喫茶店と女店主2

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男 「あ、女さん。今日店じまいですか?」
女 「……やぁ。ちょっと体調が優れなくてね。お客さんに風邪うつしたらまずいから」
男 「大丈夫ですか? 女さん一人暮らしでしょ?」
女 「寝てれば治るよ。さ、君にもうつるといけない。帰ったほうがいいよ」
男 「何言ってるんですか! そんなフラフラしてる病人ほっとけませんよ!」
女 「まずい所見られてしまったな……」
男 「いつまでも意地張ってると本気で怒りますよ。さぁ、部屋まで肩貸しますよ」
女 「……すまないね。なんだか迷惑かけてしまった」
男 「迷惑だって思ったらさっさと帰ってます」

男 「はい。とりあえずおとなしく寝ていて下さい。冷えピタ買わないといけませんね。何か必要なものは?」
女 「……風邪薬が丁度切れてて。食事の材料は冷蔵庫の中にあると思うけど」
男 「じゃぁ冷蔵庫見て無いやつとか適当に買ってきますよ」
女 「君もお客さんだっていうのに。本当に申し訳ない」
男 「良いんですって。じゃ、ゆっくり寝ていて下さい」



男 「ただいま。あ、寝てろって言ったのに起きてる」
女 「ベッドには横になっているよ。ごほ、ごほ」
男 「風邪薬に、あとはおかゆの具になりそうなのを色々買って来ました。それとスポーツドリンク。
   熱出して寝てると汗かきますから、水分補給しないと。それと冷えピタ。とりあえず貼りましょうか」
女 「……冷たい。こんなに熱出したのは久しぶりだよ」
男 「油断してるとそうなるんですよ。スポーツドリンク飲みます?」
女 「いや、ブラックコーヒーが飲みたいな」
男 「そんな、女さんらしいですけど、眠れなくなりますよ」
女 「たまには君の作ったやつが飲んでみたいな」
男 「……店の材料、借りますよ」
女 「どんどん使ってくれ。期待してるよ」



男 「とは言ったものの、家でも淹れたことないんだよな、実は」
男 「えーと、これをこうやってたな。それでお湯を……うわ、あふれた!」
男 「えーと、これでいいかな。飲んでみよ。……苦っ! これは飲めないわ」

女 「……なんだか一階がにぎやかだなぁ。道具は壊さないでくれよ……?」

男 「同じように淹れてるつもりでも、女さんの淹れたコーヒーとは全然違うな……」
男 「……よし、これならまぁまぁ良い出来だな」

女 「随分にぎやかに作ったね」
男 「すいません、初めてなもんで見よう見まねで作ってみました。お口に合うかどうか」
女 「そうか、君に教えてなかったね。どれ、ちょっと飲んでみよう」
男 「はい、どうぞ」
女 「……」
男 「どう、ですか? 女さんの作ったコーヒーよりは不味いですけど……」
女 「そうだねぇ。ちょっと豆の量が足りないね。苦くなるのを怖がったね?」
男 「う、その通りです。最初作ったのは苦くなりすぎちゃって」
女 「でも、初めて見よう見まねで作ったにしては上出来だよ。ありがとう」
男 「どういたしまして。はい。せっかく暖まったんだし、それ飲んだら寝てくださいね」
女 「カフェイン取った後に無茶言うね。まぁちょっと横になっておとなしくしてるよ」



男 「さて、道具片付けたし、そろそろ夕食作るか」

男 「お粥は作るの得意だからな。さっきのコーヒーの汚名返上と行くか」
男 「冷蔵庫に卵はあったよな……」
男 「すごい、冷蔵庫の中も整理整頓されてる。女さんらしいな」
男 「あれ、このクッキー、お茶請けに出てくるやつだ」
男 「やっぱり手作りだったんだ。手作り風なのかとも思ってたけど」
男 「ん? よく見ると割れたりしてる。失敗したやつとって置いたんだ」
男 「俺の為に、か」
男 「……」

