第30回 渡村・山田
1、国民の司法参加の意義・趣旨
<司法参加の意義・趣旨>
国民主権、民主主義と統治主体意識のために必要である
立法は国民による直接選挙という意思表明に基づいて行われている
それに基づく行政と司法とは、制度の立て方も機能も違うという前提
⇒そのような前提でどのような形で国民に司法に参加してもらうかという問題意識
- 我が国の司法への国民参加の拡充を求める声が今日出てくる背景…政治改革、行政改革に次いで司法改革が浮かび上がってきた
<参加(関与)の対象と態様>
(1)裁判手続、訴訟手続への参加、端的に言うと陪審あるいは参審等の問題
(2)「裁判官選任過程」の問題
最高裁判所裁判官については、国民審査という制度がある
それも含めて、下級裁判所の裁判官についても、その選任過程に国民の参加ということが考えられるかどうかという問題
(3)「裁判所運営」
裁判所の運営について、裁判所が国民から遠い存在となっている、あるいはその運営の実態が不透明であるというような考え方があるわけであるが、それにどのように対処するか
(4)「その他(弁護士会運営など)」
これも広い意味では司法の機能に含まれるので、既に弁護士の在り方等について、いろいろ議論はされたが、弁護士会の運営に一般国民がどのような形で参加していくかという問題
2、訴訟手続への国民参加
(1)意義と趣旨
国民が訴訟手続へ参加することにどのような意義があるか…訴訟手続へ参加の次にく
る陪審制度、あるいは参審制度のメリットとか積極的意義がこれに当る
①裁判における法律判断の前提となる、事実認定の局面
②事実認定に適用される法律判断の局面
③刑事の場合だと、有罪ということになった場合にいかなる刑を科するかという、量刑の局面
(2)参加の具体的方策参考:外国の制度
- 陪審…アメリカ・イギリス、参審…ドイツ・フランス、どちらも先進諸国で例がある
- デンマークやスウェーデンでは両方併用
訴訟手続、あるいはそれに対する国民の司法参加について
…歴史的、文化的、社会的、いろいろなその国の拠って立つ基盤と関係がある
⇒諸外国の制度の長所は消化し吸収するにしても、我が国のそういうような文化的基盤の上に確立できるような、根づくような制度を導入しなければならない
こうした趣旨から、どのような形での訴訟手続への国民参加が考えられるかということで分類したものが下の概念である
(1)事実認定について国民が参加するという方式
①陪審員が職業裁判官から独立して事実認定を行うもの
Ⅰ:答申に拘束力を認める…英米型の陪審制
Ⅱ:答申に拘束力を認めない…昭和3年から昭和18年まで、我が国で行われました陪審法に基づく陪審制度
→我が国の陪審制の特色:多数決で決するという点と、裁判官を拘束せず、再審理ということが可能であった点
②事実認定について、職業裁判官と一般国民とが合議体を構成するという方式
=事実認定のみを参審という形で行うという方式(現実にこのような制度があるわけではない)
事実認定だけについて、職業裁判官と参審員とが判断をするという形も理念的にはあり得る
Ⅰ:評決権がある方式
Ⅱ:評決権を認めない方式
※現在行われている参審制…法律の適用、量刑も含めて職業裁判官と参審員とが決する
(2)事実認定と法律適用、量刑も含めて、総括的に判断対象として、そこに国民が参加するという方式
①職業裁判官から独立して行うもの…
アメリカの一部の州:法律適用まで陪審が行うということもある
一般的に英米型陪審:事実認定のみを行っている
⇒一般的制度としてアメリカの一部の州の方式が行われているというわけではないけれども、陪審で最終的な法律適用、量刑まで判断するという方式も理念として考えられる
②職業裁判官と合議体を構成して事実認定と法律適用、量刑も行う方式
…通常ヨーロッパで行われている参審制
Ⅰ:参審員に評決権があるというのがドイツ、あるいはフランス型の参審制
Ⅱ:評決権がない方式
※参考:司法委員
…司法委員は職業裁判官と合議体を構成するわけではないが、審理に立会って意見を述べる。したがって評決権まではないが、やや機能的に類似している。
○陪審制度:事実認定を一般人からなる陪審が専ら担当
(メリット・積極的意義)
·国民の司法に対する積極的参加
·国民による裁判に基づく責任の分担
·わかりやすい裁判の実現
·裁判の迅速化
·新鮮な感覚による証拠の評価など
(デメリット・問題点)
·合憲性
·判断の不確実性
·判断過程のブラックボックス化
·感情に流された判断のおそれ
·国民の負担
·上訴制限
·報道規制など
