とあーるキャラ主体の番外編
「……あーー! 毎度毎度付き合いきれるか変人どもが!」
まだ日が南に昇りきらないうちから、部屋に叫びながら戻る学生さん……どしたんですか?
「ここはPCでもイジって落ち着くしか……ダメだ、起動時間も待てない!」
なんだかごっそり手を加えられたっぽいパソコンを立ち上げますが、発狂振りは収まらないようでして。
部屋に似つかわしくない置物を左右に振って戻したかと思えば……か、隠し扉が開いた!?
(夜の姿……そうだ、俺を覚醒させるのは夜の姿でしかありえない!!)
扉の中はクローゼットとなっていますれば、高そうなスーツを引っ張り出していそいそと着替える眼鏡の冴えない男子中学生、そう彼は――
「……フ、まだ日も高いうちからキミに逢えるとは……こんばんは、ホストクラブ”マジックナイト”のNo.1・千宇です」
いつもは纏めた髪を解いて、度が入ってるでもない眼鏡を外した、麻帆良学園中等部・2-Aの長谷川千雨くんだったりするんです。
「へー、長谷川さんってホストなんてしてるんですかー」
「……え゛?」
まーそんな超変身も、2-Aが進級して3-Aになっても担任をする美少女教師・ネギ先生に見られてしまったわけだが。
「な……ま、まさか先生、今までの全部見てたのかよ!?」
「はいっ、地味なパソオタ少年の裏の顔がNo.1ホストだったってことまできちんと」
今までクラスメートにまで隠してきた秘密があっさりバレてしまって、千雨くんは落胆のあまり手と膝を床に付けて落ち込み始めましたよ。
(じょ……冗談じゃない、こんな法律もウェッブルールもクソ喰らえな子供教師に知られたとあっては、俺の健やかでリスクのない学園生活がパーになってしまう!!)
「でも長谷川さんって、実はカッコよかったんですねっ、皆さん驚くと思いますよー。終了式も終わってそこの芝生でパーティー始めるみたいですから一緒に行きましょう!」
「な……待て、勝手に引っ張って行くんじゃない、せめて眼鏡は掛けさせろ!」
そんな悲痛な叫びも気にされることはなく、ネギに連れられクラスの面々へ引っ立てられた千雨ったら我慢の限界に来てます。
「あーネギちゃん来たよー! でもその男の子誰ー? すっごいイケてるじゃーん!!」
「驚いちゃいけませんよー、実は長谷がw……きゃぁっ!!」
「いい加減に放せよ! スペアの眼鏡、あったハズだ……ってああっ!?」
ここまで来て眼鏡を掛けなおすのも自殺行為な気もしますが、懐の眼鏡を取り出して……なつもりが、つるに引っ掛けて名刺入れが地面に落ちておっぴろげに!!
「あ、何か落としたぞー! んー……これって、ホストの名刺だよー!」
「……あれ? その丸メガネってどっかで見たような……」
「ホスト”千宇”……ってもしかして長谷川くん!?」
「ほほー、プライベートが殆ど謎だった千雨くんが、まさかホストやってたなんて特ダネゲットだわー♪」
……よりにもよって、最悪のカタチで皆々様に知れ渡ってしまったみたいですね。
「ちょ、いや、違うんだ、俺は長谷川じゃ……何でだーーーーーっ!!!」
――アスた!を離れて・パソオタ接客業チサめ!
1話 ”夜王、振り回される その1”
「……があっ、ハァ……ハァ……また、あの日の夢か……」
そんな忌まわしいことこの上ないトラウマを、春休みのよい日和があっても毎日夢に見てしまう始末の千雨でありました。
(何でも何も、あの子供教師の仕業に決まってるじゃないか……)
こればっかりは、ネギの思いやりというか、いたずら心というか……が招いた悲劇でありまして、彼の心に禍根を残すことになりそうです。
「……というのは一先ず置いて、だ」
「…………」
「そこのピエロ……寝てるとこに覗いてくるなって言ったろうが」
いつの間にか、同居人のピエロ少女・ザジがベッドに音もなく寄って来ていました。
「……朝ゴハン」
「注意してるだろ、無視するな」
一応中等部に入って以来の部屋割りなんですが、片やネクラかハジけるか、片や喋ること自体珍しい、そんな2人なもんでコミュニケーションは最低限で一方通行が主という状況であります。
「…………」
「…………」
そして食事中は一切喋らない。そりゃ行儀が叩き込まれていてよろしいが、年頃の少年少女がこれでは不気味だって。
「……はー、ごちそうさま」
「…………」
上げられた食事を平らげて、手を併せて終わらせるなんて律儀な千雨ですが、とっくに食べ終わってたザジの視線に気付きまして。
「……またかよ?」
「…………」
今までも使われてきた合図らしく、千雨もうんざりしながら訊くと、ザジも頷いて黙々と食器を片付けてしまいます。
「あのな、面白くないんだよ。アレはその道を極めた師匠とその弟子だから出来るんであって、お前が独学でやれることじゃないんだよ」
「…………」
千雨の不平も気にすることなく、これまた黙々とこれから使う道具をテーブルに広げまして……余程喋くらないのがお好きな子なんですね。
「……あのねー。この縦じまのハンカチあるよねー。これ手で揉んで広げるとほら、横じまになっちゃうんだよねー」
「…………」
って普通に茨城弁喋ってる!? 毎度見ているとはいえ、あまりの豹変ぶりに千雨の方が無言になっちゃってるよ。
「……それでねー、ワタシ今日トモダチ連れてきたんだよねー。ほらートモダチ! すごく動くんだよねー……」
(今度は弟子のパクリかよ! しかもトモダチって明らかに生き物だろ!)
