性転換ネギま!まとめwiki

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

裕也×まき絵


「っぷはー! 今日も疲れたぜ・・・」

ぐびぐびっと途中で買った缶コーヒーを飲みつつ、寮への帰り道を急ぐ。
いや別に疲れてるんだからゆっくり帰ってもいいんだが、そうすると厄介な奴に追いつかれることになりかねない。
別に嫌いなわけじゃなくてむしろ逆なんだけど、こういうときに構われると激しく疲れるので勘弁。
というわけでげっとほーむはりあっぷ。
色々間違ってる?
気にすんな!
なんて一人突っ込みをしながら(寂しい言うな)てくてくと歩いていると。

「・・・・・・裕ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

げっ。
後ろから、まさにその『厄介な奴』の叫び声が。
うわさをすれば影、って奴かよ。
あーもうめんどくせー。
なんて思いながら振り返ってみどあああああああああああああああっ?!

「てやーっ!」

助走がトップスピードに乗った最高のタイミングで最高の踏み切りをした最高のジャンプで、まき絵がこちらに飛び込んでくる―

―――というか突っ込んでくる。

「ダイビングジャンプしてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

防衛本能から思わず身体をひねって回避。
バズーカ砲もかくやとばかりの勢いで飛んできたまき絵の身体は俺の身体をかすめて飛んでいき、そして――――――――!

「へぶぅっ!」

顔・面・直・下。
まぁあの勢いで突っ込んでくりゃ当たり前か。
にしても今大分いい音したけど大丈夫かコイツ。

「おーいまき絵ー、生きてるかー」

しばらくほっといても動かないので一応確認してみる。
ぺちぺちとほっぺたを二、三度叩いてみるが、反応なし。
アレ、もしかして結構マジでヤバイ?
かなり本気で焦ってまき絵の顔を覗き込んだ、そのとき。

「――――裕也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

「だぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

いきなりがばーっと抱きつかれた。
突然の不意打ちを食らってよろめき、そのまましりもちをつく。
この野郎、俺が逃げられない距離に近づくまで死んだふりしてやがったな。
バカピンクのくせにこういうことだけは頭回るからタチ悪いぜ・・・・・
心の中で色々と愚痴りつつ、「裕也っ、裕也ぁ~」とネコみたいに顔をすりつけてくるまき絵を無理に引き剥がしにかかる。
ここでまき絵の笑顔に負けてはいけない、負ければ下手すりゃ朝までここですりつかれることになる。
いろんな意味でそれは勘弁。

「あーはいはいわかったわかったから。 いい加減離れろよまき絵」

わざとぞんざいに突き放すような言い方をする。

「むぅ~! 何それ裕也ひどーい!」

ハイひっかかったーまき絵やっぱバカー。
なんて言ったらまたごねるので言わないが、あんなに密着していた体をぱっと引いてくれたこの機会を逃すわけにはいかない。
俺の体とまき絵の体の間にすばやく自分の手を突っ込み、まき絵の肩をぐいぐい押す。
だがまき絵も俺の腕を引っつかんだまま放そうとしない。
一進一退の攻防がしばらく続いたが、勝負がつかない。
このままだと朝までこのままになりそうな気がして――――まき絵ならやりかねない――――、結局俺が折れることにした。

「・・・あーあーもう、負けたよ、俺の負け。 だからほら、手ぇ離せって、立てねぇ」

「やだ。 それで私が手離したらぱぱーって先に行っちゃうんでしょ」

いや何もそこまで疑わなくても。
はぁ、とひとつため息をつき――――ぶっちゃけひとつでは足りないんだが――――ダメ押しの一言。

「だいじょぶだよ・・・ちゃんと一緒に帰ってやるから」

「ホント?」

「ホントホント」

そこまでこだわることか?とも思うが、まき絵の顔は真剣そのものだ。
そんなに俺と一緒にいたいのかねぇ・・・いやま、嬉しいけどさ。
そんなことを考えるともなしに立ち上がり、まき絵のひじの辺りを引っ張って立ち上がらせる。
するとまき絵は、なにやらニヤニヤしながら俺の腕に自分の腕を絡めて体をひっつけてきた。

「・・・何やってんだ、まき絵」

思いっきり眉をひそめながら尋ねる。
しかしまき絵はニヤニヤ笑いを浮かべたままで、

「またまたぁ~、えへへ、どう? どう?」

などとのたまう。
いやどうって何がよ。
まき絵は勝手に一人合点してるようだが俺にはさっぱりわからない。
なので聞く。

「何が」

「な、何がって・・・・・・当ててるんだよ!?」

あーあーあー、そういうことか。
うんまき絵、お前のやりたいことはわかった。
だけどまき絵、残念ながら君のスタイルはあまりそれに向いてないんだなぁ。
なぜなら。

「もともとない胸押し付けられてもわからん」

「が、ガーン!」

あ、大分効いたらしい。
まき絵は絡めていた腕を離してふらふらーっとよろめいた。
のもつかの間、両腕で自分の体を抱えるようにしながら前かがみになると、

「・・・・そ、そんなことないもん! ほら、ほらほらほら! どう!?」

自分で胸を寄せてあげてアピール。
その必死さにちょっと涙出てきたよ俺。
でも真実を言わないわけにはいかないよなぁ。

「・・・・・・あんまり変わらないなぁ」

「・・・・・・・・・・・・!!!!!」

まき絵の口はさっきと同じように開かれたものの、今度ばかりは声も出ないようだ。
そのまましゃがみこんで、「いいもん・・・新体操はボンキュッボンとかじゃないほうが綺麗に演技できるもん・・・いいもん、いいも

ん・・・・」と呪詛のような言葉を延々と。
これはアレか、ポケモンで捕まえようと思ったポケモンに思わぬクリティカルが発生して倒しちまったときの感覚か。
なんてくだらないたとえで自己弁護してる場合じゃない、このまますねて座り込んでたらさすがに風邪ひいちまう。

「ごめん、悪かったってまき絵・・・ほら機嫌直せってば」

そう言いながら愚図るまき絵の手を引っ張った瞬間、ぎょっとした。

「うわっ・・・おいまき絵、なんでお前の手、こんなに冷たいんだ?」

さっき抱きつかれたやら腕に絡みつかれたときは気づかなかったが、まき絵の手は本当に冷え切っていて、もう全体が赤くなって

しまっていた。
確かに最近は寒くなってきたが、俺に追いついてからの時間でこんなに冷たくなるのはおかしい。
だって俺自身の手が大分暖かいし、まき絵は俺をダッシュで追いかけてきたはずだからこんなに冷えてるはずがないんだ。
いったい、何でまた――――――――

「え、えっと・・・ずっとそこの休憩所で裕也のこと待ってたから・・・かな?」

「なっ・・・・・・・」

あまりのことに、何も言葉は出てこなかった。
だってそうだろう?
休憩所っつーのは体育館と寮の間の庭んとこにある公園みたいなとこで、確かにちょっと休むくらいにはちょうどいい場所だけど

、寒さをしのぐような場所じゃない。
いつから待っていたのかは知らないが、こんなに冷たくなるまでというのは、よほど長い間そこで待っていたに違いない。
寒い中、いくら冬服とはいえ、体を温めるようなものもなしに、ずっと。
そこまで考えた瞬間、体が勝手にまき絵を抱き寄せていた。

「ひゃっ・・・ゆ、裕也?!」

目を丸くして自分を見上げるまき絵の肩に、脱いだ自分の上着をかぶせつつ思わず怒鳴る。

「あーもーこのバカ! 何やってんだ風邪ひくだろ! とりあえずこれ羽織れ!」

そういうが早いか、その上からぎゅっと抱きしめる。
上着を脱いだせいか、冷たい風がちょっと染みたけど、ずっと休憩所にいたまき絵に比べりゃよほどましだ。

「ほら、さっさと帰るぞ! そんですぐ風呂入って体あっためてすぐ布団入って寝ろ! 今ダルいとか熱あるとかないな?! 次

から俺待つときは体育館の自販機の前にいろよ、ちゃんと迎えにいってやるから!」

矢継ぎ早に怒鳴りながら、まき絵を前で抱きかかえたまま進む。
ちょうど二人羽織で歩いてるような感じで、はたから見れば大分面白い格好になってるだろうが、そんなことはどうでもいい。
これで少しでもまき絵があったまるならそれで十分。
多分頭がパニックでショートしてるまき絵を無理やり歩かせつつ、心の中でため息をつく。

――――ああ、なんで俺はこんな苦労をしなきゃいけないんだ?

出てきた愚痴を自分で笑いながら、当然のように答える。

――――簡単だ、親が「バカな子ほど可愛い」ってのと一緒で、恋人も手のかかるくらいが可愛いんだよ。


超四葉(前編?)

