1 被告は,原告に対し,金9万7650円及びこれに対する平成20年12月1日から支払済みの日が奇数月に属するときはその月の前々月末日まで,支払済みの日が偶数月に属するときはその月の前月末日まで,2か月あたり2パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
第1 請求
主文1項と同旨
第2 事案の概要
1 請求の原因
(1)原告は,
放送法(以下,単に「法」という。)に基づき設立された法人であり,法32条3項に基づき総務大臣の認可を受けて,別紙「日本放送協会
放送受信規約概要」記載のとおり,放送受信契約の内容を定めた日本放送協会放送受信規約(以下,単に「受信規約」という。)を定めている。
(2)原告は,被告との間で,平成14年5月12日,受信規約に基づいて次のとおり放送受信契約(以下「本件受信契約」という。)を締結した。
仮に,原告と被告との間で,直接,本件受信契約の締結がなかったとしても,被告の妻である訴外C(以下,単に「妻C」という。)は,原告との間で,被告の代理人として本件受信契約を締結した。
ア 契約種別 カラー契約(規約1条,付則2条)
平成19年10月1日以降は,「地上契約」に変更されたものとみなされる。
イ 放送受信料額 月額金1395円(規約5条)
平成19年10月1日以降変更されたとみなされる地上契約においても同額である。
ウ 支払区分 訪問集金(規約5条)
エ 支払コース 毎期払(規約6条)
1年を2か月毎に6期に分け,4月及び5月を第1期とし,以下2か月毎に第6期まで(以下「期」という。)とし,各期に当該期分を一括して支払う。
オ 延滞利息 一期あたり2パーセント(規約12条の2)
(3)被告は,平成14年12月1日以降の放送受信料の支払を怠っている。
(4)よって,原告は,被告に対し,本件受信契約に基づき平成14年12月1日(平成14年度第5期)から平成20年9月30日(平成20年度第3期)までの放送受信料合計金9万7650円(70か月分)とこれに対する本件訴えの変更申立書副本送達の日(平成20年10月18日)が属する期(平成20年度第4期)の翌期(平成20年度第5期)の初日である平成20年12月1日から支払済みの日が属する期の前期の末日まで2か月あたり2パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
2 当事者間に争いがない事実
前記請求原因事実のうち,原告が法に基づいて設立された法人である事実及び法32条3項に基づき放送受信契約の内容について総務大臣の認可を受けた受信規約を定めている事実(前記1の(1)),原告の主張に係る放送受信料が収納されていない事実(前記1の(3))は,当事者間に争いがない。
3 争点及び当事者の主張
(1)本件受信契約の成否
(原告の主張)
ア 本件受信契約書には,被告名義の署名及び押印がある。
イ 仮に,被告が,直接,本件受信契約書に署名及び押印しなかったとしても,本件受信契約の締結行為は,民法761条にいう日常の家事の範囲に含まれ,被告の妻である訴外C(以下,単に「妻C」という。)が,被告の代理人として原告名義をもって本件受信契約書に署名及び押印した。また,原告は,被告から,日常の家事に関して,被告の主張に係るような民法761条ただし書にいう責任を負わない旨の予告を受けたことはなかった。
ウ 妻Cの本件受信契約締結行為が無権代理行為であったとしても,被告は,本件受信契約締結後,平成14年10月30日までの間に4回にわたり,被告名義により,本件受信契約に基づく放送受信料を支払い,前記妻Cの無権代理行為を追認した。
(被告の主張)
ア 被告は,本件受信契約書に署名及び押印したことはなく,原告との間で,本件受信契約を締結したことはなかった。
イ 仮に,被告の妻Cが本件受信契約書に被告の名義をもって署名及び押印したとしても,被告は,妻Cに本件受信契約を締結するについて代理権を授与したことはなかった。したがって,妻Cの行為は無権代理行為であり,被告は,原告に対し,本件受信契約に基づく放送受信料の支払義務を負うことはない。また,妻Cによる本件受信契約の締結行為が日常の家事の範囲に含まれるとしても,原告は,被告が受信契約を締結しないことを承知しながら,妻Cと交渉の上,本件受信契約を締結したのであるから,被告は原告に対し,民法761条ただし書により本件受信契約に基づく責任を負うことはない。