そんなツッコミも心でこらえまして、クスリとも笑わぬ千雨に一通り見せ終わったザジさんが道具を纏めまして。
「……ドウ?」
「……35点」
いつもの調子に戻ったザジが訊いてみますが、千雨もギリギリややこしくならずに済むような返事をしまして、お披露目会の終了です。
常時引きこもり気味の千雨も、春休みでは開放的な気分になったのか、世界樹のあたりまで遠出してきたようです。
(寮にいたまんまだと、朝倉あたりに捕まるからな……ここは人気がなくてしばらくのんびり出来そうだ)
って、単にやむにやまれぬ事態だったからなのね。辿りつけば安心できたようで、木陰に座り込んで携帯を開きました。
(おー来てる来てる。多少アコギだったが、迷惑だった客の話題を出したらバカ女が大量に釣れてくれたよ……)
ネットから見ておりますは、パソオタでもある千雨、もといカリスマホスト千宇のホームページの掲示板です。たかだか都内の一クラブのホストなのに、インターネットまで味方につけて知名度はうなぎのぼり、とか。
(詳しい事情は書いてないし、しつこく追いすがってくるのをやんわり店に来ないように言った俺の判断は正しいし……当分カリスマホストの地位は安泰だろう)
「どうしたでござるか、携帯電話は見るものではなく掛けるものでござろう」
「うわっ……な、長瀬かよ、驚かせるんじゃない……何の用だ!」
自分の世界に入っているところに、上から逆さ吊りで誰か現れたらびっくりもしますよ……例え忍者みたいな素行の多い楓さんだとしても。
「不躾でござるな、拙者はただ千雨殿が何をしているのか気になっただけでござる」
「突然上から出てくるのは不躾と言わないのかよ……それに気になったからどうした。長瀬には関係ないね」
「左様でござるか……ならば、後で来るだろう朝倉殿にも訊いてみるでござるよ」
「あ、朝倉が来るだって!? それを早く言え!」
突っぱねて追い払おうかと思ったら、逆に逃げなきゃマズい状況だと聞かされて千雨も慌てて裏山を下る道へ直行します、が。
「……!」
(な……今度は桜咲かよ?)
登ってきた桜咲刹那と鉢合わせになって一旦停止する羽目になってしまいます。んでも、刹那がすぐと脇に避けましてめでたしめでたし。
「あ……ああ、済まない!」
「はい……楓、長谷川さんのあの慌て様、どうかしたのか」
「いや、朝倉殿が世界樹の取材をするという話を教えたのでござる……予定では明日でござるが」
いそいそと帰る千雨に聞こえない段で、楓さんが担いだことを自白しちゃいましたとさ。
(フウ……あの忍者女も大概だが、朝倉の件が聞けただけマシか……)
「……あ、長谷川さん、こんにちはー」
(な……何で一度落ち着こうってところを狙って出てくるか、この小娘!)
別にうまくいってもないのに一息付こうかと思った千雨に、今抱えている問題の根源が迫って来ちゃいましたよ。
「あの、長谷川さん……この前はご迷惑を掛けてしまってすみませんでした、ごめんなさいっ!」
「ああ……別にいいですよ。先生が謝ったところで解決することじゃありませんし」
「あ……はい、よく考えたらそれもそうですよねー」
(何納得してるんだ、そこはもっと丁重に頭下げるところだろう!?)
建前で責めないこと言われて真に受けてどうするんですか、ネギ先生。
「……まあ、償う方法がないとは言いませんが、協力してくれます?」
「はうっ……つ、次の機会にお願いしますっ」
「待ちな先生! 今、この瞬間に手伝ってもらわないと困るんですよ、い・ま!」
せっかくだから利用しようと千雨が話を持ちかけますが、ネギさん厄介と思ったのか逃げようとしてやんの。
それでもがっちり腕を掴まれて、強い口調で引きとめられましたもんだから足を止めましたが。
「わ、分かりましたっ……それで、どうしたらいいんですか?」
「このデジカメで、そこいらの写真を撮りまくってきて下さい。撮り終わったら、18時までに寮部屋に持ってきてもらえればいいです」
「そ……それだけでいいんですか? 体売ってでもブランド物買えとかそういうことかと……」
「そんな、ヒモみたいなホストなんて実際はいませんよ。ほら、早く撮ってきてください」
(サイトに出す写真に合成する背景が減ってきたからな……この子供教師も、キツイ目に合わせないと図に乗りそうだしいい機会だ)
「は、はい、行ってきますっ……」
面倒ごとを押し付けたい一心でイライラしつつもデジカメを握らせまして、渋々とはいえネギを送り出させることに成功したようです。
「……そういえば長谷川さん、このことってバレて退学にならないんですか?」
「学園長先生が店の常連ですからね。口封じは任せてあるんですよ」
「なるほど、大人って汚いんですねっ! それじゃ、後で持って行きますねー」
(学園長がホストクラブ通いってことに疑問持たないのかよ……さすが変人を束ねる子供教師だけはあるな)
その変人にお前も含まれてるぞ、とツッコまれそうなコトを考えてネギを追っ払います千雨くん、ともかく足を動かそうとしたところに。
「あ、千雨くんだー、こんちゃー! 何してるのー!?」
(今度は椎名かよ……春休みからこっち散々相手させられて疲れてるんだよ、無視するか)
練習終わりなのかユニフォームのまんま休んでいたチア3人組に見つかっちゃったってさ。
千雨も桜子に絡まれて迷惑がってるらしく、シカトして去って行っちゃいます。
「んー、千雨くん聞こえてるー? ひょっとして今ってホストモードなのかな、ちうくーん!」
(馬鹿かあいつ、そっちの名前で呼ぶなって何度も言っただろ!?)
