシャドーすらも黙り、ただマルクの言葉を促す。マルクもここで疑問を挟ませる訳にはいけない。

「お互いの位置を知ることが出来ればこの狭い場所で出会うことはそれほど難しいことじゃないサ」

「なるほどな……そうかも知れないな」

「ようやく分かってくれたのサ?」

「ふざけたことをぬかすな。貴様は俺の手下にする価値もない」

ブラックシャドーは先ほどまでの態度からは想像もつかない程の速度でマルクに拳を振り下ろす。

足を怪我したマルクにかわせるはずもない。その筈なのに、その拳が振り下ろされた先には誰もいなかった。


ブラックシャドーは少し見上げる。その視線の先にいたのは先ほどまでは存在すらしていなかった翼を広げ、空中を飛ぶマルク。

「どうして分かったか、説明して欲しいサ」

「単純なことだよ、ついさっき襲われて仲間を殺された奴がそんな冷静に分析なんて出来る訳がない。お前は完璧に被害者の真似をしすぎたんだ、本当に不幸を経験した人はもっと必死に話すんだよ」

二人を分けた物は住んできた環境の差。平和な環境と常に戦いが絶えない環境、その違いがブラックシャドーにマルクの嘘を見破らせた。

「へぇ、勉強になったのサ」

「勉強になるだって、おかしなことを言うな。勉強ってのはこれからまだ可能性がある者がすることだろ」

「だったら僕以外にいないのサ」

「分かってないな。殺すぞ」

ブラックシャドーは駆け出す。空と地という違いはあるがそのようなことはブラックシャドーにとっては特記すべき事ではない。

何よりも人を騙して生き残ろうなどと考える奴が自分に勝てる訳がない。

その思いが僅かにブラックシャドーの拳の勢いを僅かに鈍らせた。まるで金属と金属がぶつかるような音、一瞬火花が見えたようにも感じた。ブラックシャドーの拳はマルスの剣によって受け止められていた。

「どういうつもりだ」

ブラックシャドーが静かにマルスに問いかける。何故マルスがマルクを庇うのかまるで理解が出来ないというふうに。

マルスはブラックシャドーを真っ直ぐに睨みつけながら話す。

「お前、今あいつを殺そうとしただろ」

「あぁ、当たり前だろ。あんな奴は生かした所で障害となるだけだ、ならば早い内に殺しておいた方が良いだろ。それとも何か、まだあいつの嘘の意味が分からないのか?」

「分かってるさ、あいつは他の人を貶めて生きようとした。あいつの嘘は新たな悲劇を生む」

マルスは剣を振り、ブラックシャドーを僅かに下がらせる。

「ならば何故だ。何故、守る」

「こんなくだらないゲームで、こんな場所でもう誰一人失いたくないからだ」

マルスはマルクが嘘をついたことに怒ってはいなかった。むしろ当然のことだと受け止めていた。

自分の身を守るためにはそれもしかたないことだと。もちろん、マルクの言った嘘は許されないことだ。あの嘘は人を貶める嘘だ、新たな戦いを産み、新たな被害者を産む嘘。自らが生き残る為ではなく、他者を蹴落とす為の嘘。

だが、マルスにはそれ以上に優先すべき事があった。数多くの大切な人を失ったからこそマルスはこれ以上誰であろうと失いたくはなかったのだ。

「貴様、そいつは障害にしかならんぞ。ゲームを打倒しようとしても、最後の一人を目指すにしてもだ」

「だとしてもだ。俺は守り抜いてみせる、全てをだ」

マルスがブラックシャドーに駆け出す。
必殺の一撃を繰り出す。

「そのようなことが可能だと思っているのかっ」

ブラックシャドーはブラスターを構え何発か放つ。ろくに狙いをつける暇すらない。そのような攻撃が当たる筈もない。

マルスは楽々それをかわし、ブラックシャドーを射程圏内に入れる。

「全く、お前は甘すぎる」

マルスが炎に包まれた。

☆ ★ ☆ ★

マルクは冷静に戦況を見ていた。一見このままマルスに任して逃げれば良いようにも思えるが、二人には自分が嘘をついていたことを知られてしまった。

ここで確実に殺しておかなければ後々どのような不利な状況になるか分からない。

ブラックシャドーとマルスの戦力差を見比べる。ブラックシャドーは確かに強いだろうが、既に満身創痍の彼と比べて健康体のマルス。戦力差は明らかだ。

そこまで考えたところでマルスが炎に包まれた。ブラックシャドーの手には一輪の花、マルスは地面を転がり火を消す。それはさほどのダメージでは無いのだろう、地面に両手をつき勢いよく立ち上がる。

