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<事例> 大学生であるA君(18)は、現在住民票を実家から移さないままで下宿先で一人暮らしをしている。A君はNHKが受信可能なTVを持っているが、普段は民放しか見ない。しかしある日いつものようにTVを見ていた時、NHKの集金人が訪ねてきた。集金人が「NHKを受信可能なTVがあるならば、受信契約をしなければならない」と言ったので契約した。それから数日後NHKから受信料の請求書が送られてきた。この場合A君は受信料を払わなければならないか?

1、「受像機設置=契約義務発生=受信料支払義務発生」という三段論法は成立するのか?

放送法第32条についてみていくと・・・
(受信契約及び受信料)
第32条 
1 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。
2 協会は、あらかじめ総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ、前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない。
3 協会は、第1項の契約の条項については、あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。

 32条1項より、受信設備を設置した者は受信についての契約をしなければならない。
 32条2項を反対解釈すると契約を締結した者には受信料支払い義務が発生する。
よって三段論法が成立する。
 しかし、実務的には「契約日に支払い義務が発生」ということで、設置日=支払い義務発生日ではない。
↑札幌地裁H22,3,19

2、未成年者の契約は保護者の追認がないことを理由に取り消せる。しかし、これは「1」の論法だと「未成年者はTV買うな」ってことにならないのか?

未成年者は法定代理人(多くの場合は親権者)の追認がなければ、契約をすることができない。
これは、未成年者のような制限行為能力者は判断能力が不十分であるので、
民法で保護されているためである。

法文上、「受像機設置=契約義務発生=支払義務発生」ということになっている。
すなわち、もし親権者の同意がなければ未成年者は契約を締結できない、
つまりテレビ放送を視聴することができないということになるように思われる。

ただし、実務上は契約締結日と支払義務発生日が同じになるだけであって、
受像機設置日と支払義務発生日が同じになるわけではない(札幌地裁判決H23.3.19)。
つまり、受像機の設置による「契約義務」は、必ずしも履行しなければならないということではない。
そのため未成年者が契約をせずにテレビを観ることは可能である。

3、保護者から(使途を限定とした金銭)を預かっていない場合、それを理由に支払い義務を免れられるか?

 まず前提として、NHKは「親の同意が無くても契約は成立している」と主張している。なお、これは学生が親元を離れて一人住まい(生活費は親から送金)の場合である。NHKは受信料を支払いの契約を民法5条3項(a.法定代理人が目的を定めて処分を許した財産をその目的の範囲内で処分する行為、および、b.目的を定めないで処分を許した財産を処分する行為)に定められた法定代理人の同意無しに未成年者が単独でなしうる行為としている。よって保護者から使途を限定した金銭を預かっていない場合であっても、受信料は前述のb.目的を定めないで処分を許した財産を処分する行為に該当することを理由に、送金されている生活費の中からNHKの受信料を支払う義務が発生する。
よって保護者から使途を限定した金銭を預かっていない場合であっても、支払い義務を免れることは出来ない。

4、なぜ未成年事例の判例がないのか?

未成年者であっても、受信料の支払義務があるのに支払わずにいたら、
支払を求める訴訟を起こされる可能性がある。
実際に全国でNHK受信料の支払を求める訴訟が起こされている。
しかし、未成年者を被告とする判例はない。
その理由は、NHKが訴訟の取下げをしているからである。
取下げとは・・・原告の、裁判所に対する審判欲求としての申立ての全部または一部を撤回する旨の意思表示。これによって訴訟は終了。初めから訴訟が係属しなかったものとみなされる。

では、なぜ未成年者が被告だとNHKは訴訟の取下げをするのか?
おそらく、このようなことであろう。
  • 敗訴したくないから。
  • 未成年者からも集金しているということを広く世間に知られたくないから。
最終更新:2011年08月10日 23:43