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しかつもんだい編(後編)


「ええそうです。わたしは無桐伊織という名前の、見ての通りの年若な女子高生さんです。と言っても、創貴くんぐらいの歳じゃあまだムラムラくるには早いかもしれませんねー。
 あ、ちょっと待って、待って下さいそんな引かないでくださいよぅ。全く、創貴くんは余裕のない子供ですね、ドライといっても過言ではありません、ノリが悪いと言ってもいい程です。君ぐらいの子はもうちょっとぐらいわたしに構ってくれていもいいと思いますよ?
 というかその目はわたしを年上として敬っていない目ですよね? いーえ首を振っても駄目ですよー、お姉さんにはすべてお見通しなのです。……お前のやった事はすべて丸っとお見通しだ—! ああごめんなさい、つい何となく言いたくなっただけです。
 あのね創貴くん、こう見えてもわたし、通っていた学校では優等生で割かし知られていたのです。いえ、そんなこの世の果てを見たような表情をしないでください、そんな顔をしても事実は消えませんから、いえ、本当ですから!
 ですのでね、もうちょっとぐらい敬ってみてはどうでしょうかと言ってみますよ?
 え? あー、そりゃ確かに今は通ってませんけどー、だからって中退とかそんな風に言わないでくださいね?これでもそれなりの修羅場くぐってしまったのですか。もうシュラハダバーってBGMがつきそうなぐらい。
 もう父母姉兄みんな揃って殺されちゃいましてね。わたしとしても……ほら、両手が手首の辺りでがっすりと切り落とされちゃったんですよ。父母姉兄を殺した人たちにちょっとばっかり切り落とされてしまいまして、いや本当に困ったものです。不便ここに極まりって感じです。
 まあそこでわたし、ちょっと開眼しちゃいましてね? もぅ、クリリンの事かー! ぐらいの勢いで。いやほら、なんかシチュエーションが似てません? 大事な仲間が殺されちゃう感じが。え、仲間と家族じゃ違う? 大体同じですよー。
 とにかくそんな感じで前の家族がみんな死んじゃいいまして、今は別の新しい家族のところにいるって感じなのです。と言ってもわたしをその家族に引き込んだ人、双識という人はその時の騒動で死んじゃったんですけどねー。
 だからわたしの手を引いてくれたのは……手が無いのに手を引いたとはこれいかに! ああごめんなさい真面目に話しますまじめに話します! その双識さんの弟さんという人識くんというちっちゃな男の子なんですよ。
 それで人識くんに連れられて、わたしの両手の義手を作ってくれる心当たりを探してたんですけどねー。その途中で、気が付いてみたらあの真っ白い部屋にいて殺しあえって感じに言われちゃって、御蔭様で人識くんとも離ればなれといった具合なのですよ。
 しっかし本当、困ってしまいますよねー? こちとら両手が無いんですよ、そんな状況でどうやって殺しあえって言うんですかねー? そりゃ私も零崎って事になってますけど、まだまだ新入りさんだし出来る事だってそんなにないんですがねー。
 そうそう、創貴くんは零崎って何か知ってますか? 知らない? まあそうですよねー、知ってたらそれはそれで大変そうですもんねぇ。うん、知らないんだ、知ーらないんだーっ! うふふ、ほーら無知をひけらかしてわたさいに教えを乞うてごらんなさーい。
 あーうそうそ冗談だからは本当に冗談ですから心の底から反省してますからですから行かないで光を持っていかないでー! ……もう、創貴くんは怒りんぼさんですねー、これぐらいの軽口には軽口で付き合ってほしいものです。大人の必須スキルですよー。