ブラックシャドーの能力を警戒しているのだろう、先ほどのように跳び出すことはしない。

「でも、それじゃ困るのサ」

マルクは背負っていたザックから一本の太い木を引き抜いた。

★ ☆ ★ ☆

マルスは自分の背後から殺気が膨れ上がるのを感じた。

僅かな目の動きだけで後ろを確認する。そこにあったのはマルスが今まで見たことが無いものであった。



しかし、マルスの戦士の勘がそれを危険だと判断した。

急いでその場を離れる。前転の要領で体勢を低くして。

離れた所で振り返ると先ほどの攻撃が通った場所の草木が刈り取られていた。

斬撃を飛ばす攻撃、それを放った者がマルクであったこと。特に何も感じない、感じる暇すらないというのが正確か。

マルスの足元に何発かの銃弾が撃ち込まれる。それは地面に穴を穿ち煙があがる。

マルスは圧倒的に不利な状況で諦めることはしない。

ひとまず自らの背後にあった木の後ろに回る。

そこに襲いかかるマルクの斬撃。その攻撃は木を斬り飛ばしマルスの髪の毛を掠め、明後日の方向に飛んでいく。

マルスは足元に転がっていた石をマルクに向かい投げる。

牽制にもならないがマルクの攻撃は止んだ。

そちらを見てみると、ブラックシャドーの銃撃がマルクを襲っていた。

☆ ★ ☆ ★

ブラックシャドーはマルクに銃撃をあびせるが、それは当たらなかった。

翼を大きく動かし、空に飛び上がるマルク。

さらに上空から数え切れない程の斬撃を浴びせる。

「チィッ」

ブラックシャドーはマルクに銃撃をあびせるが、それは当たらなかった。


翼を大きく動かし、空に飛び上がるマルク。

さらに上空から数え切れない程の斬撃を浴びせる。

「チィッ」

ブラックシャドーは考えていた。このままでは絶対に不利なのはこちらだ。何とかしてマルクを地面にまで引きずりおろさなくてはならないと。

だが、それは自分一人では無理なことは分かっていた。

戦力が足りない、ブラックシャドーはマルスを見て叫んだ。
「貴様、俺の手下になれ」

★ ☆ ★ ☆

「貴様、俺の手下になれ」

マルクはこの声を上空で聞いていた。そして、このことが自分にどのような意味を持っているのかも理解していた。

今、マルクは圧倒的に有利な状況にいた。

何故ならば空高くを飛ぶマルクにダメージを与えうるのはブラックシャドーが持つ銃しかない。

しかし、マルクは容易にマルスとブラックシャドーに攻撃をしかけることができる。

しかし、もし二人が手を組めばこの優位はなくなる。

攻撃手段を持たないマルスが防御に、銃を使えるブラックシャドーが攻撃に専念出来るからだ。

「そんなことさせないのサ」

マルクは攻撃の手を早めた。

☆ ★ ☆ ★



マルスは頭上から降り注ぐ斬撃をやっとのことで避け続けていた。

その場から動く事すらなく、手に持った剣で打ち払い続ける。

その流麗な剣裁きは柔の剣と言われるほど。

ブラックシャドーを見ると、その斬撃の間をなんとか走り抜けたようだ。少し離れた所から応戦している。

「おい、早くこっちへ来い」

ブラックシャドーがマルスに向かって叫ぶ。手下になるなどとは一言も言っていないのだが、マルスが断る可能性など考えてもいないのだろう。その姿にマルスは確かに威厳のような物を感じた。

