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シンデレラ・ケージ(前編) - (2009/03/23 (月) 20:37:37) の1つ前との変更点
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*シンデレラ・ケージ(前編)◆0RbUzIT0To
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太陽が昇り始めて既に数時間、見通しのいい平原の中。
この場に連れてこられて三度目の気絶をしていた因幡てゐは、ようやくその目蓋を開け意識を取り戻した。
「ぐぅっ……?」
呻き声を上げながら身体を起こし、ふらつく頭に渇を入れながらてゐは左右を見回す。
既に辺りは明るくなっており、視界はここに連れてこられていた当時よりも格段に良くなっている。
続けて上空を見上げ、現在の時間を大まかながら確認しようとすると、
その太陽の位置から推察するに時刻は午前八時前後であるという事が把握できた。
「……っ!?」
慌て、てゐは首下に手をやりながらそこに取り付けられているそれを確認をする。
金属的な感触が二つ、手の触覚を冷たく刺激した。
小さく舌打ちをしてから、今度は身体を曲げて無理矢理首輪を目で確認。
すると先ほどまでは青色だった首輪が、白色へと変色していた。
「……どういう事なの!?」
白色へと変色したプレミアム首輪に手をあて、彼女には珍しく激昂する。
この首輪は放送が流れる前までに誰か一人を殺さなければ爆発してしまう有料首輪。
既に一度目の放送は流れている時間なのだから、とっくに爆発しているはずだというのに……。
しかし、自分の首はちゃんと繋がっているし首輪はそこにしっかりと存在している。
もしや何らかのアクシデントがあって放送はまだ流れていないのだろうか?
それとも、この首輪自体が故障をしている?
……いや、どちらも可能性は限りなく低いだろう。
自分達をこんな場所に連れてきた者達が、こんなに早々予想外のアクシデントを起こしてしまうとも思えない。
同じようにその者達が用意したこの首輪が故障をしたというのも、まず考えにくい。
ならば考えられる可能性は……。
「ハッタリ……?」
この首輪を取り付けたバクラ達が、嘘をついたとでも言うのだろうか?
……それも考えにくい。
プレミアム首輪を取り付けたのは確かにバクラ達であるが、これを用意したのはまず間違いなく主催者だ。
まさか河童でもあるまいし、月や言葉やバクラがこの首輪を短時間で作成したとは到底思えない。
それに、この首輪の効力を知ったのは説明書を読んだからだ。
説明書が用意されていたという事は、支給品として彼らの内一人のデイパックに紛れていたという事。
つまり、この首輪とその説明書を用意したのは主催者だと考えて間違いは無いはずだ。
歯噛みをしながら、てゐは考える。
首輪を用意したのは主催者だ……だとするなら、疑うべきはやはりバクラ達。
バクラ達が何らかの嘘をつき、てゐを騙したと考えるのが妥当な線だ。
バクラに裏切られ気絶し、意識を取り戻して言葉と月に対面し、再び気絶をした時の事を思い出す。
あの時、意識を取り戻して言葉達と会話をした時間はたった数分――あの中に、嘘は無いはずだ。
彼らの口ぶりからしてそういう雰囲気は見て取れなかったし、そもそもその時まだプレミアム首輪は取り付けられていなかったのだから。
だとするなら、彼らが嘘を仕掛けたのはその後……てゐが気絶をしてからと考えるべきだ。
「でも……でも……どういう事?」
あの後、バクラ達はてゐにプレミアム首輪を取り付けてそのまま去った。
つまり、その間にてゐに対して口先で騙すというアプローチは取れなかったのだ。
……考えが行き詰ってしまう。
バクラ達がてゐを騙した事はまず間違いない。
その方法と狙いがわかれば、この首輪が放送を超えた所でどうして爆発しなかったのかがわかるのだろうが……。
首を振り、てゐは別の観点から彼らの意図を察する事にする。
"どうやってバクラ達が首輪を取り付け、自分を騙したか"ではなく、"何故バクラ達が首輪を取り付けたのか"という事を。
てゐは今まで、それについては彼らが第一放送までにてゐが死ぬものと確信していたからだと考えていた。
だが、ここに来てその考えは間違っていたものだと判断する。
何故なら、この首輪は第一放送を過ぎても未だ爆発をしていないのだ。
バクラ達がこの首輪を"第一放送までに爆発しない"のだと知らなかった、という可能性は低い。
この首輪の元々の持ち主は彼らなのだから、思慮に長ける彼らがその事実を知らない訳が無い。
だとすれば、彼らの狙いはおぼろげながら読めてくる。
彼らは因幡てゐに、殺人鬼になって欲しかったのだ。
バクラ達の狙いがあくまで優勝ならば、当分彼らが殺し合いを積極的にする事は無いだろう。
むしろ、てゐとバクラの当初の予定通りに強く与しやすいグループに紛れ込んで参加者が減るまで行動しないものと考えた方がいい。
しかし、それだと参加者の減るペースはどうしても落ちてしまい……故に、バクラ達はてゐを使おうとした。
この首輪をつけられれば、てゐは積極的に殺し合いをしなければならなくなる。
生き残りたければ、放送毎に最低一人は殺さなければならないのだから……この殺し合いが二日続くとして、単純計算で八人。
仮にてゐが弱ければすぐに死ぬだけ、強ければ八人……とは言わずとも、それなりの数は減らしてくれる。
バクラ達は、そう考えてゐにこの首輪を取り付けたのだ。
無論、この計画にもデメリットはある――てゐが彼らに牙を剥く、という可能性だ。
その可能性を考慮すれば、これはハイリスクハイリターンな賭け……しかし、あえて彼らはその賭けを打って出たのだろう。
……だとすれば、この首輪の効果も、そしてバクラ達がどのようにしててゐを騙したかも凡そながら読めてきた。
てゐは、己の懐にしまっていた首輪の説明書を取り出しそれを読む。
そこに書かれている文字を熟読し……やがて、不適な笑みを浮かべててゐは呟いた。
「なーるほど……そういう事ね」
説明書にはこう書かれている。
申し込み前は赤い首輪、それが申し込みを確認すれば青い首輪になり、殺害をすれば黒い首輪になると。
だが、"白い"首輪の事は何一つ触れられてはいない。
これは一体どういう事なのか。
この首輪は故障などしない、ならばこの白くなった状態も決して首輪のバグなどではないはずだ。
ならば、説明書で説明をしていなければおかしい。
考えられる可能性は一つ……バクラ達が、その部分を改ざんしたのだ。
説明書を作り直したか、或いは別の手段を使ったのか……。
ともかく、白い首輪について書かれている部分を無かった事にした。
それは、恐らく彼らにとって都合の悪い事が書かれていたからだ。
その都合の悪い事とは一体何なのか――?
この首輪は、本当は何の効力も無い玩具でしか無いという事実が書かれていた?
