13話 ”たとえ虐待と言われても子供には学校を楽しませてやれ ”
”前略、天国のおふくろ様。
よくよく考えれば、俺ってエヴァ相手に結構奮戦したもんな……
いや、確かに歯が立たなかったのは……立たなかった……んですが……ZZZ……”
13話 ”たとえ虐待と言われても子供には学校を楽しませてやれ その1”
前話まで:なんと、エヴァと茶々丸が史上最大の敵に。これだからバトル展開はやめられん……
ネギが明日太の制服と枕を濡らした夜も明け、新年度2日目のすがすがしい朝を迎えましたところに。
「おいネギ、いつまで着替えてるんだ? とっとと出ねぇと遅れちまうぞ!」
「え、えっとですね……今度はスカートが履けなくて……すぐ終わりますから、先行っててくださいっ」
シャワールームで着替えているネギ先生、明日太がいくら呼びかけても出てこようとしません。
「大丈夫かな~ネギちゃん、もう30分ぐらいこうしとるし……ひょっとしてどこか痛くなったんかな~?」
「……そうだよな、もう30分もこのまんまなんだよな……と!」
長々待たされて頭がおかしくなったのか、明日太ってばカーテンを取っ払って着替え中のネギを晒すようなことを……んんっ!?
「きゃうっ!? な、何するんですか明日太さんっ!」
「やっぱな……何が何するんですかー、だよ! 全然着替えてねぇじゃねぇか!」
明日太が指摘しますとおり、やれブラのホックだパンストだスカートだ言ってたネギは見事にパジャマのまんまでした。
「そ、それはですね……うっ! 急に持病の癪が……」
「何が持病だ! 木乃香、全力で着替えさせてやれ!」
「はいな~」
そしたら今度は仮病を使いやがったよこの先公。ここは最終手段、木乃香の手で脱ぎ脱ぎ着せ着せに明日太がスイッチです。
「えうっ! や、やめてくださいってば木乃香さんっ、今日だけでもどうかー!」
「あのなぁ、仮にも教師のクセしてズル休みかよ! 昨日どんなヒドい目にあっててもな、やっていいことと悪いことってのがあるだろ!」
「ほらほらネギちゃん、あんまジタバタせんと~」
再び閉められたカーテン越しに叱る明日太ですが、木乃香にアレコレされてる今だとあんまり効いてそうにないですよぉ。
「ううっ……木乃香さんヒドいですよっ、さっきから休むって言ってるのに……って、どうしたんですか明日太さん?」
「心配すんじゃねぇよネギ、俺だって少しはモノを考えたんだぜ……どうよ!」
「あや~、これまた立派な木刀やな~。いつの間に買うてたん?」
着替えを済ませたネギと木乃香を待っていた明日太の手には、木刀なんて物騒な得物が収まっておりました。
「フフフ……聞いて驚け見て笑え! この木刀はな、樹齢ン万年の大木の幹を削って作られ、骨も筋肉も粉々に砕くって言う伝説の木刀……のレプリカだ! しかもモノホンと同じく好きな文字も彫ってもらえる!」
「いや、そんなの自慢げに見せ付けられても……っていうか、何で東京湾って掘ってあるんですか」
「バッカだな、洞爺湖じゃ芸もへったくれもねぇだろ。だってんでここは違った湖の名前を使おうと……」
「あーそうですかっ……東京湾は湖じゃないですけどね」
「え、マジ?」
予想外の指摘に、明日太も目を丸くして聞き返しました……バカは君だ君。
「ま……ま~ともかく、もう出えへんといけない時間やし、コントは登校しながらしよ~な~」
「って確かに時間ヤベェよ! ほら行くぞ、ネギ!」
「きゃうっ! か、担がないで下さいよ明日太さーん!」
もう危うい時間なので、木乃香とネギを肩に担いだ明日太は一路学校へ向かいました……が、この朝から早速危機的な事態が起きようとは!
「神楽坂、お前という奴は……学校で使うわけでもないのに、木刀なんぞ持ってくるな! 校則忘れているのか!? それに、近衛もネギ先生も注意しなさい!」
遅刻寸前だった明日太一行は哀れ、新田先生に木刀を没収された挙句に職員室で説教です。
「違うんスよ先生、この学校におどろおどろしい危機が迫っているから……」
「はぐらかすんじゃない、馬鹿者!」
勿論本当のことを言って信じてもらえるハズもなく、新田先生から丸めたプリントチョップを喰らって明日太も沈静化します。
「いつつつ……痛ぇじゃないっスか! 大体学校で使うだの何だのっつったら桜咲は何だよ、明らかにポン刀じゃねぇっスか!?」
「桜咲は構わん、学園長が許可出してるからな……いや、私も納得してはいないが、お前の木刀よりはマシだ!」
「ま~せっちゃんは仕方ないわな~、せっちゃんは」
「……ともかくだ、この木刀は下校時まで預かっておく。ただ、明日以降持ってきたら本当に取り上げるぞ。以上!」
学園長権限は説明するだけ泥沼と感じた新田先生が強引に場を締め、明日太たちは職員室を追い出されました。
「何か納得できねぇ……武器っぽいの持ってきてるの桜咲だけじゃねぇし、俺がダメだって理由が分かんねぇよ!」
「つーか、大抵の学校じゃ駄目だと思うんですけど……あーんもうっ、明日太さんに期待してた訳じゃないですけどっ、より不安になってきました……」
「俺云々は余計だ! そもそもよ、学校で仕掛けてきたら教師権限で停学にでもすりゃいいだろが」
「無理ですよっ、寮に入ってなくても学内にいるんですし、夜中に会いでもしたら吸い尽くされちゃいますよっ!!」
ネギと明日太にしてみれば深刻な話題ですがね、木乃香とか周りの事情知らん人らからすればアブない連中だよ。
「ネギちゃん、朝からやけど何を怖がっとるん? 吸血鬼のコワ~イ夢でも見てもうたん?」
「ま、まぁそんなとこだ! ほらネギ、吸血鬼なんていねぇからとっとと行くぞ!」
「イヤですーっ、つーか勝手に夢で片付けないで下さいよっ!」
明日太がヨタ話っぽくはぐらかしつつ、嫌がるネギを引き連れて教室に入りますれば。
「うーっす、皆の衆!」
「イヤ、駄目、そんなところ開けないでくだs……」
「あ、おはよー、明日太にネギちゃん!」
「おはよー……って明日太、何てことネギちゃんに喋らせてるのよ! ロリコンは社会の敵だし、すぐにすらっと美人を愛せるように矯正しときなよー!」
泣き喚くネギを笑顔で出迎えるクラスメイトの中に、平然とまき男が加わっておりました。
「やめろや裕奈、んな誤解はウンザリだっつんだよ! そういやぁまき男、無事だったのか? 日光で体溶けたりとか、血を吸いたくなったりしてないよな?」
「おかげさまでモーマンタイだよー、それより体溶けるって何のこと?」
「1日寝たら元気になったみたい……どうして桜通りでだったのかは、覚えてないみたいだけど……」
まーアルファベットで雄たけびを上げるような状態にはなっていないようでして、まき男については心配無用なようです。
「…………」
「きゃうっ!! ちゃ、茶々丸さんっ……」
「な……何の用だ、ここでネギをやろうってんなら容赦しねぇぜ、茶々丸さん!」
ひとまず教卓に付こうとしたネギの元に茶々丸が近寄ってきまして、明日太がそこに割って入りますが、目の前に来てみると敵意が感じられません。
「いえ……マスターからの伝言です。『怖がりな嬢ちゃんの為に、別の場所で一眠りすることにした。もし相手になるというのなら、超音波笛を吹くか茶々丸に頼め』……とのことです」
「いや、超音波笛って何!? っつうか、ここで戦う気はねぇんだな。意外だ……」
「マスターより、襲撃せよとの命は受けていませんので……失礼しました」
要するにサボり報告だったようで、それ以上話す気もなさそうに茶々丸さんは引き下がりました。
「……で、授業出ねぇって生徒がいるってことだが、呼ばなくていいのか」
「と、とんでもないですよっ! もし本気を出されたらただじゃ済まされないでしょうし、後回しですっ!」
「あぁ、はいはい……」
いくら恐ろしい存在とはいえ教師の風上にも置けない発言をやらかすネギに、明日太も呆れて構うのを一旦諦めました。
1時間目、英語の授業の時間になりましたが、ネギさんやる気も元気も尽き果てた落ち込みっぷりです。
(あ、あぁ、眠い……)
「ほら明日太、起きて授業聞こうな~。でもネギちゃんどないしたんやろ、みんな授業そっちのけやえ」
「……づあっ! ……あ、まだあのまんまなのな……それこそスゴ腕のパートナーでも見つけねぇと、どうしようもねぇだろうしお前は気にすんな。そして俺も寝かせて……」
「あや~、パートナーって、恋人がいなくて寂しい思いでもしとるんかな~……あ、明日太寝たらあかんて~」
ネギとは別の意味でやる気なく寝入る明日太がポロっとパートナーのことを漏らし、木乃香さん思い込み進めちゃってるよ。
「……先生、言われたとこ読み終わりましたー」
「あ……ありがとうございます和泉さん……そーだ、和泉さんは、5歳も下の女の子をパートナーにするのなんてイヤですよね……」
「「「な……」」」
「って、突然求婚かいなー!!」
ネギったら何を血迷ったか、亜貴に突然パートナーの件を持ち出しまして、のどかやいいんちょやまき男が驚く中で、亜貴が入魂の新喜劇コケを披露しました……ってそらそうだ。
「いえ、イヤならそう言っていただいて構いませんし……」
「いやちゃいますねん、まだ中3やしそこまで踏み込めへんとゆーか……あーでも、この前元マネージャーの先輩に告ってフラれてもーたんですけど……って僕何言うとんねん!」
「は、はあ……それじゃ、宮崎さんは……」
「へ……ぼ、僕ですか!?」
亜貴がハズカシイ暴露をしながら拒否りますと、次は幸か不幸かのどかに矛先が回ってきました。
「……ぱ、パートナーになるってことは、この年じゃ許婚ってことだろうし、まずは同棲からってことに……6年後すぐに結婚するとしたら、その頃には3人ぐらい子供を作れるかも……ね、ネギ先生、是非不動産屋回りかr……」
「お待ち下さいネギ先生! 私ならば来世まで離れることなくお付き合いできますわっ!!」
のどかが妄想を広げている合間に、今まで耐えてたのが不思議ないいんちょが強く主張し始めまして……またモメそうだねぇ。
「はいはいストップー、ここでネギ先生に耳寄り情報だよ。3-Aの男子はウブ・エロ・バカのどれかで極端だから、粒揃いのワリに彼女いないヤツが殆どだと思うよ。まー百合の道を開拓すれば、いいんちょに限らず選択の幅は広がるけれど……」
「あ、いえ、彼女とか百合とかそういう意味で聞いた訳じゃ……」
朝倉の指摘で、今更勘違いされてることに気付いたネギが否定し出しましたが、そこに授業終わりのチャイムが。
「……あー、今日の授業はここまでですっ……すみません、変な質問をしちゃいまして、気にしないで下さい。それじゃ、今日はこの辺で……きゃぶっ!」
その覇気のなさじゃ気にするなって無理だろ、ってツッコまれるようなことを言ってネギが教室を出ようとしますがドアに顔面直撃しちゃったよ!