「……長谷川のヤツ、気付いてるクセに無視して……」
「ホントに聞こえてないだけなんじゃ……ちょっと、どうすんのよ円!」
何度も呼びかける桜子が相手にされない状態に、怒れる釘宮クンが千雨の元に駆け寄ってきたよ。
「おい長谷川! 桜子が呼んでるだろ、何か言ったらどうなんだ?」
(釘宮か……何を子供みたいに苛立ってるんだか、構ってられないって)
「ほーら、円もムキにならないでよ。周りもおかしがってるじゃない?」
「いいよ、美砂まで来なくて……長谷川待てよ、無視するぐらいなら何か言え!」
「……煩い」
流石にこうも言い寄られて黙ってるのは苦しいと感じたのか、千雨も促されるとおりに、思ったことを口にしました。
「!……お前、今何て言った!?」
「聞こえた通りだよ、う・る・さ・い。別にいいじゃないか……俺にまとわり付かなくても、馬鹿騒ぎに付き合ってくれる連中なんてその辺にいるだろう」
「よ、よくもそんな事が言えるな! そりゃ、秘密にしてたことを聞いてきてウザかったかもしれないけど……」
「何か言え、って言ったのはお前だろう。わがままな奴だ……それで、まだ何か?」
「こいつっ……桜子に謝れ、そんなの無視する理由にならないだろ!?」
「ハア……分かった、”しつこく構ってくる暇な女に関わりたくないと思って、無視していたことは済みませんでした”、と謝れば気が済むか?」
「な……いい加減にしろよ!! もういい、相手にしちゃダメだ美砂!」
何だよこの人当たりの悪さ、ホントにホストですか? 釘宮も怒りを通り越して呆れたもんだから、後ろの柿崎共々帰っていっちゃいましたよ。
(……全く、変な女に付き合わされるのは、店だけにしてほしいよ)
まーこんなバチ当たりなこと考えてたもんだから、後で世界樹に行ってるハズだった朝倉に見つかって必死で逃げる羽目になってる千雨だったりしますが……そしてその2へ続きます。
(あの子供教師が……その日の18時、って言ってやらないと理解できないのか!)
日も落ちた学生寮、ネギに依頼してた写真が届いていないもんだからと部屋に殴りこむ決心をした千雨ですが。
「……ン、長谷川か」
(こ……今度は龍宮か、どうして今日はクラスの変り種に遭遇し易いんだ?)
廊下を歩いた先で、中学生にあらざる体躯を誇る龍宮と鉢合わせになってました。
「連絡網で聞いているだろうが、近頃夜中の学園都市で不審な人物が見掛けられるらしい。用心することだ」
「何だよ、突然」
「夜の仕事に就いているのなら、警戒は人一倍必要ではないのか……と考えたまでだ。取り越し苦労である事を祈っておこう」
「……それはどうも」
(余計な気を回してくるもんだ……そもそも、楽器ケースに物騒な物隠してるとしか思えないお前に言われたくないよ!)
確かにプリントらしきものが届いていたのは千雨も記憶していますが、同居人が度を越えて無口なもんで指摘されないまま今に至っていたわけです。
でもこんなタイミングで切り出されたということは、彼にとって無関係ではないのが普通の展開だわな。
――アスた!を離れて・パソオタ接客業チサめ!
1話 ”夜王、振り回される その2”
「すみません長谷川さん、カメラお返ししますー」
「……まあ、撮っていたのならいいのですが、ちゃんと教えた時間に持ってきて下さい」
(ホントだよ、教師だとか言いながら子供らしく鈍臭いんだからな……やる気あるのか?)
本来なら明日太と木乃香の部屋だったネギの巣窟まで来まして、やっとデジカメを取り戻せたようですね。
「それじゃ先生、今日はありがとうございました」
「はい……あ、そうだ! 長谷川さん、チアの皆さんがケンカしちゃったみたいなんですけど、何か知ってますか?」
(まだ何かあるのかよ……チアの連中がどうしてようと俺が知るわけがないだろ!)
いろいろ酷いやり取りをしてたことは棚に上げて、質問されたことに悪態をつく千雨の印象の悪いこと悪いこと。
「知ってるも何も、ケンカしていたってことが初耳ですよ……もういいでしょう、それでは」
「あ、待ってくださ……って、今日から夜の見回りするんでしたっ、すっかり忘れてたー!」
(うるさいよガキが、わざわざ大声上げなきゃ死ぬって訳でもないだろうに!)
たまらず帰る後ろで叫ぶネギに対して、心の中とはいえ律儀にツッコむとは案外ノリ気なのでは……そりゃ無いな。
翌日も変わらぬ思惑で、クラブ棟の木陰に座り込んでノートPCを広げる千雨なんですが。
(何だよこのゴミ投稿の数は……昨日話題にした馬鹿女の仕業なんだろうが、ネット使ってまでみっともない真似をしてくれるよ)
昨日も見ていた掲示板が荒らされているらしく、いそいそ対策している合間に上から不思議なリズムが流れてきてますよ。
「ハッピ-バースデートゥーミー♪ハッピーバースデイトゥーミー♪ハッピーバースデイディア空く~ん♪」
(ん、木に誰か登って……春日みたいだが、一体何する気だよ)
密林迷彩カラーに塗った(らしい)法衣を身に纏った空が、誕生日にはしゃいで棟の窓に近い木を登ってハミング……ホントに何するのよ?
