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朝霧の幻影殺人鬼 - (2009/02/21 (土) 12:38:06) のソース
*朝霧の幻影殺人鬼(前編) ◆0RbUzIT0To ---- B-4駅構内の駅長室において、一人の男が静かに身を潜めていた。 呼吸によって自然に出される音を極限まで抑え、気配を完全に消し去る。 何の訓練も受けていない一般人では、そこに人が一人いるという事に気付きもしないだろう。 身を潜めている男の名はソリッド・スネーク――幾多の戦場を駆け抜けた歴戦の戦士である。 こうして駅長室に立てこもるようになって、一体どれ程の時間が経過しただろうか。 不意に気になり横目でちらりと駅長室の壁にかかった時計を見てみると、 既にここに連れてこられて四時間以上が経過している事がわかった。 再び視線を前方へと戻し、スネークは自身の考えをもう一度纏め始める。 スネークはこの駅に降り立ち、まず支給品の確認を行い続いて列車のダイヤを確認した。 幸いにもと言うべきか、主催者が用意したものと思われる何枚ものダイヤ表が入った『ご自由にお取り下さい』と書かれた台がこの駅長室の扉の前に設置されていた。 それならば、とスネークは遠慮なく一枚拝借しそれを見る。 ダイヤ表を確認してみたところ、列車は一時間間隔で――上りと下りの列車がほぼ同時にこの駅に来るという事がわかった。 しかし――である。 スネークがこの駅で身を潜めて四時間が経ったが、列車がダイヤ通りにやってきたのは最初の二時間のみ。 後の二時間では、列車はダイヤの時刻より大幅に遅れてやってくるようになっていたのだ。 これは一体どういう事なのだろうか……。 考えられる可能性は二つある。 一つはこのダイヤ表が嘘のものであるという可能性だ。 しかし……と、スネークはその可能性は決して高いものではないと判断する。 ダイヤとのズレが生じた後の二時間はともかく、最初の二時間はダイヤの通りにやってきていた。 最初の二時間だけが正しく、後の時間以降が嘘の表記をされているというのもおかしな話だ。 そんなものを主催者達が用意する道理は無い。 もう一つは何者かが列車の動きを止めたという可能性……。 意図したものか故意なのかは知る由も無いが、何らかの方法で誰かが列車を止めたという可能性だ。 駅がある場所は現在スネークがいるB-4を除けば四つ。 その四つの中の何れか一つの駅において、列車を何者かが止めたのだとしたら納得がいく。 この列車は主催者が管理しているものと見て間違いない。 ある一箇所の列車が急停止すると同時に、主催者が他の列車もその停止した列車と同じ時間分だけ停止させる。 そして、急停止した列車が再び運行可能となったところで他の列車もまた発車させるのだ。 そうすると、全ての列車は問題なく機能し――かつ、規定通りのダイヤとズレが生じるようになる。 あくまで仮説でしか無いが、この考えは恐らく間違っていないだろう。 問題は一体誰が、何の目的で列車を止めたのかという点だが……。 流石に、こればかりはわからない。 ダイヤに関する推理はここまでにしておいて、スネークはまた別の事に関して考えを巡らす。 スネークの行動方針として、まず第一にあったのが情報収集。 情報が無ければ動きようが無いのだから、当然といえば当然だ。 しかしながら、この情報を集めるというのが現在のスネークにとって大いなる難題である。 情報を得る為には大きく分けて二つの方法がある。資料か何かを目で見て得るか、誰かから情報を聞き得るかの二種類。 だが、今のスネークがそれをするのは難しい。 今、スネークは服を着ていないのである――正真正銘の全裸、どこからどう見ても変質者にしか見えないのだ。 スネークと同じくこの場に連れてこられた参加者と会ったところで、不審者扱いされるのは想像に難くない。 故に、スネークは今迂闊に動き回る事が出来ないのだ。 だからこそこの四時間、スネークは列車にも乗らず駅の外にも出なかった。 この際、誰かに見つかる訳にはいかないというスネークの思いは無視だ。 リスクを犯さずしてそう簡単に情報が得られるとは思っていない。 迂闊に動かず、しかし、情報は得たい……。 そう願うスネークはここで早速先ほどの支給品――"愛犬ロボ てつ"を有効活用する事にした。 今スネークがいる駅長室の約10メートル先には改札口。 そして、その改札口へ向かう道とは逆方向に10メートル進んだ地点にこの駅のプラットホームへと続く階段がある。 つまり、駅長室は改札口とプラットホームの中間地点に存在する事となるのだ。 列車に乗ろうと改札口を通りホームへ向かう者も、逆に列車を降り改札口から外へ出ようとする者も。 この駅長室の前は必ず通らなければならない。 スネークはそこに目をつけ、駅長室の扉の向こう側に"愛犬ロボ てつ"を置いた。 