「……いえ、お騒がせしましたっ、大丈夫です、から……ハァ……」
「……何やったんやろ先生、妙なこと聞いとったけど……」
「あんなに元気のないネギちゃん、初めて見たなー。ってゆーか亜貴、パートナーになれるなんてうらやましーから代わってよー!」
「そうですわ、明日太さんは何かご存知じゃありませんの?」
ホントに騒がせて帰っていったネギについて、残ったクラスメイトが明日太に聞いてみようとしますが。
「ZZZ……」
「……すまんな~、明日太なら寝てもうてるよ~」
今のところ一番の事情通はオーバーロードで眠りこけておりまして、一同差はあれどズッコケですよ。
「全く、当てにした私が馬鹿でしたわ……では、木乃香さんは何かご存知じゃ……」
「ん~と、恋人が見つからへんから寂しい思いをしてる……って明日太は言っとったような、言ってへんような……」
あーあ木乃香さん、憶測だろうがそんなロリ魂に火をつけるようなことを……
「そーだったのかー、やっぱりネギ王女様は日本暮らしでホームシックになっちゃったんだよー! 私たちで慰めてあげよーよ!」
「それは名案ですわ! そしてあわよくば、ネギ先生を私の元に……」
「くひひ、ネギ子を楽しませてドッキリにかけてやるぞー! そーだ長谷川も協力してよー、ホストなんだからこういうの得意でしょー?」
「ふざけるな鳴滝姉、俺にだって射程範囲があるんだよ!」
かくして、またアピールのための催しをクラスメイトで画策しようとしていますが……あー、またエラいことになりそうね。
ちなみにそんな状況でも眠る明日太は、次の授業の新田先生に木刀で殴られるまで起きることはなかったとさ。
雪広あやか 曰く、
”なんと……ネギ先生ラブを掲げて3ヶ月弱のこの雪広あやかが、のどかさんや亜貴さんに後れを取ってしまったとは……
こうあってはクラス委員長として、よりネギ先生の盾となり影となり手足となr……あれ? ちょっと音響さん、また音量を下げてませ……”
”前略、天国のおふくろ様。
あれだよ、動物虐待とかそんなんじゃないからな!
俺はたまたま手元にあったから使っただけで……軽率? ケイリツって何だよ、日本語使え日本語!”
13話 ”たとえ虐待と言われても子供には学校を楽しませてやれ その2”
前回まで:思い悩むネギを明日太ではどうにもできず、ついに3-Aのみんなが立ち上がって……不安ですねぇ。
春のうららな昼休み、屋上でまたのんびり寝転がる明日太ですが、ぶっ叩かれた頭をいたわっているようで。
「あぁ、まだ痛ぇ……新田先生もひでぇよな、俺の木刀だっつうのに本気で殴るんだもんなぁ……」
過ぎた体罰とはいえ、せめて休み時間に起きなかったお前が悪いんじゃないのか。
「……もし今から戦えってなったら、素手でやることになるか……どうしたもんか、せめて山吹色の波紋疾走だけでも使えるようにしとけば……」
「た~いよ~うはオー命のほ~しだ~し~あわ~せをオー守~る炎だ~♪」
仰向けで太陽を見ながら余計な心配をしている明日太の横で、聞き覚えのある歌声が聞こえてきました。
「……! て、テメェ、エヴァンジェル!」
「随分と無防備なものだ……それで俺様に備えていると言うのなら縊り殺すぞ」
「…………」
今までどこにいたのかエヴァンジェル、茶々丸を引き連れて明日太の横に立っておりました。
「へ、へっ、殺そうってんなら掛かって来てみろ! こっちは死ぬ思いで波紋法を会得したんだ、テメェなんて簡単に……」
「馬鹿か貴様は……日中を平然と過ごす俺様に、波紋が効く訳なかろう。貴様が使えるのなら俺様でも使えるぞ」
「え、何それ!? お前って究極生物!?」
今まで一緒に授業受けてたら気付きそうな事実にハッタリさえ奪われた明日太ですが、一方のエヴァは構えさえしてきません。
「フン……そんな大仰な存在であってたまるか。だがもしそれ程の力があったならば、今の様に無力化に近い抑制は受けずに済んだだろうが……」
「む、無力って……一体どういうこったよ!?」
「相手が低脳では、説明してやるのも一苦労だな……俺様の口を見てみろ。昨日のような満月の夜でなければ、吸血鬼の牙を出すことさえ出来ん……これが俺様にかけられた呪いの真価だよ」
明日太をすっごい下に見たことを言い、エヴァは口の端を引っ張って人並みな歯をむき出しに見せて語ります。
「誰が低脳だ! ……あれ、ってことはつまり、いまのテメェじゃ血は吸えねぇってことか?」
「悔しいがそうだ。そうでなければ、あの小娘ごとき相手に半年も下準備はしておらん……とはいえ、パートナー1人も用意できん嬢ちゃんで助かったよ。母親程の度胸も備えておらんでは、な……」
「へっ、そんなテメェでもサウザン何たらに封じられたってんだろ? ましてや全力が出せねぇってんなら、俺とネギが負かしてやることができねぇとは思えねぇな!」
ここまで抵抗力の無さを示すのは不気味でもありますが、とにかく勝ち目があると勝手に踏んだ明日太が挑発しております。
「奴の名ぐらい覚えておけ! サウザンドマスター……ナギ・スプリングフィールドだ。運が向かなかったとはいえ、俺様をして見事に痛めつけられた魔法使いなのだからな……その運も、未熟な奴の娘が転がり込んできてくれた今では上向いているようだな」
「……そうか、ネギが追ってるのは、あいつの母さんだってぇのか……」
「フム……よくよく考えれば、貴様は門外漢なのだから知る由も無いか。嬢ちゃんの寝顔でどれだけ心が動いたか知らんが、命が惜しくば首を突っ込まないことだ。吸血鬼の力が無いとて、貴様のような虫1匹を血祭りに上げられん訳ではないぞ……」
エヴァは、彼の言を借りれば虫1匹を追い払うために脅しに来たようでして、去り際に本気の目で恐ろしいことを吐き捨てました。
「……! ね、寝顔なんざ茶化した口吐かしやがって! とにかくネギの血を吸うなんて許せるかよ、かかってきやがれ!」
「お断りだ。ただ眠りこけているだけのご身分なら俺様も許せたが、親愛なる学園長様がご丁寧に仕事なんぞ寄越しているからな……」
「…………」
「へ……仕事?」
所用があるらしく、茶々丸にお辞儀をさせて去ろうとするエヴァに一瞬驚く明日太でして、さらにそこにチャイムが。
「やべっ、もう昼休みが……いや、ここはエヴァンジェルを止め……あれ、いねぇ!?」
昼休みの終わりに気付いて周りを見渡した明日太が、再びエヴァへと向き直ると既に消え失せていた、という不思議。
張り詰めた感触の消えない明日太の授業も終わりまして、夕刻の寮でゆっくり休む……のかと思いきや。
「あのな、そりゃネギを励まそうって気持ちは分かるし、その為に賑やかなことをしようっていうのもお前ららしいよ……でもなぁ」
「ん~、明日太どうしたん、海パン気に入らへんかった?」
「そうじゃなくて、何で大浴場の男湯貸し切って水着でやろうってことになるんだよ!?」
どこかと思えば寮の大浴場、3-Aの大体の面子が水着に身を包んで”ネギ先生を元気付ける会”……を名乗ったパートナー射止められ大会を仕組んでおりました。
「……みんな、ネギ先生を連れてきたよ……」
「うーむ、風香殿の水着を借りて着せたでござるが、着れないこともないようでござる」
そこに、どうやら拉致ってくる係だったらしいアキラと楓が、スク水姿のネギを連れ立って入ってきました。
「あ、あの……いきなり連れて来られて分からないんですけど、これってどういう……」
「エヘヘー、ネギちゃんが元気ないみたいだったからね、みんなで励ます会を開いてみたよー!」
「え……お、お気持ちは嬉しいんですけどっ……明日太さーん、これってどうすれば……」
「まぁ確かに目的がおかしいヤツもいるけどよ、お前の為に開いたっつうんだから素直に楽しんどけ。それに、エヴァならしばらく動けねぇみたいだから心配無用だ」
戸惑っていたネギですが、明日太の鶴の一声に気持ちが動いたようです。効き目があったのは、明日太がこっそり言った最後の一言だけでしょうが……
「……分かりましたっ。それじゃ、皆さんに元気付けてもらっちゃいますー」
「そうこなくっちゃ! じゃーまずは僕とポッ○ーゲームしよーよ、ほらネギちゃんくわえてー」
「バカだなーまき男、○ッキーゲームなんて古いぞー! ほら甘酒だよ、ぐいっといけネギ子ー」
「待つアル、デザートの前には主食アルよ! 超包子の肉まんを持て来たアル、ご賞味あれアル!」
「ちょ、そんな一度には無理ですよーっ!」
だからってやすやす受け入れたらばさあ大変、みんなしてお口にいろいろ持ってきてネギさん止めるので精一杯ですよ。
「お待ちなさい皆さん! ネギ先生がお困りじゃありませんの……ささ先生、まずは甘酒など……」
「ありがとうございます、いいんちょさん。皆さんで私のためにここまで……」
「愛するネギ先生の為ならお安い御用ですわ。ところでパートナーの件ですが、頭脳明晰・容姿端麗・財力豊富な私ならば適任かと……世間の目でしたら心配無用ですわ、同姓でも契りを結べる外国に行けば……」
そこへいいんちょが場を収めまして……と思ったら、単に先手を取りたかっただけなのね。
「ぱ、パートナー、ですか……」
「えーズルいよいいんちょー! ネギちゃん、パートナーなら僕にしてよ! 毎晩ご無体な~なことしてあげられるよ!」
「またアピールタイム突入!? 今よのどか、あらん限りの変態っぷりを見せてネギちゃんを陥落よ!」
「え……そんな、まだ面と向かって言うには気持ちが……」
「そ、そのですねっ、パートナーのことは気の迷いと言いましょうか……あ、ちょっとお湯から上がらせてもらいますねっ!」
「ダメだよーネギちゃん、王子様になる人見つけなきゃいけないんでしょー、ここで決めちゃおーよー」
当然他の連中が見逃すわけもなくまた群がってきまして、ネギが逃げようってところを桜子さんが捕獲っ!