「アキノさんが~今の時間に着替えているハズだから~それが俺にゃ最高のプレゼント~♪」
(……馬鹿だな。相手しないに尽きるか)
「あれま、ツバメさんたちも一緒にノゾく? 見つかったら大目玉だから騒がないようnって痛たたたたたたたたた!!」
バースデイだからってノゾキを敢行する空を、面倒なのか千雨は放っておくことに。
こりゃ女子勢のピンチが訪れるのか……って思ったら、どんどんツバメさんが空くんに群がってつつくつつく。
「何ですか騒々しい……空さん、こんなところで何をしているのです?」
「いやーアヤコさん、こいつは修道士の修業の一つでございまして……」
(おいおい、言い訳にしては苦しいだろ!)
「女子更衣室の窓に近づくのが修業な訳がないでしょう! あなたという方はどこまでも不真面目な……」
「まあまあ、落ち着くでござるよいいんちょ。こうして暴かれたのでござるからやんわり叱っていけばいいでござろう」
そんな騒ぎを聞きつけたのか、窓を開けていいんちょが空を問い詰め始めてますよ。
やってたことがやってたことなもんだから、つられて出てきた楓さんも弁護する気のないコメントに。
「んな手厳しーこと言わねーでくれよカナデさん。あ、そういやぁアキノさんは?」
「アキラ殿ならいないでござるよ。ここにいるのは拙者といいんちょと……」
「ノゾキ魔は粛正するアル! イナズマキック、アルーーーー!!」
「ぎゃぶっ!! 待ってくれクーニラ、まだ弁解は終わってn」
「人の名前間違える輩は、ワタシに蹴られて地獄に落ちろ、アルー!!」
おまけに、古菲さんったら下着姿にも関わらず飛び蹴りで登場して、空に一撃かまそうとしてますよ。
(……騒がしくてかなわん、別の所に行くか)
「だったらさー、食堂棟のコーヒーショップがオススメかな。どう、一緒に行かない?」
「……柿崎、お前いつからいたんだよ」
バカ騒ぎからはすぐと逃げ出すタイプの千雨でありまして、目に入らない内に他所へ行こうかと思ったところ。
いつの間にやら柿崎さんが隣におりまして、軽く誘いの言葉を掛けてきます。
「んー、ついさっき見かけたから、こっそり横で待ってたってトコかな?」
「ああそうかい。俺は1人でいられる場所がいいから、勝手に行ってこい」
「ちょっと待ちな長谷川くん、逃がさんっ!」
千雨も適当に流してどこぞへか去ろうとしますが、柿崎は逃がす気ナシと腕を引っ掴んで放しません。
「な……何のつもりだ、放せ!」
「フフフ、長谷川く~ん? チアトリオ存続の危機に面した今、キミを放っておくワケにはいかないな~」
「一体何がしたいのかはっきり言え……こ、こいつの握力強くないか、おい……」
チアリーディングは鍛え方から違うようで、がっしり捕まえられたまま千雨と柿崎はコーヒーショップの1卓に陣取ります。
「……再三言うが、何のつもりなんだよ。要点だけ喋って早く帰せ」
「いいじゃないの、クラスメートでコーヒー一緒に飲むぐらいよくするでしょ。まぁ長谷川くんだと同伴でお金取るのかもだけどさ」
「それはいい、食券でもいいから後で払ってもらおうか……じゃなくて、だ!」
一応ノリツッコミが出来るまで余裕は生まれてますが、好ましい状況でもないので千雨も問い詰めにかかりましたよ。
「分かってる分かってる。昨日のゴタゴタが原因で、円と桜子がケンカしちゃったのを仲裁しようとしたんだけど……円のヤツ、”もう彼氏が3人目の女に言われたくない”なんて言うもんだから……違うのよ、私はそんな選り好みをするタチじゃないし……」
「話を反らすな」
「あー、ゴメンゴメン。ともかく全員で仲たがいしちゃってね、その始まりに力を貸してくれた長谷川千雨くんに訓示を頂戴したいなー、って思ったわけ」
(このアマ、要するに自分が仲裁できなかったから俺に押し付けに来たってことか……)
確かに誠意ある対応をしてればこうはならなかった……とは露ほども思わず、提案をうっとうしがるのが千雨の性根悪いところです。
「知ったことか、ケンカの責任を俺に被せられても困る」
「あっれー、いいのかなぁ。ホストともあろうお方が、お客さんが始めたケンカを止めようとしなかったらピンチなんじゃない?」
「誰が客だ、お前らから1銭も貰った覚えなんて……なっ、アイツは!?」
そりゃ客商売と同等に見ることは出来んよな、との指摘もどこ吹く風と、千雨は急に柿崎の口を押さえて目線の先、別のテーブルに座る客を見据えます。
(アイツ……HPでも話題にした迷惑女! どうしてここを突き止めたんだよ!?)