そうであるなら喜ばしい事だが……恐らく、それは無いだろう。
そんな嘘、放送が来ても爆発しないという事にてゐが気付けばすぐにバレる。
そうなった場合、しっぺ返しを食らうのはバクラ達なのだ。
仮にてゐが何人か殺して放送を迎え続ける可能性があったとしても、それと同じくらい嘘がバレる可能性がある。
いや……彼らはてゐが弾幕を撃てるなどと知らないはずなのだから、むしろ嘘がバレる可能性の方が高いと思っているだろう。
幾らハイリスクハイリターンを狙っていたとはいえ、これではあまりにも無謀過ぎる。
故に、この首輪が何の効力も無い――というのは在り得ない。
この首輪は放送が来れば爆発する、というのはまず確定事項だ。
それを踏まえた上で考えるならば……答えは自ずと出てくる。
プレミアム首輪の利点とは、禁止エリアに進入が出来るという点だ。
てゐはそれを放送の前に強引にバクラ達に装着されてしまったのだが……ここでふと疑問が沸く。
第一回放送までに、禁止エリアは存在しないのだ。
ならば、この首輪の利点は第一回放送の前までには存在しないという事になる。
「利点が無いのなら……当然、欠点も無いはずよ……」
そう考えれば、全ては納得のいく話である。
バクラ達の狙いは、てゐに殺人をさせ自分達以外の参加者を減らす事。
なら、てゐにはそんなに簡単に死んでもらいたくは無いはずである。
第一回放送直前に首輪を取り付け、野に放った所で彼らにメリットなど一つも無い。
そんな事をするくらいならばてゐをさっさと殺し、プレミアム首輪は他の者に使えばよかっただけなのだ。
バクラ達がプレミアム首輪をつけたのは、てゐが一回目の放送で死ぬ事は無いと確信していたから。
そして、その一回目の放送が終わった直後――てゐが事の真相に気付いても、誰かを殺さない限りは生き残れないという事実に変わりは無いと思ったからだ。
「完全に嵌められた……!!」
てゐが彼らの真の狙いに気付けなかったのも、何も対策をしないまま第一放送を迎えてしまった事も。
全ては、バクラ達の思惑通り。
てゐは彼らの手の平の上でただ無様に踊らされていただけだ。
悔しそうに歯噛みをしながら、てゐはただ拳を地面に叩きつける。
あの状況では致し方なかったのかもしれないが……安易に騙されるとはとんだ屈辱だ。
「絶対に、絶対に……! あいつらだけは許さない……ッ!!」
今度は必ずこちらが騙し返す。
騙して、嵌めて、罠にかけて、陥れて……バクラ達の命を奪ってみせる。
この借りは、倍返しにして返してやらねば気が済まない。
てゐはそう心の中で強くバクラ達への復讐を誓い――そして。
「あいつらってのは……誰の事だ?」
「っ!?」
背後から、唐突に声をかけられた。
反射的にてゐはそちらの方へと向き直り、視線をやる。
そこにいたのは――銃を構えた、屈強な傭兵。
「下手な真似はするんじゃあない……手を上げるんだ」
その傭兵に気付かれないよう小さく舌打ちをし、しかし逆らう事も出来ずてゐは言われた通りに手を上げる。
目の前にいるのは首輪が爆発すると思い込んでいた時に決死の覚悟で襲い掛かった男。
あの時はただ無我夢中で、あまり記憶も無いのだが……その声と体つきには覚えがある。
首輪が爆発しなかった事について考えるあまり、周囲の人間への警戒が疎かになりすぎていた。
自分を気絶させた彼が自分を殺さなかった以上、彼も自分を放っておいてどこかに行ったものだと考えていたのだが……。
とにかく……あまりにも無警戒過ぎた。
起きた瞬間左右を見た為に誰も周りにいないものと思っていのだが、考えが甘かったと言わざるを得ない。
相手との距離は約3メートル……不意をついて飛び掛かる事も弾幕を撃つ事も出来ないだろう。
口先で上手く丸め込む? ……駄目だ、それも出来ない。
彼は先ほどまでのてゐの独り言を聞いているようだしし、何よりてゐに襲われている。
自分の狡猾な面すべてを出すつもりは無いが……あからさまなぶりっ子をしてみたところで逆効果にしかならない。
「よし、そのままだ。 そのままの姿勢で俺の質問に答えろ」
「……わかった」
ここは素直に彼の言う事を聞いておくしかない。
「まず、名前だ」
「因幡てゐ」
「……イナバ、テイ。 なるほど……確かに、嘘では無いようだな」
「それは……?」
てゐが名前を告げるや否や、男は片方の手に持っていた紙を見て頷く。
それを見て疑問に思ったのはてゐだ。
名前を告げた瞬間に見たのだから、そこには自身が嘘をついたかついていないかを確認出来るような何かが書いてあるのだろうが……。
「これは名簿だ……予めデイパックに入っていた白紙の紙があっただろう。
先ほどの放送から、その白紙の紙に文字が浮かび上がってこの殺し合いに参加させられている者の名前が書かれている」
「……ふぅん」
当然ながら、てゐはその名簿を確認出来ていない。
支給品は全てバクラ達によって奪われたのだから、その白紙の紙も当然バクラ達が持ち去っており。
また、放送を聴いていないのだからそもそもその紙が名簿になったという事実も知らなかったのだ。
これでは確認が出来る訳が無い。
「丁度いい、お前も確認しておけ。 知り合いが参加させられているかもしれない」
「……ん」
男に促され、てゐは男が持っていた名簿を受け取り読んでいく……と。
尚も向けられる銃口に冷や汗を流しながら、てゐはその名簿に書かれてある名前の幾つかを見て内心焦った。
――チルノ、射命丸文、十六夜咲夜、紅美鈴、フランドール・スカーレット……。
そこに書かれているのは、正しく自身の知り合いの名前。
もしかしたら、自分の知り合いもいるかもしれない――確かにそう思ってはいたが。
まさか五人も連れてこられているとは予想もしていなかったのである。
氷精だけならまだどうとでもなる……口先でどうとでも言い包められるし、手駒にする事だって十分可能だ。
しかし、それ以外の面子に口先だけで太刀打ちをするのはどう考えたって難しい。
あまり口が上手そうではない門番と悪魔の妹なら、或いは上手く騙せるかもしれないが……。
彼女達も当然てゐの風評は聞いているのだろうから、確実に騙せるなどと言い切れない。
新聞屋とメイドに関しては論外だ。
前者は実に利己的で頭がよく回るし、後者はこちらの話を聞いてくれるような寛容な心を持ち合わせていない。
幸いにも、十六夜咲夜やフランドール・スカーレット、チルノなどは徒党を組むような性格をしていないだろうから自分の情報が他者に漏れる心配が無いだろうが……。
後の二人に関しては仲間を作っている可能性もある、そこからてゐが嘘吐きであるとばらされていれば相当やり難くなってしまうだろう。
知り合いがいるにしても、せめてもう少し馬鹿そうな夜雀やら虫っ子やらなら何倍も楽になっただろうに……。
眉間に皺を寄せながらそんな事を考えるてゐに対し、そこから何かを感じ取った男は更に口を開く。
「その様子だと知り合いがいたようだな」
「うん……この名簿が嘘のものじゃないんだとしたら。
ここに連れてこられている私の知り合いは、全部で五人ね」
ここで嘘をついてもてゐ自身に何らメリットは無い、むしろ正直に話した方が有利に動く。
名簿に書かれている五人は、何れもてゐにとって邪魔な存在だ。
ここは彼女達に関する情報をリークしておくのがベストである。
「よし、ならばその五人の名前をまず聞こう」
「射命丸文、チルノ、フランドール・スカーレット、紅美鈴……それと、十六夜咲夜よ」
「十六夜咲夜だと!?」
「っ……どうかし――ッ!?」
知り合いの名を呟いた途端、男はまるで鬼のような形相でてゐを睨みつけた。
一瞬、てゐはその視線に獰猛な蛇の姿を思い浮かべ思わず怖気づき――。
しかし、すぐさま気を取り直して男の態度について考えだす。
男があからさまな怒りの形相をその顔に浮かべたのは、十六夜咲夜の名を呟いた瞬間からだ。
彼自身がその名を知っている様子だという事も考え、彼は既に彼女と出会ったものと見て違いない。
彼女の性格やここでどういった行動を取るかという予想。
そして、彼を襲ったてゐを気絶させるだけに留め、殺す事は無かったという彼の方針から鑑みるに……。
彼と彼女の間で起こった事象はある程度予測がつく。
――十六夜咲夜に殺されかけたか、或いは他の誰かを彼女が殺す現場を目撃した。
完全に当たっているとは言い切れないが、さりとて見当違いな考えでもないだろう。
目の前の男は十六夜咲夜に向けて確実に敵意を見せている。
ならば……これは利用が出来る。
「言え……! お前と奴は、どういった関係だ!?