それは数多くの王族達を見てきたマルスにとっても今まで見たことがない程の物であった。

しかし、マルスにはマルスの誇りがある。

「僕は悪の手下になんかならない」

堂々とそう言い放った。

★ ☆ ★ ☆

ブラックシャドーは舌打ちしたい思いだった。

マルスの考えが全く理解できない。このままでは二人とも死ぬだけだ、それ程に見ず知らずのマルクの命が大切なのか。

まるで自分自身と相容れない。磁石のように同一にして反発しあう関係、それがマルスとブラックシャドーの関係であった。

「貴様、このままでは死ぬだけだぞ」

そう言いはしたが、答えは分かっている。

「それでも構わない。僕は自分の信念を貫く」

☆ ★ ☆ ★

マルクは笑っていた。地上で言い争う二人が異常に滑稽に見えた。

命よりも信念の方が大事などと気が狂っているとしか思えない。死ねば終わりなのだ。

何をしても生きた方が良い、マルクは何も信じていなかった。

全てが自分よりも価値の無いものだと信じ、行動していた。

現にマルクは既に自分が負けることなど想像すらしていなかった。

ただ、マルスとブラックシャドーを八つ裂きにする場面しか想像していなかった。

「そろそろ終わらせるのサ」

傷のせいか、マルクはかなり疲れを感じていた。普段は無意識の状態でしている羽ばたくという動作ですら億劫になる程に。

次の瞬間、マルクの姿が消えた。

テレポート、それを繰り返し剣での斬撃を浴びせるのがマルクの戦闘スタイルだ。マルクはこのバトルロワイアルという特殊な状況であっても自身の戦闘スタイルを忠実に再現して、なおかつ二人をより効率よく倒す方法を探っていた。

★ ☆ ★ ☆

マルスはマルクの姿を見失った。そして吹き上がる気配、訳が分からないがそこにいるという確信を持って自分の正面を見る。

そこにマルクはいた。太い木を構え、こちらに向かってふりかぶる。マルクは優れた剣士だ、それは分かった。あの様なただの木をあそこまで自在に振れる者はそうはいないだろう。

だが、それは一般の視点から見ての事だ。マルスから見ればその剣技はまだまだ未熟な点が多い、避けられる。それは結果を見るまでもなく明らかだ。しかし、違う。マルクはマルスを見ていなかった、その視点の先にあるのはブラックシャドー。

「くそっ」

マルスは気づいた。気づいてしまった、そして気づいてしまったら避けることは出来なかった。それは自分の信念を否定することになるから。

例え、守る相手があのブラックシャドーであろうとも。マルスは足を踏みしめた。

そのマルスに荒れ狂う突風が襲いかかった。

☆ ★ ☆ ☆

マルクによって生み出された突風はマルスを吹き飛ばした。

何か飛び道具の攻撃がくることは予想していたが、このような攻撃がくる事は予想外であった。

体勢を立て直すことすら出来ない。何かにつまづいて、背中から酷く打ち付ける。それでも突風は吹き終わらずにマルスを後退させる。

視界の端に太い木が見えた。それに急速に近付いていく。自分の手に持った剣で自分自身を傷つけないようにする事が精一杯だった。

そして衝撃がきた。

それは激しい物であったが、予想していた程ではない。一瞬息が詰まったがそれだけだった。

マルスの体はブラックシャドーによって受け止められていた。

腹の怪我が酷く痛むだろうに外見にはそれを全く出すことなくマルスの顔を正面から見る。

しばし交差する二人の視線。先に口を開いたのはブラックシャドーだった。

「おい貴様、貴様の目的は何だ。何故そのような振る舞いをする。貴様の行動は支離滅裂だ。全てを守ることが目的ならば、何故殺さない。奴は、俺はこれから人を殺すぞ。邪魔な人間は容赦なくな。答えろ、貴様はどうするんだ」