 いや本当、相手の話に乗っかってあげるって言うのは大事ですからねー。……うふふ、大人になると相手に合わせてばかりになってしまいそうになりますけどねー。大人になるというのは、案外そういう事なのかもしれませんねぇ……。
 あ、で何の話でしたっけ? ああそうそう、零崎でしたね。まあ教えるって言ってもさっきも言ったと思いますけどもわたし自身新入りさんなので詳しい事もは何一つとして知らないんですよー。
 知ってる事は、零崎がどんな人たちか知ってる人ならみんな知ってることぐらいですけどね。曰く、血筋ではなく流血によって繋がる『一賊』。一人では生きていけない人殺しが集まってできた、殺人鬼の一家。それが零崎だそうですよー。
 おやおや、意外と平然していらっしゃるんですねー創貴くんは。一応わたし、今自分が殺人鬼だっていったみたいなものなんですけど。
 わたしが怖くないんですか? え、むしろ間抜けに見える? こうそこは可愛くて愛らしくて虫どころかミジンコも殺せないプリティーガールって言うところですよー。
 え? 死んでも言わない? まったく人識くんといい、男の子って言うのは変なところで意地っ張りですねー。
 んん? なんで伝聞形かって? うふふ、実はわたし自身は双識さんと人識くん以外の零崎さんと出会ったことがいのですよー。だからなんといいますか、『零崎』という分類ではあっても集団には属していないというか、それに近い感じなんですよねー。
 それでですね創貴くん、どうして私がこれを君に話したか解りますか? いえ、別に創貴くんを殺すとかそんなんじゃないんですよ? ていうかそもそも今のわたしじゃあまともに人殺しなんて出来ませんしねぇ。
 だってほら、わたし両手無いでしょ? さっき話した双識さんからもらった『自殺志願』っていうおっきな鋏も無くなってしまいましたし、踏んだり蹴ったり千切ったりとかで人を殺せるほどわたしは力がないんですよ。
 わたしが創貴くんに教えたのはですね、絶対に零崎っていう人たちを殺さないでね、って言いたいからなんですよ。もちろん、わたしも含めてね。零崎を殺すって言うのは、とっても大変なことなんだから。
 零崎っていう人たちはね、どうしようもない人殺しのくせに家族が欲しいっていう人たちだから、とっても仲間意識が強いんだそうです。
 家族愛、う〜ん違うな、家賊愛って感じ? それがとっても強くて、同胞が殺されると絶対に報復するんだそうですよ。
 殺した相手はもちろん、その親族からご近所さんまで、徹頭徹尾草の根残らず皆殺しにするんだそうです。例にも寄って伝聞形なんですけどね。まあそんなですから、零崎を一人でも殺したら大変なことになりますよー。
 ですから、わたしは殺さない方がいいですよー。わたしを殺すと大変ですよー。っていうか殺さないでくださいお願いします!
 …………………………。
 ………………。
 ……。
 あ、殺さないんですか。……あー良かった—。いえ、こんな場所でこんな状況だから、どんな人にも信頼なんて出来たもんじゃないですからねー。ひょっとしたら創貴くんもわたしを殺そうとしてたらどうしよう、とか思ってしまいましたよー。
 うふふ、そうですよねぇ、こんな可愛らしい小学五年生が、わたしみたいな可愛らしい女子高生を殺すわけないですよねー?
 でもね? ——わたしは殺人鬼なんですよ。だからね、君もそうだったらどうしようかなって思っちゃったりしてしまう訳なんです。ここはそういう場所の様なので、創貴くんも気をつけた方がいいですよー?