さて、本日も盛況超包子。
「仁者に敵無し」を地で行く天才料理人・五月の人徳と腕前に惹かれて今夜も満席御礼のようである。
しかしホント調理師免許とか資格の問題はどうなっているのか。
麻帆良ってもしかして治外法権だったりするんじゃなかろうか。
なんて野暮なことを突っ込むような客はおらず、いつものように五月はにこにこ笑顔で接客&料理。
やがてお客の波もひと段落し、五月がちょっと一息ついたとき。

「・・・・・・あれ?」

カウンターに腰掛けてお茶を飲んでいた五月の目に映ったのは、あっちへふらふらこっちへよろよろしながらやってくる人影


普通なら即不審者で通報されそうなものだが、五月にはピンと来るものがあった。

「・・・やぁ五月、まだやってるカナ?」

よろめく足を引きずって屋台の前のテーブルに手を突き、明らかに血色の悪い顔、眼の下にはどでかいクマをこさえた表情で

苦笑いする少年。
いったい誰かというと、3-Aの、いや麻帆良随一の頭脳・超鈴音である。
だが今の超の顔にはそんな様子は微塵もなく、むしろ残業続きで寝不足のサラリーマンのような感じである。

「はい、大丈夫ですよ。 こっちへどうぞ」

普通ならいったい何事かと思うようなものだが、そんな様子はおくびにも出さずにやさしく微笑んで対応する五月。
アリガトネ、と答えながらもふらふらふらふら危なっかしい足取りでカウンターまでやってくると、超はそのままカウンター

にへばりついた。

「うぅ~~~~・・・さすがに疲れたネ・・・・・・」

地の底から響くような声で呻く超。
厨房に入った五月は苦笑い。

「また研究で徹夜ですか? 超くん」

「まぁネ・・・ずっと引っかかってたトコロの糸口がようやく見つかったからつい・・・・・・」

そんなことを言いながら相変わらずカウンターにへばりついている超に対し、五月は、もう、無理しすぎです、とやんわりた

しなめつつ、手早く一品を作り上げる。
いいにおいが漂うそれを超の前に置いてやると、超はバネ人形のように飛び上がってそれにかぶりついた。
普段なら行儀よく落ち着いて食べる超にしては珍しいことだな、と首をかしげた五月だったが、もしや、と思い当たるふしが

あった。
ここ最近、超は文字通り寝る間も惜しんで研究を続けていた。
もちろん休み時間もずっと研究の準備に余念がなく、昼休みに昼食をとっている様子もなかった。
まさかとは思うが、もしかして――――

「・・・超くん、ご飯、ちゃんと食べてました?」

五月にそう聞かれた瞬間、むぐ、と食事の手を止め、きまり悪そうに眼をそむける超。
やっぱり食べていなかったのか。

「もう・・・駄目ですよ、ご飯はちゃんと食べないと」

「うぅ・・・面目ない、ほとんど丸二日ぶりだったからネ・・・・」

ちょっとモーメント。
食事の話で「ほとんど丸二日ぶり」っておかしくないか。
言葉のとおりに受け取れば、超は二日間ほとんど何も食べていないということである。
これは料理人としてほうっておくわけにはいかない。
そんな五月の気配を察知し、しまった、というような顔をした超だったがもう遅い。
五月特有の、怖いというわけではないが、「怒られてる」というのがひしひしと伝わる眼差しで見つめられて、しゅんとうつ

むいてしまう。
ふぅ、とひとつため息をついて、五月は次の料理の仕度を始めた。
・・・が、その量が多い多い。

「ちょ、ちょっと待つネ五月! いくらなんでもそれは多くないカ!?」

このままいくとコース料理が出てきそうな勢いで手を動かす五月を慌てて止める超。
実は研究室からふらふら~っと抜け出てきたので持ち合わせが極端に少ないのだ。
超包子のオーナーだからって売り上げを上手いことできたりするわけではない。
なのであんまり豪勢なものが飛び出すと首が回らなくなる、いろんな意味で。
だが超のそんな悲痛な心の叫びはなんのその、四葉は手を止めずに、

「――――ちゃんと自己管理もできないような人の言うことは聞けません!」

ぶった切る。
超はまさしく『(´・ω・`)ショボーン』という顔文字がぴったりな状態で黙って待機。
これ以上何か言って怒らせるわけには、ね。
とかなんとか言ってるうちに料理が完成した模様。
五月がその料理を持って厨房からカウンターの超の前に並べる。
そしてすべての料理を並べ終わった五月が超の隣に腰掛けたとき、超の目の前には。
種類色々ボリュームたっぷりの中華料理のフルコースが。
・・・五月サン、あんたどんだけ凄腕料理人なんですか。

「慣れてますから」

「・・・そんな無茶ナ」

とかなんとか言っている間にも料理からはおいしそうなにおいが漂ってくるわけで。
本人も自覚してるとおりここ最近は食うや食わずで研究三昧だったわけで。

「お代のことなら気にしないでください、サービスです」

「サービスというには、ちょっと豪華すぎないかネ?」

「じゃあ、研究ばっかりで料理を食べに来てくれないオーナーに料理を試食してもらいます」

・・・それならなんとかごまかせるかもしれない。
いや穴だらけな言い訳なのはわかってるんだけども。
現在自分は極限まで腹ペコでして、我慢できないわけでして。

「・・・ありがたく頂くネ」

「はい、どうぞ召し上がれ」

人間の三大欲求のうち、食欲と睡眠欲が極限まで満たされていなかった超は、素直に五月の好意を受け取ることにした。
そして食べ始めるともう止まらない止まれない。
ガツガツガツガツと次々料理をむさぼり、そしてお約束のようにのどに詰まらせる。

「・・・んぐっ! むがもがっ、むぐっ・・・・・・・!」

慌てて五月が水を差し出し、それを一気飲み。
ぷは、ととなんとか人心地ついた超の背中を、五月が優しくなでている。

「もう・・・慌てなくてもなくなりませんから、ゆっくり食べてください」

「め、面目ナイ・・・」

ばつが悪そうな顔で詫び、次の料理へ。
マジでろくに食事をしてなかったようだ。
すさまじい勢いで料理をかっこむ超を、五月は微笑みながら眺めている。

「――――――――っはぁ~~~ご馳走サマ! いや~久々に満腹だヨ・・・」

「はい、お粗末様でした」

しばらく後、超、綺麗に完食。
満足そうに膨れた腹をなでながら、ぐーっと背伸び。
そんな超をにこにこしながら眺めつつ(といってもいつもニコニコしてるのが五月なのだが)、五月は皿をてきぱきと片付ける


しばらく満腹感に浸っていた超だったが、五月が皿を片付け終えたのをきっかけに席を立ち、

「さて・・・それじゃお腹も膨れたことだし、研究に戻るかナ」

と言い出した。
まぁ研究が大詰めだから食事もとらずに徹夜続きだったんだからそれも当たり前か。
が、しかし。

「駄目です!」

「・・・・・・・へ?」

五月による突然の禁止宣言。
いやそんなこと言われても戻らなきゃいけないんですが五月サン。

「超くん、今研究に戻ったらまた徹夜しますよね?」

「まぁ、多分ネ」

だってもうすぐ研究が完成するんだから寝てる間も惜しい。
それが超の本音だ。
だがそんな超の返答を聞いて五月はため息をひとつ。
いいですか、と前置きして、こんこんと言い聞かせる。

「――――超くん、研究のことになると他のことが何も見えなくなっちゃいますよね。 自分のことも。 だから無茶も無理

もしちゃうんです。 でも、そんなことばかりしてたらいつか倒れちゃいますよ? だから、今日はゆっくり休んでください

真剣な眼で、一言一言、はっきりと。
そんな五月のしゃべり方からも、自分を本気で気遣ってくれていることが伺えて、情けないやら気恥ずかしいやら。
なんとなく自分のそんな複雑な気持ちを悟られたくなくて、わざとおどけて答えてしまう。

「ありゃりゃ、これは申し訳ないネ。 それじゃお言葉に甘えて、今日はゆっくり休ませてもらおうかナ」

ナハハ、と笑ってごまかしつつ、もう一度席を立とうとして、固まる。
――――寝るところがない。
いや家なし子とかそんなんでなく。
寮の自室は本やら機材で埋め尽くされている。
普段寝床にしている研究室に戻ったら確実に徹夜する。
とはいえ誰かに『泊めてくれ』なんていえるような時間でも状況でもなく。
さて、どうするか。

「? どうしたんですか、超くん」

むぅ、と思案していた超の隣にいつの間にか並んでいた五月が、きょとんとした顔で尋ねる。
いや実はかくかくしかじかまるまるうまうま、と事情を軽く説明する。

「いやはや、どうするかナ。 まさか寝るところがないとはボクも予想外ネ」

タハハ、もう笑うしかないネ、と頭をかく。
さぞかしあきれられるかと思ったが、なぜか五月はちょっと恥ずかしそうにはにかんで、なにやらもじもじしている。
アレ、ボク何かマズイこと言ったカ?と少々不安になっていた超だった、が。

「あ・・・あの・・・よかったら、泊まりますか?」

「・・・・・えっと、どこにかナ?」

「わ、私の部屋・・・・・・」

・・・・・・・・・ええええええええええええええええええええええっ!?



後半へー。
・・・続くのか?


今日はハロウィン

さて本日は10月31日。
皆さん何の日かご存知ですね?
そう、ハロウィンです!
・・・まぁ実際日本だとそれほどメジャーってわけでもないんですが。
しかし祭り好きの麻帆良の生徒はたとえメジャーじゃなかろうと盛り上がれるイベントは何でもやるタチです。
そういうわけで、学園内のいたるところでハロウィンのグッズやお菓子が販売され、一部の文化系サークル&部活もここぞと

ばかりにイベントを立ち上げております。
ハロウィン当日となった今日はいたるところでハロウィンらしい仮装をして練り歩く人々やら家で帰りを待つ子供にお菓子を

買う親御さんやら道行く大人たちに「トリックオアトリート!」の掛け声とともに頭突きをかましてお菓子を強奪する悪ガキ

の姿が。
麻帆良の子供はハングリー精神が旺盛です。
もちろん3-Aの面々も大騒ぎできることは何でも大好きなわけで。
千雨は何気ない風を装いながら新しいコスプレ衣装を用意しておりますし。
夏は小太美のために色々とお菓子を買い込んでは千津兄に冷やかされ。
裕也はまき絵にお菓子をせびられるのを「めんどくせー」でスルーしてるように見せかけて抱きつかれるのを喜び。
木乃雄とハルナは明日太にのどか、それに夕映を引き連れてハロウィン限定お菓子めぐりの旅へ。
みんな思い思いにハロウィンを満喫しておるわけですが。
そんな中、この機会に意中の相手とさらに接近しようと企む輩もおるわけでございまして。
今回は、そういうことを企んだうちの一人のお話。

「史也! トリックオアトリート!」

「さっきお菓子あげたのに?!」

教室で柿崎にコスプレさせられそうになったり帰り道で小学生に間違えられてお菓子をもらってちょっと涙ぐんだりしながら

ようやく部屋に帰りついた途端にコレですか、お姉ちゃん。
しかも実際に風香にお菓子をせびられたのは朝から合わせて5回目だ。
別にお菓子をあげることは嫌じゃない(というか帰り道でもらいすぎて食べ切れそうにない)のだけれど、さすがに言わなきゃ

ならないだろう。

「・・・お姉ちゃん」

「何さ史也」

「そんなに食べたらふとるぱんざさーどっ!?」

・・・せっかくの好意も必殺ライダーキックでむげにあしらわれた。
でも怒るってことは自分でもわかってるってことだよね?