そのブラックシャドーの言葉にマルスは迷いすらなく答えた。

「だったらその時はまたお前たちを倒して、救ってやるよ」

ブラックシャドーはやはり理解できなかった。何故、そのような余計な苦労を背負うのか。

ブラックシャドーは自分以外の全ての物を自分以下の存在と確信していた。だからこそ自分の邪魔をするファルコンに怒りを感じていた。

しかし、マルスには怒りを感じなかった。その理由はブラックシャドーには分かっていた。マルスは自分に似ていた。

その目指す方向は正反対であるものの最終的には同じ。それは自分の主張を通すこと。

ブラックシャドーは他人を傷つけることでそれを成そうとし、マルスは他人を守ることでそれを成そうとしている。

ブラックシャドーは自分が笑っているのに気づいた。今まで想像すらしていなかった道であったが、この男が歩む道を見てみるのも面白いと思った。


「誓ってやろう。俺は貴様らは殺さん。その代わり、貴様も誓え。俺に協力すると」

☆ ★ ☆ ★

マルスは曖昧な意識の中でそれを聞いていた。

その誓いに答える為、マルスは体を起こし、剣を天に掲げる。

「ブラックシャドー、確かに聞いたぞ。その誓い、ならば我も誓おう。我は汝のその誓いの為、協力を惜しまないと」

今ここで誓いがなされた。自らの主張を通す為に戦っていた二人の主張が重なった。敵はただ一人だった。

二人立ち上がり、マルクを睨みつける。戦うべき敵、二人には負ける気など全くしなかった。

☆ ★ ☆ ★

「まずいことになったのサ」

マルクは今の心境を一人呟く。今の状況は非常に悪い物であった。しかし、まだ勝ち目が無いという訳ではない。マルクにはまだ使っていない切り札があった。

ブラックホール、あれさえ使えば生き残る者などいない。全てを吸い込む絶対の技。

そしてあと一つ、マルクには勝算があった。

「そろそろ終わらせるのサ」

マルクは手に持った太い棒を二人に向けた。

☆ ★ ☆ ★

二人に襲いかかる。今までとは比べ物にならぬほどの数の斬撃。

しかし、もはや逃げない。

「みんな、見ていてくれ」

マルスはその場から一歩たりとも動かなかった。

ブラックシャドーもそうであった。まるで、襲いかかる斬撃が見えていないかのようにブラスターを撃つ。マルクは斬撃を放つのを中止して避けざるを得ない。

しかし、二人はまだ動かない。

斬撃が二人を捉える直前、マルスが動いた。

その一瞬後にはマルクが放った斬撃は全て叩き落とされていた。

マルクは正直驚いていたが、ここで動きを止めればブラックシャドーのブラスターによって身を焼かれるだけだ。翼を大きくはためかせて空を舞う。

しかし、マルクは気づいていなかった。自身の疲れが出血によるものだけではなく、主催者からかけられた制限によるものだということを。さらに主催者達は空を飛ぶという能力を警戒し、他の者たちよりも重い制限をかけていたということを。

マルクは次第に高度を保てなくなっていた。
徐々に高度を下げるマルク、それはブラックシャドーとマルスにとって初めて訪れた攻撃の機会であった。

ブラックシャドーはマルクの眼前にファイヤーフラワーを投げつける。マルクは何か把握出来ず一瞬動きを止めるが、ファイヤーフラワーは投げつけただけでは効果は殆どない。

それを手に持った棒で叩き落とそうとした時、ファイヤーフラワーが爆発した。

それを起こしたのはブラックシャドーが放ったブラスターの弾丸。それはファイヤーフラワーを貫いた。その一輪の花の中、蓄えられた炎がブラスターの一撃により爆発を起こす。

溢れる炎はマルクを焼こうと迫るが、マルクは間一髪でそれをかわす。あまりの熱気に肌がちらつく。しかし、なんとか凌いだ。そう思い、油断した一瞬。飛び上がったマルスの剣がマルクの翼を両断していた。