 うん、良いお返事。創貴くんは良い子ですねー? 頭なでなでしてあげますよー? おやおや、そんな毛虫が降ってきたかの如く撥ね退けて、本当に創貴くんは素直じゃありませんね。
 ふう……。
 あー、そういえばずいぶんと長話になってしまいましたね? 創貴くんは、わたしに何か訊きたいことはあったりするのかな?」
「では一つ……両手から血が流れていますが、大丈夫なんですか?」

     ★     ★

「……………………………………………………ぁ」
「……………」
 気づいてなかったのかこの人。……気づいてなかったのこの人! 自分の腕の事なんだからもっとちゃんとして欲しいものだ。どんな手段を使っているかは知らないが、切り落とされた断面が傷のままでいつまでも血が止まっている訳ないじゃないか。
 ぼくが出てくるまでやってたあの妙な動き、どうも掌が無い状態でデイバックを開けようとしてたらしいんだけど、それで断面丸出しの両腕を使い過ぎたんだろうな。
 せっかくほぼ完璧だった止血が緩んだのはきっとそのせいだ。ああでも、この量で済んでいるのは少し傷が塞がっているからなのかもな。
「うはー! 流れてる、流れてますよぅ!? ちょろちょろと! 中っぱっぱとか!!」
「ああ、だめです! 振り回したら余計に血が!」
「うぅ……どうしましょう。止血は人識くんに任せっきりだったから、わたしには出来ませんよ」
「まさしく打つ手がありませんね」
「創貴くん、出来たりしません?」
「そんな、しょ、小学生にそんなこと求めないでくださいよぅっ」
「そーですよねー、創貴くんには出来ませんよねぇー?」
 どうしてこうこの女は無意味にも毎回毎回ぼくの神経を逆なでする発言をしてくれるのだろうか。
 ……しかし、実際に今いきなり襲ってくるような性格はしていなかったとはいえ、この無桐伊織という人間、姿を見た時の把握通りに殺人鬼だったな。
 しかも零崎とかいう殺人鬼の集団に属しているらしい。あくまで自己申告によるところだが、ぼくの見た限り嘘ではなさそうだ。
 殺人鬼と一緒に行動する事は念頭になかったしこうして交流を持った事は当初の理念には大きく外れるのだが、しかしだからこその事として想定以上の事が出来るかもしれないな。特に今さっき話した、零崎は仲間の死に必ず報復する、とかいうルールも役立ちそうだし。
 盾にする、他の奴の警戒心を解くダシにする、という他に、殺人鬼ならば戦闘力にもなる筈だ。確かに無桐伊織の外見は戦闘に優れたものではないし両手はないしで現段階では殆ど役立つ面は無いのだが、だがそれでも、殺人鬼にはふんぎりの良さ、というものがある。
 殺すことにためらいが無い奴だからこそ、戦闘においてためらいなく相手を殺そうと動けるのだ。これが一般人なら臆病風に吹かれて止まってしまうところなのだろうが、殺人鬼にそんなものがある筈がない。
 それがあるだけ、まあ一般人みたいな低能と出会うよりはマシだったと考えるべきだ。
 幸いにしてぼくにはこの女に対し、ぼくと一緒に行動させ恩を感じさせ、そして失われた両手を埋める方法を知っているのだから。
「あの、伊織お姉さん」
「どうしましたか創貴くん?」
「ひょっとしたらぼく、伊織お姉さんの手を治す方法を知ってるかもしれません」
「おやおや」
 多少の予想はあったが、この女、ほとんど驚かないんだな。さっきまででも見れたような、ちょっと目を丸くする程度のリアクションだ。
 驚きに対する沸点みたいなものがあったら、この女は相当にそれが高いという事になるんだなろうな。まあ食いついてるみたいだし、問題はないか。
「創貴くんはわたしの腕を治せるんですか?」
「ぼくは、治せないんですけど……、あの、伊織お姉さんはさっきまでいた真っ白い部屋を覚えてますか?」
「動けなくされてた、あの部屋の事ですか」
「はい。そこにいたあの豚や……男の人を、影谷蛇之って呼んだ女の子を、覚えてますか?」
「あの真っ赤な女の子ですか? わたしの立ち位置からは見えましたけど……お友達か何かですか」
 正直にいえば全肯定は出来ないところなのだけれども、そう言っても問題はないのだしこの女にはそうだと言っておこう。
「その、水倉りすかって言うんです、けど」
「水倉」
 さすがにこの女でもあの水倉神檎の声には思うところがあったらしいな。そしてあの時に聞いたのであろう水倉神檎と今ぼくが言ったりすかの苗字が同じである事に何か思ったのかもしれない。
「ひょっとして、あそこで聞いた天の声的な人のご家族ですか」
 天の声って何だよ。
「え、ええ、子供なんです」
「ふむふむ、この殺し合いの張本人の娘さんですか。創貴くんもまたすごい人とお知り合いですね。……それで、ひょっとしてそのりすかという子が何とか出来るのですか?」
「は、はい。りすかは、『魔法使い』ですから」
「………………」
 と、そこで伊織はいきなり真面目な顔になりやがった。……何故だ、どうして今ここでそんな顔になる? まさか『魔法使い』に対して何かの覚えがあるのか?いや、だとしたら水倉神檎の名前が出た時にもっと大きな反応があってもいいはずだし……。
 かく思う間にも無桐伊織の真摯な顔が間近に近づいてきて、
「——創貴くん」
「は、はい」
「その歳から魔法少女にはまるのはどうかと」
「違ぇよ!!」
 あー声を荒げてしまった猫が剥がれてしまっただけれども後悔は全くしていないぞこの女っ!!
