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ああ、だる・・・・・・。
まさかこの年になって自室にこもって歴史を勉強することになるなんて想定外っすよ。
文献に目を通すこと早3時間。文字が小さすぎて目が痛いです。目がぁ! 目がぁ~!

さてさて、たった今この無駄に分厚い『小世界史第9巻:イルメーシュアの森』を読み終えた僕は
10巻を探してこれまた無駄にでかい本棚の前に居るのですが、次の10巻だけがどうしても見当たりません。

「まあ・・・・・・いいか」

そう呟いて11巻を手にして机に戻る僕。
昔からわからないことは放置して後で痛い目を見るタイプの人種なんです。サーセン。
無駄にふかふかの椅子に腰をかけると、ノックと同時にこれまた無駄に豪華で仰々しい金の装飾が施された扉がゆっくりと開けられ、
エイミーが香ばしい香りがする紅茶とこれまたこれまた無駄にシャレオツなケーキ(名前知らん)を持ってきてくれたんです。
ああもう、どうして金持ちの家ってのはこんなに無駄が多いんですかね!

ところでこのエイミーと言うお方、何を隠そう僕の専属メイドなんです。
きょぬーで万能で(大人向け映像作品の)女優みたいな赤いメガネをかけた褐色美人。
諸君らは思うだろう・・・・・・「貴様なんて羨ましい生活してるんだ、もげろ!」と。
しかしですね、このエイミーこそが僕の人生をダークサイドにダンクした張本人でありまして・・・・・・。
僕の状況を一行で説明するならば「深夜にパソコンの画面から出てきたメイドにタックルされて異世界の危機を救う羽目になった」でしょうか。
詳しく語りだすと記憶がフラッシュバックして僕の胃袋がパーンするので止めておきます。

「エイミーか、わざわざありがとう」

メイド服の下から激しく自己主張してくる双丘をいつもの様にティラ見しつつ至って紳士的な受け答えをする僕。
するとエイミーは細くて綺麗な人差し指を唇に当てて蠱惑的な笑みを浮かべると言いますた。

「うふふ、どういたしまして。どうですか? 小世界のご勉強の方は」

君たちは僕が異世界に飛ばされて魔王になったと言ったら笑うだろうか?
僕なら笑うね、知り合いがいきなり「俺は魔王なんだぜ(ドヤ」
なんて言った日には指差して散々笑い転げた挙句、ありったけの憐憫の表情を浮かべて精神科を紹介するでしょう。
まさか自分がマジモンの魔王になっちゃうなんてもう・・・・・・ね。ああ、胃が痛くなってきた鬱だ。
本当に、本当に色々あって魔王になったせいで異世界の勉強をすることになったんですよ。まあその辺の詳しい経緯とかどうでもいいっす。胃が痛いし。

「まさかこの年で歴史を勉強しなおすなんて散々だよ。高校時代も世界史未履修問題で期末に世界史ばっかやってたのを思い出すね・・・・・・」

「これも王として立派な務めですわ。・・・・・・あら? 10巻がありませんね?」

久々にボケたら流されますた。笑えよ。

「ああ、そうみたいなんだ。どこにあるか知ってる?」

そんな胸中は表に出さず気丈に振舞う健気な僕。
するとエイミーは何かを思い出したように手を叩くと、何故か少しだけ声のトーンを落として遠くを見つめながらゆっくり口を開きました。

「ああ、私としたことがうっかり忘れていましたわ。10巻に記されている小世界は、もうずいぶん前に滅んでしまったのです。なので、今はリオン様の図書館の大書庫で保管してありますわ」

「そうなのか。まあいつか機会があったら見せてもらおうかな」

声のトーンが落ちた理由は知りませんがとりあえず地雷を踏み抜かないように当たり障りの無い返しをしましたよ。
しかも『いつか機会があったら』とぼかすことで最終的には10巻をスルーすると言う離れ業。完璧・・・・・・正に完璧な作戦。