いや、それよりも奴は一体……!!」
「ひっ……!」
「っ! ……すまん、怖がらせた。 だが、答えてくれ。
奴はお前とどういう関係なんだ? ……奴の性格や戦法は? 弱点はあるのか?」
まずは男の剣幕に怖がるフリをして男を落ち着かせ、てゐが実際には"弱い"者だと錯覚させる。
襲い掛かった以上ぶりっ子をするつもりは無いが、だからといって強気な面を見せてばかりではいられない。
てゐがこの場で取るべき対応――演技は、"強がる子供"。
外見だけを見れば、てゐはどこからどう見てもただの幼女である。
弾幕を張れたりといった力はあるものの、見た目はいたいけなうさぎさんなのだ。
この外見を利用しない手は無い。
独り言を言っていた時もそれほど危険な事は言ってないはずなのだから、この演技も十分通用するはずだ。
「別に、怖がってないウサ」
「……そうか」
少しだけそっぽを向きながら、それでも若干うろたえたフリをしてそう返す。
男は小さく頷きながらも、どうやらてゐを驚かせた事を反省したらしく表面上は怒りを納めた。
「で、奴っていうのは……十六夜咲夜の事、でいいの?
なら答えるけど……あいつは別に、私とそれほど仲がいいって訳じゃないのウサ。
顔と名前は知ってるけど、それほど会話もした事ないしね。
それでも、あいつの性格とか考えそうな事は大体予想がつくけど」
「……話せ」
男に促され、てゐは尚も少しだけビクついたようなフリをしてみせながら……十六夜咲夜に関する情報を男に教える。
紅魔館の事。紅魔館の当主が吸血鬼であるという事。彼女はそこのメイド長であるという事。
当主の為ならば人殺しも容易にやってのける事。如何なる時も冷静であり、無情であり、しかしどこか天然であるという事。
時を止める能力を持っている事。一時期、年甲斐にもなくまるで魔法少女のような星を模した装備をつけて異変解決を行おうとした事。
それが一部でマジカル☆咲夜ちゃんスターと呼ばれているという事。あと、PAD疑惑があるという事。
思いつく限り、十六夜咲夜について知っている事をただ喋り続けた。
「……なるほど」
「ウサウサ。 とにかく、あいつは危険人物よ。
同じ紅魔館在住のフランドールや美鈴もそうだけど、あいつはある意味そいつらより怖い」
最後にそう締めくくったてゐの言葉を聞き、男は静かに頷いて十六夜咲夜の危険さを再確認する。
てゐが齎した情報は……マジカル☆咲夜ちゃんスターやPADの事を除けば男にとって有益なものだった。
特に、時を止める能力を持っているという情報を得られたのは大きい。
本来ならばそんな非科学的な話信頼など出来ないのだが――それが事実ならばあの時目の前から突如消え列車に乗り込んだ事象について説明がつく。
だとすれば、矢張り彼女はそういった類の能力を持っていると考えて間違いないだろう。
「それでは、次に他の者達についてだ」
「ん……わかった」
男に言われるまま、てゐは更に言葉を続ける。
曰く、射命丸文とは幻想郷に住む新聞記者であり食えない性格をした者である――人畜無害そうな顔をして、裏で何をやっているかわからないので信頼するに値しない者だ。
曰く、チルノとは紅魔館の近くに住む妖精であり力は相当持っているもののただの馬鹿である――負けん気だけは人一倍強いので、誰かに勝負を仕掛けられたらまずその喧嘩を買うような危なっかしい者だ。
曰く、フランドール・スカーレットとは紅魔館に閉じ込められた悪魔の妹である――戦闘能力だけなら幻想郷でもトップクラスであり、気が触れている為に十六夜咲夜の次に注意すべき人物だ。
曰く、紅美鈴とは紅魔館を警備する門番である――格闘技術は高いものを有しており、人柄もいいものであるが……彼の主人はフランドール達である、警戒すべき者だ。
――などなど、ほぼ全て真実の事を伝え……その中に少量の嘘を混ぜて危機感を煽っていく。
「ウサウサ。 特に後の二人は危険ウサ。
十六夜咲夜の仲間なんだから、手を組まれたりしたら手がつけられなくなっちゃうわ」
「……確かに、そうだな」
顎に手を当て、考え込む男……その様子を見ながら、てゐは内心ほくそえむ。
男はこの情報を信じるしか道は無い、信じざるを得ない。
彼は既に十六夜咲夜に出会い彼女に煮え湯を飲まされており、その十六夜咲夜の情報を既に因幡てゐから聞き出した。
そして、その情報の殆どは彼の危機感を煽り立てる事に成功しているのである。
てゐが齎した十六夜咲夜の情報は、全て彼が感じた十六夜咲夜に対する感情を盛り上げるものだった。
冷血で冷淡で冷酷無比。時を止める能力。完全で瀟洒。一分の隙も無いパーフェクトメイド。
それらは全てあの時、男が感じた十六夜咲夜に対するイメージと寸分違わぬもの。
故に、男はその情報を齎したてゐの他の情報まで信用し始めている。
全てはてゐの緻密な作戦と、高度な話術があるからこそ為せる技……決して男が騙されやすい性質だからではない。
「五人もの参加者の詳細な情報が把握出来たのはありがたい……では、最後の質問だ」
「ウサウサ。 何でも答えるウサ~」
「……お前は、やはりこの殺し合いに乗っているのか?
俺はお前の事を混乱していたが為に俺に襲い掛かってきたものと思っていたが……様子を見る限りそうではないらしい」
ならばやはり……と言いたげに、強くてゐを睨みつける男。
てゐはその視線に一瞬たじろきつつ――小さく口元に笑みを浮かべて、答える。
「ウサ……。 そう、ウサ。 殺し合いに乗ってるかいないかといえば……。
私は殺し合いに乗ってるウサ……」
「やはり……!!」
「で、でも違うウサ! 本当はこんな事したくないウサッ!!
