第七霊災回顧録

「第七霊災回顧録」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

第七霊災回顧録 - (2014/08/25 (月) 00:16:53) のソース

*第七霊災回顧録
-公開日:2014/8/15
-[[公式ページ>>http://www.finalfantasyxiv.com/anniversary/jp/detail/memoir_2.html?rgn=jp&lng=ja]]

#region(close,第七霊災回顧録①「栄光のヴィクトリー号」)
第七霊災回顧録① 「栄光のヴィクトリー号」

&color(red){「黒渦団全軍に通達。現時点をもって、すべての命令を無効とする。 }
&color(red){全隊、各個の判断で撤退せよ!」 }

苦渋の決断であった。 
海の都「リムサ・ロミンサ」のグランドカンパニー「黒渦団」を率いる女提督、メルウィブ・ブルーフィスウィンは、カルテノー平原からの撤退を決意し
た。 
月の衛星「ダラガブ」の落下を阻止すべく、エオルゼア十二神を呼び降ろす。その作戦は、砕け散った衛星から現れた「黒き蛮神」の前に、あえなく瓦解し
た。賢人ルイゾワは、未だ神降ろしの秘術を続けているようだが、すでに戦線は崩壊している。 

&color(red){「いいか、しんがりには本隊を付けろ。 }
&color(red){冒険者たち特殊陸戦隊を、優先して逃がせ!」 }

大義のため参陣した者たちのことを思い、そう命じたメルウィブは、すぐさま自らの愛チョコボ「ヴィクトリー号」にまたがった。 

&color(red){「エインザル! 私は本隊と共に撤退を指揮する! }
&color(red){貴様は退路を確保しつつ、脱出した部隊の受け入れ体制を整えろ!」 }

こんな時、並の部下なら、危険な任務に向かおうとする提督を止めるのだろう。だが、相手が冷静だと見極めれば、敬礼だけを捧げ黙って送り出すのが、エ
インザル・スラフィルシンという男だった。だからこそ、メルウィブは彼を腹心に据えたのである。 

#image(2014anniversary.memoir_1_1.png)

大型のデストリア種の中でも、特に体格に優れたチョコボである「ヴィクトリー号」が、逞しい脚で戦場を駆けてゆく。つぶらな黒い瞳の奥に恐怖を宿らせ
ながらも、それを押し殺して主に仕える、良いチョコボだ。 
しかし、勝利を願って付けられたその名を体現するには至らなかった。今、エオルゼア同盟軍は敗走しようとしているのだ。 
メルウィブは、混乱した味方部隊を見つけては、退路を示していく。 
その最中、退いていく部隊に逆行し、帝国軍部隊に猛然と襲いかかる部隊を発見した。海賊勢力を糾合して編成された打撃陸戦隊の者たちだ。 

&color(red){「何をしている、退け! すでに勝敗は決した!」 }

叫ぶメルウィブに食ってかかったのは、三大海賊団の一角「紅血聖女団」の頭目、ローズウェンだった。霊銀色の美しい短銃を振りかざして女海賊が吠え
る。 

&color(red){「ナマいってんじゃないよ! あたしらの仲間が何人死んだと思ってんだ! }
&color(red){帝国の犬どもをブチ殺してやる!」 }

仲間を失い激高したローズウェンは、完全に血と復讐に酔っていた。 
その彼女を理屈で動かせるものではない。押し問答を続けているうちに、帝国軍の後続部隊が接近してきていた。 

&color(red){「クソッ!」 }

腰に吊した愛銃「デスペナルティー」と「アナイアレイター」を抜き放ち、銃口を迫り来る敵兵に向ける。 
1発、2発、ダブルバレルの拳銃から弾丸を撃ち出し、敵歩兵を仕留めていく。 
3発、4発、続けざまに射撃を加えるが、いかんせん敵の数が多い。 
さらに後方から、黒光りする巨体が現れた。大柄な「ヴィクトリー号」よりも、さらに大きなそれは、帝国軍が誇る騎兵戦力「魔導アーマー」だった。まる
で、牙を剥く獣のように口に似た装甲が開き、巨大な砲身がせり出す。そしてメルウィブは、魔導カノンの輝きを見た。 

&color(red){「ッ!!」 }

咄嗟に足で「ヴィクトリー号」の腹を蹴って駆け出させたことで、どうにか直撃を免れたが直ぐ側に土煙が上がる。だが、着弾時の爆音で耳をやられたらし
い。 
奇妙な静けさの中、メルウィブは自分の身体が倒れつつあるのを感じていた。足に暖かさを感じる。血だ。だが、自分のものではない。 
帝国兵の放った弾丸がチョコボ装甲を貫き、「ヴィクトリー号」に致命傷をあたえたのだと知ったのは、後のことである。 


