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【文献番号】25463694

各受信料請求控訴,附帯控訴事件
東京高等裁判所平成21年(ネ)第4582号,平成22年(ネ)第904号
平成22年6月29日第4民事部判決
口頭弁論終結日 平成22年4月27日

       判   決

控訴人兼附帯被控訴人 X1(以下「控訴人X1」という。)
控訴人兼附帯被控訴人 X2(以下「控訴人X2」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 梓澤和幸
同 藤川綱之
同 日隅一雄
被控訴人兼附帯控訴人 日本放送協会(以下「被控訴人」という。)
同代表者会長 Y
同訴訟代理人弁護士 手島康子
同 高木志伸
同 高木裕康
同 清水豊
同 鈴木知幸
同 中村繁史


       主   文

1 本件各控訴を棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)控訴人X1及び控訴人X2は,被控訴人に対し,それぞれ9万6850円及びうち4万7430円に対する平成19年4月1日から,うち3万3280円に対する平成21年4月1日から,うち2690円に対する同年6月1日から,うち1万3450円に対する平成22年4月1日からそれぞれ支払済みの日が属する月の前月(支払済みの日が偶数月に属する場合)又は前々月(支払済みの日が奇数月に属する場合)の末日まで,2か月当たり2パーセントの割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用も含む。)は,第1,2審とも控訴人らの負担とする。
(3)この判決は,仮に執行することができる。


       事実及び理由

第1 控訴及び附帯控訴の趣旨
1 控訴人らの控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 附帯控訴の趣旨
 主文第2項と同旨
第2 事案の概要及び当事者の主張
1 本件は,1審原告である被控訴人が,1審被告である控訴人X1及び控訴人X2との間の各放送受信契約に基づき,控訴人らに対し,原審においては,それぞれ平成16年4月1日から平成21年3月31日までの放送受信料8万3400円及び約定遅延損害金の支払を,当審においては,附帯控訴のうえ,それぞれ平成21年4月1日から平成22年1月31日までの放送受信料1万3450円及び約定遅延損害金の支払を求めるという事案である。
2 原判決が,被控訴人の本件各請求を認容したので,控訴人らは,原判決を不服として控訴した。そして,被控訴人は,平成21年4月1日以降も控訴人らが放送受信料を支払わないので,上記のとおり,平成21年4月1日から平成22年1月31日までに発生した放送受信料1万3450円及びこれに対する附帯控訴状送達の日である平成22年2月19日以降の最初の翌期である同年3月1日から,支払済みの日の属する期の直前の期の末日まで2か月当たり2パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めて,附帯控訴のうえ請求を拡張した。
3 当事者の主張は,次項に当事者の当審主張を付加するほか,原判決中「事実及び理由」の「第2 当事者の主張等」欄の(当事者の主張)に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当事者の当審主張
(1)控訴人らの主張及び認否
ア 仮に控訴人X1が,本件放送受信契約を締結したとしても,甲ロ2の記載からして平成15年10月から同年11月までの契約をしただけであって,将来の契約を締結していない。
イ(ア)仮に控訴人X2が,本件放送受信契約を締結したとしても,甲ハ2の記載からして平成14年5月の契約をしただけであって,将来の契約を締結していない。
(イ)本件放送受信契約は,民法761条の日常家事債務には該当しない。すなわち,現代社会において,テレビ番組の視聴は日常生活に必要な情報を収集するため又は相当な範囲内の娯楽として夫婦の共同生活を営む上で通常必要なものであるとしても,民放のテレビ番組の視聴で足り,その中に被控訴人の番組の視聴が含まれるものではない。被控訴人が行った視聴率調査結果によってもNHK総合テレビを一週間に5分以上視聴した人の割合は,59.1パーセントにすぎず,4割の者が一週間まったく被控訴人の番組を視聴しないのであり,被控訴人の番組の視聴が一般的であると安易にいうことはできない。また,被控訴人の番組の象徴でもある紅白歌合戦の視聴率も激減しており,昨今では3割を切らんとする衰退ぶりである。また,放送受信契約は,テレビを廃棄しない限り放送受信料の支払を継続しなければならないという特殊な契約であり,しかも,放送受信料という特殊な負担金を被控訴人に納付するという民法上の贈与契約に類するものであるから,日常家事債務に当たると認定することはできない。