○参審制度:一般人(いわゆる専門参審では、一般人ではなく、一定の事件類型に関する専門家)が素人裁判官として事実認定だけでなく法律判断や量刑(刑事訴訟)についても職業裁判官と同等に関与
○その他:典型的な陪審・参審制度以外の参加形態
·司法委員
·その他
3、裁判官選任過程への参加
○最高裁判所裁判官選任過程への参加
○下級審裁判所裁判官選任過程への参加
4、裁判所運営への参加
裁判所が庶民から遠いと言われているわけだが、その運営の透明化、その運営に国民の意思を反映させる方策はないか、その具体的方策はどうかという問題
5、現行司法参加制度の改革
現在、民事調停、家事調停、また簡易裁判所における司法委員制度が、最近非常に大きな機能を営んでいる
→
- 家庭裁判所での参与員制度を更に改善・拡充していく方策はどうか
- 特に調停制度、司法委員制度、参与員制度は、人によって支えられているから、そこに多様、かつ適切な人材を確保するための方策はどうか
検察審査会…検察官の起訴処分について一般国民の民意を反映するという制度
それなりの効果を上げているが、更にこれを強化、改善する、議決にある範囲内で法的拘束力を付与することはどうかという問題
保護司制度…日本の保護司による保護の制度
大変大きな機能を営んでいるが、その保護司に適切なる人材を得て、有効適切に運用していくのにはどのような方策を考えるべきか
日本弁護士連合会の意見
1、我が国の国民の司法参加制度
特徴
- 参加できる領域が極めて限定されているということ
- 司法権の最も重要な作用である訴訟手続、判断手続に参加する制度が皆無であるという点
小手先の部分的な改善ではなくて、まさに21世紀を展望して、我が国に法の支配を確立し、国際的評価に耐え得る活力のある司法を作ること
⇒抜本的な改革の方向を示すことであることが求められる。
2、21世紀社会の在り方と国民の司法参加について
方向性
「法がこの国の血肉と化」すこと、
「国民一人ひとりが、統治客体意識から脱却し、自律的でかつ社会的責任を負った統治主体」となること、
「司法(法曹)はいわば‘‘国民の社会生活上の医師’’の役割を果たすべき存在」となること
3、国際動向
陪審制度についても、適用する範囲などに工夫をしながらも、多くの国で採用されて
いる。
いわゆる英米法系の極めて限られた国だけで採用されているという制度ではない。
ロシアとスペイン…陪審制度を復活
中南米諸国…たくさん採用されている
⇒陪審裁判の国は増加傾向にある
一部の国では、効率性や、合理的な運用という観点から、部分的な手直しを行っているが陪審制度を廃止しようという動きはない。
4、陪審制度と参審制度の評価
陪審制度…陪審員が事実判断を担当して、裁判官は法律の専門家として法律判断と訴訟手続の進行を担当。
それぞれが役割を分担して、最終判断のイニシアチブと責任が陪審員たる市民に帰属するという点に最大の特徴。主体は市民であって、裁判官、弁護士などの専門家は、むしろそれを補助するという役割を果たす。
参審制度…裁判官に参審員が加わって一緒に判断をするという仕組みで、裁判官が引き続きイニシアチブを持つ。
主体はあくまで裁判官であって、市民は補助者にすぎないというのが実情。参審員は専門家である裁判官と一緒にやるということから、それに伍してなかなか役割を果たすことができないということで、いわゆる「お飾り論」ということが言われるのも無理からぬ面がある。
<消極論>
陪審制度に対する批判
○陪審制度の採用によって、真実発見に重きを置く我が国の刑事裁判が変質をして、ラフジャスティスになる
→我が国の冤罪発生の主な原因は、自白の偏重、調書中心の構造にあるわけなので、法廷の審理によって真実を発見するという公判中心主義、直接主義、口頭主義に改革をしていかなければならない。直接主義、口頭主義というのは、フランスやドイツなども含めて、これは世界の趨勢であり陪審制度はそれに最も適合する制度である。
○誤審の可能性が高まるのではないか
→アメリカやイギリスで陪審裁判に対する多くの研究があり、誤判の原因として指摘されているのは、警察や検察の証拠隠しなどの不正、弁護人の無能、科学的な証拠の誤りというものがほとんどである。陪審制度そのものが間違いの原因だという研究結果は見当たらない。
⇒弁連は陪審裁判につきましても、事実誤認を理由とする被告人の上訴を認めることを提言している。
「二重の保障」…デンマークでは陪審が有罪の評決をしても、裁判官が無罪であると考えた場合には、これを破棄できるという制度を取っている。
○日本に陪審制度はなじまないのではないか?