「うるさーい! そんなこと心配されなくてもボクはちゃんと事故管理できてるからいーんだよ!」

だったら朝やってない宿題をボクからひったくって写さないで。

「それとこれとは話が別! ごまかそうとするなんて卑怯だぞ史也ー!」

「何をごまかそうとしてるのさ・・・・・・」

はぁ、とため息ひとつついて肩を落とす。
なんか今日のお姉ちゃん朝からテンション高いなぁ。

「とにかく! 普通なら史也はボクにお菓子を差し出さなきゃいけないトコロなんだけど!」

「絶対なんだ・・・・・・」

「でも今回はちょっとやり方を変えて、コレ!」

と、叫びつつ風香が取り出したのは二枚の紙切れ。
アレなんか字が透けて見え・・・

「覗くな――――ッ!」

「はぶぅっ!?」

かがんだところにかかと落としが振ってきた。
もう余計なことはしないでおこう。

「あたた・・・で、これがどうかしたの?」

「それを今から説明するの! ちゃんと聞きなよ史也!」

「はーい」

もう何だろうと構わないから早く終わらせて。
心の中でこっそりぼやいている史也の様子に気づくことなく、風香は得意げにない胸を張った。

「今から史也にはこの二枚のカードを引いてもらって、そこに書いてあることを実行してもらいます!」

カードっていうかただのノートの切れ端だけどね。

「もし史也がここに書いてあることをやりたくないというのであればー・・・・・・」

「あれば?」

「もうお婿にいけないようないたずらを朝までします!」

「何する気なの!?」

そんな悲痛な叫びも風香は完全スルー、ぐいっと手を突き出してさぁどっちか引け、と無言の圧力。
もうこうなったら言うことを聞くしかない。
まぁどうせお姉ちゃんのことだから「新しい服買え」とか「新作デザートおごって」とかそんなことだろうけど。
なんてことを考えながら、向かって右側のカード(風香談)をひく。
そこには。

『キス』

と、書かれてあった。
ちょっとその文字を凝視した後、こっそり風香の様子を伺うと、なにやら風香はもじもじ落ち着かない。
その一瞬の隙を突いて、史也はもう一枚のカードを奪い取った。

「あっ! こ、コラ史也!」

慌てる風香をよそに、その紙切れを開く。
そこに書かれていたのは、さっき史也がひいた紙切れと同じ『キス』の文字。
史也はにっこり笑いながら、ゆっくり風香を振り返り、両手に広げた二枚のカードを持って、質問。

「・・・お姉ちゃん? これ、どーゆーことかな?」

「う・・・・・・っ」

形勢逆転。
風香はただもじもじしながら「いやその」とか「うぅ~」とかうなっているだけ。

「・・・まったくもう」

そう小さくつぶやくが早いか、史也は最近ようやく身長を追い越した風香の体をぎゅっと抱き寄せる。

「――――ひゃっ?!」

思わず顔を上げた風香のお望みどおり、その口を自分の唇でふさぐ。
しばらくそうしていたあと、ゆっくりと唇を離すと、風香はぽーっと上気した顔で惚けている。
その顔を愛しげに見つめながら、微笑んで一言。

「・・・こんなことしなくても、いつだってキスくらいしてあげる。 僕は、お姉ちゃんが大好きだから」

そういわれた途端、風香は耳まで真っ赤にしてうつむき、何も言えないでいたかと思うと、

「・・・・・・・・・ばか」

と、憎まれ口。
でも史也にはわかっていた。
うつむいて隠した風香の顔が、幸せそうに微笑んでいることが。




・・・さてさて、仲良きことはよいことかな。
それでは皆さん、よいハロウィンを。
――――Trick or Treat。


くーぱる


ぴーぴーひゃららーぴーひゃららー。
と、なんかどっかで聞いたことあるようなあってほしくないような音楽がどこからともなく流れてくる街中を、

古は歩いていた。
中武研OBの先輩に頼まれて学園都市の外にある道場へ出稽古へ出かけていって、ちょうどその帰り道になる。
せっかく遠出したんだしそのまま帰るのもなんかもったいないアルなー、などと思ってそこらへんを不審者と勘

違いされて通報されない程度にぶらぶらしていると。

「お~~~~~い! くーふぇ~~~~~~!!!」

「ム? アレは・・・ハルナアルか」

馬鹿でかい大声を出して古のほうに駆け寄ってきたのは、麻帆良の歩く噂喧伝器――――失敬な、と本人は言う

が彼女を知る人間の大体の認識はコレだ――――、早乙女ハルナだった。
学園内でならともかく、こんな街中で出くわすとは予想GUYアルネ、とのんきなことを考える古。
この後とんでもない目に合うことなどもちろん予想GUYだ。
・・・ネタがくどいか。

「いや~ちょうどよかった、誰か顔見知りがいないかと思ってたんだよね~」

息を切らせてハァハァ言いながら(走ってきたので)、それでもハルナはどこか嬉しそうだ。
はて、一体何があったのか、と古が首をかしげていると、

「お願いくーふぇ! 買出し手伝って!」

古の手をがしっとばかりに握り、もんのすごい勢いで詰め寄るハルナ。
その鬼気迫る形相は、なんというか・・・少しばかり恐ろしいものがある。

「ちょ、ちょっと落ち着くアルよ、ハルナ・・・で、買出しって何を買うアルか?」

そのあまりの勢いに軽く引きつつ、とりあえず詳しい要件を聞き出そうとする古。
どうやら、同人誌の画材やら原稿用紙やらがなくなったのでちょっと買出しに出たまではよかったのだが、他に

も色々欲しいものが増えて到底一人では運べない計算になってしまったらしい。
ていうかそれなら欲しいものを我慢すればいいのに。

「駄目よ! もし今我慢したせいでもう二度とこないかもしれないチャンスを逃がすなんて私にはできない!」

「・・・そうアルか」

なんかとんでもないオーラを発しながら熱弁するハルナにもはや反論する気力もない。
まぁ自慢ではないが自分の腕力でなら大抵のものは運べるだろうし、別に断る理由もないか。
そう思った古は、二つ返事でハルナの頼みを快諾した。
・・・そこまでは、よかったのだが。

「・・・・は、ハルナぁ~~~・・・・・・・」

「んー? どしたのくーふぇ」

死にそうな声で呼び止められたハルナはふいっと後ろを振り返る。
そこには、両手どころか背中にまで大荷物を背負わされた古が気息奄々といった様子でへたりこんでいた。

「さ・・・・さすがにコレは・・・・オイラでもキツイアルヨ・・・・・・・」

座り込んで息を整えつつ、恨めしそうにハルナを睨む。
ところがハルナは悪びれた様子などかけらも見せずに、

「いやーゴメンゴメン! さすがにちょっと買いすぎだよねぇ、このとおり! 今回だけだから、お願いくーふ

ぇっ!」

ぱぁんっと勢いよく手を合わせて謝ってみせる、が、顔がそもそも笑っていてはあんまり謝られている気になら

ない。
しかしそこはバカイエロー・・・ではなく中武研部長として部をまとめる立場にある古、

「まぁ、オイラも引き受けてしまたアルし、最後まで頑張るアル」

と、気合を入れて荷物を背負いなおし、再び歩き出す。
お人よしというか単なるバカというか。
買出しをした店はさほど学園都市とは遠くなかったので、歩いて帰るのも修行になる、とでも考えていそうだ。
一方のハルナは小さな包みを抱えるだけでてくてくと普通に歩いている。
いや確かに君は女子で古は男子ですけどその差はないでしょうよハルナさん、などと突っ込む人間がいないのだ

から仕方ない。
ある意味今の女性優位な日本の現状を象徴している――――わけがない。
普段から割と要領のいいハルナと要領の悪い古だからこその状況だろう。
そうであると願ってる。

「ところでさー、なんでくーふぇはあそこにいたわけ?」

「ああ、中武研のセンパイに頼まれて出稽古に行った帰りだたアルネ」

ハルナが突然投げかけたいまさらな質問に律儀に答える古。
さっきほんの少しへばって休んだだけだが、その声には大分余裕が戻っている。
回復が早いのも達人の条件のひとつなのだろうか。

「へぇー、出稽古かぁ。 で、調子はどうだったわけ?」

「結構いい感じだったアル、負けなしネ」

「おお! そりゃすごいじゃん」

「いやいや、まだまだアルヨ」

「またまたぁ、謙遜しちゃって~コノコノ」

「わたた、こ、転ぶからやめるアル!」

「アハハ、ごめ~ん」

なんて、どうってことのない四方山話をしながら結構いい雰囲気で歩く二人。
よっしゃこれって結構キてるキてる!などと心の中でハルナはガッツポーズ。
一体何がどうキてるのかはハルナしかわからない。
ついでにいうと古はバカレンジャーなのでそんな空気は読めてません、あいたー。
さらにもひとつ言うと、確かに二人一緒に歩きつつ仲良さげに話してるだけならいい雰囲気もあるかもしれない

