最終話 いえなかった言葉
楓が死んだ。
この世から居なくなってしまった。
もう、あの綺麗な笑顔に逢えない。
名前を呼ばれる事すら叶わない。
『彼』を失った時と同じくらい、いや、それ以上に、悲しい。
あのプリンをほおばっている時の無邪気な笑顔も、
『忍者』と言ってからかわれた時の慌てている表情にも、
『ニンニン♪』とおとぼけているあの笑顔にも…
もう、逢えないんだ――――――。
病院で刹那から楓の事を聞かされ、私は心がえぐられたような気がした。
現実として受け止めるにはとてもつらい知らせ。
私は楓の眠る霊安室に向かおうとした。
せめて最期の楓を―――。
すると、刹那が私を止めた。
眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「龍宮…、お前が最期に逢った楓は、どんな顔をしていたか、覚えているか…?」
それを聞いて、私はハッとした。
―――楓は、とても綺麗な笑顔だった―――
その笑顔を思い出し、また涙があふれてくる。
刹那が、まるで割れ物を扱うかのように優しくそっと私を抱きしめる。
「楓は、きっと笑顔だったはずだ…。その笑顔を、龍宮への最期として、残しておきたいと、楓はそう思っているだろう…。だから…、」
刹那の眼にも、あふれだす涙。悔しさと、情けなさと、悲しさ。
「うぅ…、あっ、あああぁぁぁぁ――――――――!!!!!!」
病室で、二人で、楓の死を嘆き、悲しみ、泣いた。
二日後。11月12日。
「長瀬楓さんは昨日、別の学校に転校されました…。」
ネギ先生は暗い声でクラスメイトにそう告げた。
クラスメイトが驚きの声をあげる。
私が、ネギ君にそう伝えた。先生に嘘をついた。
楓の約束を果たすため。
『拙者が「死んだ」ことは、クラスの皆には黙っていてほしいでござる』
そう、言っていたから。
すると、鳴滝の妹が後ろの席の私を見て、純粋な眼をして、
「ねぇ、たつみー…、楓姉、故郷に帰ったのですか…?」
そう、問いかけてきた。
私は何も答えられなかった。
言葉が見つからなかったから。なんて答えればいいのか、分からなかったから。
「でも、またいつかきっと、逢えるですよね…。」
史伽は純粋な眼で、真名を見上げている。
「…!!!」
心に棘が刺さったような痛みが走る。
本当はもう、逢う事は出来ない。
でも、楓のことは黙っておくべき。
―――この子達の為にも。
だから、優しく微笑んで、
「あぁ…、また逢えるさ。いつの日かきっと…、な…。」
そう言うと、史伽は笑顔で、「うん!」と答えた。
…本当はもう、逢うことは出来ない―――。
叶わない願い、だった。
そして私は、クーを呼び出し、本当のことを告げた。
クーは、泣いていた。でも、ひとしきり泣いた後真っ直ぐな眼をして、
「真名、真名は楓の分も強くあって欲しいアル。そして、楓の分も、生きるアルよ…!!」
そのあとに少しだけ笑って、言った。
私はその思いに応える。
そして、私は学校を早退した。
楓の居ない教室に居るのがつらかった。
楓の席が空いているのを見るだけでもつらかった。
そのまま私の足は、思い出の在る裏山へ向かっていく。
そこに、『楓』はあった。
美しく散り乱れていた。
いつの日かみた、あの美しい景色。
紅葉…『楓』は、もうすぐ散りきろうとしている。
あの美しい景色が、私の前から消えていく。
不思議と涙は出なかった。もう、流しきってしまったのだろうか。
それに、今は悲しむ時じゃない。
さて、見送ってやろうか。楓の新たな旅立ちを。
もう逢えないけど、またいつか、楓の隣で笑いあえるその時が来るのを願って。
また、あのおとぼけ忍者の笑顔が見れる日が来るのを願って。
『楓』は少しずつ、しかし確実に散っていく。
でも、私の傍に居てくれた楓は、決して散らない。
いつまでもずっと、私の心の中に居る。
そして、今しか言うチャンスはない。ずっといえなかった言葉。
言いたかったけど、照れくさくて。
生きていたうちに言っておけばよかった、と少し後悔しながら。
でもきっと、楓は空で『あいあい♪』と答えてくれるだろう。
今、言う時なんだ。さぁ、言おう。あの時、『いえなかった言葉』を。
―――好きだよ…、楓。いつまでも、ずっと、愛してる。―――
『あいあい♪』
そう聞こえたかと思うと、『楓』は美しく、散りきっていた―――――。
….end
最終更新:2009年06月10日 22:06