ゆっくりと駅長室の扉の前へと進み出ると、スネークは中腰となりその扉の向こう側にいる愛犬ロボへと小声で話しかける。 「てつ……わかっているな?」 「ワカッテイルー マカセテ、スネーク」 すぐさま扉の向こうから返事をした愛犬ロボに、スネークは頷きながら再び問いかける。 「もう一度おさらいだ……もしも入ってきた者が武器を持っていなかったら?」 「アソボウヨー」 「なら、武器を持っている者が入ってきたら?」 「アソバンカー?」 「……上出来だ」 スネークがてつに出した指示は至極単純なもの……。 駅の中に進入してきた者が武器を持っているのか否か、教えろというものだった。 相手がこの殺し合いに乗っているか否かならば、流石のてつも……勿論スネークもわからない。 だが、武器を持っているかどうかくらいなら見ただけでわかる。 それが把握出来れば、入ってきた者への対処も幾分か容易になるというものだ。 相手が武器を持っているか否か知らせる言葉は二人の間で作った暗号――「アソボウヨー」と「アソバンカー?」の二種類。 てつが自立稼動し意思を持ったロボットだと知られれば、相手が殺し合いに乗っている者の場合何かと不利になる可能性がある。 だが、これを使えば、相手はてつの事をただの喋るロボットだと勘違いしてくれるはずだ。 「頼むぞ、てつ……」 「ウン。 テツ、ガンバル」 スネークの言葉に素直に答えるてつ。 それから無音の時が数分ほど過ぎ去り……。 カッ、カッ、カッ、カッ――。 突如、その静寂を破る音が駅構内に響き渡った。 それを察知した瞬間、スネークはコルトパイソンを握り締め、その音の出所を探る。 方向は改札口……外からの侵入者だ。 静寂を破ったその音は女性物のピンヒールによるもの……侵入者は女性と見て違いないだろう。 心中で舌打ちをしながら、スネークは考える。 侵入者が女性というのはマズい……大いにマズい。 今のスネークは"全裸"なのだ。 そんな姿を見られては、男性は驚きこそすれ叫びはしないだろうが女性ならまず間違いなく叫ぶに違いない。 せめて話し合いが通じそうな女性ならばいいが――と思いながら、更に扉の向こうへと意識を集中させる。 そろそろてつが、侵入者が武器を持っているか否か判断出来ていい頃合だ。 持っていなければ標準語。持っていれば、関西弁。 緊張の面持ちでてつの報告を待つスネークに届いた声は――。 「アソバンカー?」 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 「アソバンカー?」 「ッ!?」 駅構内へと忍び込んだ侵入者――十六夜咲夜はいきなりそう声をかけられ、立ち止まった。 咄嗟に右手に持っていた果物ナイフを構える。 考えが甘かったか――内心毒づきながら、咲夜は周囲を見回した。 駅を視界に収めながら過ごす事数時間、咲夜は朝日が昇り始めた事を確認すると当初の予定通り列車に乗る為構内へと入った。 常に駅を見ていた結果、誰も駅の内部に入っていない事はわかっている。 それに駅の内部も調べた――少々おざなりなものではあったが、つい数時間前に調べていたのだ。 不運な事にその調べた時、この駅に潜んでいた男は息を殺して思考を練っていた為に双方が互いの存在に気付かないという事態に陥ってしまったのだが……。 ともかく、駅の中には誰もいないだろうと思い咲夜はこうして内部に入り込んだのだ。 だが、あくまで咲夜が確認したのは、"改札口"から入った者がいないという事のみ。 この駅で下車した者や、或いは最初からこの駅の内部に入り込んでいた者を調べるには些か配慮が足りなかった。 小さく舌打ちをし、咲夜は気を取り直して考える。 自身にかけられた声は女か子供が出したのか、やけに可愛らしく緊張感の無いもの。 "アソバンカー?"という言葉の意味も含め、こちらを敵視しているものではなさそうである。 しかし、安易に警戒を緩める訳にはいかない。 その言葉がこちらの油断を誘うものという可能性もあるのだ。 例え外見や声が幼くとも、数百年、数千年を生きてきた妖怪達がいる事を十六夜咲夜はよく知っている。 一体声の主はどこにいるのか……相手の出方が見えない以上、迂闊には動けない。 冷たい汗を額に浮かべながら、咲夜はもう一度ゆっくりと視線を動かし――。 見つけた。 「アソバンカー? アソバンカー?」 「…………」 そこにあったのは一体のヌイグルミ。 駅長室、というプレートがかかった扉の前に、そのヌイグルミはまるで番犬のように佇んでいた。 つぶらな瞳、ふわふわな毛、垂れた耳……四足歩行のその姿は、どこからどう見てもただの犬のヌイグルミ。 まさか、これが自分に声をかけてきたのだろうか? 困惑し――しかし、尚も警戒を続ける咲夜の耳に、今度はそのヌイグルミの愛らしい声とは真逆の渋い声が飛び込んでくる。 「……そこに、誰かいるんだな?」 「ッ!」 