ウ 妻Cは,本件受信契約を締結するにあたり,原告の販売拡張員から,放送受信料を支払わない限り,受信障害の検査ができないといわれ,やむを得ず,その後,数回にわたり放送受信料を支払ったにすぎなかった。
(2)本件受信契約の効力の有無
(原告の主張)
ア 本件受信契約の対象となったテレビジョンが設置された被告の住所地周辺一帯は,地形的ないし建造物等により,放送の受信に障害が生じる地域ではなかった。
イ 原告の販売拡張員が,妻Cに対し,テレビジョンを設置した以上は法律によりその受信料の支払義務があり,税金と同じである旨をしつこく強制的に説明したことはなかった。仮に,被告の主張に係る説明が行われたとしても,放送受信料が税金と同じであればそもそも放送受信料契約を締結する余地はないのであって,原告の販売拡張員は,放送受信料の支払義務が法律に基因する義務であることを税金を例に挙げて説明したにすぎなかった。また,消費者契約法4条1項1号にいう重要事項とは,消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう(同法4条4項)のであって,受信契約の締結は,テレビジョンを設置している者に対し法により放送受信料の支払を義務付けたものであるから,契約するか否かについての判断の余地はない。したがって,被告の主張に係る事実は,消費者契約法4条1項1号にいう重要事項の不実告知には当たらず,本件受信契約における妻Cの承諾の意思表示を取り消すことはできない。
ウ 仮に,本件受信契約における妻Cの承諾の意思表示が取消し得べき行為であったとしても,被告は,前記(1)の原告の主張のウに記載のとおり,これを追認したものである。
(被告の主張)
ア 被告が設置し,本件受信契約の対象となったテレビジョンには受信障害があり,原告の放送を視聴できる状況にはなかったので,同テレビジョンは,法32条1項本文にいう放送受信料の支払対象となるべき受信設備ではなかった。
イ 妻Cは,本件受信契約を締結するにあたり,原告の販売拡張員から,テレビジョンを設置した以上は法律により放送受信料の支払義務があり,税金と同じである旨をしつこく強制的に説明され,夫である被告が原告の放送内容が不適切でこれを視聴せず,絶対に放送受信契約を締結しないことを知りながら,受信障害を直すことを条件として本件受信契約を締結したものであり,その承諾の意思表示は,原告の販売拡張員による消費者契約法4条1項1号にいう不実告知に基づき行われたものであって,取り消すことができる。
ウ 妻Cは,本件受信契約を締結するにあたり,原告の販売拡張員から,放送受信料を支払わない限り,受信障害の検査ができないといわれ,やむを得ず,その後,数回にわたり放送受信料を支払ったが,受信障害が直らず,正式な放送受信契約にサインすることもなかったことから,放送受信料を支払わなくなった。
エ 被告は,以上の経緯について,平成20年8月ころまで知ることがなかった。
第3 争点に対する判断
1 本件受信契約の成否について(争点(1))
(1)証拠(甲1,甲2,甲3)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
ア 妻Cは,平成14年5月12日,本件放送受信契約書の「お名前」欄に被告の名義を自署し,その名下に妻Cの管理に係る認印を押捺し,「ご住所」欄に被告の住所を記載し,電話番号欄に自宅の電話番号を記入した(甲1,弁論の全趣旨)。
イ 原告の取扱者は,前記同日,被告に係る本件受信契約が新規のカラー契約であり,受信料金の支払区分は訪問集金,支払コースは2か月払(毎期払)であるなど当該契約の具体的内容のほか,契約年月,地域コード,目標コード等を放送受信契約書の所要欄に記入した上,平成14年5月分の受信料として金1395円を収納し,その旨を放送受信契約書において明らかにした上,同契約書を受理した(甲1)。
ウ 本件受信契約における延滞料については,規約12条の2において,1期あたり2パーセントの割合で計算する旨が定められていた(弁論の全趣旨)。
エ 原告は,その後,被告名義による放送受信料について,平成14年6月23日,同年9月18日及び同年10月30日の3回にわたり,いずれも2か月分金2790円を訪問集金により収納し,その結果を原告の収納履歴データ(電磁的記録)として管理した(甲2,甲3)。
(2)以上の認定事実によれば,妻Cは,原告との間で,平成14年5月12日,被告名義をもって本件受信契約を締結したこと,その具体的内容は,原告の主張するとおりであったこと,同契約の締結日以後同年10月30日までの間に,同契約に基づく放送受信料が合計4回にわたり原告に収納されたことが認められる。
