Mystery Circle 作品置き場

真紅

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nightstalker

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Last update 2008年03月16日

black or white?  著者:真紅



「あの人が言ったことは信じても、わたしが言ったことは信じないのね?」

当然だろう。
その質問は、「黒と白、どっちが黒い?」と同じレベルの質問だ。
いや、でも色なんて視覚的に捉えているだけであって本当は正反対なのかも知れない。
元素レベルで見れば黒よりも白の方が「黒っぽい」、なんて事も有り得ない話でもないか。
個人個人での認識でいっても、「白」を「黒」と語る変わり者も居るだろうし。
しかし、それはこの多数優先社会では無意味か。
所詮そのような少数派は、端へ端へと追いやられるのが世の仕組み。
だとすれば、「黒」は「黒」でしかないか・・・。
俺はそんな事をブツブツと考える。
「・・・ねぇ、聞いてるの?」
目の前でプカプカと浮きながら、彼女は退屈そうに黒く尖った尾をくねらせる。
その横で白い羽をゆっくりと羽ばたかせて、彼がクスリと笑う。
「聞いていませんね、この人。」
彼女はイラついているのか、「ふん」とそっぽを向いてしまった。
「まぁ信じるも信じないも。この人間の勝手ですからね。」
彼はそれを言うと、さらにクスクスと笑う。
そんな事言われてもな。
信じろ、というのが無理がある。
「私が」
「僕が」
「天使よ」
「悪魔です」
お袋・・・アンタの言ってた通り、やはり人は見かけでは判断できないもののようだ。

 ――――――――――――――――――――――――――

この二人が俺の所に来たのはほんの一時間前。
夏の暑さにうなだれていた時だ。
窓を誰かが叩いた。
俺の部屋はアパートの二階の一室。
誰かが「窓を叩く」なんて事、有り得ない。
俺はとりあえず窓を開けた。
当然だが誰も居ない。
変だな、と思い窓を閉めて振り返るともう手遅れ。
すでにこの部屋の中に、この二人がプカプカと浮かんでいた。
二人の背中には羽。
女の方には、白い柔らかな羽毛。
男の方には、黒く尖った翼があった。
その二人が広げる、物凄く激しい口論。
「アンタのせいで追い出されたんでしょ!?」
「知りませんよ!!僕はただ、ちょっと悪戯しただけです!!」
「悪戯って・・・悪戯で一年間の人間の魂の数を改竄する馬鹿がどこに居るの!?」

俺はそれが何の意味を持つか知らないが、大変な事のようだ。

「改竄っていっても、ただ2000人分をごまかしただけじゃないですか!!」
「あ!開き直った!」
「えぇ、開き直りましたよ!」
「少しは反省しなさいよ!!アンタとコンビ組んだのが間違いだったわ!!」
「僕だって、貴女とのコンビはもう御免ですよ!!」
「アンタが神様に謝らないと、私まで戻れないじゃない!!」
「知りませんよ!僕の事を殴った神様なんて知りません!!!」

どうやら、悪魔が天使とコンビを組んでいて、しなきゃいけない仕事をごまかして神様に怒られた・・・ようだ。
これが本とかで見る世に言う「追放」、か。
俺はフム、と興味深く二人を眺める。
二人は顔が付きそうなぐらい近寄って、未だ唾が掛かりそうなぐらいに怒鳴り合っていた。
とりあえず五月蝿いので、止める事にしようか。
俺は二人の間に割り込む。
「落ち着け・・・話は読めんが、話せば分かる。」
自分の言っている事の矛盾に首を傾げるが、今は関係ない。
止めなければ、先程から二人の口論で家具が揺れている。
このまま放っておけば、この部屋がただでは済まないのは明らかであった。
俺は必死でなだめる。
「お互いの言い分が良く分かりはしないが、とりあえず落ち着いてくれ。」
「・・・。」
「・・・。」
「二人とも俺を睨むな・・・。」

 ――――――――――――――――――――――――――

「ふう・・・。」
どうにか喧嘩は収まったが、その代わりに酷いとばっちりを受けた。
「何でこんな目に俺が合わないとダメなんだ・・・。」
喧嘩を止めた時にできた顔の擦り傷を、俺は触って確かめながら呟く。
二人は未だそっぽを向き合っている。
天使と悪魔の間に入る、人間の身にもなって欲しい。
このまま無言で居るのも良いが、堪えれなかった。
「なぁ・・・?」
天使と悪魔が、同じような顔でこちらを見る。
「何?」
少しその光景に畏怖したが、続けるとする。
ずっとさっきから気になっていた事だ。
「・・・その神様、とやらに許してもらう方法は?」
二人は押し黙る。
そして顔を見合わせ、俺を見る。
「そうよね・・・人間の魂についてのミスだもん。」
「ですね、ならば答えは一つ。」
次の瞬間、天使は鎌を振るい、悪魔は剣を突き立てた。
俺の頭に。
そして二人は合わせるかのようにこう言ったのだけは聞こえた。
聞こえたのは冷たく鋭い「ザクッ」という音と共に。

「おまえの死。」




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