声が聞こえたのはヌイグルミが佇んでいる扉の向こう側。 瞬間、咲夜はタイルで敷き詰められた床を蹴り、跳躍をしてその扉と距離を取る。 「……何者?」 「怪しいもんじゃない……そちらが危害を加えなければ、こちらは何もしない」 「……何もしない?」 「ああそうだ。 だから落ち着いて俺の質問に答えてくれ」 部屋の中の男は、落ち着いた口調で咲夜を諭すかのように言葉を吐く。 一方の咲夜は、完全に逃げる機会を失った事を悟り内心焦っていた。 咄嗟に駅長室と自分の位置との距離を取ったのはいいが、唯一の出口とである改札口までの距離も開いてしまった。 相手の武器や能力がわからない為に、容易には動けない。 逃げ出したところを背後から不意打ちされるやも知れず、時を止めて逃げるにしてもたった2秒では逃げ切れる訳がない。 ならば時を止めて逆に男を不意打ちで殺すのは……いや、それも不可能だ。 距離を開けてしまった駅長室へ辿り着くには、2秒ではどう考えても足りない。 仮に2秒で辿り着けたところで、駅長室の扉は閉まっているのだからそれを開けなければならないし、 更に駅長室の中に潜んでいる男の居場所も捜さなければならない。 ここは素直に男の言う通りにするより他に無い。 渋々、咲夜が了承の意を駅長室の中にいる男に伝えると、男の質問が早速はじまる。 「名前と職業は?」 「十六夜咲夜、メイドをしてるわ」 「イザヨイ・サクヤ……日本人か。 この駅に来る前まではどこにいた?」 「A-3の館」 「この場所に連れてこられて、どんな奴と、何人出会った? そして、どうしてここに来た?」 「全身黒尽くめの少年と、得体の知れないコートを着た奇妙な男の二人。 黒尽くめの方は……確か七夜志貴とか言ってたかしらね。 コートの男に関しては、名前も知らないわ。 ここに来た理由は、その二人に襲われたから。 なるべくあいつらがいる所より遠くの場所に行きたいのよ」 「……武器は、持っているか?」 「果物ナイフが武器と呼べるなら、そうね」 男の質問に対し、咲夜は淡々と答えていく。 嘘は言わない。 七夜志貴たちに襲われたというのも、彼らから離れる為に駅に来たというのも本当の事だ。 偽名を使ってはそれがバレた時に怪しまれる、嘘をついては怪しまれてしまう。 故に、咲夜は真実だけを述べる。真実だけを。 「……では、最後の質問だ。 イザヨイ・サクヤ、お前は……この殺し合いに乗っているのか?」 男の言葉を受けて、しかし咲夜は焦らず――あくまで瀟洒に答えてみせた。 「乗ってないわ、自衛はするつもりだけどね」 そう、十六夜咲夜は殺し合いには乗っていない。 "今はまだ"――殺し合いをする気は無い。 この殺し合いが終盤までいき、参加者の数が減れば乗ろうとは思っている。 隙がある者は殺そうとも思っているし、必要ならば暗殺もしようとも思ってはいるが……しかし。 誰かと"殺し合う"――つまり、自身の危険を晒すような事は、しようとは思っていない。 「なるほど……。 ……遅れたが、俺はソリッド・スネークという名の傭兵だ」 「そう、それで? 私はもう行きたいのだけど……」 「……そう言わず、聞いてくれ。 実は、お前に頼みがある」 咲夜を引きとめ、哀願するかのように言うスネーク。 質問に答えたところで状況の変わっていない咲夜は、その場を去る事も出来ずその頼みとやらを聞こうとする。 頼みに応えてやる必要は無いが、その頼みとやらがスネークの弱みになるかもしれない。 そう思いながら咲夜はスネークの次の言葉を待ち――聞いた。 「……服を持っていたら、俺に恵んでくれないだろうか?」 「……は?」 一瞬、何を言われたかわからなかった。 あまりに突拍子の無いその言葉に、完全で瀟洒なメイド長はどこへやら……思い切り間抜けな声を出してしまう。 服? 服とは、洋服の事だろうか? 何故それを恵まなければならないのだろうか? 混乱しつつも、しかし、咲夜は必死に男の言葉の真意を探ろうとするのだが……。 「……全裸なんだ」 「…………」 言葉の真意など、何も無かった。 「……ふざけてるの?」 「至極真面目だ。 事情は言えないが、俺は服を着ていない状態でここに飛ばされた。 とにかく、服――いや、服でなくても肌を隠せるようなものがあれば恵んで欲しい」 「そうは言ってもね……」 スネークの言葉に困惑をしながら、それでも咲夜は冷静に考える。 本来ならばこんな申し出、適当に聞き流してさっさと移動をしたいのだがそうもいかない。 相手は全裸――しかし、だからといって移動が出来ないという訳ではない。 スネークはあくまで全裸であれば変質者だと勘違いされるものだと思い、大きな行動を憚っているだけなのだ。 いざとなれば例え全裸だろうが動くだろうし、結局のところ咲夜の状況は全く変わっていない。 「……残念だけど、私は服も何も持っていないわ」 「そうか……いや、すまなかった」 「あなたはこれからもそうやってその部屋から出ず、この駅に来た者から衣類を物乞いするつもり?」 