→既に戦前陪審裁判が484件行われている。
⇒今回日弁連は検察審査会の審査員の経験者にアンケートを行った。これは検察審査協会の協力で、全国の弁護士会が行ったもの。今年の8月31日までに5,800通送り、そのうち2,315の回答を得た。
- 検察審査会の委員を体験してよかったと思う人が90%に達している。
- 検察審査員を経験した人が、陪審制度を導入することについてどう思うかという質問に対して、77%の人が賛成している
○国民の負担になるのではないか
→統治主体として参画する社会を目指す以上、ある程度の負担はやむを得ないこと
⇒陪審裁判は戦前の経験では平均審理日数が1.7日、アメリカでも多くは大体3日以内に終わっているので、拘束される期間の点では、それほど大きな負担ではない。
- 検察審査員経験者の意見では、72%の人が陪審員の負担について、国民の理解は得られると回答している
○陪審員に対する危害についての危惧
→小説や映画の世界はともかく、現実にはほとんど起こっていない。
○陪審制度が導入されて集中審議が実施されると、弁護士が対応できるのか
→日弁連の提案のように、当面、刑事重罪事件の否認事件について選択的陪審制度を導入するということしても、予想される事件数というのはそれほど多数ではないので、特にまた大都市に多いということからしても、十分対応できる。特別な事件では弁護団体制を組むということもある。今後、この審議会で審議したように、弁護士人口が増える、そして、また法人化などを含め、事務所機能の強化が図られていくという流れになっているので、より対応は可能になっていく。
○憲法上の問題
→日本国憲法は国民主権を採用しており、陪審の本場のアメリカの強い影響下に制定されたという経緯もある。国民の司法参加、特に陪審制度が、最も国民主権にかなう制度であって、憲法がこれを許容していないということは考えられない。現に憲法とそれに続く裁判所法の制定過程において、立法当局者を含めて合憲論が大勢であった。
⇒この憲法は旧憲法のように、「裁判官による裁判」ではなくて、「裁判所において裁判を受ける権利」と規定しているし、陪審制度を法律で定めれば、憲法76条3項との関係でも抵触しないと思うので、憲法上の問題はクリアーできる。
参審制度についても、基本的には同様であるが、少し別の問題がある。憲法78条以下の身分保証その他の規定については、これは常職の裁判官についての規定であって、特に参審員を排除するというところまでの規定ではないと考えればクリアーできるのではないか。
○級審の裁判官の任用手続
日弁連の提案…は新任・再任についてブロック単位で裁判官推薦委員会を設置して、最高裁へ市民代表も加わって推薦をしていくということと、最高裁が指名名簿の登載手続をするときに、その段階でも市民代表が参加をすることを提案
⇒アメリカ、イギリスやドイツ、これは州によるが、フランス、オランダなど、主要な国では何らかの形で市民、あるいは裁判所以外の法曹関係者が裁判官の任用手続に関与をするというのが潮流で、我が国のように最高裁の事務総局が一手に管理運用しているというところは見当たらない。判官の職務評価への国民参加についても、大変不透明であるという指摘がある。
○まとめ
民の司法参加制度は長所もあれば短所もある。この世に完全無欠の制度というのはない。世界の各国はさまざまな工夫をこらしながらも、充実した司法参加制度を持っている。21世紀を展望して、国民が自律した統治主体として参画していく社会にふさわしい国民の司法参加の在り方は何だろうか、これは陪審制度の導入しかないと日弁連としては考えている。思い切って一歩を踏み出すことが今こそ必要であり、そのことによって法が社会の血肉となり、我が国に法の支配が確立していく。
レジュメ用
第30回司法制度改革審議会
<日本弁護士連合会の意見>
1、我が国の国民の司法参加制度
- 参加できる領域が極めて限定されている
- 司法権の最も重要な作用である訴訟手続、判断手続に参加する制度が皆無である
⇒抜本的な改革の方向を示すことが求められる。
2、21世紀社会の在り方と国民の司法参加についての方向性
- 「法がこの国の血肉と化」すこと
- 「国民一人ひとりが、統治客体意識から脱却し、自律的でかつ社会的責任を負った統治主体」となること
- 「司法(法曹)はいわば‘‘国民の社会生活上の医師’’の役割を果たすべき存在」となること
3、国際動向