「い、いやですーっ!」
「こらネギ子暴れるなー、史也も捕まえろー!」
「はいですー、ついでにくすぐっちゃいますよー」
「やっぱりこうなったか……コラお前ら、元気付けるんじゃねぇのかよ!? 誰が捕獲しろっつった!」
「どこに逆おさわりをする接客業があるんだ、店でやったら法律に触れるぞ……」
恐れていた通りの事態に明日太が怒鳴りますが、ぜってー止まんねーよそれじゃ。かと言って呆れ果てる千雨とかにも無理か……
「落ち着きいや先生、取って食うわけやないs……ひゃっ、ギャハハハハハハハ! わ、脇腹はくすぐったらアカンて、アヒャヒャヒャヒャ……」
「どうしたの、亜貴……ひゃうっ! ね、ネギちゃん変なトコ触らないでよー!」
「え、わ、私は何もしてませんよー!」
「……あれ? のどかくん、その毛むくじゃらなのって誰かの水着とちゃうん?」
「あ、本当だ……でも、こんな柄なんて……わっ、う、動いたっ!?」
そんな揉みくちゃな場面に目を移しますと、触られた触られてないでちと口論になっているようで……さらにのどかと木乃香が何か見つけましたよ。
「い、今の一体何!? あーカメラに映ってないよ、ドコ行っちゃったのー?」
「今のはネズミ……いや、もっと大きかったです! とにかく動物が入り込んでるですよ!」
「ね、ネズミですって!? 皆さん、急いで湯船から上がってください!」
よからぬ侵入者が発見されてしまい、クラスメイトはネギ共々おたおたお湯から逃げ出し始めました!
「ど、どうしたんだテメェら!? 何騒いで……」
「イタチみたいなのが入り込んで来とる~、助けて~や明日太~!」
「ハァ!? な、何だかよく分からねぇが、俺に任せろ!」
「素直に網でも持ってきて捕まえればいいじゃないか……って待て神楽坂、何で木刀構えるんだ!?」
木乃香の言でとにかく立ち上がる気になった明日太が取り戻していた木刀を手に取りますが、まともにツッコむの千雨くんだけかい!
「木乃香、洗面器でも何でもいいから投げ込め!」
「分かったえ、そりゃ~~!」
明日太の言うとおりに木乃香が洗面器を拾って湯面に投げますと、びっくりしたネズミだかイタチだかが飛び上がってきました。
「……見えた! チェストォォォォォォ!!!」
その一瞬を明日太が捉え、全力で木刀をブチ当てまして、動物がタイルにベチャっと……し、死んだ!?
「キ、キー……」
「ぬ……やりすぎちまったかな」
「明日太さんっ、今のは流石にマズいんじゃ……あれ、このオコジョってまさか……」
細い鳴き声を上げるのも精一杯な動物に近寄った一同の中で、ネギ先生が何かに気付いたっぽい反応をしてます。
「どうしたんネギちゃん、これオコジョ言うん?」
「え、ええ……でもひょっとして……あ、やっぱりカモちゃんだー!」
『え……ひょっとしてネギ(先生・ちゃん)のペット!?』
ネギが高らかに名前を呼ぶ様を見せられれば、そりゃみんなも驚くしかないでしょうな。
「……はい、手当て完了や~。ゴメンな~、明日太が気付かんと殴ってしも~て~」
「い、いいじゃねぇか! 大ケガってワケでもないんだろ、結果オーライだって!」
「どこが結果オーライなんですかっ……大丈夫、カモちゃん?」
「キー、キー」
カモを部屋に連れ戻って木乃香が手当てをしまして、明日太がジト目で見られながらの一段落になりました。
「あとはゴハンやけど、夕くんが動物図鑑持ってるらしいから見せてもらってくるな~。それまでミルクで我慢しててな~カモちゃん」
「キー」
「はいー、いってらっしゃーい」
木乃香は牛乳を注いだ皿をカモに差し出して、夕ご飯の調達に外へ出て行きました。
「……でもよく日本まで来てくれたねーカモちゃん、去年の夏以来だよねー」
「しっかしオコジョかぁ、魔法使いはペットも変わってるんだな。まぁ、ポックリ死んじまうようなのじゃなくt……」
「……あ、そこのお兄さん魔法のこと知ってるの!? やーねーそれならそうと早く言ってよ、キーキー鳴くのって疲れるんだからー」
ネギのハシャギ様に殺してなくてよかったと思う明日太の言葉を遮って、なんだか聞き覚えのない声がオコジョさんの辺りから……
「アレ? 気のせいかな、オコジョが何か言ってるように聞こえたんだが……」
「あー、そういえばそうだよねカモちゃん。明日太さんの前なら喋っても大丈夫だよー」
「そーそーお兄さん、あの場で驚かせちゃったのはゴメンだけどさー、レディに木刀はあんまりじゃない!」
明日太にゃ何かの聞き間違いとしか思えませんが、そんなことはなくカモちゃんったら流暢にヒト語を喋る喋る。
「は……今度は不思議生物ですかぁぁぁぁぁぁ!?」
また魔法がらみの新事実に、明日太は頭を抱えて大絶叫するしかありませんでした。だが、オコジョのトラブルメイカーが出てきたからには驚かすだけじゃ済まされません!
画面から距離を取るなど、目をいたわりながら次回を待ってくださいな。
『麻帆良を染め上げるピンクの嵐。轟くキスマーク。それは私の金ズルの合図か。アチチな若いお2人さんが瞳の奥に隠すものは……』
『カモちゃん、文の意味が繋がってない気がするんだけど……』
『そう? じゃあねー……マギステル・マギを目指す者達が本当に戦わねばならないものとは。次回、「最後は既成事実」! 明日を信じて飛べ、ネギ!!』
『うーん、それでも内容スカスカなんじゃ……』
『そーは言ってもねー、あんまり使いすぎると元ネタバレちゃって、元ネタの方をスカスカだと勘違いさせちゃうんじゃないかなー、って思うのよねー』
『なるほどー、カモちゃん頭いいねー!』
『『アハハハハ……』』
14話 ”既成事実を作れる男はキープしておくに越したことは無い ”
”前略、天国のおふくろ様。
変身した見た目からすりゃ俺のが年下だろ。少なくとも精神的には……
だってのに、何でお兄ちゃんだにいさまだとか呼ばれなきゃいけねぇの!?”
14話 ”既成事実を作れる男はキープしておくに越したことは無い その1”
前話まで:喋れるネギのペット・カモが颯爽と登場! ……あれ、何か忘れてない?
「ブライ・シンクロン・マキシーム!」
ヒト語を喋るオコジョのカモさん、情け無用臭漂う単語をシャウトしますと、突然白髪にケモノ耳が映えるお姉さんが登場!