ウ 被控訴人の主張に対する認否
 被控訴人の主張イの(ア)は認め,(イ)は争う。
(2)被控訴人の主張及び認否
ア 控訴人らのア及びイの主張は争う。
イ 被控訴人の主張
(ア)控訴人らは,平成21年4月1日以降の放送受信料(平成21年度第1期以降の放送受信料)についても支払わない。
(イ)よって,被控訴人は,控訴人らに対し,各放送受信契約に基づき,それぞれ平成21年4月1日から平成22年1月31日までに発生した放送受信料1万3450円及びこれに対する本件附帯控訴状送達の日である平成22年2月19日以降の最初の翌期である同年3月1日から,支払済みの日の属する期の直前の期の末日まで2か月当たり2パーセントの割合による遅延損害金の各支払を求める。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の本件各請求は理由があるものと判断する。その理由は以下のとおりである。
2 請求原因について
(1)ア 原判決記載の請求原因(1)(当事者),同(3)(放送受信規約の改正),同(4)(放送受信料不払)及び控訴審における当事者の主張である,控訴人らが平成21年4月1日以降も放送受信料を支払っていないことは,いずれも当事者間に争いがない。
イ 控訴人X1について
(ア)本件放送受信契約(X1)の契約書(甲ロ2)が控訴人X1の意思に基づいて作成されたことは当事者間に争いのないところ,契約書が当事者間の意思に基づいて作成された場合には,特段の事情がない限り,その契約書に記載されたとおりの法律行為がされたものというべきである。
 そして,特段の事情が存在するかについて検討するに,控訴人X1は,原審の本人尋問において,契約書であるとの説明を受けていなかったので,契約書とは考えずに署名押印した旨を供述する。たしかに,甲ロ2によれば,書面上に,放送受信契約書,放送受信料口座振替利用届,住所変更届,放送受信料自動払込利用届のいずれかに○を付すことになっているのに,○が付されていないこと,また,「1.放送法,放送受信規約により放送受信契約を締結します」「2.住所を変更したので届けます」「3.放送受信料を,口座振替・自動払込みにより支払うことを申し込みます」との記載があり,該当箇所に○を付すようになっているが○が付されていないことを認めることができるものの,同書面には,「01新規契約」に○が記されており,控訴人X1は新規契約者である(原審控訴人X1本人及び弁論の全趣旨)から,契約者であることを前提としての,住所変更の届出や口座振替・自動払込みの申込みであることは考えられず,また,同書面作成の時に2790円を支払っていること(甲ロ2及び原審控訴人X1本人)を認めることができる。このことを前提とすると,控訴人X1は,同書面作成時に,2790円を支払っているのであり,一般に,出捐を伴う場合において,どのような趣旨の金員かを確認しないまま出捐することは考えられないことからすれば,控訴人X1において,放送受信契約であることを認識して署名押印したものと解されるのであって,どのような書類かの認識を欠いたまま,署名押印をしたうえ,どのような趣旨の金員か不明のまま2790円を支払ったという控訴人X1の供述内容は合理性を欠くといわざるを得ない。さらに,控訴人X1は,原審の本人尋問において,同書面作成の際に,集金人が放送受信契約,あるいは受信契約という言葉を使ったことは1度もない旨の供述をするものの,同書面の写しの交付を受けているかについて,当初,交付を受けていないと供述していたが,同書面が複写式となっていることや以前に領収書と思っていた旨の供述をしていたことを被控訴人代理人から指摘されて,記憶が曖昧であるとの返答をするに至り,同書面作成の経緯に関する重要な事実について供述を変遷させており,控訴人X1の供述内容を全面的に信用することもできない。
 以上を前提とすると,控訴人X1は,放送受信契約の契約書であることを認識した上で,同契約書に署名押印したものと認めることができ,特段の事情の存在も認められない。
(イ)控訴人X1は,当審において,期間を限定した放送受信契約を締結したかのように主張する。たしかに,同書面(甲ロ2)の期間欄に「15年10月~15年11月」と記載があるものの,控訴人X1は,この期間を超えて,平成15年10月から平成16年3月31日まで放送受信料を支払ったことについては当事者間に争いのない事実であること,加えて,控訴人X1は,原審の本人尋問において,被控訴人の不祥事の報道に接し,これに対する抗議の意味で支払を停止した旨の供述をしているのであるから,期間を限定した放送受信契約を締結したことを認めることはできない。したがって,控訴人X1の上記の主張は採用することができない。