でも、でも……殺し合いをしないと首輪が爆発しちゃうウサ!! 私はまだ死にたくないの!!」
懸命に、哀れな兎を装い叫ぶてゐ。
その様子と剣幕に何かただならぬものを感じ取った男は、どういう事か話してみろとてゐに弁明の機会を与える。
心の中でガッツポーズを取りながら、てゐはなるべく狼狽したように……しかし、それでいて落ち込んだかのようにぽつりぽつりと話し始めた。
この首に巻かれた首輪――そして、自分を騙した忌々しい参加者達の事を。
まず、てゐはバクラと出会いチームを組んだ事を話す。
あくまでもこの時は殺し合いに乗っていなかった、と説明した上で。
バクラは表面上人畜無害な少年を装い、自分と一緒にいようと嘯いて近づいてきたと説明する。
そして、その後すぐにバクラによって気絶させられ桂言葉と夜神月、バクラの三人に羽交い絞めにされたまま意識を取り戻し。
首輪を取り付けられ、再び気絶をさせられたと言う。
「あいつらは……私を最初っから騙してたのよ。
桂言葉や夜神月については詳しく知らないけど、あのバクラって奴だけは間違いなく私を嵌める為に私に声をかけてきたウサ」
「……その首輪とやらの効力は、どういったものなんだ?」
「これを読むウサ……」
懐にしまい込んでいた首輪に関する説明書を男に渡すてゐ。
その説明書を読みながら、その眉間に更に皺を寄せていき徐々に怒りの形相を露にしていく男。
それを見つめながら、てゐは畳み掛けるかのように言葉を放つ。
「この首輪は放送が来る前に誰かを殺さなきゃ爆発しちゃう首輪ウサ。
こんなの取り付けられたら、もう殺し合いをしないなんて言ってられない。
だから……私はあなたを襲ってしまったウサ」
「……なるほど。
だが、お前は俺以外の誰も殺してはいないのだろう? ならば何故一回目の放送が来た時点で首輪は爆発しなかった」
「それは……多分こうウサ」
三度目の気絶から目覚めた後、男に気付かないまま行った推理を披露するてゐ。
青い首輪の説明が抜けている説明書の指摘や、バクラ達が改ざんを行った可能性。
それらは確かな説得力を持つものであり、男も関心したかのようにてゐの推理をただ静かに聞く。
「確かに……お前のその推理は正しいかもしれないな。
……ヤガミ・ライト、カツラ・コトノハ、そしてバクラか。 厄介な連中ばかりだな……」
「信じてくれるウサ……?」
「こんな説明書を、お前が用意出来たとは思えない。 そして、お前が自分からその首輪を付けたとも考えにくい。
だとすれば、その首輪の効力はこの説明書の通りのものであり、首輪は誰かが取り付けたと考えるのが自然だ。
……お前を完全に信じた訳じゃない、が……かといって完全に疑っている訳でもない」
「……そうウサか。 ……なら、どうやったら信用してくれるウサ?」
「そのバクラ達が完全にこの殺し合いに乗っているのだという確固たる証拠が出てくれば……。
……少なくとも、お前に対する疑いは小さくなる」
「……わかったウサ」
少しだけ落ち込んだ様子を見せながら、てゐはしかし本心では当面の危機を脱した事に安堵していた。
だが、あくまでもまだ当面の危機を脱したというだけであって完全に安心は出来ない。
未だ誰も殺せていない状況である為に次の放送までに急いで誰かを殺さなければならないし、
支給品を失くしてしまっている為に素手で戦いを挑まなければならない。
後者はともかく、前者の問題は早急に片付けてしまわなければ折角危機を脱したというのに死んでしまう。
「……ともかく、移動するぞ、てゐ。
このままここに居ては誰かに狙い撃ちにされるだろうし、お前も早急に誰かを見つけて殺してしまいたいだろう」
「!? ……どういうつもりウサ?」
「お前からは確かにバクラ達に関する情報を貰った……だが、それが完全に信用出来る情報か否かはまだ確定していない。
情報は正確なものでなければ意味がない、ならばその情報が正確なものか否か判断出来る材料が必要だ」
「……つまり、私とバクラ達とを会わせて、どっちが正しいかを見極めようって訳?」
「そうだ。 それまでにお前に死なれては困る。
だから、殺し合いに乗っている者がいればお前がトドメを刺せ。
……手を組もう、と言っているんだ」
「……ウサウサウサ♪」
男の提案に、てゐは呆気に取られながらも笑顔で頷く。
彼はてゐをも倒した屈強な傭兵だ、戦力として申し分ない。
殺し合いに乗っている者限定ではあるものの、てゐが殺害をする事に対しても寛容である。
自身の知り合いと遭遇する可能性を考慮すれば、彼女達に対して警戒心を抱いている彼は役に立ってくれるだろう。
思いがけない幸運だ……これなら、バクラ達にも十分対抗が出来る。
「自己紹介がまだだったな……俺はソリッド・スネーク」
「ウサウサ、よろしくウサ! スネーク。 私も殺し合いに乗ってない奴なんて本当は殺したくないウサ!
私一人だとそれでも仕方なかったかもしれないけど……でも、あなたがいれば安心ね!
スネークの提案は望むところウサ!!」
「あまり過大な期待はしないでくれ。
……ところで、てゐ。 一つ聞いていいか?」
「ウサウサ、お安い御用ウサ。 あ、でも私もスネークに聞きたい事があるウサ」
お互い、警戒心が少しだけ薄れた事により今まで散々聞きたかった事が急に気になり始めた。
二人は何の躊躇いもなく、その疑問を口にする。
「そのウサミミは一体何だ? コスプレか?」
「スネークのその格好は何? 趣味?」
「…………」
「…………」
しばし、無言。
それから数十秒程の沈黙が辺りに漂い……しかし、すぐに気を取り直したかのようにスネークが呟く。
「……そういえばてゐ、お前は何も武器を持っていないんだったな。
あの"ダンマク"というものも強力ではあったが……それでも武器は持っておいた方がいい」
そう言いながら、スネークはデイパックからドアラの支給品であった武器を取り出す。
それを見て驚いたのはてゐである。
スネークが取り出したのは、見紛う事はない自身の持っていた大きな木槌。
まさか、ここまで幸運が続いていて、更に自身が扱い慣れたそれが武器として手元に戻ってくるとは思いもよらなかった。
二度、三度それを振り回して感触を確かめ、頷きつつスネークに礼を言うてゐ。
その礼を受け流しながら、更にスネークはもう一つのドアラの支給品をてゐに渡す。
「……これは?」
「俺がそれを着ていれば、より一層外見が怪しくなるからな……。
お前に渡しておく」
説明書を受け取り、スネークの言葉を聞きながらその支給品の使用方法を熟読するてゐ。
ここに来て、憎きバクラ達ばかりを幸運にしてきたてゐの身に。
今、ようやくそれを取り戻すかのように強烈な追い風が吹き始めていた。
|sm110:[[狂喜「サウンドプリンセス」]]|[[時系列順>第二回放送までの本編SS]]|sm111:[[シンデレラ・ケージ(後編)]]|
|sm110:[[狂喜「サウンドプリンセス」]]|[[投下順>101~150]]|sm111:[[シンデレラ・ケージ(後編)]]|
|sm88:[[伝説の英雄S]]|ソリッド・スネーク|sm111:[[シンデレラ・ケージ(後編)]]|
|sm88:[[伝説の英雄S]]|因幡てゐ|sm111:[[シンデレラ・ケージ(後編)]]|
|sm104:[[伝説のスーパーサイヤ人の殺し合い訓練学校 [強制参加]]]|夜神月|sm111:[[シンデレラ・ケージ(後編)]]|
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*シンデレラ・ケージ(前編)◆0RbUzIT0To
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太陽が昇り始めて既に数時間、見通しのいい平原の中。
この場に連れてこられて三度目の気絶をしていた因幡てゐは、ようやくその目蓋を開け意識を取り戻した。
「ぐぅっ……?」
呻き声を上げながら身体を起こし、ふらつく頭に渇を入れながらてゐは左右を見回す。
既に辺りは明るくなっており、視界はここに連れてこられていた当時よりも格段に良くなっている。
続けて上空を見上げ、現在の時間を大まかながら確認しようとすると、
その太陽の位置から推察するに時刻は午前八時前後であるという事が把握できた。
「……っ!?」
慌て、てゐは首下に手をやりながらそこに取り付けられているそれを確認をする。
金属的な感触が二つ、手の触覚を冷たく刺激した。
小さく舌打ちをしてから、今度は身体を曲げて無理矢理首輪を目で確認。
すると先ほどまでは青色だった首輪が、白色へと変色していた。
「……どういう事なの!?」
白色へと変色したプレミアム首輪に手をあて、彼女には珍しく激昂する。
この首輪は放送が流れる前までに誰か一人を殺さなければ爆発してしまう有料首輪。
既に一度目の放送は流れている時間なのだから、とっくに爆発しているはずだというのに……。
しかし、自分の首はちゃんと繋がっているし首輪はそこにしっかりと存在している。
もしや何らかのアクシデントがあって放送はまだ流れていないのだろうか?