「……当面はそのつもりだ」 「そう……」 小さく咲夜はそう呟き、扉の向こうのスネークもまた溜息を吐く。 経緯はどうあれ――ともかく、双方は重要な参加者の情報を得る事が出来た。 咲夜が得た情報はソリッド・スネークは現在全裸であり、大っぴらには行動が出来ない。 殺し合いに乗っているか否かは微妙な線だが、問答無用で攻撃をしてこない所を見る限り、 少なくともあの七夜志貴のような好戦的な人物では無いと思われるというもの。 スネークが得た情報は、全身黒尽くめの男――七夜志貴の事や、得体の知れないコートの男が殺し合いに乗っているという事だ。 咲夜自身の事に関しては、スネークは少なくともそこまで信頼は置いていない。 質問に対する返答があまりにも淡々としすぎており、冷静にすぎる上、尚も扉越しに伝わる咲夜が発している殺気がスネークを不安にさせるのだ。 職業はメイドと答えてはいたが、ただのメイドがこんな殺気を放てる訳が無い。 そうしてまた、数十秒の沈黙がその場を支配する。 スネークは駅長室に身を潜めながら、コルトパイソンを握る手にじんわりと汗が滲んでいる事に気付き、慌てて自身の肌でそれを拭った。 ……逃がすべきだろうか? スネークにとって十六夜咲夜は限りなく黒に近いグレーである。 殺し合いに乗っている空気は無い……だが、それ以上に危険な"ニオイ"がするのだ。 しかし、だからといってここで即座に殺すという選択肢はスネークには無い。 相手がこちらに牙を向いたならば相応の対処はするつもりだが、 今現在、スネークに対して十六夜咲夜が何も手出しをしていない以上殺すという事は出来ない。 十六夜咲夜は限りなく黒に近くはあるが、あくまでもまだグレーの範疇なのだ。 「……他に用が無いのなら、もう行ってもいいかしら?」 スネークが迷っている間に痺れを切らした咲夜は、淡々とした口調でそう告げる。 ……仕方が無い。 危険であろう人物を野放しにする事になるが、これ以上引き止める事も出来ないだろう。 小さく深呼吸をして心を落ち着かせ、了承の意を伝えようとしたところで――。 「うはwwwwwメイドさんだお!!」 ……明らかにこの場に相応しくない、あまりにも能天気な声が駅構内に響き渡った。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ やる夫とドアラは、僧侶のネガキャンを聞いた後もただひたすらに西を目指し続けた。 西を目指す事に特に意味は無い、気分の問題である。 やる夫はまだ見ぬ初音ミクとの甘美なひと時を想像しては期待に胸を膨らませ、 ついでに股間のソレも膨らませて我が道を突き進み。 ドアラはそんなやる夫に従順についていく。 そうして歩くこと数時間……二人はいつしか、B-4の駅前までやってきていた。 「そんなに歩いたのかお、道理で足がパンパンなハズだお」 足の脹脛をしきりに揉みながら、やる夫は駅を見上げてそう呟く。 後ろを振り返ると、ドアラもまたやる夫と同じように駅を見上げていた。 さて……どうしたもんかお、とやる夫は顎に手を当てて考える。 あの僧侶のネガキャンを聞いてからというもの、やる夫達は誰とも遭遇しなかった。 ある意味では幸運なのだが、可愛い女の子と出会ってクリムゾンな展開をしたいやる夫としては大いに不満である。 「……仕方ねーお、とりあえず入ってみるお。 行くお、ドアラ」 流石にここまでずっと歩き通しだったのでいい加減疲れているのだ。 女の子がいれば儲けもの――いなかったとしても、今後は列車に乗って移動をしたいのでやはり駅に入るべきだ。 後ろに佇んでいたドアラに声をかけ、改札を通り中に入るやる夫。 誰かいないだろうか……と、暗闇の駅構内をざっと見回し――見つけた。 ホームへと向かう階段側、駅長室と書かれた部屋から5メートルほど離れた地点に一人の少女(?)が立っている。 その姿を見つけた瞬間、思わずやる夫は叫んでいた。 「うはwwwwwメイドさんだお!!」 やる夫の大声が構内に響き渡り、瞬間、その少女(?)は右手に持っていたナイフをやる夫へ向ける。 慌て、やる夫はドアラの後ろへと反射的に隠れようとするが、不意に思いとどまり――考える。 そうだ……きっとあの少女(?)はこの殺し合いに連れてこられて錯乱しているに違いない。 でなければこんなナイスガイなやる夫に武器を向ける訳が無い。 ならば、ここはドアラの後ろに隠れておどおどするよりも、むしろ堂々とした振る舞いを見せなければならないだろう。 両手を広げ、こちらに戦う意思が無い事を示し、そして優しく説得をすれば……。 ~やる夫の素晴らしきバトルロワイアル計画 ナイフを持った少女(?)編~ 「ち、近づかないで!! 近づいたら問答無用で刺すわよ!?」 ↓ 無言で近づくナイスガイ・やる夫 ↓ 「近づかないでって言ってるでしょ! えいっ!」 ↓ スパーンッ!(ナイフを弾く音) ↓ 「えっ!? あっ……」 ↓ 呆然としていた少女(?)を優しく抱きしめるやる夫 ↓ 「一人で怖かったんだお? でも、もう大丈夫だお……これからはやる夫がいるお」 ↓ 「やる夫さん……。 ありがとう、お願い! 抱いて!」 以下、スーパーギシアンタイム。 「完璧すぎるお……やる夫はもしかしたら天才なのかもしれんお。 自分で自分の頭脳が恐ろしくなってきたお……」 思い切り自分の都合のいいような妄想をしつつ、やる夫はそう呟く。 尚、その妄想の全ては声になって出ており。 自分のすぐ後ろにいるドアラどころかナイフを構えている少女(?)にも……。 そして駅長室の中に潜んでいる男にまでも聴こえていたのだが、やる夫はそんな事にはまるで気付いていない。 「フッ、さぁお嬢さん、やる夫が来たからにはもう安心だお……その武器を捨てるお」 そう言い、持っていたデイパックを地面に投げ捨てて咲夜に近づいていくやる夫。 自分ではかなりイケメェ~ンwな顔を作っているつもりだが、少女(?)から見ればただの潰れた饅頭にしか見えない。 「……近づかないで、割と本気で」 不快感を露にした表情で、少女(?)――十六夜咲夜がそう呟く。 しかし、その言葉はやる夫の妄想していた素晴らしきバトルロワイアル計画と殆ど同じものだった為か、 やる夫は止まるどころか更に進み続ける。 イケメェ~ンwな顔で。 いっそ本気で刺してやろうか……と咲夜は思ったが、瞬時にその考えを否定する。 やる夫が不快な男であるのは確かだが、感情に流されるまま殺してはならない。 まだこの場には全裸の傭兵――ソリッド・スネークが駅長室の中にいる。 それにやる夫の背後には直立不動で佇んでいる得体の知れない有袋類――ドアラもいるのだ。 ここでやる夫を刺し殺す事は簡単だが、その後の対応が難しくなる。 苦い顔をしながら、咲夜はやる夫の顔を見た。 涎は垂れ、目はにやつき、頬を紅潮させ、手はわきわきと何かを握るような動作をしている。 やる夫は咲夜に近づくにつれて、そのイケメェ~ンwな顔を徐々にだらしねぇものへと変えていた。 ナイフで脅したところで、どうせ止まらないだろう。 ならばどうする? 金的の一発でも食らわしてやろうか? いや、それも駄目だ。 こんな男の急所など触れたくもない。 ビンタの一つでもしてやろうか? ……逆に喜びそうだ。 どうすればいい……と考え、咲夜はふと思い出す。 確か支給品の中にこの状況を安全に打開出来る代物があった事に。 近づいてくるやる夫から視線を逸らし、咲夜は早速をそれを使う事にした。 咲夜が肩に下げていたデイパックのジッパーを下げようとしたところで――。 駅長室の扉が、音を立てて開いた。 やる夫とドアラはそこに誰かがいるとは知らなかった為か驚き、そちらの方へと目を向ける。 咲夜もまた手を止め、扉の方向へと振り向いた。 「そこまでにしておくんだな」 駅長室の中に潜んでいた男――ソリッド・スネークは、開いた扉の前に仁王立ちし、渋い声でやる夫に向けてそう言い放つ。 恐らくはこのままでは咲夜が(性的な意味で)危険だと感じたのだろう。 彼は咲夜に対して警戒をしてはいるものの、だからといって敵視している訳でもない。 故に、彼女の危機に対し、駅長室の中から出てきて横槍を入れたのだ。 全裸で。 「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!! 変態だお!!!!!!!」 スネークの姿を見たやる夫は、一瞬にしてその場を飛び退き大きく後ずさる。 そして、驚いた様子の……しかし、それでもまだ直立不動の姿勢を崩さないドアラの後ろに隠れると小さく頭だけを出してスネークの動きを伺った。 一方のスネークは威風堂々とした態度で、ドアラの後ろに隠れたやる夫を睨みつけている。 全裸で。 「変態とはご挨拶だな……」 「だってそうじゃないかお! 全裸でマッパなお前はどこからどう見ても変態だお!!」 やる夫がそう思うのも無理は無い。 何せやる夫はスネークが何故全裸なのかも知らなければ、スネークの人となりも知らないのだ。 少女(?)を優しく抱きしめてウフンアハンをしようとしたら、突然茶々入れてきた全裸のオッサン。 それが、やる夫のスネークに対する認識である。 やる夫を睨みつけているスネークと、ドアラの後ろに隠れながらスネークの様子を伺うやる夫。 それらを交互に見ながら、咲夜は小さく溜息を吐く。 やる夫の注意は咲夜からスネークへと完全に移行した為一応の危機は去ったが、またも事態は面倒な方向に転がりそうになっている。 この混乱に乗じていっその事逃げようかとも思ったが、外に出るにはやる夫の近くを通らなければならない。 今はスネークに対して集中しているやる夫だが、自分が動けばまた何か反応を示すだろう。 