ソードワールドRPG2.0

ソードワールドRPG2.0


 日本におけるTRPGでスタンダードと呼ばれた、かのソードワールドTRPGの新バージョンです。
 2.0と言うからには、2.1とか2.2とか…は無理でも、せめて2.5は出ると期待したいところですね。
 前作との比較および、初めて遊ぶ人へのレビューを併せて書いていこうと思います。

ルールの配分

 楽しいキャラ作成:★★★★
 深いワールド:★
 物語性の高いセッション:★★★
 疑似体験性の高いセッション:★★
 ゲーム性の高いセッション:★★
 パーティゲーム性:★★★
 楽しい成長:★★★

[前作との比較]
 キャラメイクは相当煩雑になりました。時間が半端にあるのでちょっとキャラ作ってささっと始めよう、とか、初めての面子でさくっと遊んでみよう、と言う時には、慣れていないなら前作より幾分長く見積もった方がいいでしょう。
 ワールドは今時の流行に合わせてライトノベルやテレビゲーム的になりました。前作のハイファンタジーとラノベの中間的な要素が薄れた為、プレイヤー間で好みが分かれて揉める事はなくなったものの、棲み分けが進んで一緒に遊ぶのは難しくなっているかもしれません。
 成長に関してですが、前作では技能制を謳いつつも実質クラス制になってしまっている部分がありました。今回も実質「クラス制」に近いものを感じるのですが、少なくとも低レベルの内は「技能制」っぽく遊ぶ事が出来ます。経験値テーブルを弄るだけでこんなにもよくなったというのは、嬉しい驚きですね。能力値の成長が経験値から切り離されたのも、個人的には高評価です。
 それ以外は、意外なほど前作の雰囲気を継承しているように思えます。いいところも、悪いところも。

[初めての人向け]
 キャラメイクはダイスを振る楽しさと、選択肢を選んで埋めていく楽しさの両方をうまく共存させてあります。計算式に例外処理的な部分があるので、一部躓くかもしれませんが、慣れればさほど時間をかけずに様々なキャラクターを作って遊ぶ事が出来るでしょう。
 ワールドは説明がまだ足りない部分があり、一概に言えない部分も多いのですが、今時らしい書き割り的ファンタジーです。萌えたい部分だけ見て、それ以外は考えないようにしましょう。
 ワールドがそんなですから、物語性の高いセッション、疑似体験性の高いセッション、両方ともそれなりです。始めて間もなく、適度に没入しつつも、どこか引いた目で自キャラを見ている自分に気づくでしょう。
 選択肢の数が適度にあって多すぎず、管理するリソースも適度に設定されているように感じられました。今時のゲームにしてはヒーローポイント的なものがなく、実際に遊ぶ際の楽しさに、GMの工夫が占めるウェイトが大きい、いい意味で古いタイプのルールです。…が、デザイナーの力量不足か、ディベロップの時間不足か、はっきり言ってしまうと「FEARゲーと昔のゲームのいいとこどりをしようとして失敗した」感が多分に感じられます。
 深く遊び込もうとすると、結構揉めるのではないでしょうか。
 低レベルの成長は楽しいです。毎セッションごとにランダムで成長する能力値や、安めに設定されて成長させやすい低レベル帯の技能など、適度に軽く適度に考えられるいいルールだと思います。ただし、高レベルになると一変します。
 また、名誉点を使って家や城を買うルールは練り込みが足りない気がします。ライバルになるだろう旧版ソードワールドやアリアンロッドに無いルールなのですから、もっと力を入れて設定されていたらなぁ、と少し残念に感じました。

所要時間(★1-5で評価)

 ルール把握:★★
 シナリオ作成:★
 キャラ作成:★★
 実プレイ:★★★
※これは当然、「慣れ」や「参加者の背景」で変わるものです。目安程度に捉え、自分の基準と異なるからといって、あまりめくじらを立てないで下さると嬉しいです。