それとも、この首輪自体が故障をしている?
……いや、どちらも可能性は限りなく低いだろう。
自分達をこんな場所に連れてきた者達が、こんなに早々予想外のアクシデントを起こしてしまうとも思えない。
同じようにその者達が用意したこの首輪が故障をしたというのも、まず考えにくい。
ならば考えられる可能性は……。
「ハッタリ……?」
この首輪を取り付けたバクラ達が、嘘をついたとでも言うのだろうか?
……それも考えにくい。
プレミアム首輪を取り付けたのは確かにバクラ達であるが、これを用意したのはまず間違いなく主催者だ。
まさか河童でもあるまいし、月や言葉やバクラがこの首輪を短時間で作成したとは到底思えない。
それに、この首輪の効力を知ったのは説明書を読んだからだ。
説明書が用意されていたという事は、支給品として彼らの内一人のデイパックに紛れていたという事。
つまり、この首輪とその説明書を用意したのは主催者だと考えて間違いは無いはずだ。
歯噛みをしながら、てゐは考える。
首輪を用意したのは主催者だ……だとするなら、疑うべきはやはりバクラ達。
バクラ達が何らかの嘘をつき、てゐを騙したと考えるのが妥当な線だ。
バクラに裏切られ気絶し、意識を取り戻して言葉と月に対面し、再び気絶をした時の事を思い出す。
あの時、意識を取り戻して言葉達と会話をした時間はたった数分――あの中に、嘘は無いはずだ。
彼らの口ぶりからしてそういう雰囲気は見て取れなかったし、そもそもその時まだプレミアム首輪は取り付けられていなかったのだから。
だとするなら、彼らが嘘を仕掛けたのはその後……てゐが気絶をしてからと考えるべきだ。
「でも……でも……どういう事?」
あの後、バクラ達はてゐにプレミアム首輪を取り付けてそのまま去った。
つまり、その間にてゐに対して口先で騙すというアプローチは取れなかったのだ。
……考えが行き詰ってしまう。
バクラ達がてゐを騙した事はまず間違いない。
その方法と狙いがわかれば、この首輪が放送を超えた所でどうして爆発しなかったのかがわかるのだろうが……。
首を振り、てゐは別の観点から彼らの意図を察する事にする。
"どうやってバクラ達が首輪を取り付け、自分を騙したか"ではなく、"何故バクラ達が首輪を取り付けたのか"という事を。
てゐは今まで、それについては彼らが第一放送までにてゐが死ぬものと確信していたからだと考えていた。
だが、ここに来てその考えは間違っていたものだと判断する。
何故なら、この首輪は第一放送を過ぎても未だ爆発をしていないのだ。
バクラ達がこの首輪を"第一放送までに爆発しない"のだと知らなかった、という可能性は低い。
この首輪の元々の持ち主は彼らなのだから、思慮に長ける彼らがその事実を知らない訳が無い。
だとすれば、彼らの狙いはおぼろげながら読めてくる。
彼らは因幡てゐに、殺人鬼になって欲しかったのだ。
バクラ達の狙いがあくまで優勝ならば、当分彼らが殺し合いを積極的にする事は無いだろう。
むしろ、てゐとバクラの当初の予定通りに強く与しやすいグループに紛れ込んで参加者が減るまで行動しないものと考えた方がいい。
しかし、それだと参加者の減るペースはどうしても落ちてしまい……故に、バクラ達はてゐを使おうとした。
この首輪をつけられれば、てゐは積極的に殺し合いをしなければならなくなる。
生き残りたければ、放送毎に最低一人は殺さなければならないのだから……この殺し合いが二日続くとして、単純計算で八人。
仮にてゐが弱ければすぐに死ぬだけ、強ければ八人……とは言わずとも、それなりの数は減らしてくれる。
バクラ達は、そう考えてゐにこの首輪を取り付けたのだ。
無論、この計画にもデメリットはある――てゐが彼らに牙を剥く、という可能性だ。
その可能性を考慮すれば、これはハイリスクハイリターンな賭け……しかし、あえて彼らはその賭けを打って出たのだろう。
……だとすれば、この首輪の効果も、そしてバクラ達がどのようにしててゐを騙したかも凡そながら読めてきた。
てゐは、己の懐にしまっていた首輪の説明書を取り出しそれを読む。
そこに書かれている文字を熟読し……やがて、不適な笑みを浮かべててゐは呟いた。
「なーるほど……そういう事ね」
説明書にはこう書かれている。
申し込み前は赤い首輪、それが申し込みを確認すれば青い首輪になり、殺害をすれば黒い首輪になると。
だが、"白い"首輪の事は何一つ触れられてはいない。
これは一体どういう事なのか。
この首輪は故障などしない、ならばこの白くなった状態も決して首輪のバグなどではないはずだ。
ならば、説明書で説明をしていなければおかしい。
考えられる可能性は一つ……バクラ達が、その部分を改ざんしたのだ。
説明書を作り直したか、或いは別の手段を使ったのか……。
ともかく、白い首輪について書かれている部分を無かった事にした。
それは、恐らく彼らにとって都合の悪い事が書かれていたからだ。
その都合の悪い事とは一体何なのか――?
この首輪は、本当は何の効力も無い玩具でしか無いという事実が書かれていた?
