第七霊災回顧録

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第七霊災回顧録 - (2014/08/25 (月) 00:39:33) の編集履歴(バックアップ)


第七霊災回顧録


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第七霊災回顧録① 「栄光のヴィクトリー号」

「黒渦団全軍に通達。現時点をもって、すべての命令を無効とする。
全隊、各個の判断で撤退せよ!」

苦渋の決断であった。
海の都「リムサ・ロミンサ」のグランドカンパニー「黒渦団」を率いる女提督、メルウィブ・ブルーフィスウィンは、カルテノー平原からの撤退を決意し
た。
月の衛星「ダラガブ」の落下を阻止すべく、エオルゼア十二神を呼び降ろす。その作戦は、砕け散った衛星から現れた「黒き蛮神」の前に、あえなく瓦解し
た。賢人ルイゾワは、未だ神降ろしの秘術を続けているようだが、すでに戦線は崩壊している。

「いいか、しんがりには本隊を付けろ。
冒険者たち特殊陸戦隊を、優先して逃がせ!」

大義のため参陣した者たちのことを思い、そう命じたメルウィブは、すぐさま自らの愛チョコボ「ヴィクトリー号」にまたがった。

「エインザル! 私は本隊と共に撤退を指揮する!
貴様は退路を確保しつつ、脱出した部隊の受け入れ体制を整えろ!」

こんな時、並の部下なら、危険な任務に向かおうとする提督を止めるのだろう。だが、相手が冷静だと見極めれば、敬礼だけを捧げ黙って送り出すのが、エ
インザル・スラフィルシンという男だった。だからこそ、メルウィブは彼を腹心に据えたのである。


大型のデストリア種の中でも、特に体格に優れたチョコボである「ヴィクトリー号」が、逞しい脚で戦場を駆けてゆく。つぶらな黒い瞳の奥に恐怖を宿らせ
ながらも、それを押し殺して主に仕える、良いチョコボだ。
しかし、勝利を願って付けられたその名を体現するには至らなかった。今、エオルゼア同盟軍は敗走しようとしているのだ。
メルウィブは、混乱した味方部隊を見つけては、退路を示していく。
その最中、退いていく部隊に逆行し、帝国軍部隊に猛然と襲いかかる部隊を発見した。海賊勢力を糾合して編成された打撃陸戦隊の者たちだ。

「何をしている、退け! すでに勝敗は決した!」

叫ぶメルウィブに食ってかかったのは、三大海賊団の一角「紅血聖女団」の頭目、ローズウェンだった。霊銀色の美しい短銃を振りかざして女海賊が吠え
る。

「ナマいってんじゃないよ! あたしらの仲間が何人死んだと思ってんだ!
帝国の犬どもをブチ殺してやる!」

仲間を失い激高したローズウェンは、完全に血と復讐に酔っていた。
その彼女を理屈で動かせるものではない。押し問答を続けているうちに、帝国軍の後続部隊が接近してきていた。

「クソッ!」

腰に吊した愛銃「デスペナルティー」と「アナイアレイター」を抜き放ち、銃口を迫り来る敵兵に向ける。
1発、2発、ダブルバレルの拳銃から弾丸を撃ち出し、敵歩兵を仕留めていく。
3発、4発、続けざまに射撃を加えるが、いかんせん敵の数が多い。
さらに後方から、黒光りする巨体が現れた。大柄な「ヴィクトリー号」よりも、さらに大きなそれは、帝国軍が誇る騎兵戦力「魔導アーマー」だった。まる
で、牙を剥く獣のように口に似た装甲が開き、巨大な砲身がせり出す。そしてメルウィブは、魔導カノンの輝きを見た。

「ッ!!」

咄嗟に足で「ヴィクトリー号」の腹を蹴って駆け出させたことで、どうにか直撃を免れたが直ぐ側に土煙が上がる。だが、着弾時の爆音で耳をやられたらし
い。
奇妙な静けさの中、メルウィブは自分の身体が倒れつつあるのを感じていた。足に暖かさを感じる。血だ。だが、自分のものではない。
帝国兵の放った弾丸がチョコボ装甲を貫き、「ヴィクトリー号」に致命傷をあたえたのだと知ったのは、後のことである。