姿勢を制御することすら出来ずに地面に激突するマルク。口の中を切ったのだろう、血の味が広がる。

しかし、マルクはそのようなことは最早思考の外である。

頭の中に敗北の二文字がちらつく。ブラックシャドー、マルスが二人ともこちらに向かって走ってくる。

それを見て、マルクは切り札を使うことにした。

「惜しかったのサ」

ブラックホール、全てを飲み込むその技は発動した。しかし、それはマルクが考えていた規模とは全く違っていた。

一メートル程まで迫っていた二人を一瞬にして吸い込む筈だったその技はブラックシャドー、マルスの体勢を崩すほどの影響しか与えることは出来なかった。

それはマルクにかけられた制限のせいであったし、今まで与えられた数々の傷のせいでもあった。

マルクはそのことは知らなかった。しかし、マルクはそれで動きを止める様な者ではなかった。

接近してくるブラックシャドーに向けてザックから取り出したある物を構えた。

それはもう一つの勝算。絶対にあの二人は自分に勝てないと思った理由。

空気を引き裂くような音が響いた。一瞬にして30発もの弾丸が放たれ、それらは今まさにマルクに殴りかかろうとしていたブラックシャドーを吹き飛ばした。

マルクは放送が始まる前、あの惨劇の場所に一度戻っていた。もちろん目的は放置された支給品。

そこにあった物を全て回収し、放送を聞いている間に襲われないように隠れていた森の中でマルスを発見したのだった。

そしてサブマシンガンに自分が持っていた弾を込め、いざという時に備えていた。

更にはマルス達に自分が飛び兵器などを持っていないと認識させる為にわざわざ森の中で棒を一本拾ってきた。

そして、その慎重な作戦がマルクに勝利をもたらしたのだった。

「ブラックシャドー!!」

マルスの声が響く。しかし、ブラックシャドーは元々マリオの攻撃によって傷つけられた腹部をさらにサブマシンガンの弾丸によって内蔵までもグチャグチャに傷つけられていた。

最早死は避けられない。その絶望的な状況の中、ブラックシャドーだけは諦めていなかった。

崩れかけた姿勢を地面を叩きつけることで持ち直す。

そして叫んだ。肺が潰れているのだろう、声は出せなかった。だが、その叫びはただの空気の振動としてではなく、マルスそしてマルクをの心を揺さぶった。



そのままブラックシャドーはマルクを殴りつける。死にゆく者とは思えない程の力強さであった。

それはマルクの脳を揺さぶらせ、マルクを地面に転がさせる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

いつしかマルクも叫んでいた。しかしそれはブラックシャドーとは全く違った叫び。

マルクは生まれて初めての恐怖に襲われていた。マルクはブラックシャドーに恐怖を感じていたのだ。

何故立ち上がれるのか。何故立ち向かってこれるのか。それが全く理解出来ない。

理解出来ない者には立ち向かうことは出来ない。恐怖を感じること以外何も出来ない。

ブラックシャドーは一歩ずつ近づく。

その歩みはあくまでも力強い。
まるで地面の感触を確かめるように歩く。

微かに聞こえる呼吸の音はいまだ消えぬ生を主張しているのか。マルスはその光景に圧倒され、何もすることが出来ない。

「来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

マルクは手に持った木の棒をめちゃくちゃに振り回す。

それは先ほどまでの鋭い斬撃とは違った恐怖から逃れる為だけの攻撃。

しかし、それによってブラックシャドーの攻撃が止んだ。

吹き飛ばされるブラックシャドー。一メートル程後退させられ、なんとか木にもたれかかることで姿勢を保つ。

そして、その手に持ったブラスターをマルクに向ける。

「ひぃ……」

小さく漏らすマルクの声、この距離でまさか外す事もないだろう。更にマルクは最早翼も、足も、切り札の一つであったテレポートすらも使えない。

それ程までに消耗してしまった。最早両手を動かすことしか、しかもそれ程激しく動かすことは出来ない。それがマルクに許された唯一の行為であった。

「えっ………」


涙すら浮かんだその顔で見上げたブラックシャドーの姿、それは樹木にもたれかかったその姿からは相変わらず、圧倒的な力を感じた。

しかし、何か違和感があった。まるで、迷っているように。今さら人殺しを拒むような健全な精神ではないだろうに、最後にはブラスターを下げた。

「何だかわからないけど、チャンスなのサ」

マルクは最後の力をふりしぼって剣を振るう。

それによって放たれる斬撃、マルスはそれを防ごうと走るが、それは間に合わなかった。

いや、それは正確ではない。マルスは確かに間に合った。攻撃を剣で阻む事は出来た。

しかし、それは先程までとは全く違ったことはただ一つ。マルスが持っていた剣。それは神剣ファルシオンのレプリカ。つまり、神剣に似せる為に造られた剣。確かに素晴らしい剣であったが、マルス程の剣士がその実力を発揮仕切るには少し役不足であった。