が、片方がとんでもない量の荷物を背負ったり抱えたりしていては台無しだと思われる。
まぁそのへんはきっと恋する乙女補正で無効なんだろう、きっと。
あるいは腐女子補正か。
・・・ハルナの場合は『どちらも』が正解かもしれない。
そして当の荷物運搬を(なし崩し的に)請け負いかつそんな空気は一切感知しえない古が、ふとハルナが大切そう

に抱えている荷物に目をやった。

「そういえばハルナ、ずっとハルナが持ってるソレは一体何アルか?」

「ん? コレのこと?」

包みを持ち上げて軽く振って見せ、ふふ~んと含みのある笑いを浮かべつつ中身を取り出す。
ハテ、一体何アルかね、とぽけーっと見ていた古の前に差し出されたもの、それは・・・

「・・・・・・? 毛糸、アルか?」

「ぴんぽーん、大当たり~」

そう、まごうかたなき毛糸玉。
よく見ると編み棒もセットになっている。
これ見よがしにそれらを見せ付けつつ、ハルナは『どうよ?』とばかりに胸を張った。
しっかーし。

「で、それで何するアルか?」

がくぅっ、と音がするくらい盛大にハルナはずっこけた。
そりゃもー吉本のベテランでもはだしで逃げ出すくらい綺麗に。

「あ、あのねぇ・・・・・・この時期に毛糸と編み棒買ってやることつったら決まってるでしょ――――ッ!?」

思わず絶叫するハルナ、が、しかし。

「アイヤ~、オイラバカアルからわかんないアルよ、スマナイアル」

ナハハ~、と古は苦笑い。
アータそれバカとかゆー問題じゃないんじゃないですかねと突っ込んでやってくれ誰か。
そんな古にため息をつきつつ、

「はぁ~~~・・・これだからバカレンジャーは・・・・・」

とぼやくハルナ。
いやだからそれバカとかいう問題じゃ以下省略。
ハルナは口を尖らせながら毛糸と編み棒を袋にしまいつつ、

「――――編み物よ、編み物。 手袋でも編もうと思ってね」

と、まぁある意味当たり前な答えを返す。
しかし古はさも感心した様子で、

「ほぉ~、ハルナって編み物できたアルか」

「それどーゆー意味よっ!?」

ハルナ、絶叫二度目。
多分ホント無意識で言ったんだろうがくーふぇさん、そりゃ失礼ですって。
ナハハ~と笑ってごまかす古に怒る気力も失せたのか、ハルナは顔を背けてせかせかと早足で歩き出す。

「あ、ちょっと待つアルハルナ、ごめんアル~」

慌てて追いすがろうとした古、普段ならすぐに何の問題もなく隣に並んでいただろう。
がっ。


かつんっ


「へっ・・・・・・・・?」

普段ならつまづくことなどありえない、小さな石ころ。
慌てていた古は、思わずそれを思いっきり踏んづけてしまった。
そうなればもちろん体のバランスは崩れるわけで。
普段ならすぐに整えられる体勢も、両手と背中にどでかい荷物を抱えてればそうもいかないわけで。
そのまま両足が宙に浮いて支えるものが何もなくなった古の体は荷物の重みで急速に地面に吸い寄せられ、そし

て――――――――


びった――――――――ん!!!


「へぶぅぅぅっ?!」

顔・面・直・下。
いやーいい音した、クリティカルヒットですね。
・・・ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ。
機嫌を悪くして勝手に先行していたハルナが、突然背後で鳴ったただならぬ音に思わず振り返る。

「ちょっ・・・・・・くーふぇ大丈夫?!」

慌てて駆け寄り荷物をどけ、くーふぇを抱き起こしたものの、

「きゅ~~~~~~・・・・・・・・」

「くーふぇ――――――――――――ッ?!」

顔全体が、こう、べたーんとつぶれた感じの悲惨な状態になってしまった古は、そのまま気絶した。




――――しばらくして、古は自分の額に何か冷たいものが乗せられているのを感じて目を覚ました。

「・・・・・・・ん・・・・・・・?」

「あ、気がついた?」

ゆっくり目を開けると、目の前には自分の顔を心配そうに覗き込むハルナの顔が。
どうやら、倒れた場所の近くにあったベンチで寝かされているらしい。
額に手をやると、ぬらしたハンカチらしきものが触れた。
おそらく、気絶した後でハルナが乗せてくれたのだろう。

「面目ナイ・・・オイラとしたことが、油断したアルヨ・・・・・・・」

眉根をよせ、心底申し訳なさそうに言う古に、ハルナは笑って答える。

「何言ってんの、私が無茶させたせいなんだから、謝らなきゃいけないのは私のほうだってば」

ホントそうですね。
普通ならこうなるところだが、そこはくーふぇである。

「イヤ、オイラがきっちり責任持って運ぶと言ったのにあんなに派手に転んでしまたアル・・・きっと中身も駄目

になってるアルよ・・・・」

「だーいじょぶだって、私が一通り見てみたけどどってことなかったから」

「ホントアルか?」

「ホントホント」

それを聞くと、古は心底安心したように笑った。
が、このまま寝ているわけにも行かない。
今気づいたが(いまさらともいえるが)、自分は今ハルナに膝枕されている状況であって。
もう少し横になりたいのは山々だが、このまま膝枕されているのはさすがに恥ずかしい。
何より荷物もこのままにはしておけないし。
そう思った古は起き上がろうとした、が、しかしハルナに無理に寝かしつけられた。

「ダーメだって、まだ動いちゃー。 もう少し大人しくしてなよ」

そんなこと言われても膝枕は恥ずかしいですハルナさん。
なんて古が言えるわけもなく。

「い、イヤ、荷物が・・・・・・」

と、当たり障りのないあたりのことを言ってみる。
しかし結果は、

「いいっていいって、さっき夕たちに来てもらって持っていってもらったから」

「あ、そうアルか・・・・」

やっぱり駄目でした。
なんとかこの状況(膝枕@ハルナ)から逃れたい古にとって、その心遣いはあまり喜べない。
まぁコレにはハルナのほうにも事情があって、実は資料と称して関係のないお菓子やら本やらDVDやらまで大

量購入した結果があの大荷物なので、それがバレるのはなんとしても避けたかったのだ。
もちろんお互いのそんな心のうちを知る由もなく、二人は見つめあうような格好になって、慌てて目をそらした


古は自分の目の前に広がる公園の風景、ハルナは街の明かりにも負けずに輝く星空を、しばらく無言で見つめて

いた。
そして、そんな沈黙を先に破ったのはハルナだった。

「・・・・・・ねぇ、くーふぇ」

「ん、何アルか?」

目を合わせないまま、古が応じる。
ハルナのほうも、空を見上げたまま、普段のにぎやかな声とは違った、静かな声で話を続ける。

「学祭のとき、さ。 一緒に大分暴れたじゃない、覚えてる?」

「もちろんアル。 ハルナのおかげで随分助かったアルよ」

「またまたぁ、うまいこと言って」
二人が言っているのは、学祭最終日、茶々丸三姉妹(仮)の足止めを買って出たときのことだ。
色々あったが、今ではいい思い出、と二人の間ではなっている。

「あのときは私も必死だったからさ、あんまよくわかんなかったんだけど、くーふぇ、あのとき、私が怪我しな

いように守っててくれたんだよね」

今度は、古は答えない。
確かに自分はハルナが傷つかないように動いたつもりだけれども、あのとき、ハルナは自分の能力で十分に身を

守れていた。
それに、わざわざ自分からそれを肯定するのは、恩着せがましい気がして、なんとなくしたくなかった。
そんな古の様子に構わず、ハルナは続ける。

「それで、さ。 あの後すぐは私も『なんだ私だって戦えるじゃんこりゃスゴイわうひゃひゃひゃひゃ』ってな

感じで調子乗っちゃってたんだけど」

「どんな感じアルか・・・・・・」

思わずもれた古の呟きはスルーして、ハルナはさらに続ける。

「でもさ、だんだんわかってきたのよ。 私一人だったらあんなことできない、くーふぇがいてくれたから、ち

ゃんと戦えたんだって」

「・・・・・・・」

古は何も言わない。
なんとなく、口を挟んではいけないような、そんな気がしたから。

「でね、なんでか知んないけど、そのあとはずーっとくーふぇのことばっか考えてんの。 おかしいねぇ、古は

ただ強いから弱い私をかばってくれただけなのに」

そんなつもりはなかった。
ただハルナに傷ついて欲しくなかったから守っただけだった。
そういおうとして顔を上げたところで、ハルナと目があった。
その目は「もう少しだけ、聞いていて」といっていた。

「でもね、そう思うんだけど、どうしても頭から離れないのよ、くーふぇのことが。 で、大分考えて考えて、

出た結論――――なんだと思う?」

真顔で問われる。
そういわれても皆目見当がつかない。
元より人の心には疎い古だからそれも仕方ない。
そんな古の戸惑いを読み取ったのか、ハルナが微笑む。
『大丈夫、心配しないで』――――そういわれたような気がした。

「じゃあ、教えてあげよっか、くーふぇ。 その答えってのはね・・・・・・・」

そこで言葉を切って、だんだん顔を近づけてくるハルナ。
答えは何だろう、とのんきにその顔を眺めていた古だったが、さすがに様子がおかしいことに気づいて、慌てて

身体を起こそうとする。
が、遅かった。

「・・・・・・んっ・・・・・・」

「むぐっ・・・・・・・・・!?」

ハルナに唇を重ねられ、固まる古。
ゆっくりと唇を離し、さっきよりも赤くなった顔でにこっと笑い、「ハイ、これが答え」と宣言するハルナ。
ただただあっけに取られていた古の顔が、みるみる赤く染まっていき、それを隠すかのようにうつむいてしまう


あの、とか、いや、とかそんな言葉がもごもごと口から漏れ出るものの、なかなかまとまらない。
そんな古の様子をこれまた赤い顔で見つめながら、それでもハルナは笑っている。
無理やり気持ちを落ち着かせて、かすれる声を無理やり絞り出すようにして、古は言う。