目覚めたメルウィブが最初に見たのは、見慣れた船室の天井だった。
黒渦団総旗艦「トライアンフ号」。その後部に設置された船長室だ。

「て、提督が目を覚ましました! 大甲将、大甲将殿ッ!」

衛生兵らしい男が駆けだしていってから、しばらくして大男が室内に入ってきた。

「少々、寝坊が過ぎやしませんかね、提督」

その男、エインザルは笑みを浮かべていたが、汚れ放題の顔には疲労の色が見て取れた。

「あれから何日経った。状況は?」

「二日……。今はメルトール海峡の洋上、お察しのとおり、トライアンフの中ですよ」

エインザルは、これまでの出来事を淡々と語った。
帝国兵の銃撃を受け、「ヴィクトリー号」が絶命したこと。そして、チョコボと共に倒れ込んだ際に頭を強打し、昏倒した彼女を海賊団「断罪党」の者たち
が担いで撤退してきたこと。
ちなみにローズウェンは最後まで徹底抗戦を貫こうとしたが、普段は対立しているはずの海賊団「百鬼夜行」の頭目、カルヴァランが、無理矢理に自分の
チョコボの上に引っ張り上げ、拐うようにして脱出させたのだという。まるでイシュガルド騎士のような、華麗な手綱さばきだったというから驚きだ。よほ
どこの件が屈辱的だったのか、ローズウェンは今でもカルヴァランを「へたれ」と罵っているらしい。
ともかく撤退した黒渦団の将兵は、ほかの同盟軍部隊と共にザナラーンまで退き、部隊を再編。ベスパーベイに停泊させていた艦隊に分乗し、「リムサ・ロ
ミンサ」に向かっているところだという。

「ウルダハの錬金術師どもは、絶対安静だとか抜かして、
提督を動かしたがりませんでしたがね。
とはいえ、アンタは傾きかけた船から、逃げ出すような船長にはなりたくないでしょう?」

メルウィブは故郷「リムサ・ロミンサ」を、しばしば船に例え「巨艦」と呼んでいた。
その船長であり、提督である彼女は、被災した故郷に一刻も早く戻るべきだと、エインザルは判断したのだろう。
むろん意識があったら、どんな怪我を負っていてもそうしたはずだと、彼女は思う。以心伝心、己の意思をくみ取り、行動してくれた男を頼もしく感じる。

「して、あの者は無事なのか?」

当然の質問を、メルウィブは口にした。当たり前のことを尋ねたつもりだった。
しかし、返ってきた言葉は、察しの良い腹心とは思えぬものだった。

「あの者? いったい、誰のことです?」

確かに撤退を決意したあの時、自分は「誰か」の無事を願い、「優先して逃がせ!」と命じたはずだ。だが、誰のことを?
当然のことが思い出せないことに、メルウィブは驚愕した。
しかし、結局のところ、頭を強く打った影響だろうとエインザルにいなされてしまっては、自分を納得させるしかなかった。

何より、その後の数日は怒濤のように過ぎていったのだ。
故郷、バイルブランド島に近づいた艦隊は、洋上を漂流する幾人もの人々を拾い上げることになった。ガラディオン湾に降り注いだダラガブの破片は、津波
を生み出していた。彼らは、それに巻き込まれた者たちだった。
また、艦隊を導くはずの「シリウス大灯台」には、不気味な橙色のクリスタルが固着し、美しくも恐ろしい姿に変貌していた。
ゴッズグリップの岬によって「モラビー造船廠」が津波から護られていたのは、不幸中の幸いといえるだろう。この港湾施設に「トライアンフ号」以下の残
存艦を集結させたメルウィブは、当地に臨時指揮所を設立すると、ただちに復興支援艦隊を編成して送り出した。


救えた命もあれば、救えなかった命もある。
寝る間もなく、救助活動の指揮をとっていたメルウィブだったが、いつまでも頭の片隅には「誰か」の存在がひっかかり続けた。それでも、がむしゃらに働
くしかなかった。

瞬く間に歳月が過ぎ去り、モラビー造船廠の臨時指揮所が解体され、「リムサ・ロミンサ」に指揮系統を移転する日が訪れた。
今後、モラビー造船廠は、本来の「船を造る」という役目に立ち戻ることになる。その第一号として、黒渦団の軍艦が建造されることが、先日決定された。
新造船の名付け親になるよう依頼されたメルウィブは、迷わず「ヴィクトリー号」と命名した。あの日、掴めなかった勝利を、今度こそ手にするために。
そして、いつか再会するであろう「誰か」と共に勝利を祝うために……。

+ 第七霊災回顧録②「女王陛下と7人のララフェル」
第七霊災回顧録② 「女王陛下と7人のララフェル」

ウルダハ王宮のテラスから不滅隊の将兵を見送ったのは、すでに数日前のことだ。
死を司る神の名を冠した「ザル大門」をくぐることで、一度「死」を経験し、戦場での死を避けるという古来からの願掛けに従い、部隊は東の主門から出陣
していった。
彼らの姿が荒野の砂塵に消えるまで、ウルダハ第十七代国王ナナモ・ウル・ナモは、決してテラスから離れようとしなかった。