抱きつかれでもしたら本当に殺してしまいかねない……だからこそ、動けない。 「……仕方が無い、か」 現状を打破する為には自身がどうにかしてやる夫を説得しなければならない。 スネークの事、自身の事を話して喚くやる夫を黙らさなければならない。 本音を言えば右手に持ったナイフで永遠に黙らせてやりたいところなのだが……咲夜は冷静になるように努め、その口を開いた。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ それから数分後、やる夫は咲夜の説明を受けてどうにか大人しくなった。 「まったく、それならそうと早く言って欲しかったおwwww あんな真っ裸のオッサン見たら誰だって変態だって思うおwwww ねぇ、咲夜ちゃん?」 「…………」 すっかり元通りになってしまったやる夫が咲夜に対してそう呼びかける。 声をかけられた咲夜は額に手を当てて目を瞑り、やる夫に対する殺意と湧き上がってくる頭痛を必死に抑えつけて無視を決め込む。 あの説明の後、やる夫とドアラ、スネークと咲夜はそれぞれの持つ情報を交換した。 といってもスネークと咲夜が遭遇した人物の中に女性がいなかった為、やる夫は二人の言葉を半ば聞き流していたのだが……。 「しかし初音ミクか……そいつが極悪非道な悪女だと、誰かが言い触らしていたんだな?」 「そうだお。 誰かはわからないけど、やる夫はその声をつい二時間くらい前に聞いたんだお」 駅長室の扉の向こうで、ごそごそと音を立て何かをしているスネークの言葉にやる夫は返答する。 やる夫が咲夜とスネークに齎した唯一まともな情報――それが初音ミクに対して僧侶が行ったネガキャンであった。 スネークは駅長室にずっと篭りっぱなしであったが為にそれを聞けなかったのである。 もっとも、咲夜は駅の外で待機している間にそのネガキャンを聞いていたのだが……。 館から逃げてきた上、襲われた者達から離れたいと言った以上、"二時間"前にそのネガキャンを駅の近くで聞いたというのは矛盾が生じてしまう為にスネークにその事を話してはいなかった。 「……どちらにしろ、あまり信用し過ぎない方がいいな。 その男が何の目的があってそんな事を言っているのか疑わしい」 スネークのその言葉に、咲夜は心の中で同意する。 或いは初音ミクが本当に悪魔のような殺人鬼なのかもしれないが……。 しかし、その確証は無い。 その男が本心から、初音ミクは危険人物なのだと――犠牲者を出したくないと思って言っている可能性もあれば、 初音ミクに対して何らかの恨みがあり、そう言いふらしている可能性もあるのだ。 その男が言っていた言葉を鵜呑みにするのは軽率すぎる。 「警戒をするに越した事は無いがな……」 そう呟くと、スネークは駅長室の扉を開き中から出てきた。 駅長室の対面にあるベンチに腰掛けていたやる夫と咲夜、そしてその近くで尚も直立不動で立っているドアラが一斉にそちらを向く。 スネークは、服を着ていた。 先ほど駅長室の中で何やらごそごそと音を立てていたのも、服を着ていたからである。 その服は事情を説明した後、やる夫がドアラの支給品の中に服が入っていたのを思い出し、 それが入った紙袋をスネークに差し出したもの。 やる夫としては男なんぞの裸なんかいつまでも見ていたいものではなかったし、 服の一枚や二枚手元にあったところで何の役にも立たないと思ってそれをスネークに渡したのだが……。 瞬時に、やる夫は自身の考えが甘すぎた事を認識する。 ラバー地のパンツに、上半身を拘束する鈍く光った銀のチェーン。 幾重にも重なっているリストバンドに、見る者全てを威圧する刺々しい首輪。 「……変態度がパワーアップしちまったお」 その衣服の名はTDNスーツ――新日暮里の戦士が愛用する戦闘服である。 「これを渡したお前がそれを言うのか?」 「すまんお……まさかそんな変態チックな衣装とは思わんかったんだお」 駅長室の扉の前に置かれてあったヌイグルミを持ち上げ、小脇に抱えて近づいてくるスネーク。 流石のやる夫もスネークの今の姿に同情したのだろうか、素直に頭を下げて謝罪する。 実際、やる夫はこんな事態を想定してはいなかった。 ドアラの支給品を見ていた時、単に"TDNスーツ"と書かれた説明書が付属された紙袋を見つけ、『ああ、これはスーツなんだお』と解釈し、 それをあくまで善意でスネークに渡したのだ。 中身を確認しなかったやる夫にも非はあるのかもしれないが、決して悪気があってやった訳ではない。 「……まあ、いい。 全裸でいるよりはまだマシだ。 それで? お前達はこれからどうするつもりだ」 「そんなの決まってるお! 咲夜ちゃんについてくんだお!! ねぇ、咲夜ちゃ~ん」 「…………」 うしししし、と下品な笑い声を漏らしながら咲夜の顔を覗き込みながら言うやる夫。 咄嗟に視線を背けて、咲夜は更に酷くなる頭痛を押し殺し考える。 