「エ、エト、それってつまり、ハルナはオイラのこと、す、す・・・・・・」

駄目だやっぱこっから先無理。
自分の不甲斐なさに腹を立てながら、また口ごもってしまう古。
そんな古の心を知ってか知らずか、ハルナはそっと古に抱きついて――――これがまた古の脳内でパニックを起

こさせるわけだが――――静かに、しかしはっきりと。

「・・・うん、私はくーふぇのこと、好き、だよ?」

言った。
こんなときにどんなことを言うべきかなんてのは、もちろん拳法の修行では習うはずもなくて。
それしかやってこなかった自分はどうしていいかわからなくて。
そんな古にできたのは、ハルナの身体を抱きしめるだけ。
でもハルナは、それで十分といったように、幸せそうな顔をしていた。
そして、そんな二人の頭の上を、一筋の流星が流れていった。








・・・・・・・一方そのころ。

「・・・遅い! ハルナは一体何やってるですか、人にこんなものを運ばせておいて・・・」

「ま、まぁまぁ夕、ハルナも何か事情があるんだろうし・・・」

「それにしたって遅すぎます! もうどれだけ時間が経ってると思って――――」

『すぐ帰る』といったままとんと戻ってこないハルナにご立腹の夕と、それを懸命になだめるのどか。
ある意味一番災難だったのは、急に呼びつけられて重い荷物を運ばされたうえに未だに待ちぼうけを食わされて

いるこの二人、かもしれない。
・・・お後がよろしいようで。


釘男(円♂)×美砂


「ヘイ円! これなんてどーよ!」

画面を高速で動き回る敵に意識を集中していた俺の後ろからけたたましい声が響く。
すぐに反応しないとゴネてうっとうしいんだがとりあえず今はパルヴァライザーのブレードを避けて一撃叩き込

まないと終わらないのでそっち優先。

「・・・ねぇ円ぁ~、こっち見てよ~ねぇ~、ほらほら~」

「あー待て待てあと一撃・・・っしゃ!」

俺の機体の射突型ブレードがパルヴァライザーをぶち抜きようやく撃破。
ふぅ、なかなかの手強さだったぜ。

「むぅ~私の艶姿よりゲームのほうが大事だっての? つーか何でいまさらラストレイヴンなのよ・・・・・・」

「いいだろ別に、PS3で4が出るっつったって買えねぇし・・・・・・どわっ?!」

画面から目を離して振り返った途端、思わず叫んで座ったまま飛びずさる。
いきなりそれは失礼だろ円さんよぉとか言う前に美砂の格好を見てくれ、誰だって俺と同じ反応をするはずだ。

「どう? 似合うっしょ!」

いぇーい、とポーズを決める美砂が着ているのは、いわゆるナース服。
お前どっからそんなマニアックなもん手に入れたんだ。

「ふふふ、女子には男子には永久にわからない特別のつながりがあるのよ円クン」

ぬふふー、と意味ありげに笑う美砂。
まぁコイツはなんでもないときでもなんでもあるみたいにいうから別に気にしなくてもいいだろう。
それよりも。

「あーはいはいそうですか。 で、なんでまたそんな奇っ怪なカッコしてんだよ」

大事なのはコレだ。
相部屋になってから大抵の馬鹿な真似はしてきたコイツだが――――いいたかないが女装もさせられた――――

、まさかコスプレまで趣味に増えたとは聞いてねぇぞ。
させるのが趣味なのは前からだけどな。

「奇っ怪って何よ、失礼ねぇ・・・・・・なんでもいいじゃない、それよりどう? 色っぽい?」

いやなんでもよくねぇから聞いてるんだよ美砂さんよぉ、と言ってもスルーだろうこいつは。
てゆーかいちいちしなを作ってポーズを取るな。

「色っぽいも何もあるかバカ。 いーからさっさと着替えて来いって」

「えー、なんでよー」

「いいから黙っていけ!」

そばにあったクッションを投げたのをひょいっと避けて舌を出し、風呂場に直行する美砂。
そうそうそれでいいんだよバーロ、と思いつつコントローラーを手に取った瞬間、

「・・・美砂美砂ナース、美砂美砂ナース、生麦生米」

「黙れ腐女子!」

いい加減にして欲しいぜ、まったく。
その後、美砂がシャワーを浴びる音を遠くで聞きつつ、俺は最終ミッションをクリア。
コレでようやく全ルート制覇だ。
で、その後隠しミッションに挑んで散々にボコられてふてくされて終了。
そういや腹減ったなぁ、と思ったあたりでふと気づいた。

「・・・・・・・あれ? 桜子は?」

確か俺がゲームを始めるまではいたはずなんだが。
さていつの間に消えたのやら。

「桜子なら『今日はちょっちハルナんとこではっちゃけてくるよーっ!』とか行って出かけたわよ」

「あっそ、ならいいか・・・・・・・ってよくねぇよ何だそのカッコ!」

思わず吼える。
あ、一応言っとくけど桜子がはっちゃけるのがよくないわけじゃない。
よくないのは風呂上りに体もちゃんと拭かずに出てきた美砂のカッコだ。
どんなかというとただ単にYシャツ着てるだけなんだが・・・それだけなんだ。
あーいや悪かった今の言い方だとわかりにくいなスイマセン。
何をとち狂ったのか美砂のヤロウ俺のYシャツ(もちろんブカブカ)着ただけであとは素っ裸で出てきやがった。
下着?そんなもん確認できるか!
つーかなんで今日に限ってこいつはこうもわけのわからん格好をする!?

「ふふふ、どうよ円・・・これぞ男の夢、裸Yシャツって奴よ!」

「勝手に間違った思い込みで行動してんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」

いや確かにその意見には同意だけどな!
でもいきなり実行されても反応に困るんだよ!

「えーノリ悪いなぁもー円クンはぁ。 グッと来ない? 湯上り美人の裸Yシャツなんてそう拝めないよ?」

そう言いつつ体をかがめる美砂。
ヤバイ第2ボタンまで開けてるから胸が、胸がッ!
必死で意識をよそに向けつつ無関心を装ったことを言ってごまかそう。
気取られたら調子に乗られること間違いなしだからな。

「よく自分で美人とか言えるなオイ」

「さぁ何のことかな? ていうかホントなんとも思わないの? もしかしてホ」

「その先言ったらぶちのめすぞ」

「やぁ~ん円クンこわぁ~い」

「気色悪い声出すな! いいからさっさとまともな服着て来い風邪ひくぞ!」

「ふぁ~い」

つまらなそうな生返事をしつつ風呂場へ戻る美砂。
その背中に『次妙なカッコしてきたらそのまま窓から投げ捨てるからな』といおうとして即やめる。
いやなぜかって後ろを向いた美砂のYシャツのすそからまぁ・・・・・・・アレだ悟れ。
まずとりあえず俺がしなきゃいけないことは・・・・・・
・・・血の気治めようか、うん。
しばらくうずくまって安静にして普通の状態にしてから(何をとか聞いちゃいけないんだぜ子供達)、とりあえず

台所へ。
腹減ったので手っ取り早く食えるもんないかな。
・・・ねぇんだよないつもこういうときに限って!
カップ麺も切らしてるし冷凍食品も壊滅状態とかどうなってんだ。
まぁ愚痴ってても仕方ないので適当に冷蔵庫の中に転がってる野菜とウィンナーあたりを引っ張り出して適当に

刻み、冷凍してあった飯を解凍してフライパンに叩き込んだところにまとめて放り込んで一気に炒める。
味付けは適当に塩コショウとあとソースあたり突っ込んで微調整。
ハイコレで円特製焼き飯の出来上がりー。
生活感に欠けるバカ女二人と同居してる俺にとって今日みたいな状況はよくあるので結構コレには世話になって

たりする。
残ってる具材によって味はあんま保証されないのが難点だがな。
まぁ今日は結構まともな食材だったから大丈夫だろう・・・多分。

「ん・・・・・・ふぁ~いい匂い、ねね、私の分は~?」

俺が焼き飯を皿に盛ってさぁ食おうというナイスタイミングで風呂場から顔を出したのは美砂だ。
つうか他に誰もいないんで他の誰かが顔を出しても困るんだが。

「ったく、こういうときだけは行動早ぇよな・・・フライパンに残してあるから適当に食え」

「はいはい、さんきゅ~♪」

てててーっと台所まで足早に移動する美砂。
着ているのは上下おそろいのチェックのパジャマ。
ようやくまともなカッコで出てきたので軽く安堵。
つってもそれも俺のなんだけどな、中1のときの奴。
まぁ美砂にはちょっとでかいくらいでちょうどいいらしいからいいんだが。
俺としては目の前の焼き飯に手をつけるのを待つ義理はないし冷めたらせっかくの飯がまずくなるので早く食い

たいがそうすると美砂がほぼ100%拗ねだすので待機。

「うっひゃ~いい匂い・・・こりゃおいしそうだわ」

TVのスイッチを入れて今日のニュースの二つ目に差し掛かったあたりで美砂が席に着く。
皿が熱いのか袖口を手のひらのところまで引っ張って皿を持っている。
・・・自分でも不思議なんだが、いつも妙に大人ぶったような雰囲気の美砂がこのパジャマを着てるときだけなぜ

か子供っぽく見える。
皿置いてスプーンですくって食えばいいのに皿持ったままふーふー息を吹きかけて冷ましてる顔といい、ぺたん

と座った格好といい。
着てる服が俺がもうちょいガキ――――まぁまだガキだけどさ――――のころ着てた奴だからそんときの自分が

重なって見えるのか?