「説明しましょう! それは5年前、ウェールズの山奥での出来事でした……運悪く人間の仕掛けたワナにはまってしまった私アイリーン・カモミール! そこを当時から美少女だったネギの姉貴に助けられ、マァ○に手当てされたヒュン○ルの如く慈愛の心に打たれた私は世話役兼ペットとして、姉貴に付き従っていくことを決めたのでしたー! ちゃんちゃん♪」
「……あの」
「ん、どうしたのよ明日太お兄ちゃん?」
「いや、そのナリでお兄ちゃん言ってくれるな……じゃなくて、お前誰だァァァァ!?」
ワナにかかったオコジョや妙に輝いてるネギのイラストで、分かりやすく出会いを説明するこの美女は間違いなくカモさんなのですが、明日太にいきなり信じろって無理よね。
「カモちゃんは人間の姿にもなれるんですよ、明日太さんっ。会った頃は背がもうちょっと小さかったんですけど、今じゃネカネお兄ちゃんに並んでるんですよ」
「中途半端に習ったワザだから耳やしっぽは残ったまんまだけどね……でも見た目も肉体年齢の影響を受けるから、ピッチピチの今の私が変身するとこんなにボンキュッボn痛たたたたたた!」
「……あのさ、調子乗んなよ?」
「ううう、ごめんちゃい姉貴……」
プロポーションに話が触れて、ネギがおっそろしい形相でカモの足をつねって凄みます。過敏だねぇ……
「ハァ、すんなり信じるようになっちまってる俺が恐ろしい……」
「まー、そのうち慣れるから気にしないことよん。それにしてもさすが姉貴よね、明日太にいさまみたく素質たっぷりなパートナーを探してただなんて。また1つマギステル・マギに近づいてるようで安心したわよー」
「そんな、明日太さんはパートナーじゃないよカモちゃん! い、一応探す努力はしてるんだけど、まだ……」
「んだんだ。確かにクラスで魔法を知ってるのは俺ぐらいだろうが、パートナーなんぞになってたまるかって。っつうか、にいさまなんて芸人みてぇな呼び方止めろ!」
勘違いを進めたカモがパートナーの話題を出してきて、ネギも明日太も微妙にぎこちなく答えています。
「あらら、やっぱりね……でも心配無用! ネカネ兄さんから直々に頼まれた私が、楽しくやらしくパートナー探しを手伝わせていただきます♪」
「ホント!? ありがとーカモちゃん、心の友よー!!」
「この程度で喜んでられないわよ姉貴! さっき風呂場で見た限りだと、明日太のあにぃに勝るとも劣らない逸材がわんさか……そーだ、ここ灰皿ってなーい?」
「うさんくせぇ勧誘みてぇだなオイ……あと仮にも中学生の前でタバコ吸おうとすんな! それにあにぃってドコから引っ張ってきた!?」
カモさんそこを勢いで押し切りまして、あっと言う間にネギをノリノリにしてしまいました。
「うさんくさいとは失礼デスねー、魔力的な素養とか誰に好意を持ってるとか、オコジョ精霊の能力なら察知できてトーゼンなのデスよ兄チャマ!」
「あぁ、もうツッコむ気も起きねぇ……ん、木乃香が帰ってきた! 早くオコジョに戻れ!」
悪ノリを重ねるカモにツッコミながらも、木乃香が帰ってきたらしいドアの音に気付いた明日太が慌ててカモの姿を戻させますと。
「ただいま~、何や騒がしかったけど……そうやカモちゃん、オコジョって肉食やゆ~てたから、鶏肉買うてきたえ~」
「キー」
「このナリで肉食うのかこいつ……あ、チャイム鳴ったな、今度は誰なんだか……」
戻ってきた木乃香が見せたお肉のパックに喜ぶカモの横で、明日太が呼び鈴に気付いて来訪者を確かめに行きまして。
「こんばんわ明日太ー。さっきのカモちゃんどうだった、殺っちゃってなかった?」
「何だまき男か……ってヤなこと思い出さすなよ。まぁ木乃香が手当てしたし、大丈夫なんじゃねぇの」
「そらよかったなー。そうや、カモちゃんもっとじっくり見てみたいけどええかな? さっきはすぐ明日太が叩いてしもーたし」
「だからイジるなっつってんだよ亜貴! 見るっつったってなぁ、ネギに聞いてみないとどうしようもねぇぞ」
「私はOKですよー、今そっちに連れて行きますねっ」
尋ね人のまき男や亜貴たちが見たい見たいとせがんできまして、快諾したネギがカモを抱いて廊下に出てきました。
「うわー、これフェレット? かわいーなー」
「いや、オコジョ言うとったやんけ……それにしても浴場うろつくなんて変わっとるなー」
「ちょっとズルいよ2人とも、私にも触らせにゃよー」
「やっぱペットがいるといいよねー。うちのクッキとビッケに会わせてあげよっかー、カモちゃーん」
寮暮らしだからなんでしょうが、可愛い小動物をキャイキャイと触りたがる皆さんにネギもカモ自身もちょいと引き気味です。
「あ、あの、あんまり乱暴しないで下さいねっ」
「キー、キー」
「……そういえばネギ先生、ペットを飼うんでしたら許可取らないといけませんよ」
「そ~やった、ウチがプリント貰って来るから待っててな~」
そこにこっそりといたのどかが指摘してきまして、木乃香が部屋を出て階下へと降りていきました。
「……でも良かったなー、カモちゃんがいてくれたらパートナー探しもはかどるよー」
「あんなにみんなを興奮させちゃうなんて、私ってば罪な女だわ……」
「……ホレ、鶏肉切れたぞ。ったく、何で木乃香も俺に任せるかねぇ」
部屋に戻ったネギとカモは歓迎されていたことに浮かれてますと、台所で調理用バサミ片手に鶏肉と格闘していた明日太に呼び止められました。
「わーい、お兄ちゃまありがとー♪」
「……いや、ホントにツッコんでやんねぇ。しっかし生で大丈夫なのかよ」
「まー、生肉だけじゃなくて人間と同じ物も食べられるけど、木乃香姉さんに変だと思われないようにしないとだし……あ、冷蔵庫の中身教えてねお兄様、誰もいないときツマむから」
「少しは居座る態度になれやコラァ! あと今度はお兄様かよ!?」
皿によそわれた肉にがっつくカモと、コロコロ呼ばれ方が変わってイラつく明日太が漫才調で言い争っていますと。
「……あ、そうだ! 後でネカネお兄ちゃんに、カモちゃん寄越してくれたお礼のメール書かないと……」
「た、タンマよ姉貴! そこら辺は私がちゃちゃーっとやっちゃうし、それに……」
「……”それに”? どうしたのカモちゃん?」
ネギが魔法のこもってるっぽい紙を取り出しているところに、カモがせかせか走り寄って制止しました。
「え……あ、あのね……そうよ! さっき私を見に来てた生徒いるじゃん、その中にパートナーにうってつけの子がいたのよ!」
「ほ、ホントなのカモちゃん!? 誰なの、教えてっ!」
「教える、教えるから握っちゃらめぇ……んー、ピンと来たのはいいんだけど名前分かんないのよねー。写真とかあればいいんだけど……」
「あーそうだよね……それじゃ、この名簿で教えてよ」
到着早々に朗報をもたらしたカモを握り締めて喜ぶネギが、名簿を開いてテーブルに据えてカモが選ぶに任せますれば。
「はーいはいちょっと待っててねー、確か物静かってかネクラっぽいこの……へ……」
出席番号の頭から検分して回っていたカモさんですが、突如一点に目が留まってガクガクブルブル震えだしました……いかがなすった?
「あれー、誰だったのカモちゃーん」
「……あ、姉貴、一つ訊いていい? この26番のエヴァンジェルって子、まさか吸血鬼だとかそんなんじゃないよね? よね?」
「え、エヴァさんは、その……残念ながら……」
「マジなの姉貴!? エヴァンジェル・アルバート・キッド・マクダウェルって言ったら、吸血鬼の真祖にして邪悪かつ強大な魔法使いで有名だったのよ!? 女子供は対象外だったとはいえ、数え切れない数の人間を殺して600万ドルの賞金首になってるし……15年前に突然姿を消してからどーなってるかは知られてなかったけど、まさか日本で中学生やってたとは……」
ネギが首を縦に振るや否や、カモさん興奮してエヴァンジェルの逸話っつーか悪名をベラベラ捲くし立ててます。
「うっせぇよテメェは、隣とかに怪しまれっだろ!? 大体そんな末恐ろしいヤツだってのは俺らだって知ってるわい、っつうかエヴァンジェルが俺らにケンカ売ってきたから、パートナーが必要になってるんだよ」
「おにいたまはカタギだから怖さが分からないのよー、私らオコジョ妖精にも悪事の程が知れ渡ってるぐらいの極悪人で、今まで15年も沈黙してたのが奇跡としか思えないぐらいなんだからー!」
「だったら心配ねぇって、ヤツなら学園に封印されてて実力出せねぇから、満月を外せば倒せなくはねぇんだって! あと呼び方1つに決めとけ!」
そこに明日太が首を突っ込んで揉め始めますが、どっちも大音量なもんで近所迷惑は続行のようです。
「あのカモちゃん、それでパートナーになりそうな人って……まさかエヴァさんだとか……」
「あーそれは違う違う、ホラ、この27番の……宮崎、くん? ウン、この子この子ー」
「え……宮崎さんっ!? お、思い当たるフシが無くは無いけど……」
「本屋がかぁ!? まぁ、なれたらなれたで一番喜びそうなヤツではあるよな……」
ネギの指摘で急に調子を戻したカモが前足で指しますは、僕らの本の虫・宮崎のどかでありまして、明日太はともかくネギはやや不安気味に……
「ちょーっと女の勘みたいなのも入ってるけど、”意外とカッコいい顔”なーんて書き込んでる姉貴にはおあつらえ向きかと思ってねー」
「え、それは気の迷いって言うか、オカズにされてることを知らなかったからって言うか……」
「あのなお前ら……エヴァンジェルを叩きのめすために選んでることは覚えてるよな?」
一気に緊張感を失って駄弁るネギとカモに、武闘派らしく注意をする明日太ですが、コトはパートナーなんだし仕方ねーって。
「そ、そうですよね明日太さんっ! イザと言うときの為に日本の法律も知らないといけませんし……とりあえず、少し考えますねー!」
「法律って何だよ、裁判沙汰か、裁判沙汰にするつもりか!? まぁ、本屋もアレだしないと言い切れねぇ気も……」
「アイサー姉貴、ファイナルフュージョン承認は早めにねー」
「待てコラ! プログラムドライブをそういう表現に使うな!」
何分急には決められないことでもありまして、ネギさん思いつめて部屋の外へとエスケープしちゃいましたよ。
「あらあらアニキってばー、私は力を合わせることの例えで使っただけなのに。どんなヤラしいこと考えてたんだか……」
「るっせぇ、余計なお世話だ! ……あ、手紙取り忘れてたみたいだな、ネギの兄貴さんからのエアメールか……」
墓穴掘ったツッコミを怒鳴って流そうとする明日太が扉を閉めますと、郵便受けにいつぞや送り先のことで叱って見覚えのある手紙が。
「何ですとー!? ちょっと兄上様、タンマ!! ここは居候の私が責任持って渡してくるから、ね!?」
「あぁ、別にやってくれる分には構わねぇが……」
「それじゃ手紙預かるよっ! はー、兄君さまのお役に立ててワタクシ幸せですわ~ポポポ♪」
「さっきから言ってるけどマジメにやれ! ったく、何でオコジョとボケツッコミをこなさなきゃならねぇんだか……」
手紙をかっさらってネギを追っていったカモに頭を痛める明日太くん。そんな彼の懸念はどこへやら、騒動はまだまだ序章の段階であります。
近衛木乃香 曰く、
”カモちゃんには明日太がおイタから入っても~たからな~、ウチとネギちゃんでちゃーんとお世話したげよ~。
……あ、何食べるかなんてネギちゃんに聞けばよかったかもな~。ネズミ食べさせてたとか言われたらお手上げやけど……”
”前略、天国のおふくろ様。
何さ、俺に一体何の恨みがあるんだよ!
熊といいリ○ゴォといい、ロクな登場の仕方してねぇじゃん! 大体どこに笑いの要素あんの!?”