ウ 控訴人X2について
(ア)本件放送受信契約(X2)の契約書(甲ハ2)が控訴人X2の妻の意思に基づいて作成されたことは当事者間に争いがないのであって,契約書が当事者間の意思に基づいて作成された場合には,特段の事情がない限り,その契約書に記載されたとおりの法律行為がされたものというべきであることは前記の控訴人X1の場合と同様である。
 そして,甲ハ2によれば,書面上に,放送受信契約書,放送受信料口座振替利用届,住所変更届,放送受信料自動払込利用届のいずれかに○を付すことになっているが,放送受信契約書との文言に○が付され,また,「1.放送法,放送受信規約により放送受信契約を締結します」「2.住所を変更したので届けます」「3.放送受信料を,口座振替・自動払込みにより支払うことを申込みます」と記載があり,該当箇所に○を付すようになっているところ,「1.」に○が付されていること,さらに1395円をその際に支払っていることを認めることができるのであるから,控訴人X2の妻は,放送受信契約であることを認識して同書面に署名押印したものと認めることができるのであって,特段の事情を認めることはできない。
(イ)控訴人X2は,当審において,期間を限定して放送受信契約を締結したかのように主張する。同書面(甲ハ2)の期間欄に「14年5月~14年5月」と記載があるものの,控訴人X2は,この期間を超えて平成14年5月から平成16年3月31日まで放送受信料を支払っていたことについては当事者間に争いのない事実であること,加えて,控訴人X2は,原審の本人尋問において,お金がないこと及び被控訴人の不祥事の報道に接して,それ以後被控訴人の放送を視聴しないこととしたので支払を停止した旨の供述をしているのであるから,期間を限定した放送受信契約を締結したことを認めることはできない。したがって,控訴人X2の上記の主張は採用することができない。
(ウ)いわゆる日常家事債務について
 民法761条に定める,日常家事に関する法律行為によって発生した債務とは,婚姻共同体において家庭生活を営むために通常必要とされる法律行為に基づく債務であるが,問題となる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するに当たっては,同条が,夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることにかんがみ,内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく,客観的に,その法律行為の種類,性質等を考慮して判断すべきであるところ,現代社会において,テレビ番組の視聴は,日常生活に必要な情報を収集するため又は相当な範囲内の娯楽として,夫婦の共同生活を営む上で通常必要なものといえ,そして,放送法(以下「法」という。)32条は,「協会(被控訴人)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会(被控訴人)とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定しており,この規定によれば,被控訴人の番組の視聴をするか否かを問わず,契約締結を強制しているものということができる。したがって,法32条の規定の文言を前提とする限り,放送受信契約の締結は,民法761条本文の日常の家事に関する法律行為の範囲に属するということができる。
 控訴人X2は,日常家事債務該当性について,現代社会において,テレビ番組の視聴は日常生活に必要な情報を収集するため又は相当な範囲内の娯楽として夫婦の共同生活を営む上で通常必要なものであるとしても,民放のテレビ番組の視聴で足り,その中に被控訴人の番組の視聴が含まれるものではない等と主張するが,控訴人X2の上記の主張は,法32条が契約締結を強制している部分が無効であるか,被控訴人の番組の視聴をする場合に限って契約を締結するとの限定解釈をすべきである旨の主張と同旨を主張することに帰するものと解される。法32条が無効であるか,限定解釈をすべきであるかについては後記の抗弁(1)ウ(法32条の趣旨)において検討するので,ここでは,法32条の文言どおりの規定の趣旨であることを前提として判断をすることとする。そうとすると,本件放送受信契約(X2)の締結は,民法761条本文の日常の家事に関する法律行為に当たることになり,控訴人X2の妻は,本件放送受信契約(X2)の締結当時,同契約の締結に関する代理権を有していたものと認められる。したがって,控訴人X2の上記の主張は採用することができない。