まずい……このままでは非常にまずい。 スネークが着替えをしている最中、このやる夫はやたらめったら咲夜に話しかけてきていた。 やれこれから何処へ行くのか?だとか、彼氏はいないのか?だとか、何歳なのか?だとか、 やる夫みたいな男はタイプか?だとか、スリーサイズはいくつか?だとか、処女か?だとか。 最初の質問はともかく、後のもの全ては咲夜の精神を大きく疲労させた。 特に、歳とスリーサイズを聞かれた瞬間は尚も右手に握っているナイフで滅多刺しにしてやろうかとさえ思った。 しかし、その殺意を咲夜は懸命に押し留め、やる夫を徹底的に無視した。 口を開けば、一緒に手まで出てしまいそうだったからである。 それがいけなかったのか、やる夫は咲夜が無視する事をいい事に全てを自分の都合のいいように話を持っていったのである。 つまり、これから先、やる夫とドアラは十六夜咲夜についていく――と。 勝手にやる夫は自分の中でそう決め、咲夜にその事について問いかけ、 返答が無かった事を受けて、その無言が肯定を表しているのだとそう都合よく解釈したのだ。 やる夫にとって、咲夜はこの場所ではじめて出会った女性であり、ちょっぴりMな自分の好みにピッタリの女性である。 少々胸のボリュームが欠けており、年齢も結構いってそうではあるが……。 それでも、やる夫にとってはストライクゾーン――絶好球である。 このチャンスを逃す訳にはいかず、だからこそ離れたくないと思っている。 しかし、咲夜にとってこれ程迷惑な事はない。 まず、やる夫がいる事によって自身のストレスは既に限界近くまで溜まっている。 このまま共に行動してはそう遠くない未来、胃に穴が空くことになるだろう。 それに加え、自分は一人で行動をしたいのだ。 やる夫などを連れていては確実に邪魔者になるだけ――自身に何らメリットは無い。 「そうか……なら、俺も同行させてもらおうか」 「ッ……!!」 「オッサンも来るのかお!? 勘弁してくれお、咲夜ちゃんとやる夫のラブラブ電車旅を邪魔するつもりかお!?」 やる夫の戯言は無視しておき、咲夜は更に自分にとって不利になった事態に如何に対処すべきか考える。 やる夫とドアラだけならば、まだ何とかなった――。 列車に乗り込んだ後、隙をついて殺す事は……同行するのが二人だけならば、まだ可能だった。 しかし、スネークも同行するとなると話は違ってくる。 スネークは、現在の姿こそただの変態だが、中身は屈強な傭兵である。 咲夜が本気で戦ったところで勝てるかどうか……少なくとも、無傷という訳にはいかないだろう。 そんな相手が自分と共に行動しては、やる夫とドアラを殺す事さえ難しくなる。 それだけは、何としても避けたいが――だからといって、どうする事も出来ない。 嫌だと言ったところでやる夫は問答無用でついてくるだろうし、それならスネークもまたついてくるだろう。 「服を着たとはいえ、まだ変質者呼ばわりされるかもしれんからな……。 誰かが共にいてくれれば、怪しまれる可能性も低くなる」 「そりゃそうだお……。 わかったお、じゃあ勝手についてくるがいいお」 横で勝手に話を進めていくやる夫。 その言葉を適当に聞き流しながら、十六夜咲夜は懸命に考える。 やる夫を始末し、スネークからは攻撃を受けず、無傷で安全に、一人だけでA-6に渡る方法を。 ……はっきり言ってかなりの無理難題である。 だが、それでもどうにかするしか十六夜咲夜には道が無いのだ。 「やるしか……無いわ」 スネークにも、やる夫にも、ドアラにも聴こえぬ小さな声でそう呟く。 列車が来るまで、もう10分も無い。 十六夜咲夜と、彼女がいつも支配しているはずの時間との戦いが――今、人知れず幕を開けた。 それから五分後――。 「そろそろホームに上がるとするか。 あと五分で列車がやってくる」 「おっ、もうそんな時間かお?」 構内に設置されていた掛け時計を見て言うスネーク。 やる夫はデイパックに入れておいたダイヤ表と掛け時計を交互に見て、列車の到着時刻を確認する。 ダイヤのズレに関しては、スネークがこの場にいる皆に予め話しておいた。 やる夫が持っているダイヤ表も、スネークの言うズレを正確に書き記して訂正したものである。 「本当だお、それじゃあそろそろ行くかお」 「行くぞ、イザヨイ・サクヤ……」 「……ごめんなさい、先に行っててちょうだい」 デイパックを持って立ち上がり、階段の方へと進むやる夫とその後ろをついていくドアラ。 二人を見やりながら呟くスネークに、咲夜もまた立ち上がり――しかし、階段へは向かわず別方向へと進む。 その方向にあったものは……男女兼用の、小汚いお手洗い。 「……了解した。 それで? お前はC-3に行くつもりなんだったな?」 「ええ、そうよ」 スネークの問いかけに返答しながら、咲夜はデイパックを持ちながらお手洗いに入った。 その姿を確認した後、スネークもようやくホームへと上がっていく。 