14話 ”既成事実を作れる男はキープしておくに越したことは無い その2”
前回まで:カモさんの大分析の結果、のどかにパートナーの白羽の矢が!? レ○プENDも覚悟ですな……
「……うらぁテメェ! このエロオコジョがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
明くる日の早朝、まだ新年度も3日目だってのに明日太の咆哮が突如寮中に響き渡りました。
「……ん? 明日太さん、どうかしたんですかっ」
「ネギちゃんおはよ~。カモちゃんがな、明日太の”花の慶次”パンツを布団代わりにしても~たんやて」
「あぁ……俺のカブキ者が、”だが、それがいい!”が……」
「は、はぁ……っていうか、そんなパンツドコで買ったんですか」
しっかり明日太のベッドにもぐりこんでいたネギが目を覚ましますと、カモの寝床にした戸棚からガラパンを引っ張り出して落涙する明日太の姿が。
「……聞いてっかテメェ! ペットのクセに人様の下着かっぱらうとはいい度胸だぁな!! っつうか寝床作ってやったろ、何が不服だコラァ!」
(だってぇー、男物の素っ気ない布地が好きで好きでたまらないんですもーん。それより兄や~、あんまり締めると感じちゃいます~)
「感じるじゃねぇだろ!! あぁもう、コイツの相手ネギ以上に腹立つぅぅぅ!!」
一応握り締められているカモはヒソヒソ声でからかいますが、頭に血の上った明日太は大声で大反論ですよ。
「あはははは、明日太も動物相手に大げさやな~」
「は、ははははは……そ、そうですよねっ……」
まさかカモが流暢に日本語喋って、明日太を手玉に取ってるとは知らない木乃香さんにはギャグとしか見えません。ネギも思わず引きつった笑みを浮かべてます。
占い研の部室に所用がある木乃香を除き、明日太とネギ、ついでのカモが駆け足で登校しておりますれば。
「ハァ、高かったんだぞあのパンツ、汚しやがって……っつうか、何も俺のパンツを取るな! どうせなら木乃香のとかネギのとかにしろ!」
(女物は軟らかすぎて好かないんだ。ウェールズでもネカネ兄さんの下着を使わせてもらっていたし、協力して欲しいな兄くん)
「少しは反省しろやテメェェェェェ!」
「まあまあ、明日太さんも抑えましょうよっ。あんまりカモちゃん相手に大声出してると、アブない人だと思われますよー」
未だに怒りの収まらない明日太とまともに取り合わないカモをネギが仲裁していました。毎度のことだが、理由が普通じゃねーって。
「しゃあねぇな、ったく……そういやぁネギ、パートナーはどうするんだ。本屋で大丈夫なのか?」
「え……それが、こんな形で宮崎さんを巻き込むのって、ちょっと悪いんじゃないかなーなんて……」
(何迷ってるのよ姉貴、相手は最強と名高い吸血鬼よ! 味方は多いに越したことはないし、何より私のセンサーがビンビン反応してるんだから! やるなら今っきゃない!)
「いや、お前のカンはアテにしたくねぇ!」
そこに明日太がパートナーの件を切り出しまして、躊躇するネギをカモが必死に煽ります煽ります。
(フフフ、オコジョ精霊の力を見くびらないで欲しいね兄くん……あ、自然に兄くんって出たわねー、メインこれにしよー)
「テメェはいいから黙ってろ! まぁ、決めるのはネギだからな……本屋の性格考えると、今回だけパートナーとか通用しねぇと思うから慎重になれよ。じゃあな!」
「あ、はいっ……」
ゲタ箱が見えてきたこともありまして、明日太は急かさない言葉をネギに告げて教員側へ送り出しました。
「世話が焼けるぜ、あのオコジョは下らねぇことしか言わねぇし……あれ、アイツってネギの肩に乗っかったままじゃなかっt」
「待ちなさいネギ先生、その肩の動物は何ですか!? 教師がペットを学校に連れ込むとは一体どういう了見で……」
「はうっ! に、新田先生ごめんなさいっ!!」
「あぁ、やっぱり……」
上履きに履き替えたところで、明日太が突然響いた怒号の元を見てみますと、予想通りカモを見つけられて叱られるネギのお姿が……ま、そりゃそうだわ。
ネギには波乱の幕開けだったらしい今日の3-Aでしたが、エヴァが引き続きサボっていたこともあって、平穏無事に帰りのHRのお時間になりました。
「それではホームルームを終わります。明日も元気に登校してきてくださいね……」
「今日のネギちゃんも元気ないな~。カモちゃん学校に来てええっておばあちゃんがOKしたのに、まだ悩み事でもあるんかな~?」
「まぁ、人生を左右することだしな。俺らにどうこうできやしねぇって」
昨日ほどでないとはいえ、覇気が抜けているネギが教室を後にしまして、木乃香に限らず心配する声が飛び交っております。
「……あ、そうだそうだ! 本屋くーん、おととい桜通りで吸血鬼に襲われたんでしょ!? 是非まほら新聞に独占取材させてよ!」
「え……こ、困りますよ、これから図書委員の仕事がありますし……そ、それじゃ!」
「あ、ちょっと本屋くん待ちなよ……あらら、いつもらしからぬ逃げ足の速さだなー」
そんな中で朝倉がすっくと立ち上がり、報道部の血が騒ぐとばかりにのどかに吸血鬼事件の取材を掛けますが逃げられてしまいました。
「あや、おとといのことバレてもうてるな~。ウチは夕くんとパルにしか喋ってへんのに、どこから知られたんやろ?」
「いや、お前隠す気ゼンゼンなかっただろ!? 夕はともかくハルナに言うか普通!?」
「そーだった! 明日太も吸血鬼に襲われたんだよね、詳しく話を聞かせなさいっ!!」
「るっせぇ朝倉、お断りだ!」
漏洩元にツッコむ隙さえ与えることなく、朝倉の魔の手が明日太まで伸びてまいりました。
「そういうわけにはいかないなー。麻帆良のみんなの知る権利を守るため、覚えてることを一切合財吐かせてもらうよー」
(冗談じゃねぇよ、ネギやエヴァンジェルのことを喋るわけにもいかねぇんだ! ここは逃げるしかねぇ!)
「……あぁ、俺美術部に急用があったんだわ! 木乃香、適当に相手しとけ!」
「ちょ、待ちなさいよ明日太ー! 美術部ってアンタ幽霊部員じゃん!」
「適当言うてもな~、ウチはのどかくんのカバン運んだだけやし……」
三十六計逃げるに如かず、明日太はゲロらされる前にと教室から全力で逃げ去りまして、朝倉も追いかけますが足の速さでは敵にもなりません。
「……ハァ、ハァ、こればっかりはネギと打ち合わせしとかねぇと危ないよな。電話しとこう……ん?」
ひとしきり逃げ切った明日太が、ネギを呼び出そうとカバンの携帯を取り出そうとしたところ、何だか見慣れない冊子が入っておりました。
「何だコリャ……”君もマギステル・マギになれる! スーパー・パートナー契約SOSブック(ベルサウンド出版 刊)”? マギ何たらってことは魔法の本か、朝オコジョとドタバタした時に入ったのか?」
手にとって見れば魔法関連の代物でありまして、カバンでカモフラージュしながら明日太が中をピラピラめくっていますと。
「はぁ、ピンク色ってのがやらしさ全開で読みづらいな……ん、ページの角折ってあるぞ。なになに……”本格的な契約を結ぶのは、魔法使い・従者共に一定以上のスキルが不可欠になっている。そこでまずはお試しとも呼べる仮契約を結んで……”って、読んでてワケ分かんねぇな。別んとこはどうなんだ?」
魔法のイロハも知らない明日太にはちんぷんかんぷんな内容でしたが、どこか興味をそそるみたいで黙々読みすすめていましたが。
「あ、マーカー引いてあるぞ……”仮契約を結ぶための儀式では、まず魔法陣の展開が前提! 契約方法は多々あるが一番簡単なのは……”……な、なんですとぉぉぉぉっ!?」
「……あ、ここにいたですね明日太さん。つーかどうしたですか、そんなヒドい形相で大声あげて」
とあーる箇所を読み上げているうちに、内容にびっくり仰天してしまった明日太くん。そこに夕がひょっこり現れてツッコミます。
「あ、イヤ何でもねぇんだ夕! それより何か用か!?」
「いえ、のどかがこれを拾ったというので、ネギ先生に渡していただきたくですね……」
咄嗟にゴマカして用件を尋ねる明日太に、夕が手渡したのは見覚えのある封筒でした……あれ、エアメールとか英語で送り元が書いてあるってまさか!
「な、これってネギの兄貴さんからの手紙じゃねぇか! オコジョが渡したんじゃねぇのか!?」
「一体オコジョに何を任せていたのですか……のどか曰く、寮の廊下のゴミ箱に入っていたそうです。封を開けてない手紙を部屋の外に捨てるのも不自然なので、ネギ先生と待ち合わせだと浮かれてたのどかからかっぱらって来たです」
どうにもカモさん、行動が怪しすぎです。そこにのどかがネギと待ち合わせだなんて怪しいこと極まりないお話が。
「待ち合わせ……オイ夕! その、本屋がどこに行ったかとか分かるか!?」
「はあ……詳しい場所は聞いてませんが、寮の方へ向かっていたですね」
「分かった! サンキューな、夕!!」
こりゃバカでもトラブルを確信するってもんで、明日太はのどかの行き先を聞き出したが否や一気に走り出しました。間に合うの!?
「ね、ネギ先生、僕も初めてですけど、怖がらないで下さいね……」
「ほ、ホントにやっちゃうんですかっ!? イヤ、私、もっと記憶に残るシチュエーションの方が……」
(だらしないわねー姉貴! どうせ5年もすりゃ初めてなんて忘れるくらい経験するんだし、YOUやっちゃいなよ! 愛はオコジョを救うんだってば……)
少し時間の進んだ寮の裏手、魔法陣が光り輝く中でネギとのどかを影で急かすカモさん……あ、志村後ろー!!
「待たんかいこのエロオコジョォォォォォ!」
(むぎゃぁぁぁぁぁーーー!!)