そうであるなら喜ばしい事だが……恐らく、それは無いだろう。
そんな嘘、放送が来ても爆発しないという事にてゐが気付けばすぐにバレる。
そうなった場合、しっぺ返しを食らうのはバクラ達なのだ。
仮にてゐが何人か殺して放送を迎え続ける可能性があったとしても、それと同じくらい嘘がバレる可能性がある。
いや……彼らはてゐが弾幕を撃てるなどと知らないはずなのだから、むしろ嘘がバレる可能性の方が高いと思っているだろう。
幾らハイリスクハイリターンを狙っていたとはいえ、これではあまりにも無謀過ぎる。
故に、この首輪が何の効力も無い――というのは在り得ない。
この首輪は放送が来れば爆発する、というのはまず確定事項だ。
それを踏まえた上で考えるならば……答えは自ずと出てくる。
プレミアム首輪の利点とは、禁止エリアに進入が出来るという点だ。
てゐはそれを放送の前に強引にバクラ達に装着されてしまったのだが……ここでふと疑問が沸く。
第一回放送までに、禁止エリアは存在しないのだ。
ならば、この首輪の利点は第一回放送の前までには存在しないという事になる。
「利点が無いのなら……当然、欠点も無いはずよ……」
そう考えれば、全ては納得のいく話である。
バクラ達の狙いは、てゐに殺人をさせ自分達以外の参加者を減らす事。
なら、てゐにはそんなに簡単に死んでもらいたくは無いはずである。
第一回放送直前に首輪を取り付け、野に放った所で彼らにメリットなど一つも無い。
そんな事をするくらいならばてゐをさっさと殺し、プレミアム首輪は他の者に使えばよかっただけなのだ。
バクラ達がプレミアム首輪をつけたのは、てゐが一回目の放送で死ぬ事は無いと確信していたから。
そして、その一回目の放送が終わった直後――てゐが事の真相に気付いても、誰かを殺さない限りは生き残れないという事実に変わりは無いと思ったからだ。
「完全に嵌められた……!!」
てゐが彼らの真の狙いに気付けなかったのも、何も対策をしないまま第一放送を迎えてしまった事も。
全ては、バクラ達の思惑通り。
てゐは彼らの手の平の上でただ無様に踊らされていただけだ。
悔しそうに歯噛みをしながら、てゐはただ拳を地面に叩きつける。
あの状況では致し方なかったのかもしれないが……安易に騙されるとはとんだ屈辱だ。
「絶対に、絶対に……! あいつらだけは許さない……ッ!!」
今度は必ずこちらが騙し返す。
騙して、嵌めて、罠にかけて、陥れて……バクラ達の命を奪ってみせる。
この借りは、倍返しにして返してやらねば気が済まない。
てゐはそう心の中で強くバクラ達への復讐を誓い――そして。
「あいつらってのは……誰の事だ?」
「っ!?」
背後から、唐突に声をかけられた。
反射的にてゐはそちらの方へと向き直り、視線をやる。
そこにいたのは――銃を構えた、屈強な傭兵。
「下手な真似はするんじゃあない……手を上げるんだ」
その傭兵に気付かれないよう小さく舌打ちをし、しかし逆らう事も出来ずてゐは言われた通りに手を上げる。
目の前にいるのは首輪が爆発すると思い込んでいた時に決死の覚悟で襲い掛かった男。
あの時はただ無我夢中で、あまり記憶も無いのだが……その声と体つきには覚えがある。
首輪が爆発しなかった事について考えるあまり、周囲の人間への警戒が疎かになりすぎていた。
自分を気絶させた彼が自分を殺さなかった以上、彼も自分を放っておいてどこかに行ったものだと考えていたのだが……。
とにかく……あまりにも無警戒過ぎた。
起きた瞬間左右を見た為に誰も周りにいないものと思っていのだが、考えが甘かったと言わざるを得ない。
相手との距離は約3メートル……不意をついて飛び掛かる事も弾幕を撃つ事も出来ないだろう。
口先で上手く丸め込む? ……駄目だ、それも出来ない。
彼は先ほどまでのてゐの独り言を聞いているようだしし、何よりてゐに襲われている。
自分の狡猾な面すべてを出すつもりは無いが……あからさまなぶりっ子をしてみたところで逆効果にしかならない。
「よし、そのままだ。 そのままの姿勢で俺の質問に答えろ」
「……わかった」
ここは素直に彼の言う事を聞いておくしかない。
「まず、名前だ」
「因幡てゐ」
「……イナバ、テイ。 なるほど……確かに、嘘では無いようだな」
「それは……?」
てゐが名前を告げるや否や、男は片方の手に持っていた紙を見て頷く。
それを見て疑問に思ったのはてゐだ。
名前を告げた瞬間に見たのだから、そこには自身が嘘をついたかついていないかを確認出来るような何かが書いてあるのだろうが……。
「これは名簿だ……予めデイパックに入っていた白紙の紙があっただろう。
先ほどの放送から、その白紙の紙に文字が浮かび上がってこの殺し合いに参加させられている者の名前が書かれている」
「……ふぅん」
当然ながら、てゐはその名簿を確認出来ていない。
支給品は全てバクラ達によって奪われたのだから、その白紙の紙も当然バクラ達が持ち去っており。
また、放送を聴いていないのだからそもそもその紙が名簿になったという事実も知らなかったのだ。
これでは確認が出来る訳が無い。
「丁度いい、お前も確認しておけ。 知り合いが参加させられているかもしれない」
「……ん」
男に促され、てゐは男が持っていた名簿を受け取り読んでいく……と。
尚も向けられる銃口に冷や汗を流しながら、てゐはその名簿に書かれてある名前の幾つかを見て内心焦った。
――チルノ、射命丸文、十六夜咲夜、紅美鈴、フランドール・スカーレット……。
そこに書かれているのは、正しく自身の知り合いの名前。
もしかしたら、自分の知り合いもいるかもしれない――確かにそう思ってはいたが。
まさか五人も連れてこられているとは予想もしていなかったのである。
氷精だけならまだどうとでもなる……口先でどうとでも言い包められるし、手駒にする事だって十分可能だ。
しかし、それ以外の面子に口先だけで太刀打ちをするのはどう考えたって難しい。
あまり口が上手そうではない門番と悪魔の妹なら、或いは上手く騙せるかもしれないが……。
彼女達も当然てゐの風評は聞いているのだろうから、確実に騙せるなどと言い切れない。
新聞屋とメイドに関しては論外だ。
前者は実に利己的で頭がよく回るし、後者はこちらの話を聞いてくれるような寛容な心を持ち合わせていない。
幸いにも、十六夜咲夜やフランドール・スカーレット、チルノなどは徒党を組むような性格をしていないだろうから自分の情報が他者に漏れる心配が無いだろうが……。
後の二人に関しては仲間を作っている可能性もある、そこからてゐが嘘吐きであるとばらされていれば相当やり難くなってしまうだろう。
知り合いがいるにしても、せめてもう少し馬鹿そうな夜雀やら虫っ子やらなら何倍も楽になっただろうに……。
眉間に皺を寄せながらそんな事を考えるてゐに対し、そこから何かを感じ取った男は更に口を開く。
「その様子だと知り合いがいたようだな」
「うん……この名簿が嘘のものじゃないんだとしたら。
ここに連れてこられている私の知り合いは、全部で五人ね」
ここで嘘をついてもてゐ自身に何らメリットは無い、むしろ正直に話した方が有利に動く。
名簿に書かれている五人は、何れもてゐにとって邪魔な存在だ。
ここは彼女達に関する情報をリークしておくのがベストである。
「よし、ならばその五人の名前をまず聞こう」
「射命丸文、チルノ、フランドール・スカーレット、紅美鈴……それと、十六夜咲夜よ」
「十六夜咲夜だと!?」
「っ……どうかし――ッ!?」
知り合いの名を呟いた途端、男はまるで鬼のような形相でてゐを睨みつけた。
一瞬、てゐはその視線に獰猛な蛇の姿を思い浮かべ思わず怖気づき――。
しかし、すぐさま気を取り直して男の態度について考えだす。
男があからさまな怒りの形相をその顔に浮かべたのは、十六夜咲夜の名を呟いた瞬間からだ。
彼自身がその名を知っている様子だという事も考え、彼は既に彼女と出会ったものと見て違いない。
彼女の性格やここでどういった行動を取るかという予想。
そして、彼を襲ったてゐを気絶させるだけに留め、殺す事は無かったという彼の方針から鑑みるに……。
彼と彼女の間で起こった事象はある程度予測がつく。
――十六夜咲夜に殺されかけたか、或いは他の誰かを彼女が殺す現場を目撃した。
完全に当たっているとは言い切れないが、さりとて見当違いな考えでもないだろう。
目の前の男は十六夜咲夜に向けて確実に敵意を見せている。
ならば……これは利用が出来る。
「言え……! お前と奴は、どういった関係だ!?