この点について,被告は,本件受信契約の締結について,妻Cにその代理権を授与したことはなく,妻Cの同契約の締結行為は,無権代理行為であって,原告と被告との間で,本件受信契約が成立することはない旨を主張する。しかし,日常家庭生活上,その利便性を高めたり,娯楽等に供される家庭器具類に関する法律行為は,民法761条にいう日常の家事の範囲に含まれるのであって,同条にいう日常家事に関する夫婦の連帯責任の規定は,その実質において,夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為について他方を代理する権限を有することをも定めたものと解するのが相当である。そうすると,たとえ被告が妻Cに対し,原告との間における本件受信契約を締結する代理権を授与していなかったとしても,妻Cは,被告が設置したテレビジョンに係る本件受信契約を原告との間で締結するにあたり,被告を代理する権限を有していたというべきであり,他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。
なお,被告は,原告に対し,本件受信契約の締結について,日常の家事の連帯責任を負わないことを予告していたとして,民法761条ただし書の適用を主張するが,当該主張事実は,本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。
(3)以上からすると,本件受信契約は,妻Cを代理人として,本人である被告と原告との間で成立したことが明らかであり,妻Cの無権代理行為に係る被告の主張は,これを前提としたその余の主張について判断するまでもなく,採用できない。
2 本件受信契約の効力の有無について(争点(2))
(1)証拠(甲2,甲3)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
ア 本件受信契約の対象となったテレビジョンが設置された被告の住所地周辺一帯は,地形的ないし建造物による放送の受信障害が生じる地域ではなかった(弁論の全趣旨)。
イ 被告は,その名義をもって,原告に対し,本件受信契約に基づく放送受信料として,本件受信契約の締結日である平成14年5月12日に金1395円,同年6月23日,同年9月18日及び同年10月30日いずれも2か月分金2790円を3回にわたり訪問集金により支払った(甲2,甲3)。
(2)以上の認定事実によれば,本件受信契約の対象となったテレビジョンが,法32条1項ただし書にいう放送受信料の支払義務の対象とならない受信設備に当たるということはできず,被告が設置したテレビジョンは,同項本文にいう原告の放送を受信することができる受信設備であったと認められ,被告は,本件受信契約を締結した際及びそれ以後約6か月の間,本件受信契約において合意された期毎の所定の放送受信料を支払ったことが認められる。他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。
(3)被告は,本件受信契約について,妻Cは,本件受信契約を締結する際に,原告の取扱者から,消費者契約法4条1項1号にいう不実告知を受けて承諾の意思表示をしたものであるからこれを取り消すことができる,本件受信契約を締結した後,被告が同契約に基づく放送受信料を何回か支払ったのは,妻Cが原告の取扱者から放送受信料を支払わない限りテレビジョンの受信障害の検査ができないといわれ,やむを得ず数回にわたり受信料を支払ったにすぎなかった,被告は,本件受信契約の締結及びその後の放送受信料の支払に係る諸事情について,平成20年8月ころまで知らなかったなどとして,本件受信契約の取消し又はその無効を種々主張するが,当該主張に係る諸事実は,本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。
(4)以上からすると,被告は,法32条1項本文にいう原告の放送を受信することのできる受信設備であるテレビジョンを設置した上,原告との間で,新規に本件受信契約を締結し,その締結後約6か月の間,同契約に基づく債務の履行として,本件受信契約において合意された内容に従い,期毎に所定の放送受信料を支払ったことが明らかであって,本件受信契約は有効であるということができる。これに反する被告の主張は,いずれも採用できない。
第4 以上のとおり,原告の請求はすべて理由がある。
越谷簡易裁判所
裁判官 小寺薫