「え、明日太さnあいたっ!!」
「ごふんっ!!」
オコジョさんの背後に瞬く間に参上した明日太がピコハンの一撃で仕留めまして、魔法陣が解けたのと明日太の登場に驚いてネギが背筋を伸ばしたら、顔を近づけていたのどかと額をぶつけ合って大打撃! のどか君がダウンしちゃったよ……
「ちょ、どうしたのですか兄君さま、私は青少年の健全なお付き合いを応援してただけで……」
「ほぉ……男物の下着を盗みまくって指名手配になってて、ネギの兄貴さんに頼まれたとウソついて転がり込んだ挙句、パートナーの契約だとかでキッスを強要しといて……よく言えたもんだなこの不健全野郎がぁぁぁぁぁぁ!!」
「いたたたたたたたた! め、雌オコジョ虐待ーっ!!」
捨てられてた手紙とカモが間違えて放り込んだ本のおかげで、すっかり真相を知ってしまっている明日太がさらにピコハンでカモさんをすりつぶすすりつぶす。
「虐待じゃねぇっ! 昨日お前が処分しやがった、ネギの兄貴さんからの手紙に全部書いてあったぜ! ネタは上がってんだよ!!」
「え……カモちゃんどういうことなのっ!?」
「ご、誤解しないで姉貴! 私が逃げてきたのはあくまで冤罪なのよー!」
「え、エンザイ……って何だ? 新手の野菜か?」
「無実の罪を着せられてるってことですよっ……とにかく話してみてよカモちゃん、私が力になれるかもしれないし……」
突然知らされた事実にネギが驚きつつも問い詰めにかかりまして、カモが自白モードに入るみたいです。
「あれは吹雪の止まない冬のこと……その日暮らしが精一杯では体の弱い弟を養うのも難しくて、やむなく仲間を募って人間の下着を盗んでは、売り払って弟のために毛布を買ったり男物をピンハネして感触を楽しんだり……」
「いや、思いっきり盗んでんじゃねぇか!」
「気付けば盗っ人の元締めってことになってて、これじゃ弟も養えないと密航して、ネカネ兄さんの名前を出してマギステル・マギ候補生の姉貴に取り入ろう……って思ってたけど、姉貴の信頼を裏切った成功に意味なんてないわ。それじゃ、私は断崖絶壁でF越さんに……」
「そんなことないよ、カモちゃん!」
しんみりといきさつを語ったカモはクールに去ろうとしますが、そこに感涙するネギが呼び止めまして。
「あ、姉貴……かばってくれなくていいわよ、手柄欲しさに無理矢理仮契約までさせようとしちゃったし……」
「でも、エヴァさんのことも真剣に考えてくれたし……それにカモちゃんがそんな苦労を背負っていたなんて知らなかったんだ、だから改めて私のペットになってよ! 一緒に世の中の為になることをして償おうよっ!!」
「な、なんて慈悲深い! 一生付いていくわ姉貴ー!!」
「あぁ、もう好きにしろ……」
勝手に桃園でするような主従の契りを固く結ぶネギとカモさん。明日太ももう呆れ果てるしかありませんで……そんなカモさん残留が決まったお陰で、パートナー騒動はさらに突き抜けていくことになってしまうのです!
ネットは1日1時間……あ、そんなん無理か。とにかく体を大事にしながら次回を待たれよ。
『……つーかやってられませんよ! 現実なら尻切れトンボもいいとこだし、妄想ならもっと先を見せてくれと……一応全年齢対象? 知りませんよそんなの!』
『あのー本屋くん、ネギちゃんとの待ち合わせの話はどうでもいいからおとといの……』
『どうでもよくないですよ朝倉さん! いいじゃないですか、昨今の少女漫画なら僕の妄想以上のことだって平気で……』
『いや、私は吸血鬼事件の取材で来たのにさー、マンガ規制をどうこう言われても困るって』
『とりあえず、食堂棟で大声で話すような内容じゃねーってことは悟れよです……それでは次回予告です。僕に出演依頼が来ていないのでよく分かりませんが、茶々丸さんと楓さんがメインになるとか……』
『ハイ次回、”ロボ娘? くの一? そんなのどうでもいいです、主役はネギ先生なんだから前面に押し出しましょうよ!”をお楽しみに!』
『ウソ予告以前に煩悩出しすぎだろです! 毎度エンディングはこんなキャスティングばっかりかよです、スタッフやる気あんのかです!!』
15話 ロボットだろうが3割増しを3倍にする努力は欠かせない
”前略、天国のおふくろ様。
言っておくが今回の俺たちは、最初っからクライマックスだぜ!
……ちょっとやってみたかっただけっス、すんません”
15話 ”ロボットだろうが3割増しを3倍にする努力は欠かせない その1”
前話まで:いろいろ画策していたカモを許すネギ。明日太の心配をさて置きエヴァに立ち向かおうと……すんの?
少しばかり時が進んだ日曜の早朝。麻帆良学園を出てすぐの深い森を彷徨っているのは、ボロボロの明日太とカモさんです。
「オイ、ホントにネギは、こっちなんだろうな……何、いつから特訓編になったんだ、殺す気かオコジョ野郎!」
「せめて名前で呼んでよ兄くん! 間違いないのよ、姉貴のにおいを判別できないわけがないんだから……でも、一晩中歩き回るのは、流石に……」
息を切らせながら、ネギの姿を求めてご両人は茂みを分け入って行きます。
さて、どうしてこんな事態になってしまっているのでしょうか……いや、ちゃんと説明しますともさ。
さかのぼるは2日前の登校時間。時刻(とき)を越えて、俺たち、参上!! とばかりに明日太・ネギ・木乃香が校舎へ急ぎ走って参りました。
「あののどかくんのやさぐれっぷりはスゴかったえ。ホントに夢の続きが惜しかったんやろな~」
「そりゃ……残念だったっつうか、巻き込まれなくてよかったなっつうか……」
「何だかんだ言っても、面と向かって謝れなくて心が痛みますね……」
「大丈夫やって。ネギちゃんが呼び出した言うても夢の話やし、落ち込むことやないんやから」
どうやらパートナーの仮契約の一件がそこら中に知れ渡っていたらしく、木乃香の話しぶりにネギが浮かない顔になってきました。
「まぁ、その手の妄想は俺らの年頃じゃいつものことではあるよな。昨日のはともかくとしても、な」
「そ~や、明日太も常習やったしな~。明日太がそういう夢見た日は、ちょっと近寄っただけでも顔赤くしてたんやえ」
「ばっ、バカ言うんじゃねぇよ木乃香! どうしてそうお前はポロッとぶっちゃけるんだか……」
「あはは、スマンスマン。ほな、部室寄ってくるから先行っててな~」
話がそれて明日太の思春期事情が晒されてるうちに、昇降口にたどり着きまして木乃香が占い研の用事を済ませに行きました。
(フフフ、兄くんもやっぱりオトコノコだもんねー。必死に否定しちゃって可愛いもんよn……あれ、どうしたの姉貴、まだ沈んじゃってるの?)
「え……た、大したことじゃないよっ。今日もサボりに何も言えないまんまなのかなー、なんて……」
「き~み~は勇気を~持って~いるか~どんなこ~とにも~負けない~心~♪」
明日太の恥物語には気を留めず、自分が無策なことにへこむネギの後ろで、今に至るまで恐怖を煽ってきたお方の歌声が……
「え、エヴァンジェルさん、茶々丸さん……」
「フン……毎年聞かされて鬱陶しかった授業が、ゆったりした睡眠の時間に早変わりか。駄目教師サマサマというやつだな」
「…………」
茶々丸を連れ立ってネギの元に現れたエヴァは、問題児の鏡と言わんばかりに堂々としたサボり宣言を言い放ちました。
(こ、これが本物のエヴァンジェルね……封印されてるとはいえ、ツェ○リさんもおののくような悪の気を感じるわ……)
「ヌ……成程。知識豊かなオコジョ妖精を雇い入れて、俺様への対抗手段でも練っていたところか。次の満月はさぞ楽しませてくれるのだろうな?」
「オイオイ、さっきから聞いてりゃ余裕ぶった口ばっかり叩きやがって! 不良生徒が偉そうにするんじゃねぇ!」
「小物は黙っていろ、耳障りだ……そうだ嬢ちゃん、俺様は目上の人間に泣きつくなどという下種な真似が大嫌いだ。タカミや学園長の婆さんに告げ口をしてみろ、貴様の可愛い生徒が1人2人失血死することになるだろうよ」
「…………」
カモの存在を気に留めたかと思えば、今度はネギに脅しを掛けたエヴァはさっさと茶々丸を連れて引っ込んで行きました。
「ううっ……ぐすっ……」
「ネギ……泣きたいなら今のうちに泣いちまえ、どのみち気持ちを切り替えないと……」
「あ……あの血い吸うたろか野郎、私の順風満帆な女教師ライフを無下にするよーなことをっ……いずれコテンパンにして、服従の証に足舐めさせてやる……」
「待てやコラ」
目を潤ませるネギの肩を抱いて慰める明日太ですが、いきなり飛び出した黒味ワードにツッコミ転換です。
「なるほどねえ……”人形使い(ドールマスター)”の名に恥じず機械人形のパートナーを従えているけど、エヴァンジェル自身は魔力が弱まっていて、次の満月まで直接戦わないように立ち回るつもりみたいね」
「オコジョも何をゴチャゴチャと……ってお前コラ! 周りに人いねぇからって堂々としゃべるなよ!」
「それどころじゃなくてよ兄くん、このチャンスは活かすっきゃない! 私にいい考えがある!」
「え、何か思いついたのカモ司令官!? お、教えて!!」
一方で冷静に分析していたらしいカモが閃きまして、ネギが物凄い勢いで飛びつきます。
「いやだから、握ったら大事なもの出ちゃうぅぅぅ……じゃなくて、話は簡単! 姉貴と仮契約を交わした兄上様が、分断したエヴァかロボ娘のどっちかを2人がかりで袋叩きにする! これしかないわ!」
「ハァ!? 仮契約って、まさか昨日やってたキッスのことじゃ……」
「じょ……冗談はよしてよカモピー、明日太さんなんぞと契約しちゃったら私の面目丸つぶれってカンジ~!」
「コラテメェ! よりによってギャル語でそれ言うかぁ!?」
カモが突然切り出したことで漫才を始めるあたり、ご両人はマジにとらえてない分もあるようですが、オコジョさんの目は本気ですよ。
「明日太アニキは荒削りっぽいところはあるけど素質は十分。次の満月まで1ヶ月ないことを考えれば、今から事情を説明してパートナーになれそうな子を探すのも限度があるし、ベターな選択肢のハズよ!」
「そんな理由で選ばれてもうれしくねぇよ! 大体、チビと女子のどっちか相手にロリっ子連れ立ってケンカ仕掛ける、なんて男がすたるマネできるか!」
「あのデスねぇ兄チャマ、姉貴が現に2人がかりで血を吸われるまでされてるのデスよ! 仮面の赤い少佐も”戦いは非情さ”って言ってるんデスし、面子なんてかなぐり捨てるデスっ!」
「マジメにしゃべれエロオコジョ! っつうかあの赤い人ってロリコンでマザコンじゃん、アテにしたくねぇんだけど!」
さらに真剣に説き伏せようとするカモの言葉を、明日太が大興奮で拒否ってしまいます。
「でもカモちゃん、仮契約で使えるような魔法薬や儀式道具なんて手元にないし、明日太さんとキスしなきゃいけないことに……」
「そ、そうだよな、ネギはイヤだもんな! あぁ違うぞ俺がイヤじゃないとかそんなんじゃなくて、イヤがる娘っ子にムリヤリチッスだなんて手が後ろに回っちまうし……」
「あらー、姉貴はともかくお兄ちゃんまで顔を赤くしてどうしたのよ……そーか、中3にもなってキスもチェリーなんだぁー。だったらそー言えばいいじゃない、初めてがネギの姉貴じゃ浮かばれないもんねぇ……」
「わ、悪ぃか! ……じゃなくて、ホントにネギがイヤがってるから、しょうがなく、な!」
「ふーん……それじゃあお兄様は、姉貴を女として意識しちゃってるってコトよねー? 所詮子供って思ってればラクショーじゃない、赤ちゃんにキスするみたいなものでしょ?」
あからさまなネギと一応ネギを盾にする明日太が、キスを理由にし始めましたがカモさんに手玉に取れぬことはなし。
「な……そ、そりゃ俺からすりゃガキだがよ、ネギはそう思えないみてぇだしダメだって! 惜しいよなぁ、いい作戦だったのに……」
「そうそう姉貴ー、エヴァンジェルの魔術と戦いの知識を考えると、満月を待たずに何らかの作戦を立てて来る可能性が大ね。それに即席でもこんなすぐに仮契約を結んだなんて、マギステル・マギとしてはとっても箔がつくことだと思うわよー」
「え、そんなに余裕なくなりそうなの!? それに、私の立場ってのもあるこどだし……」
「オイ、何勝手に迷ってんだテメェ!」
さらにカモがネギを焦らせることを言いまして、どんどん明日太の退路は塞がっていく始末です。
「……わ、私やりますっ! 明日太さん、お願いですから協力してくださいっ!!」
「さすが姉貴、私たちに出来ない決断をさらりとやってのける! そこにシビれる! 憧れる!」
「待てコラァ! あっさり意見変えんじゃねぇ!!」
明日太が追い詰められた以上ネギ頼みだった状況は、大英断で契約を結ぶことに決まってしまったようです。
「こ、今回1回だけでいいですからっ! 後生ですからお願いしますー!」
「さっき面目つぶれるとか言ってたのはどこのどいつだよ……分かったよ、どうしてもって言うからだぞ! そこきっちり覚えとけよ!」
「はいはい兄くん、テレてるのは分かったからクールダウンしてちょ。それじゃ、魔法陣を準備するから待っててねー♪」
同意と見てよろしいですねとばかりに、カモが懐から出したチョークで床に紋様を書いていきます。
「……ふいー。出来たわよ2人とも、中に入ってー。あ、このチョークって人間の姿で胸元から出した方が、サービスになってよかったかも……」
「いや、そんな一昔前の演出入れられても……つーか谷間自慢か、渓谷出来てる女の自慢ですか? 縊るよ?」
「こりゃまた失敬。さーそれでは皆さんご一緒に! 仮契約(パクティオー)!!」
ネギに白眼視されながらもカモさんが魔法陣を発動させますと、突如まばゆい光が湧き上がって明日太たちを包みます!