「大丈夫です、うちの兄……さっき話した双識さんもその辺はまってそうな人でしたが、創貴くんとは相当に歳の差があります。それまでに脱却すればただの趣味で止めておけます……」
「そういうのとぼくを一緒にするな! ぼくが言いたい事とそういう事はまるで違う!」
 やめろぼくをそんな憐れむような目で見るな! 畜生なんてこの女は扱い辛いんだ! 感じは楓と似ているではあるが……あれとは段も桁もまるで違う面倒臭ささだこんちくしょう!
「まああの蛇之という人も魔法云々とか言ってましたし、それっぽいものはあるんでしょうけどねー」
「まああの蛇之という人も魔法云々とか言ってましたし、それっぽいものはあるんでしょうけどねー」
 解ったうえで言ってやがったのかこの女……!
「しかしそれでも、魔法、魔法、魔法ですかー…………うふふっ」
 笑いやがった! いや、嗤いやがった! この女、ぼくやりすかが死にかけたり殺したりしてきた視線の数々を一笑にふしやがった! ああ無知な奴らから見たらそうなんだろうな……、って、うん?
 無知? どういう事だ? それは変だろう。そりゃ実際に見た事があるかどうかは別問題であるが、ぼくの知る限りでは魔法そのものは割と周知の事実だったはずだ。社会的には無いという事になっているが、いわゆるところの公然の秘密として。
 それを知らないってのか、この女は。だとすれば相当の世間知らずか……今ぼくが思った様に、無知、本当に知らないのどちらかだ。常識的に考えれば前者なのだろうけど、しかし常識にとらわれないのがぼくであり、また想像できるのが現状だ。
 零崎。聞いた限りでは裏社会のことのようなので、およそ一般人であるぼくが知る由が無いというのも納得するところであるが、だがしかし本当に、聞いたことのない名前だ。これは、無桐伊織が魔法を知らない事と何か符号な気がしてならないな……。
「それで」
 む、いけないな。無桐伊織がまたしゃべりだした。今後も考えなければならない懸念事項であるように思うが、目前の会話を疎かにするわけにもいかない。いったん保留だ。
「そのりすかちゃんが、あの水倉神檎という方の娘さんが、魔法なる力を使って……わたしの手を治してくれるんですか?」
「りすかには、その、体の欠損を埋める魔法が使えるんです」
 正確には『大人りすか』の力であるが、そのあたりは説明してやる必要が無い。そう、ぼくの体の半分以上がそうして補填されているように、りすかにはそんな魔法も使える、否、使えるようになる、というべきか。
「だから、りすかと合流出来たら」
「なるほどなるほど、わたしの両手を補充してもらえばいい、と」
「はい、ぼくからもお願いしてみますので」
 実際にそんなことをする必要もないしな。正直に言えば、ぼくがりすかと合流するまでのつなぎ程度になってくれれば良い。まあ殺人鬼として戦闘力にはなりそうだし、都合がつくようだったら本当にりすかにお願いしてやるよ。
「本当にそんな事できるんですかー?」
「そこは、その、信じてもらう、しか。りすかも、ここにはいませんし」
 ここでちょっと泣き落とし。ぐずるようにして微妙に駄々っ子さをアピールする。そうすれば泣き落としに近い種類の説得力と保護欲みたいなものを誘える。
 ひょっとしたら、この子供は誰かに一緒にいて欲しいからこんなことを言っているのだ、と思われるかもしれないが、別にそれでも良い。
 要はこの女がぼくを害さない形で同行するように差し向けてやればいいのだ。しかしこの女にそれほど悩むような頭は無かったようで、
「ま、それもそうですね」
 などと悩む頭が無く条件反射でそうしたんじゃないかと思ってしまうぐらい軽々と頷く。本当に低能な女だ。
 確かに全て事実であるとはいえ、必ずしもそれが全く正当に自分の身に降りかかるとは限らないだろう。ぼくやりすかの私意が混ざるかもしれないとは考えなかったのか?