男 「女さん、起きてますか? 食事ですよ」
女 「……あぁ、すまないね。君料理出来るんだ」
男 「一人暮らしですよ、俺は。はい。口空けて」
女 「おいおい、それはないだろう。一人で食べられるよ」
男 「何言ってるんですか、コーヒーカップ持つ手もあぶなっかしい人が」
女 「でもなぁ……」
男 「ほら、空けないと鼻から食べてもらいますよ~」
女 「分かったよ。……///」
男 「どうですか? なかなかのもんでしょ?」
女 「見た目はシンプルだけど、味はしっかりしてるね。薄味だけどダシが効いてて」
男 「こう見えても料理は得意なんですよ。はい、あ~ん」
女 「/// で、出来れば今度は普通に食べたいものだね。これは、は、恥ずかしい……」
男 「誰も見てませんって。(や、やばい。この弱弱しい姿で恥ずかしがる女さんは…・…)」



男 「さて、後片付けも済んだし、薬も飲ませたし」
女 「……すっかり世話になっちゃったね」
男 「具合はどうですか?」
女 「うん、薬が効いたせいか、今は大丈夫。一晩寝れば治りそうだよ」
男 「夜中何があるか分からないですから、看病できれば良いんですけど……」
女 「それは流石にお断りするよ。君も明日があるんだし、気になって眠れそうにないからね」
男 「それもそうですね。何かあったら電話下さい。近くなんで駆けつけますよ」
女 「来ても鍵掛かってるよ? 病人にドアまで来させる気かい?」
男 「……あ」
女 「君らしいな。……ほら、これ持って行って」
男 「鍵……スペアですか?
女 「そう。今晩は呼ぶことは無いと思うけどね。今後何かあった時に、ってことで」
男 「……いいんですか?」
女 「君を信用してのことだよ」
男 「ありがとう、ございます」
女 「それはこっちの台詞さ。今日は本当にありがとう」
男 「気にしないで下さい。それじゃ、お大事に」

男 「(す、スペアキー……。女さんの家の鍵……!)」



女 「やぁ、来てしまったんだね」
男 「しまった、って。とりあえずいつもの」
女 「ビールじゃないんだから、君。はい、いつもの」
男 「ども。……あれ、なんか味が」
女 「どうしたんだい? 変な物は入れてないよ」
男 「いや、これいつもと……ちょっと飲んでみてください」
女 「……本当だ。これは……あ!」
男 「どうしました?」
女 「いつも使うコーヒー豆が切れて、同じ入れ物に焙煎失敗した豆入れておいたんだ」
男 「それ、そのまま使ったんですか……」
女 「どうやらそのようだ……」
男 「なんだ、どうりであまり美味しくないと思いましたよ」
女 「……最初飲んだ時からそう思ってたんだね?」
男 「そうですよ、何ですか? まさか俺が悪いと?」
女 「そうは言っていないだろう。ただ、最初から不味いって言えば良いのに、って事さ」
男 「そんな、俺が悪いって言うんですか。それなら女さんこそ失敗した豆の事くらい覚えていて下さいよ」
女 「君に口出しされるとはね……。すまないが今日は帰ってくれないか」
男 「言われなくても帰りますよ。なんだか今日は居心地が悪いですからね、この店」

女 「……なんで、こんなに意地はってしまうんだろうね、今日の私は」

男 「……なんで、むきになって反論しちゃうんだろうな、今日の俺は」



男 「あーもー、むしゃくしゃする! 口直しに缶コーヒー飲むか。あのコーヒーよりは美味しそうだ」

女 「まったく、不味い不味いとは言っても飲めない不味さでもないだろうに」

男 「(ぶしゅ) ……はぁ。そうだよな、妙に遠まわしに指摘せずに、素直にいつもより不味いって言えば良かったんだよな」

女 「……。せっかく男君が指摘してくれたのに、失敗したことを恥ずかしがって八つ当たりなんて……。子供じゃないか私は」

男 「……女さん。この缶コーヒー、さっきのコーヒーより、不味いですよ……」

女 「……男君。このコーヒー。やっぱり不味くて飲めたもんじゃないよ……」



男 「なんだか入りにくいなぁ……。でもそう思いつつ来てしまった俺て……」
カラン コロン

男 「!!! びっくりした……」

女 「ドアの前で立ってないで入って来なよ」
男 「あ、はい。お邪魔します……」

男 「あの。女さん。昨日は、その」
女 「ストップ!」
男 「え?」
女 「昨日の話は無しだ。今日は昨日の変わりに美味しいブラックコーヒーをご馳走しよう。それで昨日のアレは無かったことにしよう」
男 「……分かりました」