(な、ななななななんだこりゃあ! せ、性欲をもてあまs……いやいや相手考えろ、どうせ襲うなら高畑先生でないと……)
「明日太さんっ、お願いします……」
「あ、あぁ」
どうやらこの光には精神を高ぶらせる作用があるみたいでして、明日太もよからぬ考えを起こしますが、ネギに促されて顔を突き合わせますれば。
(あれ? コイツ口を向けてきたってことはそういうことなんスか? イヤそれはさすがに……そらっ!)
「ん……」
「ちょ、何やってんのよお兄ちゃま! どーしてそこでほっぺ選ぶのよ、ちゃんとクチビル奪っちゃいなよ意気地なし!」
「ロリ呼ばわりされるくらいなら意気地なんているか! キスはキスなんだしいいだろが!」
散々葛藤した結果、明日太はネギの首を急に曲げて頬にキス! コレまでの盛り上がりを無視したオチにカモも大声で抗議しております。
「まー不備だらけの契約だけど……仮契約成立・『神楽坂明日太』!」
「きゃうっ!」
「どわっ!」
カモさんの渋々なコールと同じくして魔法陣の光がさらに強まり、ネギと明日太に目を覆わせる程に発散して消え失せました。
「……これでその、仮契約ってのができたのか? さっぱり実感わかねぇんだが」
「よーするに、契約した魔法使いの魔力でパワーアップって代物だからねぇ。契約執行で魔力を分け与えてないうちは普通とそんな変わらないんだ、兄くん」
「よく分からんがそうかい。で、さっきの相手を1人にするってどうするんだよ」
「今の説明で分かんないって、どんだけアレなのよあにぃ……まーそこらへんは心配無用! 姉貴、ちょっとケータイ借してー」
「うん、ケータイだね……はい、カモちゃん」
何事も無かったように周りがいつもの光景に戻りますれば、ネギの携帯電話をカモがねだり出しましたよ。
「サンキュー姉貴、あとはこっちで準備はやっておくから任せてちょ。それに早くクラスに行った方がいいんじゃなーい?」
「なっ!? やっべぇ時計見ろネギ、もうホームルーム終わってっぞ!」
「マジですか!? それじゃカモちゃん、後は頼んだよっ!!」
「イエッサー、続きはケータイ返すときに説明するからねー」
ホクホク顔のカモに指摘されまして、ようやく遅刻している事実に気付いたネギと明日太は教室へと大急ぎで向かいました。
はてさてカモの目論見は成功するのでしょうか! あ、でも”いい考えがある”って言っちゃってるんだよね……
絡繰茶々丸 曰く、
”……こういったコーナーに呼ばれましたが、私から話す事はありません。
『ストーリーが進むごとに話しかけるとだんだん喋るようになって、PS版ではおつかいイベントも追加』……? そういった機能は備えていませんが……”
ださぁ、それで無傷でも後を考えるとちっとも喜べねぇっス。足が痛ぇよ、棒になってるよ!”
15話 ”ロボットだろうが3割増しを3倍にする努力は欠かせない その2”
前回まで:カモの策略で明日太はネギと仮契約させられて……あれ、遭難とどうやって繋がんの?
放課後は俺たちの時間、とばかりに週末の部活動が始まる最中、1人コソコソと茶道部部室周りに潜む男の姿が……
「兄くーん、調子はどう?」
「エヴァンジェルも茶々丸さんも出て来てねぇよ。さっきから見てて、別々になりそうな気がしなかったけど、大丈夫だろうな?」
「心配無用よん。なんたって近衛のおばちゃまに協力してもらってるし、絶対あいつらを引き剥がせるわ」
茂みに隠れてエヴァンジェルたちの動向を監視する明日太の肩に、オコジョのカモさんが乗っかってきて現状を尋ねてきました。
「ババァに言ったのかよ? でもそれやったら、生徒襲うとか言ってなかったかエヴァの野郎」
「直接エヴァンジェルが悪いなんて言ってないわよ、ただ桜通りの吸血鬼のウワサについて調べてみて~って感じで……」
「今はいいのさ全てを忘れて~一人残った傷ついた俺が~この戦場であとに戻れば地獄におち~る~♪」
学園長を巻き込んだ是非について明日太とカモがこっそりと話していますと、ビーム輝くフラッシュバックに続きそうな歌声とともにエヴァと茶々丸が茶室から出てきました。
「き、来やがった! ちゃんと隠れて……」
「嬢ちゃんに助言者がついたということは、満月を待たずに仕掛けてくる可能性が高い。俺様の側を離れないようにしろ」
「はい、マスター……」
カモの狙いを知ってか知らずか、余裕吹かした態度をそのままにエヴァは茶々丸に警告を下しました……あれ、ヤバいんでねーの?
「あんなこと言ってっけど、マジで成功するんだろうな?」
「ネバーマインドよ兄くん。そろそろ捕まえてくれるハズなんだけど……ほら、おいでなすったわよ」
「おーい、エヴァ」
「ヌ……タカミか、何用だ。仕事ならしているぞ」
「…………」
そこに高畑先生が呼び止めに参りまして、黙礼する茶々丸に対してエヴァがぞんざいな対応で迎えます。
「学園長がお呼びよ、1人で来なさいってさ」
「ああ……分かったよ、すぐに向かうと言っておけ。そういうことだ茶々丸、時間は掛けんから衆目のある場所を通って先に戻れ」
「…………」
タカミから赤紙的な召集の言葉を掛けられまして、エヴァは茶々丸に用心を説いてからその場を離れようとしますれば、茶々丸さんが頷いて返します。
「さすが高畑先生だぜ、エヴァをうまく引っ張っていったな」
「やーねぇ兄くん、ここは立案者の私を褒めるところでしょ。それじゃ、姉貴に連絡してちょーだい」
「学園長直々に呼ぶなんて、また悪巧みでもしているのかい?」
「さてな……貴様もあの婆さんも知った風な面をするのが得意な女だ、俺様に訊く必要などなかろうに」
「……お気をつけて、マスター」
エヴァを連れ立ってタカミが退場して行きまして、明日太とカモがネギと合流して茶々丸追跡、という次のステップに移行するようですね。
春風が穏やかに吹く川沿いの道、歩いておりますはどう見てもタンパク質臭のなさそうな少女……と、物陰から尾行するヤローにロリっ子に小動物。見事に風情ねーな……
「ん゛ー、もう少し人気の無い場所に行かないかしら……そう長引かせられないわ姉貴、YOU襲っちゃいなよ!」
「ダメだよカモちゃん、もう少し様子を見てから……」
「何だよクラスメイト相手に辻斬りみてぇなマネ、つくづく主人公のやることじゃねぇよな……まぁ、悪逆非道の吸血鬼一味を倒そうってんならしょうがねぇk……ん?」
チャンスを早くモノにしようとネギをせっつくカモをよそに、茶々丸さんの行く先に変化があったみたいですね。
「うえーんうえーん! わたしのフーセンー!」
「…………」
どうやら持っていた風船を飛ばしてしまったらしく、どうしようもなく泣き喚いている女の子の姿がありました。
しばらく眺めていた茶々丸さんですが、背中の肩甲骨あたりがパカッと開いたかと思えば……あ、足の裏共々バ-ニアでジェット噴射!?