2 抗弁について
(1)放送法の規定及び構造
ア 法1条には,「この法律は,左に掲げる原則に従って,放送を公共の福祉に適合するように規律し,その健全な発達を図ることを目的とする。」として,その原則として,「1 放送が国民に最大限に普及されて,その効用をもたらすことを保障すること 2 放送の不偏不党,真実及び自律を保障することによって,放送による表現の自由を確保すること 3 放送に携わる者の職責を明らかにすることによって,放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」が規定されている。
 そして,放送の経営形態に係る立法政策としては,〔1〕民営企業のみによる形態,〔2〕国営企業のみによる形態,〔3〕公営企業のみによる形態,〔4〕公営企業及び民営企業の2本立ての形態の四つがみられるところ,これらの放送事業の各経営形態については一長一短があって,放送事業が民営企業でのみ経営されると,放送事業が都市部に集中傾斜して,営利性の乏しいそれ以外の地域は顧みられなくなるおそれがある一方で,国営企業又は公営企業のみで経営されると,国から独立して番組等を作成する放送番組の編集の自由,ひいては表現の自由との関係で問題を生じるおそれがあることなどにかんがみて,法は,個人の創意工夫により闊達に放送文化を建設高揚する自由な事業として一般放送事業者による放送(法2条3号の2,3,51条以下)を認めるとともに,全国民にその要望を満たす内容を放送することのできる公共的な事業体としての被控訴人を設立して(法8条),一般放送事業者による放送及び被控訴人による放送という独立した二系列の事業システムを構築し,これを併立させることにより,我が国の放送事業が全体として公共の福祉に適合する健全な発達を促す総合的な体制を確保しようとしたものである。
イ 被控訴人の目的として,「公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による国内放送を行い又は当該放送番組を委託して放送させるとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い,あわせて国際放送及び委託協会国際放送業務を行うことを目的とする。」(法7条)と規定し,被控訴人を全国民の要望を満たすような放送番組を放送する任務を有する公共性の強い特殊法人として位置づけるとともに,独立した二系列の事業システムに属する各放送事業者は,互いにその長所を発揮し,互いに啓蒙して,各々その欠点を補うことが期待されている仕組みのなかにあるといえる。
 そして,一般放送事業者の放送事業に比して被控訴人の放送事業の特色としては,法は,被控訴人に対し,放送番組の編集及び放送の委託に当たっては,「豊かで,かつ,良い放送番組を放送し又は委託して放送させることによって公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように,最大の努力を払うこと」「全国向けの放送番組のほか,地方向けの放送番組を有するようにすること」「我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること」を求め(法44条1項),一般放送事業者にはない,高い水準の義務を法定するほか,被控訴人は,公衆の要望を知るため,定期的に,科学的世論調査を行い,かつ,その結果を公表しなければならないようにし(同条2項),被控訴人は,総務大臣の認可を受けなければ,その放送局を廃止し,又はその放送を12時間以上休止することができない(法48条)など,一般放送事業者にはない特別の義務を課している。また,放送事業が広告主からの広告料収入に依存する財政基盤のもとに行われる形態にあっては,言論報道の多元性の確保や少数視聴者向けの放送の実施等の確保について,制度的に困難な面が存することを免れないために,他人の営業に関する広告の放送を禁止し,広告料収入の途を閉ざし(法46条1項),他方で,自主的財源の確保の手段として,国からの拠出金等ではなく,被控訴人の放送を受信できる受信設備を設置した者に放送受信契約の締結を義務づけ(法32条1項本文),放送受信料の収入によって自主的財源を確保することとしている。