 ルール把握は迅速です。ただ、前作よりは複雑化していますので、プレイヤーはともかくGMはルールを読み込んで於く必要があるでしょう。乱戦や行動宣言など、問題になっている部分の「記述があったかどうか」覚えておくだけでプレイ中停滞する時間を削減できるはずです。
 シナリオ作成もまた迅速です。ソードワールドの最大の利点の一つ、「モンスターレベルが目安として信頼度が高い」点は今作にも継承されていますので、物語的にレベルに合わないモンスターを出したい…というようなケースを除けば、PC達に適当なエネミーを用意するのは容易です。もちろん戦闘さえ用意すればシナリオ作成は完了というものではありません。この辺りはこだわり出すときりがない部分ではありますが、それでもシステム自体はわりと素直なので、低~中レベル帯での冒険ならばGMが作りたいシナリオを再現しやすいはずです。
 キャラ作成にもさほど時間はかからないでしょう。「能力値の成長」と「奇数レベル毎に獲得する戦闘特技」および、「MPのあがる技能・あがらない技能」だけしっかり把握しておけばほとんど問題はありません。
 実プレイもまた迅速…なのですが、一点だけ。あまり作戦など気にせず何となく戦闘するような面子で遊ぶ際には、パーティ内での行動順を決めさせておくといいでしょう。はっきり言ってしまえば大抵のラウンドで「どう動いても大差ない」ので、どう動いてもいいのですが、逆にそれが仇になってお見合いする時間が長くなりがちです。「動きたい人からどうぞ」「俺もいつでもいいからどうぞ」というような会話に時間を取られるのは非常に無駄です。もちろん行動順は本来自由ですので、プレイヤーが作戦を考えて行動順を入れ替えたいというような時には自由に入れ替えさせればいいでしょう。

ルールの概要

[前作との比較]
 ポイントとなるのは以下のような点です。
  • キャラメイク
 複雑化しました。覚えてしまえば手間自体は大した事がないのですが、把握する概念の数が増えたので、前作のように何となくキャラを作るつもりでいると面倒に感じるかもしれません。
 同時に前作のキャラクターをコンバートして持ち込むのは難しいです。コンバートのルールを自作するか、SNEのサポートを待ちましょう。

  • 種族と技能
 大きく変わりました。前作からいた種族にも大きな変更が入りましたし、新種族も個性的なのが揃っています。
 低レベル帯の技能は副業が前提となり、ザボみたいなキャラメイクは(元々あまり勧められたものではなかったですが)損だと言い切ってしまっていいでしょう。
 技能制っぽく色んな技能をつまみ食いして楽しめる低レベル帯に対し、高レベル帯は前作以上に「クラス制」です。ファイター・グラップラー・魔法使い系といった「本業」技能を主に伸ばしていくのは当然として、セージ・レンジャー・スカウトなどといった「副業」的技能も本業同様に絞って伸ばしていく事を推奨しているシステムです。
 前作の副業技能は5LVもあれば充分なように設定されており、「副業的に覚えるような技能」に経験点を継続して占有される事で成長の幅を狭めないよう工夫がなされていたのですが、今回は技能レベル上限が15に増え、「副業的技能」も本業技能同様に成長させ続けるよう目標値などが設定されてしまっています。高レベルになるにつれ、前作以上に「この技能を伸ばす為に他を切捨てなきゃ」という思いに駆られる事でしょう。例外はエンハンサー・レンジャー・(抵抗判定を諦めた呪歌で固めた)バード(そして戦闘局面以外でのセージ・スカウト)といった一部の技能に限られます。
 とはいえ「こうするべきだ」という強制力が強すぎないのが技能制の魅力でもあります。プレイグループ内でうまく擦り合わせて下さい。
 また、ある意味リアルではあるのですが、射撃攻撃をシューター技能に独占させる必要は無かったんじゃないでしょうか。戦闘特技でシューターのアイデンティティを保護する事も出来たのですから、ファイターなどにも選択肢として飛び道具を持たせる余地を残してよかったように感じます。これも最近の流行なのでしょう。

  • ワールド
 前作の大きな特徴だった、「星間を巻き込んだ大スペースオペラ好きの水野」が作った東部、「様々な星を渡り歩く旅行記的SF好きの山本」が作った西部(ホントに両氏の好みがそうだったかは知らないですがw)の特色が撤廃されて、書き割り感が促進されたラノベ的ワールドになりました。
 前作・今作の違いは善し悪しではなく好みの問題だとは思うのですが、ワールドの紹介の仕方は稚拙です。ルールブックで紹介されている地域と、リプレイで詳しく語られる地域が全く重なっておらず、ルールブックでもどこか読者投稿じみた中途半端に浅く広い紹介がなされているに過ぎません。リプレイにモジュール的な役割を持たせてワールドを説明するのは優れた手法だと思うのですが、ルールの方の紙面が取れないのなら中途半端にデザイナーの考えた萌えNPCの紹介などせず、広範囲の地形や風土・地政についてざっと解説するに留めるか、リプレイと平行して同じ地域を深く掘り下げ、他はプレイヤーに丸投げしてしまうのがよかったのではないかと悔やまれます。

  • HP、MPの成長
 HPが冒険者レベルに応じて、MPが「取得した魔法使い技能レベルの総計」に応じて上昇するようになりました。
 HPはいいのですが、MPに関しては「どれが魔法使い技能か」というのを把握する必要があります。概ね直観的に分かるのですが、バードやエンハンサーなどはどっちだったか迷う類の技能でしょう。
 これによって、ソードワールドの世界にも囚われの女戦士問題が入り込みました。気をつけて下さい。