女 「はい、どうぞ」
男 「頂きます。……美味しい。いつもとぜんぜん味が違いますよ、これ!」
女 「そういってもらえると頑張ってブレンドした甲斐があるよ」
男 「こんなに変わるもんなんですね……」
女 「男君」
男 「何ですか?」
女 「昨日は、意地張ってごめん。素直に謝ればよかったのに、不快な思いをさせてしまった」
男 「……ずるいですよ。俺が先に謝ろうとしたのに。……こっちこそ、ごめんなさい」
女 「よし。これで昨日の出来事は終わりだ。そのブレンド、気に入ってくれたみたいだから、次からもそれを出すよ」
男 「本当ですか? ありがとうございます」
女 「今までで一番気合入れて作ったんだ。味わって飲んでくれよ」
男 「なんだか、昨日ケンカしてよかったです」
女 「奇遇だね。私も同じことを思ったよ」



男 「ありがとうございました。美味しかったです」
女 「こっちこそ、気持ちがすっきりしたよ。ありがとう」
男 「じゃ、俺帰りますね」
女 「気をつけて。あ、ちょっと待って」
男 「え? どうしました?」
女 「……いや、なんでもない。また、飲みに来てよ」
男 「なんですか。お願いするのはこっちの方ですよ。また飲ませてください、それじゃ」

女 「……さすがに、そこまで勇気は出なかったな」

女 「でも、それくらいが私らしくていいか」



男 「ちわ。寒いですね今日も」
女 「やぁ。ここはコーヒーは出さないお店だよ」
男 「いや、真顔で嘘付かないで下さいよ」
女 「君の事だから騙されるかと思って」
男 「俺はそこまでアホに見えますか?」
女 「しかし、なんだね。毎回お金貰うのも面倒だね」
男 「まだコーヒー飲んでもいないのに会計の話ですか」
女 「ほぼ毎日来てるから、月払いにしない? 割引はするよ」
男 「あ、いいですねそれ。それなら俺も小銭持たずに来れますよ」
女 「最初から高いメニューに手を出す気が無い台詞だね、それは」
男 「いつもので十分美味しいですからね。えーと、これくらいですかね?」
女 「ちょっと多いみたいだね。これくらいにしておいてあげるよ」
男 「えぇ? 良いんですか? 安いですよこれじゃ!」
女 「その代わり、顔出すだけでもいいから毎日来ること。来なかったら月末追加料金取るからね」
男 「……そういうことですか。分かりました。毎日会いに来ますよ」
女 「コーヒーはちゃんと飲んでくれよ」
男 「たまにコーヒー以外のものが出るとか無いですか?」
女 「しょうがないな。コーヒーに加えて、水とお絞りを毎週日曜日には出してあげるよ」
男 「いや、それ毎日出すもんですから」



男 「……」
女 「……」
男 「……あ、この曲良いですね。何て曲ですかね?」
女 「これ知らないって、君相当だよ。『A列車で行こう』って聞いたことないかい?」
男 「あぁ、これが! 知りませんでした」
女 「静かに聴いてるから知ってるのかと思ってたけど、君実はジャズあんまり知らないね?」
男 「良いと思ったのはとりあえず聴くだけで知識あんまり求めないタイプなんで」
女 「まぁ、知識ばっかりで頭でっかちよりは良いと思うけどね」
男 「……あ、お代わり」
女 「……はい、どうぞ。ところでさっきから何読んでるんだい?」
男 「梶井基次郎の『檸檬』です」
女 「あぁ、檸檬型爆弾を丸善に仕掛ける話か」
男 「違いますって。いや、丸善に檸檬仕掛けるんですけど」
女 「冗談だよ。あれは教科書でしか読んだことがないな、私は」
男 「読んだら貸しましょうか?」
女 「お言葉に甘えよう」
男 「分かりました。今日帰るまでには読み終わりますよ」
女 「ありがとう」
男 「……」
女 「……」

上で話題になってたネタを借りた
実は俺も檸檬は教科書で一部分しか読んだことがないという

って、教科書で載ってる分で全部なんじゃないかwww
書く前にちゃんと調べりゃよかったwww
Amazonの本、タイトルが檸檬で200ページ以上あるのがいけないんだwww