 そして,法は,被控訴人が,国から独立した特殊な法人格を有する企業としつつも,公共性を確保して適正に運営されるとともに放送受信料の適正な設定やその使途についても適正な監督ができるような仕組みを整備している。すなわち,被控訴人には,両議院の同意を得て内閣総理大臣によって任命される委員12名によって構成される経営委員会が設置され(法15条,16条),被控訴人の経営に関する基本方針や番組基準及び放送番組の編集に関する基本計画など被控訴人の業務の適正を確保するために必要な体制の整備等について議決をするほか,役員の職務の執行の監督等をすることになっている(法14条1項)。被控訴人の役員としては,経営委員とは別に,経営委員会により任命される会長と,会長が経営委員会の同意を得て任命する副会長,理事がおり,これらの者で理事会が構成される(法24条,25条及び27条1項から3項)。理事会において,被控訴人の重要業務の執行について審議し,会長が被控訴人を代表して,経営委員会の定めるところに従い,業務を総理する(法25条2項,26条1項)ほか,被控訴人の毎事業年度の収支予算,事業計画,資金計画,財務諸表及び業務報告書は,総務大臣に提出され(法37条1項,38条1項及び40条1項),総務大臣は,これについて意見を付して内閣を経て国会に提出し,毎事業年度の収支予算,事業計画,資金計画については国会の承認事項とされ,契約締結者から徴収する月額受信料の額についても収支予算の承認によって定めるものとされている(法37条2項,4項)。業務報告書については国会の報告事項とされ,財務諸表についても会計検査院の検査を経て国会に提出される(法37条2項,38条2項及び40条2項,3項)ことになっている。
ウ 法32条の趣旨
(ア)被控訴人は,上記認定のところから明らかなように,国から独立した組織として構成されながらも,国民の代表者で組織された国会によってその運営及びその資金使途等についても間接的にコントロールされている。また,被控訴人が全国においてあまねく放送を受信できるように放送することや少数視聴者向けの放送の実施等を確保することが期待されているだけではなく,被控訴人が行う放送の水準を確保することは,一般放送事業者の放送水準の確保にも繋がることになるというべきである。なぜなら,仮に広告料収入を財源とする一般放送事業者のみによる放送を行う体制となれば,民営企業としては利潤の最大化を求めざるを得ないために視聴率の最大化を求め画一的,ときには商業主義的に傾斜した番組の制作及び編成に向かいがちであろうし,広告効果を超える制作費のかかる番組提供は当然に困難とならざるを得ないことが容易に予想され,その意味で,一般放送事業者は,広告収入を事業の財政基盤としているがゆえに,中立的な報道をすることや質の高い番組を制作するなどの点において,公営企業による放送と比べて財政面に由来する制度的な限界を内包することは否めないものがある以上,被控訴人による放送の存在が,我が国の放送全般的な質の点において競争現象をもたらして,一般放送事業者による放送の質の確保に資する面があるばかりか,実際にも,現在の我が国全土における放送事業が国民からの大多数の支持を集めて発展しているものと認められるからである。そうであるとすれば,独立した二系列の事業システムに属する各放送事業者による放送の併立を求める法の趣旨には,個別の放送番組の内容などに関する良否ということを超えた全国的な放送体制としての合理性があるものと認められる。
 なお,これに関連して,控訴人らは,被控訴人による放送の番組内容や編成その他に疑義がある旨主張するが,それは,法32条の定めが著しく合理性を欠きその効力を否定すべくその制度上の是正しがたい欠陥を指摘するものではなく,その運用のあり方を批判するものにすぎず,前記した二系列の事業システムの併立体制に内在する非合理な欠陥を示す具体的な事実を主張立証するところはない。 
(イ)次に,被控訴人が法により付与された放送事業に係る任務を遂行するため,その財源確保のために,法32条1項は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と規定する。国庫からの支出や予算配分をすることによって被控訴人の財政的な基盤を確保する途もあり得るが,法は,被控訴人の番組編成や報道等において,国家からの独立性及び中立性を確保して,被控訴人の表現の自由を確保するために,上記のように放送受信契約に基づく放送受信料によって被控訴人の財政基盤を確保することとしたものである。そして,同条項によれば,被控訴人の放送を受信できる受信設備を設置した以上,被控訴人の放送を視聴したか否かにかかわらず,被控訴人と受信契約を締結しなければならず,放送受信料を支払う義務を負うと規定している。この「受信料」は,国家機関ではない被控訴人という特殊法人に徴収権を認めた特殊な負担金というべきものであり,当該放送受信料の支払義務を発生させるための法技術として受信設備の設置者と被控訴人との放送受信契約の締結強制という手法を採用したものと解される。そして,上記認定のように,被控訴人は,国から独立した企業としつつも,公共性を確保して適正に運営されるための仕組みのほか,放送受信契約者からの放送受信料の適正な設定やその使途についても国会を通じて適正に監督がされるような仕組みが備わっているといえ,国会の承認を得て定められる「受信料」の負担も是認することができるというべきである。したがって,法32条の規定は合理性を有するものと認めることができる。