  • 能力値の成長
 能力値は経験点を支払って成長させるのではなく、セッションごとにダイスでランダムに成長するようになりました。
 端数が無駄になる能力値が増えたので、そのフォローの為かもしれませんが、これはこれでいいシステムなんじゃないでしょうか。

  • ダメージ減少の撤廃
 HPが成長するようになったので、代わりに冒険者レベル分だけ全てのダメージを減少する事が出来なくなりました。
 これによって、百匹のゴブリン問題は一応の解決を見たと言っていいでしょう。

  • 1ゾロ振ったら大儲け
 1ゾロを振った時得られる経験値が増えました。
 あと、威力(前作のレーティング表)ロールで1ゾロを振っても経験点が貰えます。

  • イニシアティブ
 敏捷度順ではなく、ダイスを振って先攻・後攻を決めるようになりました。一度決めたらこれは新勢力が参戦してくるまで変わりません。
 勢力ごとの行動順はこれで決まるのですが、勢力内での行動順は自由です。無駄に時間を取られるような事がないよう、多少の工夫が必要かもしれません。

  • 戦闘時の行動
 名前は違いますが、FEAR準拠に近いものになりました。が、FEARのそれほど割り切りが徹底しておらず、同じと考えていると躓きます。
 移動とセットにして覚えるといいでしょう。大まかに分けて下記の通りです。
 1.全力移動:全力移動と、補助動作ができる。
 2.通常移動:通常移動と、射撃・魔法・GMが不可とした行為を除く主動作+補助動作が出来る。
 3.制限移動:制限移動(移動しない場合もこれに含む)と、主動作+補助動作が出来る。

  • 乱戦ルール
 エンゲージに似たシステムなのですが、よくよく読むと結構違います。戦闘で時間を食うのは先の「行動順」とこの「乱戦に絡んだ議論」だと思われますので、GMはこれをよく把握しておいた方がいいでしょう。

  • 名誉点
 冒険によって名声を得て、プライスレスなものを得る、というルールです。正直ここだけ不思議なくらい概念が古くさいです。
 装備のカスタマイズや専用装備は有効ですが、家や地位は維持費などという面倒な処理を抱え込むだけですから、嫌がって使わないプレイヤーもいるのではないでしょうか。
 ていうか正直GMも面倒ですから、この事でGMに噛みついたりしないで好きにして下さい。

[初めての人向け]
 このゲームの成功判定は、2d6を振って「該当する技能レベル」+「該当する能力値ボーナス」を加え、目標値以上を得られれば成功という単純明快なものです。
 が、このシステムにはもう一つ、ソードワールドを特徴づける「威力(以前はレーティング表と呼ばれていた)を用いた判定」があります。ソードワールドを初めて遊ぶプレイヤーは、これで混乱する人が多いようですので、しっかりとルールを読んで把握しておきましょう。

推奨するプレイヤー

 前作ソードワールドが好きだったが、極端な懐古主義でもない人。
 ウサギが好きな人。
 メイドロボが好きな人。
 ドワーフの♀はロリっ子だと信じて疑わない人。
 ライトノベルなどの手軽に楽しめるファンタジーが好きな人。

関連書籍

ルール
 ルールブック1(¥900 富士見書房)
 ルールブック2(¥900 富士見書房)
 ルールブック3(¥900 富士見書房)
シナリオ集
 挑戦!魔剣が呼ぶ迷宮(¥760 富士見書房)
 風雲!歌声が響く都市(¥760 富士見書房)
リプレイ集
 新米女神の冒険者たち(富士見書房)
 たのだん(富士見書房)
設定資料集
 ラノベのファンタジー全般
参考資料
 アリアンロッドRPG

導入ガイド

 ルールブック1があれば十分です。遊んでいてレベルが上限に達してしまったとか、色々遊んでデータが物足りなくなってきたら、ルールブック2を導入してもいいでしょう。
 幸いシナリオ集が出ていますので、それを遊んでみてもいいんじゃないでしょうか。ただ、シナリオ集は読み物として読みやすくしたかったのか、「内気なオタク少年が強気でちょっぴりツンデレな美少女の先輩に誘われてTRPGを遊ぶ」という設定で随所に説明が入っており、それが楽しいかどうかは別にして、必要な情報を掲載したページが散ってしまい検索性は下がっていると言っていいでしょう。
 もっとも、市販シナリオはサマリーを自作するのが常識といえば常識ですから、いい練習になるのかもしれません。サマリーの作成を文中で促しているかどうかは知りません。

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最終更新:2008年10月10日 04:31