それからというもの、ナナモの様子は一変した。
常に緊張した面持ちを崩さず、それでいて落ち着きがなく、政務に集中できない。あまつさえ、食事もまともに喉が通らないという有様。そんな時に頼りに
なるはずの男、ラウバーン・アルディンが不在とあっては、侍女たちには為す術がない。
ラウバーンは王家を補佐する「砂蠍衆」のひとりだが、同時にグランドカンパニー「不滅隊」の最高司令官でもある。当然、ガレマール帝国軍との決戦に際
して、主力部隊を率いて出陣していた。

『妾は、齢十六にもなろうというのに、まるで幼子のようではないか……』


そう思ってはみても、食事は喉を通ってくれない。
またしても、ほとんど手を付けぬまま食卓を後にしたナナモを見守る影があった。
ピピン・タルピン。ラウバーンが後見人を務めるララフェル族の元孤児だ。不滅隊の将校でもある彼は、カルテノーへの従軍を望んでいたが、義父の命によ
り王宮に留まっていた。女王の精神的支えとなるようにとのラウバーンの配慮であったが、ピピンが代役を務め切れていないことは、誰の目にも明らかだっ
た。
不安な日々は泥のようにゆっくりと流れてゆく。しかしそれでも、来たるべき日というものは来るものだ。

「ナナモ陛下、同盟軍本隊よりリンクシェル通信です。
カルテノーの地で、戦端が開かれました!」

王宮の議場「香煙の間」においてピピンから報告を受けたナナモは、「そうか」と一言だけ答えた。あまりに反応が薄いことにピピンは戸惑った様子だった
が、同席していたヒューラン族の青年は意に介した様子もなく、ずけずけと物を言う。

「そんな調子では困りますよ、ナナモ陛下。
あなたには、まだ務めが残されているのですから」

軽薄そうな面構えのその男、サンクレッドは「救世詩盟」なる組織の一員であり、相談役として王宮への出入りが許されている人物だった。

「小娘である妾に、何ができるというのじゃ!」

ナナモは八つ当たりと解っていながら、そう叫んだ。だが、怒気をはらんだ女王の声に対しても、サンクレッドは動じた様子もない。

「その元気があるなら大丈夫でしょう。
これより、陛下にはアルダネス聖櫃堂に向かっていただきます。
ザル神の秘石を前に、祈りを捧げていただかねばなりません。
エオルゼアを救う、十二神を降ろすためにね」

神降ろし。これこそ、ラウバーンたちが戦場に向かった目的だ。
今にも落下せんとする月の衛星「ダラガブ」を押し返し、エオルゼアを第七霊災から救うため、エオルゼア十二神を召喚する。その秘術を成すためには、多
くの「祈り」の力が必要だ。発案者でもある賢人ルイゾワから聞いた作戦概要を、ナナモは思い出していた。

「たとえあなたが小娘であったとしても、民を思う気持ちが……
守りたい大切な人がいるなら、その強い祈りは神を呼ぶ力となるのです。
ですから、陛下、よろしいですね?」

しばしの沈黙。
駄々をこねていた自分を恥じたナナモは、ただ黙って頷くと駆けだした。護衛のピピンを伴って。

「やれやれ、世話のかかる女王陛下だ」

かくしてナナモとピピンは、ひんやりとしたアルダネス聖櫃堂の床に膝をつき、祈りを捧げることとなった。女王を焚きつけたサンクレッドは、ウルダハに
あるもう一方の聖堂「ミルバネス礼拝堂」に向かったため、この場にはいない。
ナナモは一心不乱に祈りを捧げた。ウルダハの守護神、双子の神「ナルザル」に……エオルゼアの救済を、ウルダハの守護を、そしてラウバーンの生還を。
数時間にわたる祈りの時は、一瞬にして過ぎ去った。途中、轟音と共に激震が奔り、方々から悲鳴が聞こえてきても、ナナモは祈りを止めることはなかっ
た。
混沌がにわかにウルダハを包み込みつつあったその時、二人が祈りを捧げていた「ザル神の秘石」が輝きを放った。神像を支える秘石から、光の柱が立ち上
る。
この時、確かに彼女は直感した。神は降りた!
そして夢か現か、ナナモは祈りの中で賢人ルイゾワの声を聞いた。


『エオルゼアの新生を……』

いつの間にか気を失い、地に伏していたナナモは聖堂内に響く足音で目を覚ました。直ぐ側では同じく倒れていたらしいピピンが、頭を振りながら立ち上が
ろうとしている。
しばしぼんやりと、光の消えた「ザルの秘石」を見ていたナナモだったが、ひとりの男の絶叫で我に返る。