女 「……暇だねぇ」
男 「……そうですねぇ。客である俺が要るはずですけどねぇ」
女 「なんだか眠いよ。寝てもいいかい?」
男 「良いですけど、コーヒーお代わりする時には起こしますからね」
女 「それも面倒だね」
男 「……」
女 「……」
男 「……俺の顔じっと見てどうしました? 何か付いてます?」
女 「目が二つに鼻が一つと」
男 「もしかして耳が二つに口は一つ付いてます?」
女 「よく分かったねぇ」
男 「なんとなくそんな気がしました」
女 「……暇だねぇ」
男 「そうですねぇ。客である俺が要るはずですけどねぇ」
女 「やっぱり寝てもいいかい?」
男 「分かりました。サーバーに作り置きしてくれれば勝手にいれて飲みますよ」
女 「さすが男君。早速作るとするよ」



女 「……雨、だね」
男 「結構強くなってきましたね」
女 「そういえば午後雨が降るって言ってたよ」
男 「まいったな。傘持って来てないや。これは濡れながら帰るしかないか」
女 「雨に濡れても、かい?」
男 「え? 何ですそれ?」
女 「タイトルも有名だと思ったけどね。聴いたことあると思うよ」
   ♪Raindrops are falling on my head ……ってね」
男 「あぁ、ありますあります。そういえばそういうタイトル付いてましたね、それ」
女 「邦題だけどね。で、濡れて帰るつもりかい? 夜には止むみたいだよ」
男 「じゃぁ今日はちょっと長居しましょう。ところで女さん」
女 「なんだい?」
男 「きれいな歌声ですね」
女 「煽てても何も出ないよ」
男 「そんなんじゃないですよ」



男 「この店、BGMはジャズ多いですね」
女 「私がジャズ好きだからね。ブラックコーヒーにも合うだろう?」
男 「たまには違うのも良くないですか?」
女 「分かった。君が来た時だけ般若心経にするよ」
男 「それはマジで勘弁してください……」



男 「ども~。来ましたよ~」

かんじーざいぼーさー ぎょうじん はんにゃーはーらーみーたーじ

女 「やぁ。いらっしゃい」
男 「(本当にやりやがった……)」



女 「はい、いつものコーヒー」
男 「すいません。俺モルモン教徒なんでコーヒーはちょっと」
女 「あぁ、それは失礼」
男 「いや、突っ込んでくださいよ。ボケ殺しですか」
女 「いや、ここはあえてスルーしておこうかなと。それに私からはあまり突っ込まないでしょ?」
男 「言われて見ればそうですけど」
女 「しかし、知らなかったなぁ。男君がモルモン教徒だったとは」
男 「まだ言いますか。違いますよ~。冗談ですよ~」
女 「どこに向かって良いわけしてるんだい?」



女 「今日はちょっといつもと違うコーヒー試してみないかい?」
男 「もう淹れてあるわけですね。頂きましょう。……これ、本当にコーヒーですか?」
女 「よく分かったね。それは代用コーヒーだよ。タンポポコーヒー」
男 「タンポポって、あのタンポポですか?」
女 「そう。タンポポの根。昔、コーヒーが手に入りにくかった時代に飲まれたものだね」
男 「味は似てますね。似て非なるものですけど。これなら余計なの入れないでブラックがいいですね」
女 「結構苦手って人が多いんだよ。タンポポコーヒーは。君は珍しく気に入ったみたいだけど」
男 「気に入ったとまでは行かないですけど、これはこれでアリですかね」
女 「まぁ私が気まぐれで根っこから作ってみたんだ。本物はもっと美味しいと思うよ」
男 「ブラックなのに優しい甘みがありますね。まるで」
女 「恥ずかしい台詞は禁止だよ」
男 「ツッコミが入って安心しました」
女 「しまった。止めないで聴いてあげればよかった」



男「檸檬爆弾かぁ…」
女「梶井のアレか…?」
男「そうそう、本の上に檸檬のっけるアレです。一度やってみたいなあって」
女「…君は疲れているようだからコーヒーでも飲みなさい」
男「なんですかそれ、まあ、いただきますけど…」
女「そうおす、あの丸善今は無いのよ」
    _、_
男「( ; Д`) .・;'∴   ブハッ!?