神剣ファルシオンのレプリカは根元から折られていた。

マルスはそれを確認するとブラックシャドーの方を振り向く。

そこには以前と変わらぬ姿のブラックシャドー。

良かった。心から安堵し、駆け寄るマルス。

駆け寄り、ブラックシャドーの体を揺さぶる。そして気づいてしまった。

ブラックシャドーは息をしていなかった。

更にまるで置いていた物が落ちるように、余りにも簡単にその首が地面に落ちた。

マルスの両手の中にあるブラックシャドーには既に首から上が存在していなかった。

血液がその最後の命を主張するようにマルスの両手を濡らす。

「嘘だろ……」

マルスは言葉を発する事が出来なかった。余りにも簡単に訪れたブラックシャドーの死に考えが全く追いつかなかった。

そのマルスの思考を現実に戻したのはマルクの笑い声だった。

マルスはマルクを睨みつける。しかし、マルクは最早恐怖など感じていなかった。何故なら最早ブラックシャドーは死んでいたから。

死んでしまえば何も出来ない。

「はははははは、死んじゃったのサ。何が誓いなのサ、下らないのサ」

「黙れ」

「何なのサ、僕はお前なんかもう恐くない………」

「黙れ、ブラックシャドーは誓いを守った。お前なんかにブラックシャドーを馬鹿にする価値などない」

そう、ブラックシャドーはマルクを殺すことが出来た。手に持ったブラスター、それをマルクに向かって放てば簡単に殺すことが出来た。

しかし、無意識であったとしてもブラックシャドーはそれをしなかった。

マルスは信じていた。ブラックシャドーの誇りを。

だからこそ、自分自身に強く怒りを感じていた。

何故ブラックシャドーを守ることが出来なかったのか。

そんな自分に嫌気がさすが、今一番重要なことはマルクを拘束すること。

「殺しはしない、だけど動きを拘束させてもらうぞ」

「悪いけど、それは無理なのサ」

すぐそばに置いていたサブマシンガンを手に取る。

それは最早弾薬は尽きていたのだがマルスへの牽制くらいにはなる。

そう思い、手にしたのだがマルクの『打算』はマルスの『決意』にかなう筈がなかった。

一瞬にしてマルクの右腕ごと両断されるサブマシンガン。

マルスは剣の刃の部分を両手で直接握りしめていた。当たり前のように手のひらの皮膚が裂け血が流れ出るが、そのようなことは今のマルスに意識させるに足る筈がない。

剣をつきつけ叫ぶ。

「認めろ、お前の負けだ」

マルクは考えを巡らすが、何も思いつかない。

「分かったのサ、認めるのサ」

マルスは両手を掲げて言う。
しかし、マルクは自分の負けを認めるつもりなど全くなかった。

「まぁ、それは嘘なのサ」

近くに転がっていたマルクによって放たれた固定化された斬撃。それを拾い上げ、マルスに投げつける。

それはマルクには避けられるタイミングではなかった。しかし、マルスはマルクの想像すらもはるかに超えた素晴らしい剣士だった。

考えての行為ではなかった。まるで人が熱いヤカンを触った直後に耳たぶを触れるように、脳で考える前に反射的にマルスの剣はマルクの胸を真っ直ぐ斬りつけていた。

余りの鋭さに一瞬のタイムラグがあり、噴き出す血液。

「あっ………ああああああああああああああああああ」

マルクは傷を押さえようとするが、その傷は深く。出血の量は致死量を既に越えていた。

「死にたくないのサ……」

最後にそうとだけ漏らして、マルクは息絶えた。その表情からはマルクとは出会って間もないマルスであってもマルクが抱いた無念さを感じるほどの物であった。

マルスにはそれを見続けることはできなかった。

「誰だってそうなんだよ」

最後に言い残したマルスの声は虚しく空に響いた。

マルスは後悔していた。ブラックシャドーとの誓いを守れなかったことを。

マルスは剣を放し、ブラックシャドーの遺体に向き直る。

「ブラックシャドー。ごめん……君との誓いは守れなかったよ。僕は、これからどうしたら良いのかな……」

マルスの迷い、それを解決出来る者は誰もいなかった。

言葉を返すことが出来る者すら。



[D-8/日中]

名前:マルス@ファイヤーエンブレムシリーズ

健康状態:中程度の疲労、両掌に傷、精神的疲労大、自分がこれからどうするべきか迷っています

武装:なし

所持品:神剣ファルシオン(レプリカ)の刃@星のカービィ、支給品一式

現在位置:D-8

基本行動方針:人を助けつつシーダを探す

最終行動方針:ゲームを潰す

備考:マルス、ブラックシャドーの持ち物を持っていくかどうかは次の書き手さんに任せます。


【死亡確認:マルク@星のカービィ】

【死亡確認ブラックシャドー@F―ZERO】

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最終更新:2008年05月15日 16:08