「わーー!! 茶々丸さん、ありがとー!」
「…………」
「あー茶々丸だー! まほらの親切ちゅーがくせーだ!」
空飛ぶ体で風船を確保して女の子に手渡した茶々丸に、他の子供たちも現れて親しげに追っかけまわし始めましたよ。
「あれ……気のせいだよな、茶々丸さん飛んでたように見えたんだが……」
「あ、あの……確かにHMXモドキって言っちゃいましたけどっ、これはやりすぎなんじゃ……」
「まー許容範囲なんじゃないの? どの道ド直球のロボ少女がいる時点で、媚びてますって近所中に宣言してるよーなもんだって」
「な、ロボ少女って何!? あれか、茶々丸さんってジェッター○ルス!? それとも火○兄ちゃん!?」
「イヤ、いかにもロボって見た目でしょ兄くん! それにその例はシブすぎてついて来れないって!」
カモの言を聞いて、明日太は今更茶々丸がロボ娘さんと気付いて声を荒げます。そんなオドロキを知る由もなく、茶々丸の麻帆良学園都市・人助け紀行はまだ終わる兆しがありません。
「歩道橋を渡れないおばあちゃんをおんぶしたり、川に流された子猫を助けに飛び込んだり……ものっそいい人、じゃなくてロボットじゃないですかっ……」
「感動してる場合じゃなくてよ姉貴、砂漠をさすらう子供に飯をおごる気さくなオジサマが、実はゲリラ戦の得意な敵国の兵士だったりするんだから! 戦場で戦うということはこういうことなのよ!」
「それなんて青い巨星だよ」
物陰で漫才を繰り広げながら明日太一行が気付けば、茶々丸さんは重たい鐘の音に惹かれるように、時計塔へと向かっておりました。
そして物陰にしゃがみ込みますと、そこかしこから群がってくる猫や鳥に買っておいた餌を黙々振る舞い始めました……ああ、慈愛よ美しき哉。
「…………」
「おまけに身寄りのない動物の世話までする……か。とても悪人のするこっちゃねぇよな」
「やっぱりいい人ですよね……って清純派なイメージは私とカブっちゃうじゃん、今のうちに消した方が……」
「アハハハ、今更姉貴に純なイメージなんてあるわk……いやジョーダンですお願いだから睨まないでネギ様! とにかく人目のない今がチャンスよ、兄君さまも心を鬼にして挑んでくださいまし!」
その姿に心を打たれて手を出しづらいネギと明日太ですが、カモに発破を掛けられては、と仕方無しに茶々丸の背後へとしゃしゃり出ました。
「……こんにちは、ネギ先生、神楽坂さん……油断しました。ですが、お相手はします」
「茶々丸さん、私を狙うことを止める……という選択肢は無いのですか?」
「申し訳ありません、ネギ先生。私にとって、マスターの命令は絶対ですので……」
ネギの姿に気付き、茶々丸は頭のぜんまいっぽいモノを抜き取って、停戦の意志を全く見せず臨戦態勢を取りました。
「しゃあねぇのな……行くしかねぇぞネギ。俺も気は進まねぇが、お前にやらせるよりはマシだからな」
「一言余計ですよっ……では、茶々丸さん」
「はい……神楽坂明日太さん、ですか……素養の面では十分にパートナー足りうる、とマスターが話していましたが……」
やむなしとネギと茶々丸の間に明日太が立ちまして、いよいよ2対1で襲い掛かろうという今回の目玉が迫ってまいります。
「行きます! 契約執行・10秒間(シス・メア・パルス・ペル・デケム・セクンダス)!! ネギの従者・『神楽坂明日太』(ミニステル・ネギィ・カグラザカ・アスタ)!!」
(ん……まるで明鏡○水みたいなパワーアップ!? これがパクティオーの力ってやつか!)
「行くぜ、茶々丸さん! ワリぃやり方だとしても、ここで手前を叩きのめす!!」
「…………」
ネギの呪文と同時に明日太に沸き起こってくる魔法の力が、ゴングとなって茶々丸との戦いを始めさせました!
宣戦布告の咆哮と共に、明日太は茶々丸の懐へ突撃して拳を振り抜きます。
「うりゃあぁぁぁぁっ!!」
「……! 未熟な腕前を、腕力でカバーしている……?」
最小限の動きで鉄拳を払った茶々丸ですが、負けじと明日太は様々な角度からパンチを繰り出していきます。
それをやはり活発さ0で受け流す茶々丸を劣勢と思い込んだか、明日太は一旦飛び退いて右腕を2,3度振り回しまして。
「一思いに決めるぜ! 必殺・俺の必殺わz……」
「……当たれません」
「あぎゃあっ!!」
駆け寄って精一杯のパンチを繰り出した明日太ですが、そんな隙だらけの対戦者を茶々丸が回し蹴りで迎え撃ちました。
「魔法の射手・連弾・光の11矢(サギタ・マギカ・セリエス・ルーキス)!!」
(よし……オコジョが言ってたとおりに、オトリができた……)
「……!? 追尾型魔法至近弾多数、避け切れません……」
余裕ぶっこきながらも明日太相手に集中していた茶々丸に、ネギの魔法が一斉に放たれていきました。あぁ、もうクラスメイト減るのね……
「申し訳ありませんマスター……私の次も、猫の世話をしてくれる従者を、お選びください……」
「な……バカかこの野郎! そんなこと……」
「だ、ダメっ! 反れてー!!」
茶々丸が呟いた末期の言葉は悪役のそれではありませんで、倒されたままの明日太が立ち上がって駆け寄り、ネギも放った魔法の狙いを発散させました……らば。
「え、待てネギこっち飛んできtどぎゃぁぁぁぁっ!!」
「あああタンマ、何も戻ってこなくtうきゃーーーん!!」
魔法の矢はネギの元に返ってきたり、突っ込む明日太に直撃したりで、あっという間に2オン1のバトルは自滅により茶々丸選手の勝利ということに……情け無っ!!
「あ、姉貴ー! どうしちゃたのよ突然放った魔法を無力化するなんて、それに兄くんも巻き込まれに行くなんてどういうつもりよ!?」
「…………」
ノックアウトした2人に叫びながらカモが駆け寄りますと、拍子抜けしてたっぽい茶々丸さんが我に返ってジェットで飛んでいってしまいましたよ。
「あーあ、逃げられちゃったじゃない! 明日太あにぃは運良く無傷だったからよかったものを、姉貴は魔法の盾使ったって緩和するだけなのよ、無茶しすぎ!!」
「そうは言うがよ、あんな人情たっぷりなこと言われたら、止めずにはいられなくてな……でもネギ、お前はやりすぎだバカ野郎!!」
「だ、だって……やっぱり茶々丸さんは私の生徒ですし、ちゃんと更正させた方がポイント高いかなーって……」
「いや、ポイントとかそんなこと言ってる余裕ないから! ここで仕留められなかったのってマイナスなのよ姉貴ー! ちょっと聞いてるの……」
奇跡的に服が汚れたぐらいの明日太と、見事に目を回して起き上がれないネギにカモさんがくどくど説教を初めてしまいまして……あれ、どこまで続くの!?
「……それから、昨日の朝までお前が延々煽りまくったお陰でネギが飛んで逃げちまって、俺がこんな山奥まで追ってるワケだが……」
「何よーその言い方、止めなかったお兄様だって同罪でしょ!? それにエヴァがパートナーの件まで知ったらもっと危なく……アレ?」
またまた時間が先に進んで日曜の朝っぱら、うっそうと茂る木々の中で明日太とカモがケンカをしておりますれば。
「ん、どうしたエロオコジョ」
「だからカモよっ! そうじゃなくて、目の前の大木がさ、ミチミチ音出して近寄ってきてる気が……」
カモさんが前足で指す方向では、仰るとおりに幹が折れるような音を出して寄って来る樹が……いや違うコレはあれだ、倒れてくるって言うんですね。
「た、たたたたた倒れるぞコリャ!!」
「よ、横! 横に避けてーー!!!」
明日太とカモはそれに気付くや否や、急ぎ樹の倒れる方向から垂直に退きまして、なんとか下敷きは免れたようです。
「ハァ、ハァ……びっくりさせやがって! あのバカ教師、見つけたらタダじゃおかねぇぞチクショウ!!」
「……あ、兄くん兄くん! あっち見て!」
こんな目に遭ったのはネギの所為とばかりに怒りを叫ぶ明日太の隣で、カモが樹の倒れる前の方向へ促しますと。
「ライトアップのブリッジは~異次元行きのダイアモンドアドベンチャー~♪」
「あっ、コラネギテメェ! のんびり歌ってねぇでこっち来い!」
「助かったわ姉貴! お願いだから拾ってー!」
「……あえっ!? 明日太さんにカモちゃん……何で!?」
樹が倒れてなければ見えなかった空の向こうに、杖で緩やかに飛ぶネギの姿が映りまして、明日太もカモも必死に呼び止めましたよ。
「何でもクソもあるか! お前が飛び出してったから一晩かけて探し回ったんだよ!」
「あーそういえば……よかったですね無事だったみたいで。それじゃ、私はドロンさせてもらいまs」
「待てコラ、俺ら見捨てる気かテメェ! ボート投げっぞ、何ならミサイル投げっぞバカネギィィィィ!!」
正に見下ろすように相手にしてこないネギに怒り心頭の明日太ですが、なんとか寮まで連れて帰ってもらってめでたしめでたし……となろうって状況を、物陰から見つめる誰かさんに締めてもらいましょうか。
「……フウ、なんとか巡り合えたようでござるな、樹を切り倒した甲斐もあったでござるよ。これにて一件落着でござ……おや、拙者の出番はこれだけでござるか!?」
『よう諸君、エンディングは2度目のエヴァンジェルだ。ペースが早い? 仕方あるまい、今回は登場キャラが少ないのだ』
『……それは拙者も含めるのでござるか、たったあれだけの出番で……』
『突然出てくるな、邪魔臭い! まぁともかく次回の話だな。覇気の戻った嬢ちゃんが改めて宣戦布告をしてくるようだが、俺様とて何の準備もなく迎えてやったりはせん。そこらへんは茶々丸に任せたい気もするが、ハカセがメンテするというのでそれ次第だろうか……』
『こういうときに、積極的に手を貸す立場ではないのが泣き所でござるな……』
『黙れと言っているだろうが! それでは次回、”俺様が心を開くとしたら矢的先生ぐらいだ、鼻紙寄越してとっとと帰れ!”にジャスティィィィン!』
『たまには土井先生にも、おとなしくツッコまれてみるでござるよ』
『どうでも良いわ、そんなことは!!』