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蒼天秘話第1回「友と竜と」
早朝の雨で湿った干し草の山が、白い煙を吐き出しながら燃えている。
何度となく煙を吸い込み、その度にむせ返りながらも、少年は必死に走り続けた。無事でいてくれと 念じながら。 だが、その想いはあえなく打ち砕かれた。ようやく辿り着いた自宅の庭先で、両親の焼けただれた亡 骸を見つけたからだ。せめて弟だけはと願う微かな希望さえも、半壊した家に入ったところで潰えて しまった。彼は見つけたのだ、床に横たわるその姿を……。 少年は、弟の近くに駆け寄り膝を突いた。上半身には傷ひとつなく、まるで眠っているかのようにさ え見える。だが、無残にも崩落した梁により下半身が潰されていた。震える手で弟の雪のように白い 髪をなでながら、少年は滝のように涙を流し、そして呪った。 故郷「ファーンデール」を襲った邪竜「ニーズヘッグ」を……羊の放牧に出ていたがために、ただ独 り生き残ってしまった己の運命を……。
「おい、起きろ! 生きているんだろう!」
男の声に導かれるようにして、エスティニアンは夢から覚めた。
「アルベリク……?」
ぼやけた視界に男の姿を認め、反射的にエスティニアンは己の師匠の名を呼んだ。しかし、どうやら
別人だったらしい。
「アルベリク卿のことか?
どうやら、まだ混乱しているようだな。これでも飲んで目を覚ますんだ」
羊の胃袋で作られた水筒から強引に水を飲まされて、ようやくエスティニアンの意識は覚醒した。地
に伏していた彼の側に、若い黒髪の男が膝を突いて、心配そうに顔をのぞき込んでいる。 年齢は自分と変わらない……20代前半だろう。鉄灰色の鎖帷子から、自分と同じ神殿騎士団の一員 だと解った。 だが、名前が分からない。ひたすらに竜を狩る力を得ようと槍術の鍛錬に明け暮れていたエスティニ アンは神殿騎士となってからも、ほかの団員たちとなれ合うことなく、常に孤高の存在であり続けて いたのだ。
「すまない、世話をかけたな……」
そう言葉にしたものの、後が続かない。
「やれやれ、同じ部隊だというのに、名前も覚えてくれていないのか?
私の名はアイメリク。お互い、この状況でよく生き残れたものだ」 |