      [ ̄]'E     
       . ̄           」
女「ちょ、あははは、なにその顔」
男「何で飲んでる時見計らって言うんですか!」
女「ほれ、拭いてやるから拗ねないの」
男「い、いいですって、一人でできm、フグ」
女「うりうり、ほれ、男前になった」
男「…それで無くなったというのは?」
女「ああ、潰れちゃったのよ。なんで店閉めたのか忘れたけど。今はカラオケ屋だっけ跡地?うろぼえだけど」
男「なんだか…そいううものが消えていくのって寂しいですね」
女「檸檬で主人公が『強くひきつけられた』裏通りなんかは案外残ってると思うけどね。一緒に行く?」
男「どうせデートに誘うなら京極通りか四条通にしてくださいよ」
女「ちょ、おまえデートて///」
男「さっきコーヒー吹かせてくれたお返しです」
女「…ふん、言ってろアホが」



男 「……お、今度の曲はうって変わってムーディーですね」
女 「右から左へ」
男 「そっちじゃないですって」
女 「確かにムーディーといえばムーディーだね」
男 「ですよね」
女 「これで一緒にいるのが君じゃなかったらねぇ」
男 「……今日のブラックコーヒーは苦いですね」
女 「嘘だよ。客が君じゃなかったら間違ったフリして曲飛ばすところだよ」
男 「今日のコーヒーはなんだか甘いですね」
女 「君の為に愛情込めて入れたんだよ、そう感じて当然じゃない」
男 「え?」
女 「ははは、びっくりしたかい? 冗談だよ。しかし面白い顔するなぁ君は」
男 「もー、その手の冗談はやめて下さいよ」
女 「まぁ冗談だけど嘘でもないんだよ」
男 「まだ言いますか……え?」
女 「おや、無くなったみたいだね。もう一杯飲むかい?」
男 「は、はぁ……」



ふと、思ったんだが、このスレ、ザルクールになんとなく似てね?
他人の空似かな?

女「ほほう、わたしの前で他の女の話とはいい度胸だ」
男「え、女さん今の聞いて…」
女「今ならVIP名物金魚鉢コーヒーと二度漉し胃焼けコーヒーの好きな方を選ばせてやる」
女「さ あ え ら べ 」



女 「やあ。ようこそバーボンハウスへ。
   この水はサービスじゃないから後でお金を払ってほしい」
男 「喫茶店でしょここは。それに、水に金取りますか。ってかまた店に入った早々ボケですか」
女 「うん、『また』なんだ。済まない。
   仏の顔もって言うしね。謝ろうとも思ってない」
男 「いや、そこは一応謝りましょうよ」
女 「でも、この店に入ったとき、君は、きっと言葉では言い表せない
   『ひょっとしてマジで言ってるのか?』みたいな危機感を感じてくれたと思う」
男 「あぁ、ちゃんとギャグだったんですね。安心しましたよ」
女 「閑散とした店内で、そういう気持ちを忘れないで欲しい」
男 「そう思うならもうちょっとこっちにも突っ込む心の準備させてくださいよ」
女 「そんなこととは関係なく、暇だからやってみただけなんだ」
男 「入ってくるのが俺じゃなかったらどうするつもりだったんですか」
女 「じゃぁ、注文を聞こうか」
男 「えーと、いつものコーヒー」
女 「……君には失望したよ。そこでボケなきゃ」
男 「ボケたらボケたで突っ込んでくれないくせに……」



男 「今日はクリスマスイヴですね」
女 「そういえばそうだったね。私には何も意味を成さない日だけどね」
男 「まぁ俺もなんですけどね。女さん、今日の晩御飯何ですか?」
女 「こう寒い日は鍋だね。何鍋にしようかな」
男 「鍋ですか。いいですねぇ。俺も鍋にしようかな」
女 「そのネタ振りは、『一緒にどうだい?』っていう答えを期待してるのかい?」
男 「やっぱりばれましたか。う~ん、一人で鍋って効率悪い気がして。でも食べたいし」
女 「ふふ。分かったよ。一緒に食べよう。私の家でいいかい?」
男 「やった! いやぁ、言ってみるもんですね」
女 「むろんブラックコーヒー鍋だが」
男 「……さようなら、良いイヴを」
女 「冗談だよ。まだ何にするか決めてない。店閉めて一緒に買出しに行こうか」
男 「良いですね。行きましょう」