「・・・・・・ん? どしたの円、私のほうばっか見て」

「え・・・あ、いやなんでもねぇ」

ちょっとボーっとしすぎてたらしい。
知らない間にじっと美砂の顔を見つめてて、それに気づいた美砂がきょとんとしている。
なんでかは知らんが顔が妙に熱くなってるのをごまかすために目の前の飯をかっこむことに集中する。
美砂のほうはしばらくポカーンとしていたが、俺がガツガツ食ってるのに触発されてこちらもすごい勢いで飯を

口に運んでいる。
俺と美砂が皿を空にするまで、その場に流れていたのは誰も聞いていないニュースの音だけだった。

「ぷはぁ~、ごちそうさまぁ」

「ごちそうさま・・・ってお前皿自分で持っていけよな」

飯を食い終わったのはほぼ同時、しかし皿を持って立ち上がったのは俺だけで、美砂はそのまま腹をさすって満

腹休憩モード。
まぁいいか、後で自分で持っていくだろ、と思った俺が台所へ行こうとした、その一瞬。
かちゃん、という音を立てて美砂の皿が俺の皿に重ねられた。

「・・・・・・・・」

「んじゃ、お願いね円っ(はぁと)」

(はぁと)じゃねえ、自分で持っていけコノヤロウ。

「いーじゃん別に円も自分のお皿持っていくんだしさぁ。 男の見せ所じゃない」

「どこがだよ・・・ったく」

文句を言いながらもそれ以上の無理強いはせずに台所に持っていく。
ここで何を言っても聞かないのは経験上よーくわかってるからな。
・・・アレ、もしかして今までここで粘らなかったから聞かなくなってるのか?
まぁいいか、どうせ手遅れだ。
皿とスプーンを適当に流しに放り込み(特に他に洗い物もないので明日の朝まとめてやる)、なんとなくTVの前

へ。
意味もなく流れていくニュースに突っ込んだり美砂の天然というか非常識な反応を訂正したりするうちに夜が更

けていく。
ふと時計を見るともう大分遅い、そろそろ寝なければ明日悲惨な朝を迎えることになる。

「おい美砂、俺そろそろ寝るわ」

そういって先に自分の部屋に行こうとした――――のだが。

「・・・・・・・」

「・・・なんだよ」

なぜか、俺の服のすそを美砂が引っ張って離さない。
俺がジト目で見下ろすと、美砂は上目遣いで俺を見上げてくる。
こうなるとどっちが勝つかは忍耐力次第――――とはならないんだよなコレが。
とりあえずパジャマでクッション抱いてうるうる上目遣いされて平然と対応できる人間がいたら俺に教えてくれ

、コツが聞きたい。

「・・・あーもー、用があんならさっさと言え。 あんま夜更かしすっと寝坊すんぞ」

たはぁー、とでかいため息をついて頭をかきながら、敗北宣言。
いつもならココでにまーっと憎たらしい笑顔になる美砂が、どうしたことか今日はなにやらそわそわと。
俺としてはさっさと済ませて寝たいんだが。

「んーっと・・・あの、さ・・・・・・」

「何」

早く言ってください、眠いんです。

「・・・一緒に、寝よ?」

「――――――――ハイ?」

思わず聞き返す。
だってどう考えても今聞こえちゃいけない単語が聞こえた気がしなかったか?
しかし美砂は相変わらず目を背けたままで、

「ほ、ほら今日桜子いないじゃん? さっきメールで今日は帰れないって言ってきてさ、いつも私と桜子おしゃ

べりしながら横になってるんだけどひとりだと落ち着かないし、なんか寂しいから今日だけちょっとわがまま聞

いてくんないかな?」

わがままなら毎日聞いてますが・・・ってそんな問題じゃねえわな。
つうか寂しいって・・・中3にもなってそれはどーよ。
けれどそんな文句は、あのなぁ・・・と頭をかきながら美砂のほうを見たときにはいえなくなっていた。

「・・・・・・・・・・・」

美砂は今まで見たことないぐらい真剣で切実な眼差しでこっちを見つめている。
もうなんていうか待てコラそれ反則じゃねーのかよっていうくらい破壊力が。
こうなると後の展開はさっきの皿運びと同じ展開になるわけですよ旦那。誰に言ってる。

「だぁぁぁぁもうわかったわかった! 一緒に寝りゃいいんだろ寝りゃ! ただし絶対妙な真似すんなよ?!」

まくし立てるようにそういって、足音高く風呂へ向かう。
いやだってまだ入ってないし。
まぁちょっと頭冷やせばアイツもきっとけろっとした顔してるだろうさ。
そう願ってたんだが。

「・・・・・・・」

「あ、円。 ちょっと長風呂すぎない? 大分待ちくたびれちゃったんだけど」

残念ながら、風呂から上がって部屋に入った俺の目に飛び込んできたのは、俺のベッドの上にぺたっと座って枕

を抱いている美砂の姿。
あー考え直してくれなかったんだ・・・と軽く落ち込む。

「どしたの円、そんなとこで突っ立って」

「・・・とりあえず、俺はお前の思考回路を整備してくれる人間を探したい気分だよ」

「何よソレ」

わからなくていいよもう。
俺としては一緒のベッドで寝ることだけは断固避けたかったんだが二度あることは三度あるのおねだり眼力ビー

ムに負けて仕方なく同じ布団に。
しかしさすがに向かい合って寝るような勇気はないので美砂に背中を向けて全力で意識を目の前の壁に集中する


そうでもしないと背中のほうから伝わってくる普段は有り得ないぬくもりがもうどうにもこうにも。
が、美砂はそんな俺の必死の努力もあっけなく無意味にしてくれた。


ぎゅうっ・・・・・・・!


「なっ、ななななな?!」

いきなり背中から抱きつかれた。
おま何をどう血迷えばこんなことができんだよあああヤバイなんかすげぇあったかいぎゃあああ背中にやわらか

いものがあああああああああ。
一瞬で脳内が1000%スパーキングした俺の背中に、美砂が小さく呟く。

「ごめん・・・ちょっとこのままいさせて」

その声が、いつもの美砂とは全然違う――――暗い、沈んだ声だったことにぎょっとした。
振り返ろうとするが、きつく抱きつかれてるせいでそれもできない。
仕方がないから、壁を見つめたまま、美砂を問い詰める。

「・・・どうしたんだよ、らしくねぇな」

俺がそう言うと、美砂はびくっと一瞬震え、しばらく黙っていた後、その場にそぐわない明るい声で話し始めた

「あ、アハハ・・・いやー実はこないださぁ、彼氏に振られちゃって。 なんとなーくヤバイなーとは思ってたん

だけど案の定、他に好きな人ができたから別れてー、だってさ。 いやー手もつなげなかったよ、私としたこと

が。 しくじっちゃった、アハハ」

「・・・・・・・」

「や・・・やだなぁ円、そんな黙らないでよぅ。 別に全然気にしてないって、よくあることだよ」

何がよくあること、だ。
本当にそう思ってるんだったら――――なんで、俺の体に巻きついてる腕が、こんなに震えてるんだよ。

「・・・ったく、バカが・・・・・・」

腕の力が緩んだスキを見計らって、美砂のほうに向き直る。
驚いて俺の顔を見上げた美砂の顔は案の定、涙でぐしゃぐしゃだった。
その頭を少々乱暴に抱え込む。

「わっ・・・円?!」

思わず声を上げた美砂を無視して、その頭をきつく抱きしめる。
面と向かって言うには、これから言うことは照れくさすぎるから。

「――――あのなぁ、いっつもいっつも気ぃ使わずに好き勝手やってるくせに、変なときにだけ気ぃ使うんじゃ

ねぇよ。 一体どんだけ一緒にいたと思ってんだ。 ムカついたら怒鳴れ、泣きたかったら泣け。 いくらでも

聞いてやるから」

「円・・・・・・・」

「今日変なカッコして色仕掛けみてぇなことしたのも無理してたんだろ。 ・・・んなことしなくたっていいんだ

よ、どんだけ泣こうが喚こうが、俺は怒ったりしねぇから。 それよりも、お前がそんな風に無理して我慢して

るほうが腹立つっつーんだ」

「・・・・・・・・」

美砂は何も言わずに、震えている。
別にコレで俺がどう思われようが構わない、俺の言いたいことはこれで全部だ。
でも、抱えた美砂の頭は離さないで、そっと撫でてやる。
なぜかって?
泣いてる奴の顔を無理に見るような真似はしたくねぇからだよ。

で、しばらくして。

「・・・美砂ー? おーい、美砂ー?」

「・・・すぅ、すぅ・・・・・・」

・・・寝ちまってるし。
ずっと撫でてた手を止めて、ちょっと美砂の体を離す。
意外とすっきりしたって感じの寝顔には、泣いた後がばっちり残っていた。

「あーあー・・・ぼろぼろじゃねえか、ったく」

ため息をつきつつ、もう一度美砂の頭を抱きかかえる。
いやホラやっぱ雰囲気的にこのままぽーいと放り出すわけにもいかないしさ?
正直俺も大分疲れたので、そろそろマジで寝させてもらおう。

「・・・お休み、美砂」

眠っている美砂にだけ聞こえるくらいの小さな声で、そう呟いて、眼を閉じた。


で、翌朝。

「円~~~~っ! 急ぎなよ、遅刻するよーっ!」

「うるせぇ! だったらもっと早く起こせっての!」

だぁぁぁぁもうやっぱ昨日あんな真似するんじゃなかった!
おかげで俺は思いっきり寝過ごして遅刻ギリギリ、しかも憎たらしいことに美砂はさっさと起きて自分の準備は

全部済ませている。
とりあえず顔に水ぶっ掛けて歯磨いて着替えながらトースト口に放り込んで・・・ってぎゃあああ間に合わねぇぇ

ぇぇぇぇぇ!

「もー、何やってんのよ円! のんびりしなーいっ!」

「だぁぁぁやかましい! 誰のせいだ誰の!!!」

「えぇ~? 寝坊したのは円クンの責任でしょ~?」

こ、コノヤロウ・・・・・ッ!