先にホームに上がっていたやる夫とドアラに、咲夜はお手洗いに行ったと説明する。 やる夫が「フヒヒwww咲夜ちゃんのお小水だおwwwww音だけでも聞いてくるおwwww」と、 とてつもなく変態チックな事を言い階段を下りようとしたがスネークが強引に引き止めた。 それからまた数分。 咲夜が来るのを待っていたスネーク達のいるホームへ、C-3行きとA-6行きの列車がほぼ同時にやってきた。 一瞬、誰かが列車から降りては来ないかとスネークは手に握ったコルトパイソンを構えて開いたドアの方向へと向けつつ探る。 数十秒待ったところで、ようやく誰も降りて来ない事を確認したスネークは――しかし。 それでも警戒を止めず、厳しい目線を周囲に向け、やる夫達に呟く。 「まだ誰かが乗っているかもしれん、少し中を探ってくる」 「ちょwwオッサンビビりすぎだおwww そんなにオロオロしてみっともないったらねぇおwwwww」 どうやらやる夫の目には、周囲に気を配るスネークはただオロオロしているだけにしか見えなかったらしい。 しかし、スネークはそんな事を気にする素振りは見せず、更に続ける。 「警戒をするに越した事は無い。 お前達はここにいろ」 それだけを言い残すと、スネークは小脇に抱えていた犬のヌイグルミを列車のすぐ外に置き、 C-3行きの列車の中へと滑り込むようにして進入して座席に誰かが座っていないか逐一確認を行いながら車両を移動していった。 顎を擦りながら、やる夫はその後姿を見――不意に思いつく。 「そうだおドアラ、お前はこっちの列車の中見て来いお! ちゃんと丁寧に、しっかりとだお!」 やる夫のその言葉に、素直に頷きA-6行きの列車へと近づくドアラ。 ドアラは純粋に――やる夫も何だかんだ言ってスネークと同じく、車内に誰かがいないか警戒しているのだな、と納得して列車へと乗り込んだ。 やはりやる夫は凄い、彼についていけば大丈夫だ……そう思いながら、ドアラは車内を調べていく。 その様子を見ながら、やる夫は嫌らしい笑みを浮かべた。 やる夫は、別に警戒をしているが為にドアラを列車の中の捜索に当てた訳ではない。 単に、そろそろお手洗いから帰ってくるはずの咲夜と二人きりになる為にドアラをどこか別の場所に追いやっただけなのだ。 二人きりでいられる時間はほんの数分程度だろうが、それでも構わない。 思えば咲夜と出会ってから既に数十分経過しているが、常にやる夫の近くにはドアラがいて二人きりになるチャンスは無かった。 「これはチャンスだお……」 二人っきりになり、甘い言葉の一つや二つ囁けば咲夜は股を簡単に開いてくれるだろう……やる夫はそう考える。 つい先ほど聞いた事だが、咲夜が向かう先というのはC-3のホテルだというのだ。 若い(?)男女がホテルに行く……なら、そこでやる事は一つしか無いだろう。 「フヒヒwww咲夜ちゃんも積極的だおwwwww」 やる夫の頭の中からは、既にスネークとドアラの存在は抜けていた。 脳裏を過ぎるのは先ほどまでベンチに座っていた時に見た、咲夜の凛とした横顔とミニスカートから覗く美しい足。 そのミニスカートの中身も、そのまた中身も露になった姿の咲夜を妄想する。 正直言って、やる夫は初音ミクを諦めた訳ではない。 というよりも、咲夜を美味しくいただいたら次は初音ミクを探そうと思っているくらいだ。 しかし、まだ見ぬ初音ミクという名の魔性の女よりも、目の前のちょっと歳がいってるかもしれないが十分お綺麗なメイドさんだ。 まずは目の前に出されたそのメイドさんを食べる……初音ミクは、その後からでも遅くない。 そう考えながらやる夫は溢れ出そうになる涎を腕で拭き取り――不意に、首筋に鋭い痛みを感じた。 「なんだ……ぉ?」 自身の身体の異変を感じたのはその直後。 視界がぼやけ、目蓋が重くなり、目が霞む……急激に睡魔がやる夫へと襲い掛かる。 ……何故今になって急に睡魔が? まどろんでいく頭の片隅で、どうせ眠るなら可愛い女の子と同じ布団で眠りたいと思いながら。 ――やる夫は、意識を失った。 |sm61:[[従兄のカードでございます]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|sm63:[[朝霧の幻影殺人鬼(後編)]]| |sm62:[[First Stage]]|[[投下順>51~100]]|sm63:[[朝霧の幻影殺人鬼(後編)]]| |sm31:[[愛犬ロボが支給品にやってきた]]|ソリッド・スネーク|sm63:[[朝霧の幻影殺人鬼(後編)]]| |sm37:[[フラグイズ初音]]|やる夫|sm63:[[朝霧の幻影殺人鬼(後編)]]| |sm37:[[フラグイズ初音]]|ドアラ|sm63:[[朝霧の幻影殺人鬼(後編)]]| |sm36:[[それでは朔夜をはじめよう]]|十六夜咲夜|sm63:[[朝霧の幻影殺人鬼(後編)]]| ----