女 「この時間からカップルだらけだね」
男 「ちょうど休日ですしねぇ」
女 「コーヒーに合う鍋ってなんだろう?」
男 「基準あくまでそこですか。えーと、豆乳鍋?」
女 「合うかなぁ? どっちにしろ難しいよ、豆乳鍋は」
男 「コーヒーに合うかどうかは別にして、タラが食べたいですね」
女 「タラ鍋か。オーソドックスだけどそれでいいか」
男 「この商店街、千円以上買い物するとターキーくれるみたいですよ」
女 「タラにターキーかい? なんだかシュールな組み合わせだね、それも」
男 「俺はタラ、女さんはターキー担当で」
女 「……材料は市場の方で買おうか」
男 「そうしましょう」



女 「美味しそうだね」
男 「腕によりをかけて作りましたから」
女 「じゃ、早速乾杯といこうか」
男 「ブラックコーヒーのしかもアイスですか」
女 「熱い鍋突きながらストーブ効かせた部屋でアイスコーヒー。
   実に風流じゃないか」
男 「シュールって言います、そういうのは。まぁ何はともあれ乾杯」
女 「何に乾杯しようか」
男 「俺と女さんの出あ」
女 「かんぱーい」
男 「……ネタ振ってボケさせてくれないってあんまりですよ」
女 「嘘だよ。ま、今年1年店に来てくれた男君に乾杯しようか」
男 「じゃぁ俺は美味しいコーヒーを飲ませてくれた女さんに乾杯しますよ」
女 「乾杯!」
男 「乾杯!」

女 「プロージット! って言ったあと床にグラス叩きつけてくれるかと思ったよ」
男 「そういう事いうと本気でやりますよ……?」



男 「しかし、なんですね」
女 「なんだい?」
男 「鍋食べてると、会話なくなるもんですね」
女 「美味しくないと会話が弾んだりするけどね」
男 「じゃあ俺のタラ鍋は成功したってことですね」
女 「それは私が保証してあげるよ」
男 「……女さん」
女 「……なんだい、神妙な顔して」
男 「……鍋にアイスコーヒーって、合わないですね」
女 「……私もそう思いつつ気が付かないフリをしていた所さ」



男 「ごちそうさまでした」
女 「ごちそうさま。美味しかった」
男 「それはよかった。食後のコーヒーが飲みたいですね」
女 「自販機なら店のすぐ横だよ」
男 「お約束とはいえ酷いなぁ」
女 「嘘だよ。淹れてくるから待ってて」

女 「はい、どうぞ」
男 「ありがとうございます。あれ? 女さんのは?」
女 「私は洗い物片付けてから頂くよ」
男 「そんな、俺もやりますよ」
女 「作るとき私はあんまり手伝えなかったんだし、ゆっくりしててよ」
男 「二人で洗えば早く終わりますよ」
女 「まぁまぁ。うちの台所狭いし、鍋で二人だけだからすぐ終わるよ」
男 「そうですか? じゃお言葉に甘えて」
女 「いつも一人だからね。久々に楽しい食卓だったよ」
男 「(エプロン姿、いいな……)」
女 「なんだか夫婦みたいだね」
男 「ごほ、ごほごほごほ!」
女 「あははは、そんなにびっくりしなくても。冗談だよ、冗談」
男 「(エプロン姿で振り向きざまにその台詞は卑怯だって……)」



女 「なんだかコーヒーだけ飲んでるから眠気が全然ないよ」
男 「お、もうこんな時間ですね」
女 「店で毎日会って話してるのに、結構話すことあるもんだね」
男 「そういや今日はずっと女さんと喋りっぱなしですね」
女 「そうだね。というか最近は君としか会話らしい会話してない気がするよ」
男 「他のお客さんとは?」
女 「そりゃ世間話くらいはするけどね。どうだい? 帰る前にもう一杯」
男 「流石に今日はこれで。明日早いですから」
女 「そうかい。じゃ、今日はお開きだね」
男 「別れ際くらいはロマンチックに行きますか」
女 「そうだね。……明日、また来てくれるかな?」
男 「いいですとも!」
女 「……そっちで来たか。君も結構古いね」
男 「最近GBAにも移植されましたし。てか知ってる女さんも中々ですね」
女 「まぁね。気をつけて帰るんだよ」
男 「女さんも、寝れないからっていつまでも起きてるとまた風邪ひきますよ」
女 「はは、気をつけるよ」







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