「ま、昨日のことは感謝してるけどね・・・おかげでずっと片思いの相手にアタックする勇気出たし」

「はぁ? なんだそりゃ」

時間がないのも一瞬忘れて呆れる。
だってお前・・・なぁ?
振られたーッ!って泣いてた奴が実は他に片思いの相手がいましたとかそれなんてご都合主義。

「いやーずっと叶わないなーと思って諦めてたんだけど・・・昨日の円の話聞いたら頑張ればなんとかなりそうな

気がしてさ」

ああそうですかそりゃよかったですね。
とりあえず時間がないのでちょっと失礼しますよ。

「あーん、ちょっと待ってよ円ぁ。 誰が相手なのか気になんないのぉ?」

「気になんないしそんな余裕もない」

実際もうマジ時間ヤベェし。

「そう言わずに気にしてよ~ねぇねぇ~」

「あーハイハイわかりました誰なんだろうね気になるなー」

と、投げやりに返事をして、ふと美砂のほうに振り返る。
その瞬間。


――――ちゅっ。


「・・・・・・・はっ?」

えーっと・・・今のってもしかして・・・・・・キスって奴ですか?
でも何でそうなんだよ、確か今の話題って美砂の片思いの話だよな?
え、ちょっと待ってマジわけわからんどゆことどゆこと?
突然の出来事に俺の脳内処理機能が追いつかない。
そんな俺に向かって意地悪く笑って、美砂が言う。

「――――今のが答え。 コレでわかんないとは言わせないよ?」

呆然とする俺の横をすり抜け、ドアの外へと出る美砂。
俺は思わず目で美砂を追い、ドアからひょこっと顔をのぞかせた美砂を目が合う。
美砂は俺に向かってにっこり笑って、そして――――――――

「・・・もう、我慢しないから。だから、全部全部受け止めてよね――――円」

そういうと、さっさと走って登校してしまった。
残された俺は、しばらくぽけーっと立っているのがやっとだった。
もちろん学校には遅刻、おかげで新田にえらい目に合わされた。
だけど、なんでだろうな。
――――どうしても、顔がにやけちまうんだ。


龍宮♂と刹那♀

やけに寒い日というのは、いつも崩して着ている制服を正しく着服させる効果がある。

と思うのは俺だけだろうか?
朝からくだらない事を考えながら寒空の下、学校へと向かう。

今日の仕事は何だったか。
楽しくもなんともない予定を白い息を見つめながら思い出していた。


「龍宮ー!」

しばらくすると後ろから誰かが追いかけて来て、ちょこんと俺の隣にやってきた。

「刹那、か」

「あぁ、おはよう」

「おはよう」

相変わらず小さい奴だ。
ちょろちょろ動き回っては隣にきて。
こんな奴が戦闘に参加するなど誰が思うだろうか。

「なぁ龍宮、今日の放課後私に付き合ってくれないか?」

「…?構わないが」

「決まりだなっ」

一言呟いて手を差し出された。
その手を握り返すととても冷たくて、少しためらったがそのまま自分のポケットへ突っ込んでしまった。

「た、龍宮ぁ!?」

「ん。な、なんだ…その、寒いだろ」

自分でした事なのに次に何したら良いのかわからなくなってしまった。
我ながら情けない。

「龍宮。あのだな」

「何も言うなっ」

ひたすら前をむくしかなくなってしまった。
仕事仲間といえど女の子の手をだな、うむ。

黙り込んでしまった俺に刹那はどう思ったのか。
少し手を握り返された、気がした。

「あーもう、放課後は別の事しよう。予定が狂った」

「?」

「た、誕生日おめでとう…」

一瞬キョトンとしてしまった。
元々俺より小さいから顔をふせられると表情が読み取れなくて…
かといって覗き込む訳にもいかず。
しょうがないから俺も一言だけ呟いて置いた。

「こんなぶっきらぼうに祝いの言葉を貰ったのは初めてだよ」

と。


寒いからといって天気が悪いわけじゃないさ。
こんな朝も悪くはないさ。


双子SS(風太史伽)

暗い山道を、一歩一歩確かめながら上っていく。

「史伽、転ぶなよ」

「わ、わかってるです・・・あうっ!」

あーもう、言ってるそばから。
小石か何かにつまづいた史伽の手を引っ張ってやって、服についた泥を払う。
昔はこの後に泣いてる史伽を泣き止ませる仕事があったけど、さすがにそれはなくなったなぁ。

「大丈夫かよ?」

最後に足元のほこりを落としながら尋ねる。
見た感じひねったようには思わないけど、変に負けん気の強い史伽だから、やせ我慢して隠してるかもしれない。

「う、うん・・・大丈夫」

すまなさそうに口ごもる史伽の顔をじっと見る。
もし嘘ついてたら目がふらふらするからすぐわかるんだけど、そんなことはないから多分ホントに大丈夫だろ。

「そっか」

そうつぶやいて、また先に立って歩き出す。
今度は、さっきよりも足元に注意する。
そして、史伽が転びそうな石ころや草なんかを少しでも史伽が歩きやすいように足でどけていく。
そのおかげかはわからないけど、史伽はそのあと、一度も転ばずに世界樹の丘のてっぺんにたどり着いた。
先に世界樹の根っこのところに座っていた俺のところまで走ってくる史伽。
転びやしないかとはらはらしたけどぎりぎりセーフ、何回か危なかったけど。
少し息を整えてから、史伽が俺の隣にぺたんと座る。
えへへ、とはにかんだ顔でこっちを見るのはいつもの史伽の癖だ。
ずっと一緒にいるけど、こうする理由だけはどうしてもわからない。
まぁ、どうってことないからいいんだけど。
しばらくそうして俺のほうを見たあと、やっと今日俺が夜中に史伽を連れ出した“理由”に史伽が目をやった。

「――――わぁ・・・・・・・っ!」

次の瞬間、史伽の口から出たのは、大きなため息のような声。
まばたきするのも忘れて、大きな目をまん丸にして、世界樹の下に広がる学園都市を見下ろしている。

「どうだ? すげぇだろ」

へへっ、とちょっと得意げに笑う。
最初にこの景色を見つけたのは、ちょっといたずらを仕掛けたのがバレて、ハルナ達から逃げ出したとき。
思いっきり走ったせいか、今と同じ場所に座った後、どうにも眠くなって、沈んでいく夕日を見ながら、ついうっかり居眠りした。
冷たい風が吹いたのがきっかけで目を覚ましたとき、俺もさっきの史伽と同じような声をあげて、この景色に見入ってしまった。
冬、空気が澄んできて、暗いこの世界樹の丘からだと、星がよく見える。
それなのに、世界樹の下には、学園都市の明かりが地上の星みたいにキラキラと輝いている。
空の星と、地上の星。
まるで小さいころ夜店で見た色とりどりのガラス玉をばらまいたみたいな、そんな気分になる、綺麗な景色だった。
あんまり綺麗だったから、最初は自分だけの秘密にしようかとも思ったけど――――やっぱりやめた。
ずっとずっと一緒だった、誰より大切な史伽には、秘密になんてしたくなかったし、する意味もないと思ったから。
だから今夜、俺は史伽を連れ出してここに来た。
何気なく、隣の史伽を見る。
史伽は、宝石みたいに目をキラキラさせながら、ずっと景色に見入っている。
大分喜んでるみたいだ――――よかった。
俺がそんなことを考えたとき、ふと史伽が顔を下ろして、ぽつりとつぶやいた。

「・・・お兄ちゃん、すごいです。 こんな素敵な場所、見つけられるなんて」

「だろ? 楓姉だって知らないぜ、きっと」

「うん・・・ホント、すごいです」

口ではそういってるのに、史伽の顔は段々下がっていくばかり。
声もなんだか暗い、どうしたんだろ。

「お兄ちゃんは、いたずらとか、色々考えたり、あちこち新しいところに出かけていったり、何でも自分でできるのに・・・私は、お兄ちゃんについていくだけで、精一杯だね」

抱え込んだ足の間に顔を隠して、ぽつりぽつりと、史伽が言う。
肩が震えてるのは、寒いせいじゃないと思う。

「私、もっと、お兄ちゃんの役に立ちたいけど、何すればいいか、わかんないです」

段々弱く、震えていく声でつぶやく史伽。
何言ってんだよ、料理とか掃除とか、お前のほうが俺よりうまくできること、一杯あるじゃん。
そういうのは簡単だけど、簡単すぎて、意味がない気がした。
じゃあどういえばいいんだろう、そう思って考えたけれど、いい言葉が思い浮かばなかった。
――――だから、小さいころ、泣いてた史伽にしてやったみたいに、史伽の頭を抱えるみたいにして、ぎゅっと抱きしめた。
ほんの子供のころから、ずっと変わらない、この感じ。
ちょっとだけ背が高い俺が、史伽を見下ろすみたいになるのも。
泣いてる史伽が、俺に心配をかけないように、絶対俺の顔を見ないのも。
昔と変わんないや、そう思ったとき、ぱっと懐かしいシーンが頭の中に浮かんだ。

「・・・なぁ、ずっと小さかった頃ってさ。 俺もお前も、どっちが上だとか下だとか、そんなの全然気にしなくてさ。 一緒に遊んで、一緒に泣いて、一緒に怒って。 兄妹ってよりは、仲のいい友達だったよな」

「・・・」

こくん、と小さくうなずく史伽。
なぜか、無意識のうちに俺の顔がほころんでくる。

「でさ、いつだったか、遊びまわって帰ってきたら、母さんいなくて。 家中探し回ったけどどこにもいないってわかったら、俺が泣くより先にお前がわんわん泣き出したことがあったんだよ」