(ウ)また,たしかに,控訴人らのように都市部に住居を構え,多数の一般放送事業者による放送もされている地域に居住していれば,一般放送事業者による放送だけしか視聴しないこともあり得ることである。ただ,前記した被控訴人の公共的な性格やその放送が行われていること自体が,一般的放送事業者の番組編成等に対しても一定の影響を与えていること,すなわち,二系列の事業システムの併立体制が全国における放送事業の健全な発達を保持しているものであって,その意味で,一般放送事業者による放送は,被控訴人による放送から一定の影響を受けていることが認められるが,それは,一般放送事業者による放送だけが単に一方的に間接的な恩恵を受けるに止まらず,上記の二系列の事業システムの併立体制により全国的に良い放送を実現している点において互恵的な関係にあるともいえ,総体的には積極的な効果が存することも否定できないのである。したがって,法32条において,被控訴人の放送を受信することができる受信設備を設置した者が被控訴人の放送を視聴しない場合でも被控訴人との間で放送受信契約を締結しなければならないとする趣旨が含意されているとしても,なお法32条の規定の合理性が否定されるものではない。
 結局,控訴人らの,被控訴人による放送は何ら良い影響もない旨の主張は,上記の次第から,採用することができず,また,運用上の不祥事がある旨の主張も,前示の次第から,法32条の存在意義を支える立法事実が全く又は殆ど存在していないことを具体的に主張するものではなく,また,そうした立法事実をうかがわせるに足りる的確な証拠もないから,同条について一部無効又は限定解釈をすべき根拠はない。
(2)牽連性・対価性について
ア 牽連性について
 法の上記した構造にかんがみると,広告料収入を財政基盤とする一般放送事業者と,広告料収入を財政基盤とせず営利を目的としない被控訴人とを併立させ,被控訴人の放送に当たっては,広告主や国家のいずれの意向にも影響されないものとしている。被控訴人が「豊かで良い放送を行う義務」を課せられているが,この義務についても,そのような文脈のもとに理解すべき性質のものであるから,被控訴人は,個々の契約者との間において,放送受信料の支払義務と対価的な双務関係に立つものではなく,国民に対して一般的抽象的に負担する義務と解するのが相当である。
イ 対価性について
 法32条は,放送受信料の支払債務と被控訴人の放送の視聴とが対価関係になっていないことを前提とするものであり,その趣旨に合理性があることは前示のとおりである。放送受信規約5条,10条1項,13条2項及び3項等もそのことを前提として規定されているものである。
ウ したがって,牽連性・対価性に係る控訴人らの主張も理由がない。
(3)本件各放送受信契約の有効性について
ア 次に,本件各受信契約が契約者側の内心の自由,知る権利や自己決定権等を侵害しないか等について検討を加える。上記のように,法は,放送事業者である被控訴人の表現の自由を確保するための措置として,その組織のあり方や義務を法定するとともに,広告収入の途を閉ざして,自主的財源の確保として,放送受信契約に基づく放送受信料の支払義務を法定したものであって,契約者の側からすると契約者が放送受信契約について,国会で承認された放送受信料を支払うことが強制されるのみで,被控訴人が放送する番組の視聴を強制するものではないし,一般放送事業者の視聴を禁止するものでもないことから,控訴人らが種々主張する憲法違反の問題も生じないというべきである。
イ 憲法19条違反について
 控訴人らは,要するに,被控訴人の放送を嫌悪しているのに,意思に反して被控訴人との契約を強制され,放送受信料の支払を強制されることが憲法19条に違反する旨主張するものである。
 検討するに,憲法19条で保障される内心とは,特定の歴史観,世界観等の人格形成に関わる内心を指すものであって,控訴人らが主張するような被控訴人の放送に対する嫌悪感や法で定められた放送受信料の支払を回避したいという内心がこれに含まれないことは明らかである。したがって,控訴人らの法32条や放送受信規約9条が憲法19条違反のゆえに無効となる旨の主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
ウ 憲法21条違反について