いや、それよりも奴は一体……!!」
「ひっ……!」
「っ! ……すまん、怖がらせた。 だが、答えてくれ。
奴はお前とどういう関係なんだ? ……奴の性格や戦法は? 弱点はあるのか?」
まずは男の剣幕に怖がるフリをして男を落ち着かせ、てゐが実際には"弱い"者だと錯覚させる。
襲い掛かった以上ぶりっ子をするつもりは無いが、だからといって強気な面を見せてばかりではいられない。
てゐがこの場で取るべき対応――演技は、"強がる子供"。
外見だけを見れば、てゐはどこからどう見てもただの幼女である。
弾幕を張れたりといった力はあるものの、見た目はいたいけなうさぎさんなのだ。
この外見を利用しない手は無い。
独り言を言っていた時もそれほど危険な事は言ってないはずなのだから、この演技も十分通用するはずだ。
「別に、怖がってないウサ」
「……そうか」
少しだけそっぽを向きながら、それでも若干うろたえたフリをしてそう返す。
男は小さく頷きながらも、どうやらてゐを驚かせた事を反省したらしく表面上は怒りを納めた。
「で、奴っていうのは……十六夜咲夜の事、でいいの?
なら答えるけど……あいつは別に、私とそれほど仲がいいって訳じゃないのウサ。
顔と名前は知ってるけど、それほど会話もした事ないしね。
それでも、あいつの性格とか考えそうな事は大体予想がつくけど」
「……話せ」
男に促され、てゐは尚も少しだけビクついたようなフリをしてみせながら……十六夜咲夜に関する情報を男に教える。
紅魔館の事。紅魔館の当主が吸血鬼であるという事。彼女はそこのメイド長であるという事。
当主の為ならば人殺しも容易にやってのける事。如何なる時も冷静であり、無情であり、しかしどこか天然であるという事。
時を止める能力を持っている事。一時期、年甲斐にもなくまるで魔法少女のような星を模した装備をつけて異変解決を行おうとした事。
それが一部でマジカル☆咲夜ちゃんスターと呼ばれているという事。あと、PAD疑惑があるという事。
思いつく限り、十六夜咲夜について知っている事をただ喋り続けた。
「……なるほど」
「ウサウサ。 とにかく、あいつは危険人物よ。
同じ紅魔館在住のフランドールや美鈴もそうだけど、あいつはある意味そいつらより怖い」
最後にそう締めくくったてゐの言葉を聞き、男は静かに頷いて十六夜咲夜の危険さを再確認する。
てゐが齎した情報は……マジカル☆咲夜ちゃんスターやPADの事を除けば男にとって有益なものだった。
特に、時を止める能力を持っているという情報を得られたのは大きい。
本来ならばそんな非科学的な話信頼など出来ないのだが――それが事実ならばあの時目の前から突如消え列車に乗り込んだ事象について説明がつく。
だとすれば、矢張り彼女はそういった類の能力を持っていると考えて間違いないだろう。
「それでは、次に他の者達についてだ」
「ん……わかった」
男に言われるまま、てゐは更に言葉を続ける。
曰く、射命丸文とは幻想郷に住む新聞記者であり食えない性格をした者である――人畜無害そうな顔をして、裏で何をやっているかわからないので信頼するに値しない者だ。
曰く、チルノとは紅魔館の近くに住む妖精であり力は相当持っているもののただの馬鹿である――負けん気だけは人一倍強いので、誰かに勝負を仕掛けられたらまずその喧嘩を買うような危なっかしい者だ。
曰く、フランドール・スカーレットとは紅魔館に閉じ込められた悪魔の妹である――戦闘能力だけなら幻想郷でもトップクラスであり、気が触れている為に十六夜咲夜の次に注意すべき人物だ。
曰く、紅美鈴とは紅魔館を警備する門番である――格闘技術は高いものを有しており、人柄もいいものであるが……彼の主人はフランドール達である、警戒すべき者だ。
――などなど、ほぼ全て真実の事を伝え……その中に少量の嘘を混ぜて危機感を煽っていく。
「ウサウサ。 特に後の二人は危険ウサ。
十六夜咲夜の仲間なんだから、手を組まれたりしたら手がつけられなくなっちゃうわ」
「……確かに、そうだな」
顎に手を当て、考え込む男……その様子を見ながら、てゐは内心ほくそえむ。
男はこの情報を信じるしか道は無い、信じざるを得ない。
彼は既に十六夜咲夜に出会い彼女に煮え湯を飲まされており、その十六夜咲夜の情報を既に因幡てゐから聞き出した。
そして、その情報の殆どは彼の危機感を煽り立てる事に成功しているのである。
てゐが齎した十六夜咲夜の情報は、全て彼が感じた十六夜咲夜に対する感情を盛り上げるものだった。
冷血で冷淡で冷酷無比。時を止める能力。完全で瀟洒。一分の隙も無いパーフェクトメイド。
それらは全てあの時、男が感じた十六夜咲夜に対するイメージと寸分違わぬもの。
故に、男はその情報を齎したてゐの他の情報まで信用し始めている。
全てはてゐの緻密な作戦と、高度な話術があるからこそ為せる技……決して男が騙されやすい性質だからではない。
「五人もの参加者の詳細な情報が把握出来たのはありがたい……では、最後の質問だ」
「ウサウサ。 何でも答えるウサ~」
「……お前は、やはりこの殺し合いに乗っているのか?