「た、大変だ! サファイアアベニューで暴動だ!
 我を失った市民たちが略奪を始めてやがる!」

ナル・ザル教団の呪術士らしい男が、血相を変えて聖堂に飛び込んできていた。どうにか本来の役目を思い出したらしいピピンが、すかさず進言する。

「危険です、ナナモ陛下。王宮まで戻りましょう!」

対するナナモの反応は早かった。

「ならぬ!」

すくと立ち上がったナナモが周囲を見回す。
呪術士たちの総本山でもある「アルダネス聖櫃堂」の内部では、司祭たちが貴重な神具や書物を暴徒から守ろうと、走り回っていた。その中に、血走った目
で部下に指示を出す小男の姿があった。聖櫃堂の総司教、大導師ムムエポだ。

「いいか、お前たち~、暴徒どもを聖堂に入れてはならんぞ~。
近づいてきたらファイアで焼き払え~!」

おぞましい指示を飛ばすムムエポを見たナナモは、怒りに満ちた表情で叫ぶ。

「民を焼くなど、それでも聖職者か!」

一喝したナナモは続ける。

「民を守るは王の務め! 恐怖に溺れた民を、妾が救い出す!
誰か、妾に力を貸す者はおらぬか!」

迫る暴徒を前に立ち上がった女王の姿を見て、ピピンが前に出る。

「ここに! 我が義父ラウバーンに代わり、このピピンをお使いください!」

だが、この言葉に続いて集まったのは、護衛役の近衛騎士パパシャンと、兄弟らしい呪術士ギルドの若者5人だけであった。ある者は怖じ気付いて腰を抜か
し、ある者は財を守らんと奔走し、女王のことなど見ていなかったのだ。
それでもナナモは進んだ。奇しくもララフェル族ばかりの7人が円陣を組み、女王ナナモを護りつつ、混沌のるつぼと化した市街地を進んでゆく。
美しいウルダハの回廊には、暴徒と化した群衆が溢れていた。商店を襲う者、逃げ惑う商人、親とはぐれた子ども……恐慌状態に陥った人々の前に立ち、ナ
ナモが声を上げる。

「パパシャン、閃光を放て!」

女王の号令一下、年老いた近衛騎士が「閃光(フラッシュ)」を放つ。

「呪術士たちよ、ありったけの魔法を放て!」

5名の若き呪術士が、ファイア、サンダー、ブリザドを空に向かって乱れ撃つ。特に顔面を包帯で覆った若者は、巨大な炎を巻き上がらせ、暴徒たちの目を
ひいた。

「ピピン、妾を持ち上げるのじゃ!」

小柄なララフェル族であるピピンが、その肩にナナモを乗せ、渾身の力で立ち上がる。その上でナナモは、声を張り上げた。

「聞け、ウルダハの民よ! 聞け、砂の民よ!
今、エオルゼアの地に、第七霊災が訪れようとしている!
だが、私たちは生きている! そして、明日をも生きてゆかねばならぬ!
倒れた者の財を奪うのではなく、助け起こして共に財を築くことを考えよ!
今、お主たちが送り出した不滅隊は……
ラウバーンたちは、カルテノーの地で戦っている!
彼らはウルダハを守るため、そなたらを守るため、命を賭しているのだ!
そんな彼らが帰ってきたとき、廃墟と化した都を見せるというのか!
今、起こっていることが第七霊災だというのなら、七度目の星暦を築くまでのこと!
恐怖に溺れるな! 絶望に呑まれるな!
妾と共に、この傷ついたウルダハを、エオルゼアを新生させるのじゃ!」

小さな女王のこの演説により、暴徒は鎮まり、やがて組織的な救助活動が始まった。

数日後、生を司る神の名を冠した「ナル大門」をくぐって帰還した不滅隊の生き残りたちは、まるで死者の群れのように疲弊していたが、それでも彼らには
帰る家が残されていた。
復興作業に明け暮れる日々がしばし続いた後、ナナモはナル・ザル教団に対して王令を発し、総司教ムムエポを罷免させた。傀儡である女王にさほどの力は
なかったが、ピピンが裏から手を回し、ムムエポの不正蓄財の証拠を集めて教団を脅したことが功を奏して、彼は収監された。
そして後任の呪術士ギルドマスターの座には、あの日、ナナモを守るために立ち上がった包帯巻きの若者と、その4人の弟たちを据えた。

ナナモは、時折思い出す。第七霊災が訪れたあの日のことを。
確かにあのとき、玉座を飾る魔法人形(マメット)と揶揄される彼女は、「王」としての務めを果たすことができた。だからこそ、「王」としての最後の務
めもまた、果たすことができるはずだ。