「ええ、リオン様に連絡しておきますわ」

おぅふ・・・・・・。このお方はどうあっても僕に10巻を読ませるおつもりらしいです。
僕が内心非常に落胆しておりますとエイミーは声の調子を落としたまま続けます。

「ああ、嫌なことを思い出してしまいますね。その小世界が滅んだ時は、本当に大変でしたわ。それが滅んでしまった小世界・・・・・・『カイゼルクラウン』の王と、住人達ですわ」

これはなかなかになかなか強かな出来事みたいですな。妙に気になるのでもう少し詳しく尋ねてみることにしましょう。

「滅んだ?」

「ええ。『黒い妖精郷』の小世界はご存知ですか?」

うーむ・・・・・・。聞いたことも無いですな。ここは素直に知らないと言うのが正解でしょう。

「いや、わからないな・・・・・・」

「魔剣、魔器、魔具・・・・・・呼び方は色々ありますが、そういった特殊な器物を作ることができる鍛冶職人が住まう小世界なのですが、彼らとは別に、独自の方法で魔器を作ろうとした者達が居ました。それがカイゼルクラウンに住む者達なのです」

「独自の方法で?」

「ええ。黒い妖精郷の鍛冶技術は秘術ですので、カイゼルクラウンの王は・・・・・・魔王を召喚して、その知恵を授かろうとしたのです」

「魔王を召喚だって?」

思わず声を上げて驚いてしまいました。その魔王と言うのは僕のような残念な奴ではなく恐らく--
そこまで思考したところでエイミーは僕の思考を察したように言いました。

「ええ。おそらくアニー様やリオン様を召喚しようと試みたようですが術式に不備があったようで、全く違うモノを召喚してしまったのです。先日戦った、リウフンシャンと同じ 『冥魔王』 を誤って召喚したのですわ」

「め、冥魔王だって!?」

先ほどより更に頓狂な声を上げて驚いてしまいました。冥魔王・・・・・・出来れば思い出したくないんですけどね。
先日その冥魔王の1人であるリウフンシャンとか言う奴のせいで僕の精神がなくなりかけると言う某金髪チョコボ頭もびっくりな出来事がありまして・・・・・・。あ、僕は元気です。

「カイゼルクラウンはその日のうちに住人全てが殺されて、ラビリンスシティにまで冥魔王の侵攻の手が伸びようとしていました。結局、一人のウィザードが自分自身を楔として、滅んだカイゼルクラウンの街に冥魔王を封印したのですがその後、カイゼルクラウンの小世界自体が空間の狭間から消え失せてしまったのです」

「じゃあ、その冥魔王は今どうなったんだ?」

僕の問いにエイミーは口元を一瞬強張らせたものの、すぐにいつもの穏やかな表情に戻って答えます。

「分かりませんね・・・・・・小世界と共に異空間の彼方へ飛ばされて消滅した、と言うのが主流な説ですが、当時のことを知る噂好きな方たちは、どこかで復活する機会を伺っているのだと囁いていますわ」

「あんなモンが復活したらたまったモンじゃないな・・・・・・。自分を犠牲にしてまで封印した奴が復活するなんてそのウィザードも浮かばれない」

そこで言葉を切り、紅茶のカップを口元に運ぶといつの間にか空になっていました。
エイミーはすかさずカップに紅茶をつぎ足すと口を開きます。

「そうですわね・・・・・・でも随分昔のことですし、その冥魔王自体忘れさられてしまったものですから手の出しようがないですし、その必要が無いのも事実ですわ」

僕の嫌な予感ってのは大体当るんですよね、これまでの経験則的に。
エイミーの話に妙な胸騒ぎを覚えているとエイミーはいつもの明るい声で

「つい昔を思い出して、長話をしてしまいましたわね。それでは失礼しますわ」

と言い、ぱたぱたと部屋を出て行きました。同時に張り詰めていた妙な緊張感を伴った空気が緩むのを感じます(性的な意味でない)。
うーん・・・・・・何も起きなきゃ良いんですがねぇ。

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最終更新:2013年02月03日 01:57