 そうでなくとも、ここに証明する手段がないのだから、そんな短時間で答えを出すのも愚かさの証明というものだ。
 早い事は良い事だが、だからといって考える事が少ない事も良い事ではないのだ。言うまでも無く、馬鹿正直にぼくからこの女に言うなんて事はしないのだが。
「ですけれども」
 おや、こんな女でも何か思うところがあったとでもいうのだろうか。
「なんでしょう?」
「そのりすかちゃんとやらの居場所は解るのですか?」
 ああ、そういえばその辺りの説明をしていなかったな。
「それは、その、ごめんなさい解りません」
「おやおや」
「ですが……彼女と合流出来そうな場所ならあります」
 億劫ではあるが引き連れて歩く以上、説明しない訳にはいかないからな。ぼくはデイバックから地図を取り出して広げてやる。もちろん自分のものを出すのは手間だから、足下に放置された無桐伊織のものだ。
「ここなんですが」
「コーヒーショップですか?」
「りすかの家なんです」
「ほほう、ご家族が経営されているのですか。ハイソですね」
 経営しているのはとりあえず家族ではないし、コーヒーショップを経営しているだけで何故ハイソなのかはわからないが、こちらが言わんとしている事は伝わったのでそこは目をつぶろう。
「連絡はつきませんけど、だから逆に、ここに行けばりすかと会えると思うんです」
「ひょっとしたら罠かもしれませんよ? どうしてそのりすかちゃんのお家がここにあるんですかね」
 これだから低能は相手に困る。罠かもしれないというが、罠を仕掛ける必要性がこの状況のどこにあるんだ。
 りすかの能力が封じられている可能性がある以上、りすかも平等に殺し合いの中に突っ込もうとしているのは予想がつく。だとしたら、罠を作って殊更にふりを作る必要が無い。
 仮に罠だったとしても、他に行くあてなど無い、目印など無いのだ。連絡がつかない現状においてぼくとりすかが落ちあえる場所は、ここ以外にない。
 極論するなら、入口の前に立っているだけで良い。要は待ち合わせの目印なのだ。まあぼくは罠が無いと予想しているが。
 全くただでさえ二度手間だというのに、同じことを何度もぼくに考えさせないでほしいものだ。まあこの女と出会う前のことだったんだから、この女が知らないのも当然だが。
「で、でも、ほかに当てもないし……」
「そぅ言われてしまえばそうなんですけどねー」
 こう言ってやらなければ理解できないのだろうか。ぼくの慈悲深い助言によって、ようやく無桐伊織は頷いている。この先も一々こんなことをしていかなければならないのかと思うと、面倒くさい以外の何物でも無い。
 あぁいや、どうやらまだ納得という段階ではないようだ。しょうがない奴だ、ここはこいつの事情も鑑みてやるしかあるまい。
「それに……その、どっちにしても、伊織お姉さんの手をどうにかしなくちゃいけないし……」
「あ、そうでしたそうでした。確かに、この場所じゃあどうしようもありませんもんねぇ」
「りすかの家に行かないにしても、病院に行かなくちゃ……危ないんじゃ」
「ふむふむ」
 ここまで言ってやって、やっとこさ頷きやがった。本当に手間のかかる女としか言いようがない。
「街の方に出なくちゃ何も始まらないってことですねぇ」
 そんな当たり前のこと、ぼくが言う前に最初っから理解していてもらいたいものだ。
「とりあえずりすかの家まで行って、それから、病院に行くかどうかを決めたらどうかな、って思うんですけど……」
「そーですねー、そのぐらいが一番いいんでしょうね」
 この女は、ぼくに誘導されているとかそんな風には考えないんだろうか。その方がぼくとしては都合がいいのだが、ここまで都合がよすぎると逆に不安になるというか、利用価値を感じる事が出来なくなってしまう。