 控訴人らは,控訴人らが放送受信料の支払を免れようとすると,必然的に民放のテレビ番組の視聴を妨げられ,民放のテレビ番組を視聴することにより情報を取得する自由を侵害される旨主張するが,法32条及び放送受信規約9条は,放送受信契約の締結及び被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない間の放送受信料の支払を義務づけるだけであって,民放のテレビ番組を視聴することを制限するものではない。したがって,控訴人らの上記の主張は理由がない。
エ 憲法13条違反について
 控訴人らは,どのような情報を取得するかについては,人格形成及びその発展にとって必要かつ不可欠のものであるから,憲法13条によりいかなる番組を視聴し又は視聴しないかに関する意思決定権の自由が保障されているところ,法32条がこの意思決定権の自由を侵害する旨主張する。しかしながら,法32条及び放送受信規約9条は,放送受信契約の締結及び被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない間の放送受信料の支払を義務づけるだけであって,どのような番組を視聴するかについて強制するものでも妨害するものでもない。したがって,控訴人らの上記の主張は理由がない。
 なお,控訴人らは,放送受信規約9条が民放のテレビ番組を視聴するために受信機を廃止しないでいると,被控訴人との放送受信契約の解約が禁止されるので,民放のテレビ番組のみを視聴し,被控訴人のテレビ番組を視聴しないという意思決定が侵害される旨の主張もするが,前示のとおり,民放のテレビ番組のみを視聴し,被控訴人のテレビ番組を視聴しないことも自由であることは明らかであり,控訴人らの上記の主張は理由がない。
オ 消費者契約法10条違反について
 控訴人らは,放送受信規約9条が被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない限り,原告との放送受信契約の解約を禁止しているのは,消費者契約法10条に定める「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する」条項であるから,無効である旨主張する。しかしながら,消費者契約法は,事業者と消費者との情報の質及び量ないし交渉力の格差にかんがみ,事業者と消費者との間で締結された契約について,消費者の利益を不当に害することとなる条項を無効としたり,取り消すことができること等を定めたものであるところ,法32条が放送受信契約の締結を義務づけ,放送受信規約9条はこのことと同趣旨のことを定めるものであって(法32条が適用されることは,消費者契約法11条2項),法32条は,当事者間でこれと異なる合意をすることを禁止する強行規定と解されることからすれば,そもそも,法32条と異なる契約を締結することができない場合であって,消費者契約法10条が適用され得る余地はないといわなければならない。したがって,控訴人らの上記の主張は,その前提を欠き,採用することはできない。
カ その他
 控訴人らは,その他,種々憲法上の論点を主張しているが,詰まるところ,意思に反して放送受信料の支払の強制を受けたくない旨の主張に帰するものと思われる。しかしながら、法は,被控訴人の存在が公共的存在として意義を認めており,法32条には合理性があること,被控訴人の放送を受信することができる受信設備を設置せず,契約をしない自由もあるのであって,被控訴人の放送を受信することができる受信設備を設置した者が放送受信契約を締結しなければならず,放送受信料支払義務を負うとしても,公共の福祉による制約として国民の財産権に対する侵害にもならないのであって,控訴人の主張はいずれも独自の見解であって採用することができない。
4 結論
 以上により,被控訴人の控訴人らに対する第1審における平成16年4月1日から平成21年3月31日までの放送受信料各8万3400円及び遅延損害金の請求はいずれも理由があるから,これを認容した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきであり,また,被控訴人の当審における附帯控訴に基づき控訴人らに対する請求の拡張をした平成21年4月1日から平成22年1月31日までの各放送受信料各1万3450円及び遅延損害金の請求も理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決をする。 
東京高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官 稲田龍樹 裁判官 原啓一郎 裁判官 近藤昌昭
最終更新:2011年08月04日 10:54