「ぐぐぐぐぐ……ぶはっ! ちょっとどうしたのよ長谷川くん、急に口をふさぐなんて……まさか、新手のプレイ?」
「変な想像膨らますな! 急用を思い出したから帰るぞ!」
「帰る、じゃなくて待ってよ! 私たちのこと、ちゃんと取り成してもらわないと……」
「勝手にやってろ、それじゃあな!」
ここばっかりは逃げようってんで、千雨はコーヒーをぐいっと空けて帰って行っちまいました。
そんな騒動もすっかり忘れた夕刻、千雨は今夜の仕事の準備をし始めていますと。
「…………」
「何だ、覗き込んできて」
開けたままの扉から、ザジさんが頭を出してきたようです。
「…………」
「何を差し出して来て……龍宮が言っていたプリントと……防犯用ブザー?」
無言のまんま持ってこられたのは、夜間外出に関した連絡プリントとヒモ引っ張ってけたたましく鳴るアレです。
「……イッテラッシャイ」
(普通に喋って寄越せばいいだろう……どっちにしろ、余計なお世話でもあるしな)
心の中でグチりながらも、しっかり荷物にブザーを入れておくあたり、千雨もひん曲がった性格してまさぁね。
仕事着のスーツもバッグに控え、目立たない装いで寮を出ようとしたそこに。
「あ、長谷川さーん!」
(子供教師、また面倒な時に来やがって……)
「何か用ですか、先生」
元気よくネギに呼ばれたもんだから、千雨もイライラが再燃してきたみたいですね。
「あの、これからホストのお仕事なんですか?」
「ええ、そうですからホストって口に出して言わないで下さい」
「す、すみません……でも気を付けてくださいねっ、最近不審者が出てくるみたいで、私たちも見回りに出てますから……」
(アホくさい、こんな子供が見回って、大丈夫と思える方がどうかしてるよ……)
ネギが先生をやってること自体に疑問な千雨には、どんな注意も逆効果って気付けないのはやっぱお子ちゃまだからでしょう。
「……まあ、先生も見回っているんでしたら安心です。でも、今日は早めに切り上げて帰ってきますよ」
「ありがとうございます長谷川さんっ、いってらっしゃーい!」
(……お世辞を言っても疑われないって状況に腹が立つ!)
煮ても焼いても食えない相手に益々怒りを溜める千雨でして、これ以上関わらんためにもとっとと仕事へ向かいました。
(春休みだからいいものを……仮にも学生を日が変わるまで引き止めるなよ、店長め)
仕事が終わって学園駅に着いた千雨が、ふと時計を見ますともう夜中の1時ですよ……頑張ったんだねぇ。
(ピエロの冷えた飯……は明日の朝でいいや、早く帰って寝よう)
疲労からか体に入った力を抜いて、学生寮への暗い夜道を歩いて帰る千雨……の目の前に。
(何だ……誰だよ、こんな時間に突っ立ってる奴は)
「見つけた……千宇くん……」
(……まさか!?)
女の人影が発した声は、まさしく幾日前迫ろうとしてきたのを追い払った客の声に同じでして。
(ここに俺がいることまで突き止めてたのか……だが、眼鏡がある以上俺だとは気付いてないはず!)
「突然何ですか? 学園の人でもないのに、ここにいていいんですか?」
「誤魔化したってダメ……そこの駅から降りて……あの建物に入っていくところまでちゃんと見たんだから……」
(な……そんな馬鹿な、簡単に麻帆良まで辿れるようなルートは通ってないぞ! それに気配も感じなかった!)
はぐらかすことも出来ずまいなのはおろか、対策空しく素性がバレたことに愕然と……する余裕もない状態になってしまってます。
(いや落ち着け、俺が千宇だと分かっていたとしても、寮はすぐそこだ! 適当に相手して逃げ帰れば、守衛だか警備員に見つかって事は済ませられる……)
かくして、距離は短いながらも千雨と元お客とのデットヒートが繰り広げられ……ようってところでその3へ。
(道幅はそんなに広くない、最悪体で止めてこようとするだろうが……成人してるとはいえ、女に負けるか!)
すわ突撃せんと心に決めた千雨ですが、走るより先に懐から防犯ブザーを出してブチリ、と。
「……!」
「わああああああっ!!」
けたたましい音にひるんだのを確認して、千雨は突っ込んで行きます。
とはいえ相手も捕まえようとしてきたのが見え、歩幅を詰めて間合いを取り、仕掛けるは体当たり!
――アスた!を離れて・パソオタ接客業チサめ!
1話 ”夜王、振り回される その3”
気合を込めた一撃の見返りは、自分の体が受け流されて地面に倒された、と説明するような夜空の光景でして。
(……な、何が、起きて……)
突然予想が覆ってか、千雨の思考も一気に鈍くなってしまいます。
しかして、お相手はタンマを聞いてくれるようなお方なハズもねえんですよ。
「お、おい……ちょっと待て、一体俺に何を望んでるんだよ? 謝ればいいのか、それとも金で償えばいいのか?」
「ふふ……」
「ひ、人が質問してるだろうがよ。気色悪く笑いながら近寄ってないで答えろ!」
取り落としていたブザーを踏み潰しながら歩み寄る人影に、千雨も後ずさって訊きますが答える言葉はなし。
「そこの人たちー! 何をしてるんですかーー!!」
(助けが来たのか……って、この声はまさか)
「あ、長谷川さんと……誰?」
(やっぱり子供教師かよ! 全く頼りになりそうもないじゃないか!)
やっと誰かが感づいてくれた……と思いきや来たのはネギ先生でありました。って千雨さん、一応シリアスシーンなんだからギャグ泣きは止めて!
「あなたこそ……誰?」
「こ、この学校の先生ですっ! 私の生徒さんに危害を加えるつもりなら、許しませんよっ!!」
「馬鹿言うな! 俺があっさり倒されたのに、あんたが抑えられる訳ないだろ!」
千雨が退かせようと叫びますが、ネギは聞くまいという姿勢を貫いて動きません。
そんな子供先生に興味でも湧いたのか、元お客がのそのそ近付いて行きまして。
「お、大人しくしないのならこっちにも手段がありますよ! ラス・テル・マ・スキr……あ゛……」
(何ぶつくさ言いながらじっとしてるんだ、早く逃げろよ!)