 まあ腕が治ってくれるに越したことはないのだが、元々いないよりマシ程度の思いつきで取り入った女だ。
 そこまでの利用価値は求めていないのだが……どうにもこうにも、どうしようもないにも程がある、と言ってしまいそうな風である。
「うん、では善は急げ、と行きましょうか」
 殺人鬼の癖に善とは片腹痛い。
「早速街に行くとしましょう」
「はい。コンパスの向きからして、あっちの方に街があるみたいですね」
「最近の小学生はコンパスが使えるんですねー。お姉さんはビックリですよ」
 小学生を何だと思っているのだ。コンパスで方向を確認して地図で行先を定めて行くぐらいのこと、誰でも出来るにきまってるだろう。
 この女の中でぼくぐらいの年齢は、どれだけ子供だと思われているのかが想像できようというものだ。
 ついでに、彼女がどれだけ子供な脳みそをしているのか、という事も伺えようというものだ。
 何にせよとりあえず、本当にこの上なく取り合えずであるが、これで当面の駒は確保できた事になる。お世辞にも使えそうな奴とは言えないが、それでもいないよりかは、そう、いないよりかは……、
「あ、そうだ、創貴くん」
「何でしょう」
「わたしの鞄を持って下さい」
「………………………………………………」
「ほら、わたしの両手の止血が緩んじゃったのって、これを開けようといじくり過ぎたからじゃないですか。ここで担ごうとしたら、また繰り返しになると思うんですよね」
「……それで、ぼくに、持てと」
「うん、がんばれ男の子っ!」
 ……………………。
 ………………………………。
 …………………………………………。
 ……………………………………………………いない方が良かったかもしれないなぁっ!!

【1日目 深夜 C-7】
【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態] 健康
[装備]りすかのカッターナイフ@新本格魔法少女りすか、懐中電灯、コンパス
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1〜5、すべて確認済み)
[思考]
 基本 りすかと合流して神檎の所に辿り着く
 1 コーヒーショップなり病院なりに行かないとな
 2 この場所でも奴隷になりそうな奴がいるなら欲しいな……
 3 無桐伊織をとりあえずの奴隷として使ってやろうじゃないか
 4 ……荷物が重い
 ※参戦時期は、少なくともツナギと出会って以降です。
 ※零崎一賊の概要を知りました
 ※りすかが創貴を『座標』に出来なくなっている可能性があります。真相は後の書き手さんに任せます。
 ※このバトルロワイヤルにいる人間が持っている世界観に誤差がある事に気づきました。

【無桐伊織@零崎一賊シリーズ】
[状態] 両手首無し(出血・弱)
[装備]無し
[道具]無し
[思考]
 基本 とりあえず人識くんと合流したいな
 1 創貴くんって何かませた感じ〜
 2 病院行かないと死んじゃうかも
 3 あー手首の傷開いちゃったかなぁ
 ※両手首の止血が若干緩んでいます。今は命に別状がありませんが、今後悪化する危険性があります。


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しかつもんだい編(前編) 供犠創貴 ―
しかつもんだい編(前編) 無藤伊織 ―

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最終更新:2009年03月08日 21:48