俺はお前の事を混乱していたが為に俺に襲い掛かってきたものと思っていたが……様子を見る限りそうではないらしい」
ならばやはり……と言いたげに、強くてゐを睨みつける男。
てゐはその視線に一瞬たじろきつつ――小さく口元に笑みを浮かべて、答える。
「ウサ……。 そう、ウサ。 殺し合いに乗ってるかいないかといえば……。
私は殺し合いに乗ってるウサ……」
「やはり……!!」
「で、でも違うウサ! 本当はこんな事したくないウサッ!!
でも、でも……殺し合いをしないと首輪が爆発しちゃうウサ!! 私はまだ死にたくないの!!」
懸命に、哀れな兎を装い叫ぶてゐ。
その様子と剣幕に何かただならぬものを感じ取った男は、どういう事か話してみろとてゐに弁明の機会を与える。
心の中でガッツポーズを取りながら、てゐはなるべく狼狽したように……しかし、それでいて落ち込んだかのようにぽつりぽつりと話し始めた。
この首に巻かれた首輪――そして、自分を騙した忌々しい参加者達の事を。
まず、てゐはバクラと出会いチームを組んだ事を話す。
あくまでもこの時は殺し合いに乗っていなかった、と説明した上で。
バクラは表面上人畜無害な少年を装い、自分と一緒にいようと嘯いて近づいてきたと説明する。
そして、その後すぐにバクラによって気絶させられ桂言葉と夜神月、バクラの三人に羽交い絞めにされたまま意識を取り戻し。
首輪を取り付けられ、再び気絶をさせられたと言う。
「あいつらは……私を最初っから騙してたのよ。
桂言葉や夜神月については詳しく知らないけど、あのバクラって奴だけは間違いなく私を嵌める為に私に声をかけてきたウサ」
「……その首輪とやらの効力は、どういったものなんだ?」
「これを読むウサ……」
懐にしまい込んでいた首輪に関する説明書を男に渡すてゐ。
その説明書を読みながら、その眉間に更に皺を寄せていき徐々に怒りの形相を露にしていく男。
それを見つめながら、てゐは畳み掛けるかのように言葉を放つ。
「この首輪は放送が来る前に誰かを殺さなきゃ爆発しちゃう首輪ウサ。
こんなの取り付けられたら、もう殺し合いをしないなんて言ってられない。
だから……私はあなたを襲ってしまったウサ」
「……なるほど。
だが、お前は俺以外の誰も殺してはいないのだろう? ならば何故一回目の放送が来た時点で首輪は爆発しなかった」
「それは……多分こうウサ」
三度目の気絶から目覚めた後、男に気付かないまま行った推理を披露するてゐ。
青い首輪の説明が抜けている説明書の指摘や、バクラ達が改ざんを行った可能性。
それらは確かな説得力を持つものであり、男も関心したかのようにてゐの推理をただ静かに聞く。
「確かに……お前のその推理は正しいかもしれないな。
……ヤガミ・ライト、カツラ・コトノハ、そしてバクラか。 厄介な連中ばかりだな……」
「信じてくれるウサ……?」
「こんな説明書を、お前が用意出来たとは思えない。 そして、お前が自分からその首輪を付けたとも考えにくい。
だとすれば、その首輪の効力はこの説明書の通りのものであり、首輪は誰かが取り付けたと考えるのが自然だ。
……お前を完全に信じた訳じゃない、が……かといって完全に疑っている訳でもない」
「……そうウサか。 ……なら、どうやったら信用してくれるウサ?」
「そのバクラ達が完全にこの殺し合いに乗っているのだという確固たる証拠が出てくれば……。
……少なくとも、お前に対する疑いは小さくなる」
「……わかったウサ」
少しだけ落ち込んだ様子を見せながら、てゐはしかし本心では当面の危機を脱した事に安堵していた。
だが、あくまでもまだ当面の危機を脱したというだけであって完全に安心は出来ない。
未だ誰も殺せていない状況である為に次の放送までに急いで誰かを殺さなければならないし、
支給品を失くしてしまっている為に素手で戦いを挑まなければならない。
後者はともかく、前者の問題は早急に片付けてしまわなければ折角危機を脱したというのに死んでしまう。
「……ともかく、移動するぞ、てゐ。
このままここに居ては誰かに狙い撃ちにされるだろうし、お前も早急に誰かを見つけて殺してしまいたいだろう」
「!? ……どういうつもりウサ?」
「お前からは確かにバクラ達に関する情報を貰った……だが、それが完全に信用出来る情報か否かはまだ確定していない。
情報は正確なものでなければ意味がない、ならばその情報が正確なものか否か判断出来る材料が必要だ」
「……つまり、私とバクラ達とを会わせて、どっちが正しいかを見極めようって訳?」
「そうだ。 それまでにお前に死なれては困る。
だから、殺し合いに乗っている者がいればお前がトドメを刺せ。
……手を組もう、と言っているんだ」
「……ウサウサウサ♪」
男の提案に、てゐは呆気に取られながらも笑顔で頷く。
彼はてゐをも倒した屈強な傭兵だ、戦力として申し分ない。
殺し合いに乗っている者限定ではあるものの、てゐが殺害をする事に対しても寛容である。
自身の知り合いと遭遇する可能性を考慮すれば、彼女達に対して警戒心を抱いている彼は役に立ってくれるだろう。
思いがけない幸運だ……これなら、バクラ達にも十分対抗が出来る。
「自己紹介がまだだったな……俺はソリッド・スネーク」
「ウサウサ、よろしくウサ! スネーク。 私も殺し合いに乗ってない奴なんて本当は殺したくないウサ!
私一人だとそれでも仕方なかったかもしれないけど……でも、あなたがいれば安心ね!
スネークの提案は望むところウサ!!」
「あまり過大な期待はしないでくれ。
……ところで、てゐ。 一つ聞いていいか?」
「ウサウサ、お安い御用ウサ。 あ、でも私もスネークに聞きたい事があるウサ」
お互い、警戒心が少しだけ薄れた事により今まで散々聞きたかった事が急に気になり始めた。
二人は何の躊躇いもなく、その疑問を口にする。
「そのウサミミは一体何だ? コスプレか?」
「スネークのその格好は何? 趣味?」
「…………」
「…………」
しばし、無言。
それから数十秒程の沈黙が辺りに漂い……しかし、すぐに気を取り直したかのようにスネークが呟く。
「……そういえばてゐ、お前は何も武器を持っていないんだったな。
あの"ダンマク"というものも強力ではあったが……それでも武器は持っておいた方がいい」
そう言いながら、スネークはデイパックからドアラの支給品であった武器を取り出す。
それを見て驚いたのはてゐである。
スネークが取り出したのは、見紛う事はない自身の持っていた大きな木槌。
まさか、ここまで幸運が続いていて、更に自身が扱い慣れたそれが武器として手元に戻ってくるとは思いもよらなかった。
二度、三度それを振り回して感触を確かめ、頷きつつスネークに礼を言うてゐ。
その礼を受け流しながら、更にスネークはもう一つのドアラの支給品をてゐに渡す。
「……これは?」
「俺がそれを着ていれば、より一層外見が怪しくなるからな……。
お前に渡しておく」
説明書を受け取り、スネークの言葉を聞きながらその支給品の使用方法を熟読するてゐ。
ここに来て、憎きバクラ達ばかりを幸運にしてきたてゐの身に。
今、ようやくそれを取り戻すかのように強烈な追い風が吹き始めていた。
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