「・・・覚えてる、です」

「え? ホントかよ、俺絶対忘れてると思ったのに」

「ひ・・・酷いですー! 私、そこまでバカじゃないもん!」

あはは、怒った怒った。
怒る元気があるなら大丈夫だな。

「ごめんごめん・・・それでさ、俺だってどうしたらいいかわかんなくて泣きたかったのに、お前が先に泣いちゃったら、なんでかわかんないけど『泣いちゃダメだ』って思ってさ・・・そんで、必死になってお前のこと泣き止ませようとしたんだよ」

「・・・うん」

寄せていた眉根を開いて、でも俺のほうを見たまま、ひとつうなずく史伽。
その目をちゃんと見つめたまま、話を続ける。

「で、お前がなんとか泣き止んで、それでもまだぐずってたからテレビつけて。 また泣き出したらたまんないから番組見ながらわぁわぁ騒いだりしてたら母さん帰ってきて。 そんときお前がなんて言ったか覚えてるか?」

「え・・・? え、えっと・・・・・・」

忘れてるよなぁ、やっぱ。
ホント小さい頃の話だし。
少し苦笑いをして、その後は、なんだか優しい気持ちになった。
そうだ、あのときからなんだ。
俺がいろんな奴にいたずらを仕掛けたり、あちこち探検して、面白い場所を見つけるようになったのは。

「『お兄ちゃんがいたから大丈夫!』って、お前言ったんだよ」

俺がそういうと、史伽はびっくりしたように目を大きく見開いて、じっとこっちを見つめた。
嘘じゃないぞ、笑って釘を刺して、ゆっくりと、独り言を言うみたいに続ける。

「そんときさ、俺、少し照れくさかったけど、嬉しくて、『俺は兄ちゃんだって思ってもらえたんだ』って、誇らしかったんだよ」

そこでいったん言葉を切って、史伽のほうをこっそり盗み見る。
笑ってると思った史伽の顔は、意外なくらい真剣に、俺のことを見てくれていた。
なんとなくだけど安心して、次の言葉を口にする。

「それで、俺は兄ちゃんなんだから、史伽が少しでも笑ってられるようにしてやろうって、そう思ったんだ。 俺がいたずらしたり、あちこち面白そうな場所見つけたりすんのは、お前が楽しんでくれれば俺も嬉しいから・・・だから、そんな役に立つとか立たないとか、気にすんなよ?」

そういって、もう一回、ぎゅっと史伽を抱きしめる。
今度は、せっかく見つけた景色がちゃんと見えるようにして。

「うん・・・ありがと、お兄ちゃん」

史伽は一言だけそういって、ちょっと俺のほうにもたれかかってきた。
触れ合った場所から伝わってくるぬくもりを感じながら見上げた空を、流れ星が二つ、流れていった。


即興かつ煩悩

練習にいそしむ水泳部員が水面に飛び込む音と、指導の声が盛んに飛び交いますは麻帆良学園中等部・屋内プール。
その部員達の中でも、一際整ったフォームと速いスピードで泳ぎきった少女が一人おりました。

「……フウ」

プールから上がって、女子中学生と言われても疑問に思いそうな長身にタオルを被ったのは3-A・出席番号6番、大河内アキラさん。

「……そろそろ、時間だよね」

どことなくソワソワしていた彼女が時計を確認しますと、急ぎ更衣室に戻って制服へと着替えます。

「おっ、来たにゃー」
「遅れてごめんね、裕奈……それじゃあ、行こう」

プールの出口でアキラを迎えたのは、同じく3-Aの生徒であります明石裕奈さん。
先に待っていたらしい裕奈を促して、アキラが向かいます場所は……

「そーだよねー……そろそろ一週間になるもんねー、しっと団の年初めの活動日って」
「いや、そんなこと聞いたことないよ裕奈……来週はバレンタインデーだよ」

2人並んで巡るのは学園都市のスーパー、それも菓子コーナーでありまして、会話の内容からしてやることは決まっているようです。

「分かってるって、アキラが愛しのバカレッドに手作りチョコと、恋する気持ちをプレゼントする日なんでしょ?」
「ちょっと裕奈! からかわないでよ……」

裕奈さんは無造作な手つきで、義理チョコにするっぽい包みのチョコレートをカゴに放り込みながら、アキラの気持ちをわかりやすーく代弁しております。

「いやいやー、私は感心してるんだってば。中等部に入ってすぐにこっちもオドロキな理由でアキラが惚れちゃってから、何かと気持ちを表せなくてやきもきしてばっかりだったのに、バレンタインデーなんて絶好のタイミングで告白しようだなんて……人間って成長するんだねー」
「ま、まだ告白なんてするつもりないよ……そんな勇気ないから……」

アキラの気持ちを至近距離で見守ってきた裕奈が褒めてみせますが、当のアキラはそこまで明け透けに言えないのか、顔を赤らめて小声になってしまいます。

「だからそれがダメなんだってば! あのエロバカってば高畑先生に一直線なんだし、いっそ”チョコより私を食べて~”ぐらいしないと……」
「そ……そんなこと、出来るわけないじゃない!」
「あはははは……そりゃそーだよ、ジョーダンで言ったんだから。あ、ひょっとしてやってみようとか思ってた?」
「思ってないって! もう、裕奈ってば……」

冗談を受け付ける状況じゃなかったアキラは、裕奈にそっぽを向けて拗ねてしまいましたよ。

「あーゴメンゴメン……それにしても、アキラの男の見る目を疑う気はないけど、どーしてアレを好きになれるんだか……」
「え、それは……」

裕奈が謝るついでに言った言葉に、アキラは自然に答えようとしましたが。

(裕奈が言ってるように成績は悪いらしいし、ちょっといやらしいところもあるし、高畑先生に憧れてるらしいけど……気取ったりしないで、素直に人を信じてくれて、口が悪くても気持ちは優しくて……そういう男の子だから、好きになったんだと思う……)

いざ答えてしまったら、それこそ恥ずかしさで茹だってしまいそうな理由だってことに気付いて、押し黙るしかなくなってしまいました。

「それは……何なのよー、好きな人ジマンしてくれるんじゃないのー?」
「な、何でもないってば! ほら、早くレジに行こうよ……」

そんな尻切れトンボで裕奈さんが見逃すワケがありませんで、レジへと逃げるアキラをチクチク問い詰めながら追いかけていきましたとさ……嗚呼、女子中学生の恋バナよこっぱずかしき哉。

「「……あ」」
「あ……あ゛あっ!?」

そこへ突然アキラの進む先で見つかったのは、”課長・島耕作パンツ”、略して”島パン”をカゴに入れた意中の人……なんて最悪のオチを噛ませて終幕でございます。


ザジちう

かたかた。

かたかたかた。

千雨の細い指がキーボードを叩く。

その無機質な音だけが、部屋の中に小さく、けれど確かに響いている。

外には雪が舞っている。

まるで、去り行く冬が最後の別れを惜しむかのように。

そんな冬の置き土産をしばらく眺めて、もう一度、千雨のほうに視線を戻す。

冬は寒いから嫌いだ、という千雨は、冬場こうしてコタツにノートPCを持ち込んで作業することが多い。

そして僕は、そんな千雨と同じようにコタツに潜って、千雨の作業をずっと見守っている。

真剣な顔で、画面だけをじっと見つめながら、ひたすらにキーボードを打ち続ける千雨。

その様子をただじっと、ずっとずっと、見つめている僕。

「・・・・・・なぁ」

画面から目を離さないまま、千雨が僕を呼ぶ。

「・・・何?」

僕も千雨から目を離さずに答える。

「お前、なんかすることないのかよ? 私がPCいじってるのなんか見ててもおもしろくもなんともないだろ?」

不機嫌とも、どうでもいいとも思える平坦な口調で、千雨が尋ねる。

確かに、他の人だったら、きっと退屈で退屈で仕方ない時間だろう。

けれど、僕にとってのこの時間は違う。

「・・・そうでもないよ」

僕がそう答えると、せわしげに動かしていた指を止め、怪訝な顔をした千雨が、眉をひそめて僕を見た。

その視線を、まっすぐに受け止める。

そんな僕の様子がますますおかしいとばかりに、千雨は首を傾げる。

「・・・お前、それ本気?」

こくり、と頷く。

それを見るが早いか、はーあ、と千雨は大げさなため息をついた。

「あのなぁ・・・お前、もうちょっとなんか別の趣味見つけろよ。 ちょっとでも暇になったらずっと私にべったりじゃねえか」

その言葉に、眉をひそめる。

といっても、きっと誰も気づかないだろうなと自分でもわかる程度にだけど。

「・・・千雨は、嫌かな?」

「・・・は?」

ぽかんと、目と口をまん丸にして固まっている千雨をよそに、もう一度、問いかける。

「千雨は、僕がそばにいると、嫌かな?」

千雨は答えない。

僕は黙っている。

答えない。

待つ。

答えない。

待つ。

答えない。

待つ。

千雨が答える。

「・・・・・・・・・嫌なわけねーだろ」

「・・・なら、いいじゃない」

顔を背けた千雨の答えに安堵して、笑う。

今度はにっこりと、誰にでも笑顔だとわかるように。

――――千雨に、気づいてもらえるように。

「・・・・・・なんだよ、何かおかしいかよ?」

ちらりと、脇目で僕のほうを見た千雨が、怒ったような調子で言う。

顔が赤い、照れてるんだろうか。

「・・・ううん、何もおかしくないけど?」

「なら笑うな、腹立つ」

「嫌だといったら?」

「ぶちのめすぞ?」

怖い怖い、と首をすくめる。

けれど、僕は相変わらず笑ったまま。

そんな僕の様子に、ふん、と鼻を鳴らして、千雨はもう一度キーボードに指を躍らせる。

僕もまた、そんな千雨の様子をじっと見つめ続ける。

ずっとずっと、いつまでも。

外は雪、静かな部屋、大好きな君と二人きりで。

ただこうして、そばにいられる幸せに微笑みながら。

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