「子供は、寝る時間……」
ここは魔法を使って黙らせようと……するところで、千雨がいるってのに使ったらイカンってことを思い出してネギも固まってしまいます。
そんな隙だらけのネギ相手に、至近距離まで寄ってスタンガンを当てるのは誰でも出来ることでありました。
「はうっ……!!」
「先生! 一体何しに来たんだよ……」
「……それじゃあ、千宇くん……」
「お……おい、何でスタンガン仕舞わないんだよ! そんなもの持ってどうするつもりだよ……答えろって!!」
悲しいかな、あっさり倒されたネギを背にして、再び脅威が千雨に向かって来ようとしてしまいます。
あれ? このシリーズ今回だけで終わらせるつもりなかったんだけど……じゃなくて、もう腕を伸ばせば届く距離まで詰められてますよ!
『……斬空閃!!』
「キャ……」
(な……何だ、この……風!?)
そんな窮地に怒号が響き、一陣の突風が人影をうろたえさせる、なんて大逆転劇が繰り広げられておりました。
(今のは一体……って、体が持ち上げられてる!?)
「おや、千雨殿ではござらんか」
「関西の手の者、一般人を操って潜入させたか……楓、ネギ先生達を!」
「あい分かった、でござる。御免!」
さらに現れた楓さんが怒号の主と二言ほど交わし、千雨とネギを担ぎ上げて瞬く間に寮近くの街灯に走り到着しまして。
「フム……ご無事でござったか、ご両人。強力な助っ人が現れた故、すぐと一件落着するでござろう」
「……あ……長瀬、さん?」
「一件落着、じゃないだろ……さっきは何が起きたんだ、どこぞの少年漫画みたいな展開やらかして、俺を担ぐ気かよ!」
「何を言うでござるか千雨殿、今まで拙者が担いで連れてきたではござらぬか」
「そのままの意味じゃない! バカレンジャーだからって調子乗った答え方するな!」
ぐったりと降ろされたネギはともかく、千雨には大した剣幕で問い詰める元気はあったようです……が、相手は芯の掴めない楓であるからして。
「……そういえば、長瀬さんも見回りに協力してくれてたんですね……」
「あいあい。関西呪術云々やツバメの式神が偵察しているだとか、一応説明されたのでござるが……」
「あー長瀬さんダメですっ! 長谷川さんがいるところで……」
「呪術に式神だあ!? よ、夜遅くで頭こんがらがったのか……って納得できるか、どういうことか説明しろ!!」
何とも無用心にぺちゃくちゃ喋った楓さんのお陰で、最悪にも耳聡い千雨にいろいろ聞かれちゃったよ。どうするのよネギさん!?
「へ……あ、あのですね……え、映画の撮影ができないって相談が来てたんですよっ! 呪術アクション映画とかいうのをを大学部で作るらしいんですけど、最近不審者が多いから夜中に撮影ができないって……」
「……おい長瀬、今の話は本当か」
「んー、拙者もよく覚えてないのでござるが……ネギ子がそう言うのだからそうだったのでござろう」
(胡散臭い上に根拠弱いが、少なくとも面きって嘘とは言えない様だな……全然納得できないのは別として)
とりあえず屋台骨だけはきっちりした理由をぶち上げられて、千雨もとりあえずながら理解したことにしておきました。
「それよりも……すみませんでした長谷川さん! 私先生なのに、長谷川さんのことを助けてあげられなくて……」
「はあ……仕方なかったんじゃないのですか、相手は大の大人ですし」
「でも、現に長谷川さんが危ない目に遭っていたのですし、仕方ないで済ませることでは……」
「……先生、あそこで先生が大活躍して不審者を捕まえて、なんて俺に限らず誰でも期待しませんよ。天才少女だからって、常識とか限度とか考えてください」
「はい、すみません……」
改めて謝られて癇に障ったのか、心に刺さるような言葉を連ねてくれる千雨にネギもヘコんでしまい……容赦ないなこの男。
「でも……あの場で逃げようとしなかった気持ちだけは、間違ってないと思いますよ……あくまで気持ちだけは、ですが」
「そ……そんなお世辞なんていいですよっ!! とにかく寮の中へ入りましょうか!」
お、言いすぎたとでも思ったらしくフォローの一言を付け加えてますよ。ネギも分かりやすく気持ち戻していらっしゃいます。
「……フム」
「何だよ、何を笑ってるんだ」
「いやいや、拙者は生まれたときからこんな顔でござるよ」
(確かにいつも締まりのない顔してるが、妙に笑って見えるぞ……そんなにあのガキを褒めたのが可笑しいのかよ!?)