陪審制度はいわゆる英米法系の極めて限られた国だけで採用されているという制度ではない。
ロシアとスペイン…陪審制度を復活
中南米諸国…たくさん採用されている ⇒陪審裁判の国は増加傾向にある
4、陪審制度と参審制度の評価
陪審制度…陪審員が事実判断を担当して、裁判官は法律の専門家として法律判断と訴訟手続の進行を担当。
参審制度…裁判官に参審員が加わって一緒に判断をするという仕組みで、裁判官が引き続きイニシアチブを持つ。
5、消極論とそれに対する回答
○陪審制度の採用によって、真実発見に重きを置く我が国の刑事裁判が変質をして、ラフジャスティスになる
→我が国の冤罪発生の主な原因は、自白の偏重、調書中心の構造にあるので、法廷の審理によって真実を発見するという公判中心主義、直接主義、口頭主義に改革をしていかなければならない。これは世界の趨勢であり陪審制度はそれに最も適合する制度である。
○誤審の可能性が高まるのではないか
→英米で陪審裁判に対する多くの研究があり、陪審制度そのものが間違いの原因だという研究結果は見当たらない。
⇒弁連は陪審裁判についても、事実誤認を理由とする被告人の上訴を認めることを提言。
- 「二重の保障」…デンマークでは陪審が有罪の評決をしても、裁判官が無罪であると考えた場合には、これを破棄できるという制度を取っている。
○日本に陪審制度はなじまないのではないか
→既に戦前陪審裁判が484件行われている。
⇒検察審査会の審査員の経験者にアンケートを行った。
これは検察審査協会の協力で、全国の弁護士会が行ったもの。今年(平成12年)の8月31日までに5,800通送り、そのうち2,315の回答を得た。
- 検察審査会の委員を体験してよかったと思う人が90%に達しているえ4
- 陪審制度を導入することについてどう思うかという質問に対して、77%の人が賛成
○国民の負担になるのではないか
→統治主体として参画する社会を目指す以上、ある程度の負担はやむを得ないことである。
- 検察審査員経験者の意見では、72%の人が陪審員の負担について、国民の理解は得られると回答している
○陪審員に対する危害についての危惧
→小説や映画の世界はともかく、現実にはほとんど起こっていない。
○陪審制度が導入されて集中審議が実施されると、弁護士が対応できるのか
→日弁連の提案のように、当面、刑事重罪事件の否認事件について選択的陪審制度を導入するということしても、予想される事件数というのはそれほど多数ではないので、特にまた大都市に多いということからしても、十分対応できる。特別な事件では弁護団体制を組むということもある。今後、弁護士人口が増えるし、また法人化などを含め、事務所機能の強化が図られていくという流れになっているので、より対応は可能になっていく。
○憲法上の問題
→国民の司法参加、特に陪審制度が、最も国民主権にかなう制度であって、憲法がこれを許容していないということは考えられない。
⇒この憲法は旧憲法のように、「裁判官による裁判」ではなくて、「裁判所において裁判を受ける権利」と規定しているし、陪審制度を法律で定めれば、憲法76条3項との関係でも抵触しないと思う
→憲法78条以下の身分保証その他の規定については、これは常職の裁判官についての規定であって、特に参審員を排除するというところまでの規定ではないと考えればクリアーできるのではないか。
○下級審の裁判官の任用手続
- 日本のように最高裁の事務総局が一手に管理運用しているというところは世界でも見当たらない
→新任・再任についてブロック単位で裁判官推薦委員会を設置して、最高裁へ市民代表も加わって推薦をしていくということと、最高裁が指名名簿の登載手続をするときに、その段階でも市民代表が参加をすることを提案する。
- 裁判官の職務評価への国民参加についても、大変不透明であるという指摘がある
→内部改革として評価権者・基準・根拠の明確化、本人への開示・不服申立機関の設置、外部評価の実施などが必要。
6、まとめ
この世に完全無欠の制度というのはない。世界の各国はさまざまな工夫をこらしながらも、充実した司法参加制度を持っている。21世紀を展望して、国民が自律した統治主体として参画していく社会にふさわしい国民の司法制度改革は陪審制度の導入しかないと日弁連としては考えている。思い切って一歩を踏み出すことで、我が国に法の支配が確立していく。
最終更新:2007年11月15日 23:37