目覚めたメルウィブが最初に見たのは、見慣れた船室の天井だった。 
黒渦団総旗艦「トライアンフ号」。その後部に設置された船長室だ。 

&color(red){「て、提督が目を覚ましました! 大甲将、大甲将殿ッ!」 }

衛生兵らしい男が駆けだしていってから、しばらくして大男が室内に入ってきた。 

&color(red){「少々、寝坊が過ぎやしませんかね、提督」 }

その男、エインザルは笑みを浮かべていたが、汚れ放題の顔には疲労の色が見て取れた。 

&color(red){「あれから何日経った。状況は?」 }

&color(red){「二日……。今はメルトール海峡の洋上、お察しのとおり、トライアンフの中ですよ」 }

エインザルは、これまでの出来事を淡々と語った。 
帝国兵の銃撃を受け、「ヴィクトリー号」が絶命したこと。そして、チョコボと共に倒れ込んだ際に頭を強打し、昏倒した彼女を海賊団「断罪党」の者たち
が担いで撤退してきたこと。 
ちなみにローズウェンは最後まで徹底抗戦を貫こうとしたが、普段は対立しているはずの海賊団「百鬼夜行」の頭目、カルヴァランが、無理矢理に自分の
チョコボの上に引っ張り上げ、拐うようにして脱出させたのだという。まるでイシュガルド騎士のような、華麗な手綱さばきだったというから驚きだ。よほ
どこの件が屈辱的だったのか、ローズウェンは今でもカルヴァランを「へたれ」と罵っているらしい。 
ともかく撤退した黒渦団の将兵は、ほかの同盟軍部隊と共にザナラーンまで退き、部隊を再編。ベスパーベイに停泊させていた艦隊に分乗し、「リムサ・ロ
ミンサ」に向かっているところだという。 

&color(red){「ウルダハの錬金術師どもは、絶対安静だとか抜かして、 }
&color(red){提督を動かしたがりませんでしたがね。 }
&color(red){とはいえ、アンタは傾きかけた船から、逃げ出すような船長にはなりたくないでしょう?」 }

メルウィブは故郷「リムサ・ロミンサ」を、しばしば船に例え「巨艦」と呼んでいた。 
その船長であり、提督である彼女は、被災した故郷に一刻も早く戻るべきだと、エインザルは判断したのだろう。 
むろん意識があったら、どんな怪我を負っていてもそうしたはずだと、彼女は思う。以心伝心、己の意思をくみ取り、行動してくれた男を頼もしく感じる。 

&color(red){「して、あの者は無事なのか?」 }

当然の質問を、メルウィブは口にした。当たり前のことを尋ねたつもりだった。 
しかし、返ってきた言葉は、察しの良い腹心とは思えぬものだった。 

&color(red){「あの者? いったい、誰のことです?」 }

確かに撤退を決意したあの時、自分は「誰か」の無事を願い、「優先して逃がせ!」と命じたはずだ。だが、誰のことを? 
当然のことが思い出せないことに、メルウィブは驚愕した。 
しかし、結局のところ、頭を強く打った影響だろうとエインザルにいなされてしまっては、自分を納得させるしかなかった。 

何より、その後の数日は怒濤のように過ぎていったのだ。 
故郷、バイルブランド島に近づいた艦隊は、洋上を漂流する幾人もの人々を拾い上げることになった。ガラディオン湾に降り注いだダラガブの破片は、津波
を生み出していた。彼らは、それに巻き込まれた者たちだった。 
また、艦隊を導くはずの「シリウス大灯台」には、不気味な橙色のクリスタルが固着し、美しくも恐ろしい姿に変貌していた。 
ゴッズグリップの岬によって「モラビー造船廠」が津波から護られていたのは、不幸中の幸いといえるだろう。この港湾施設に「トライアンフ号」以下の残
存艦を集結させたメルウィブは、当地に臨時指揮所を設立すると、ただちに復興支援艦隊を編成して送り出した。 

#image(2014anniversary.memoir_1_2.png)

救えた命もあれば、救えなかった命もある。 
寝る間もなく、救助活動の指揮をとっていたメルウィブだったが、いつまでも頭の片隅には「誰か」の存在がひっかかり続けた。それでも、がむしゃらに働
くしかなかった。 

瞬く間に歳月が過ぎ去り、モラビー造船廠の臨時指揮所が解体され、「リムサ・ロミンサ」に指揮系統を移転する日が訪れた。 
今後、モラビー造船廠は、本来の「船を造る」という役目に立ち戻ることになる。その第一号として、黒渦団の軍艦が建造されることが、先日決定された。 
新造船の名付け親になるよう依頼されたメルウィブは、迷わず「ヴィクトリー号」と命名した。あの日、掴めなかった勝利を、今度こそ手にするために。 
そして、いつか再会するであろう「誰か」と共に勝利を祝うために……。 
#endregion