たまにいいことする不良は微笑ましく見えるもの、とは楓も感じてしまっているようですね。
「ん……今日の夢、別のになっていたな」
明くる日の朝目覚めた千雨からは、悪夢にまで進化した終了式の日の惨劇が、痕跡すら消え失せたみたいです。
「…………」
「あのな……言われたら素直に聞け」
それでもザジが寝顔を覗き込んでくることに変わりはなく、日課のお叱りを飛ばしてみれば。
「昨日は、無事でよかった……」
「な……はぐらかすんじゃない、昨日の晩飯あたため直しただろうな!?」
こちらも今までと違って感情のこもった言葉が返ってきまして、千雨も恥ずかしさを紛らわそうと声を荒げてしまいました。
「……おい、長谷川」
「うん……釘宮か、また吹っ掛けに来たのか」
食後に35点な手品を腹いっぱい味わわされて外に出た千雨の元に、釘宮が単独で呼びかけて来ました。
「用がある。ちょっとついて来い」
「はあ、一体何でまた……ってどうして腕掴むんだ、引っ張るなよ! お前も握力強いからって強引な真似するな!」
「うるさい、俺だってこんな連れまわし方イヤなんだ!」
またしても無理矢理引きずられた千雨は、柿崎と桜子が微妙な距離で待ち合わせているところにお邪魔させられました。
(ああ、またこいつらか。ケンカしてる割にはよくつるむ連中だ)
「連れて来たぞ、彼氏3人目」
「うん、あとでドレス着せてやるから待ってろよ釘男……よーこそ、長谷川千雨くん」
「……で、今度はどうしたんだ」
「そうだよー、美砂が呼び出したんだから話してよねー。千雨くんのこと悪く言ったら食券ビンタだよー」
戦闘続行中らしく険悪な雰囲気の流れるチアトリオのやり取りから、柿崎が本題を切り崩して参りますに。
「まずは……桜子が迷惑も考えないで呼びかけたことを謝ります。ごめんなさい!」
(な……突然謝ってくるってどういうことだ? いや謝るべきことだとは思うが……)
「えーーー!?」
「何だよ、お前まで長谷川に甘い口使って……」
「……ところでぇ、明るさがとりえの桜子にあそこまで陰気な言葉を残してくれて、私たちの信頼関係がズタズタになってることに関して一言をどーぞ♪」
互いに謝らせて地を固めようとする柿崎ですが、千雨も連れて来られた時点で感付こうというもの。
「それはいいって言ったじゃーん、千雨くんも難しい年頃なんだよー」
「そんな納得の仕方があるか! こういうな、人同士の関わり合いをぞんざいにするヤツは相手にしなくていいの!」
「ハン、それがしたかっただけか。あの時言ってやったことをもう一回聞かないt」
「おーーっと長谷川くん、ちょっとこっち来てみなさーい!」
対応の違いで揉め出した桜子と釘宮に、油を注ぐような放言をする気だった千雨ですが、柿崎さん阻止ついでに引っ張ってヒソヒソと話せる状況に。
「何だよコレ、勝手にしろとは言ったがこれで謝ってやると思うのか?」
「ふふふ、その点に抜かりはなくてよ……じゃーん、朝倉が取材してたネタ入りメモカ~~」
「そこでダミ声使うな!」
「いやーね、朝倉ったら長谷川のこと探ってたみたいで、ここは自ら買い取って恩を売ってあげようかなーなんて」
ひょいと飛び出したデジカメ用のメモリーを手渡された千雨ですが、まさか単なる親切だとは思えまいよ。
「要するに脅すつもりなんじゃないか……で、どうしろと」
「うんうん、理解が早くてお姉さん助かっちゃうなー。でね……」
こうして柿崎さんの思惑をタップリ含まされた千雨が、桜子と釘宮の元に戻って1つ深呼吸。
「おとといのことは言いすぎた。仲たがいさせて済まなかった」
「へ……長谷川、今何て……」
「そ、そんな謝らなくていいよ千雨くーん、私ってば心広いからさー」
(心が広いって自分から言うことか、このアマ!?)
渋々ながら詫びの言葉を述べられ、目を丸くする釘宮とツッコミ甲斐のある許し方をする桜子さんたち……千雨も怒りのスイッチ入り気味です。
「……それで、気を悪くしてないならでいい、遊びに出るとき付き合わせて欲しいんだが、いいか?」
「うん、いいよー! じゃあ明日一緒にカラオケ行こっか、約束だよー!」
「マジかよ……」
スイッチをやり過ごした上で、誘いの言葉を掛けると桜子ったら即答だよ。
ワケ分からん風で急展開に頭抱えた円を無視して、千雨は柿崎に目を向けたところ。
(第一段階成功ね、グッド・ラック!)
(”朝倉と取引した分の食券を椎名から騙し取れ”……ホストがヒモ扱いされているのはこの際置くとして、分け前も貰えるのならノる価値はあるな。扱いやすそうな相手でもあることだし……)
小声とサムズアップを返されて、改めて取引の条件に意気込んだ千雨君……ってロクなやり方じゃないね。
「そーだ、美砂とくぎみんも予定空けといてねー! 千雨くんも一緒で食堂棟巡りしちゃうよー!!」
「おーいいねぇ、定番の長丁場カラオケも行っちゃおうか!?」
「いや、俺達ってケンカしてたんじゃないの!? それに長谷川のついでなんて納得できないし、くぎみんって言うなって何度も言ってるだろ!」
(何だこのテンションの変わりよう……これ、付いていけるか不安になってきたぞ)
後日、まだ探っていた朝倉に18時間耐久カラオケの模様をスッパ抜かれ、寮部屋に帰ると人体切断マジックが待ち構えていた……なんて、千雨の不安はおぼろげながら的中してしまうのですが、ここまでとは予想できてないようですねえ。
そんなオチを絡めまして、ここに終幕でございます。
菓子組合が利益狙って提唱したって分かってて祝ってるよな
「あぁぁぁぁぁ……終わった……」
「お疲れ様、明日太君……お茶、入れるよ」
中等部の卒業式も無事に迎えた後の3月14日、寮の一室でコタツにへたり込む神楽坂明日太くん。
そこへ向かい合って座っていた大河内アキラが、労う言葉と同時に立ち上がって、自室のキッチンで麦茶のボトルに手を掛けました。
「あんがとよ、アキラ……ったく、4月の入学式の次の日に学力テストなんて突然言うんだもんな、高等部の先公。エスカレーター式の意味無くなってんじゃねぇか」
「まあまあ……範囲は中学3年の内容だって教えてくれたんだし、こうやって春休みを使って勉強すれば、どうにかなるよ」
「ならねぇ。絶対ならねぇ。俺はもうダメっス」
卓上に広げられた教科書やノートに突っ伏しながら、明日太が吐き続ける泣き言をアキラがなだめて返してますが、無駄骨っぽい?
「そう……ごめんね、私も勉強は得意じゃないし、教え方が下手だったかもしれない……」
「あぁいや、アキラは悪くねぇって。むしろ俺1人じゃ途中でキレてやめてただろうしさ、カンシャしてるよ」
「え……そうなんだ。明日太君の役に立ってるなら、嬉しい……」
アキラの落胆に慌ててフォローを入れた明日太ですが、相手の顔が赤らんできたのを見てハッとしたようで。
「……どうしたの、明日太君?」
「な、何でもねぇ! バレンタインデーのときみたく顔赤くしてたから、ホワイトデーの準備してねぇって今気付いて……じゃねぇじゃねぇ!」
「あ……それならいいよ、無理に用意してくれなくて……チョコを貰ってくれただけで、私はよかったんだし……」
明日太ってば考えたことをそのまま口に出しちゃいまして、アキラが目に見えて落ち込んじゃってますよ。
「そ、そそそそそそうだ、今何時だ!?」
「えっ、夜の6時だけど……」
「もうそんな時間か! 長居しちまっても迷惑だろうし、俺そろそろ帰るわ!」
「……待って、明日太君」
気まずく感じたらしい明日太が時刻を理由に帰ろうとしましたが、そこへアキラが呼び止めに掛かりまして。
「明日太君の部屋って……確か、誰もいなかったハズ、だよね?」
「あ……そういえば、2人とも出ちまってるんだった!」
「だったら……イヤじゃなかったらでいいんだけど、もう少しここにいてくれない、かな? 裕奈も出かけてて私1人だし、晩ご飯も作るし……ダメ?」
実に都合よく障害も出払っておりまして(約1名は気を利かせて出て行った)、アキラが恥ずかしがりながら部屋への滞在を求めてくれば、こうなったら男のすることは1つですって。
「あ……あぁ、構わねぇけど」
「あ、ありがとう、明日太君……じゃあ、うどん作るから待ってて」
二つ返事でのOKを受けると、アキラは少しだけウキウキした足取りでキッチンへと入りまして、明日太もポケットをまさぐりながらコタツに入り直します。
「……どうしたの、明日太君……あんまり食べてないけど、うどんって好きじゃなかった?」
「いや、そういうワケじゃねぇんだけど……食欲ねぇのかもな、ハハハハハ……」
「そう……食べられないならしょうがないけど、のびちゃうとおいしくないから早く食べよう」
落ち着かない風でしばしばポケットに手の伸びる明日太と、気恥ずかしさで黙々と食べるしかないアキラとの会話はこの程度でしかありませんで。
なんとか2人の器が空になっても、どうにも話の糸口が見つからぬまま時間が過ぎていきました。
「……そういえば、さ」
「……な、何、明日太君?」
そんな沈黙をどうにかしようとしたのか、明日太がやっと口を開きますれば。
「バレンタインデーのチョコ、だけどさ……知り合いにジマンして見せたら売ってる店教えろって言われてな、ドコで買ったのか教えて欲しいなぁなんて……」
「あれは、その……自分で作ったから、お店じゃ売ってないと思うけど」
「そ、そうか! しかしアキラもがんばったな、手作りチョコなんて。クラスの男子の分ぐらい作ったんだろ?」
「ち、違うよ……手作りだったのは、1つだけで……」
探り探り聞いたことの返事が全て急所にハマったらしく、明日太は唾を飲み飲み明らかに動揺しちゃっておりますよ。
「……ご、ごめん、変な答え方したみたいで……しょ、食器片付けるね……」
「いや、何も変なコト考えてるとかじゃねぇから! それに食器ぐらい俺gどわぁっ!!」
しどろもどろでも思うとおりに言ってしまったアキラも慌てているようでして、2人して落ち着かないまま食器を取ろうとすれば、明日太の足元へひっくり返るなんて事故も当然ですよ。
「あっ……ごめん、明日太君! 今すぐ拭くから……」
「だ、大丈夫だってアキラ、もう冷えちまってるし……あ、あれ? さっきまで持ってたのに、落とした!?」
アキラがすぐと、明日太のズボンの裾に布巾を当てますが、それとは別に明日太がパニクり始めまして。
「どうしたの明日太君、何を落としたって……え、こ……これは……」
頭上で騒がしくする明日太を声だけで落ち着かせようとするアキラが、彼の足元に落ちていた小さな包みを拾いますと……今どきオトコノコが携帯しているのも珍しい、被せるタイプの避妊具でありまして、流石にアキラも識別できているようです。
「あ……あ、ハハハハハ……」
「これ……明日太君、の?」
「あ、あのさ……さっき、ホワイトデーの準備してねぇって言ったけど……ゴメン、すぐ出来た!」
アキラが摘み上げた包みに視線が行った明日太が、少しばかり誤魔化し笑いした後で、突然アキラの手を引いてベッドに引き倒しました!
「……!?」
「す、すっげぇ迷ったけど……ああまで言われたら、俺も我慢できねぇ!」
期待してもいなかった事態に驚くしか出来ないアキラの上に、明日太が覆いかぶさってから心情を吐露して、顔をぐいと近づけた後は……はてさて、続きは皆さんの心の中に。
……いや、ホントに書かない(書けない)よ?