線形代数の行列表現

お膳立て

行列の代数構造は線形空間の理論とは別に定義されていることに注意する。
K : 体
X : K上の線形空間
B := \{\mathbf{b}_1,\cdots \mathbf{b}_N\} \subset X Xの基底
即ち,X = \{ \sum x^i \mathbf{b}_i | x^i \in K \}
以下では,基底ベクトルを並べた行列Bもまた,「基底」と呼ぶ。
B := [ \mathbf{b}_1, \cdots, \mathbf{b}_N ]
任意のx \in Xに対して,xの基底Bによる表示あるいはxのB座標 \mathbf{x}_B \in K^N と呼ばれるベクトルが唯一つ存在して,
X \ni \mathbf{x} = \sum_i \ x^i \mathbf{b}_i = (\mathbf{b}_1 \, \cdots \, \mathbf{b}_N)\begin{pmatrix} x^1 \\ \vdots \\ x^N \end{pmatrix} = B \mathbf{x}_B
基底ベクトルはXの元であるのに対し,成分を並べたベクトルはK^Nの元であることに注意!
Xの元xに対して,xのB-座標を対応させる線形写像
X_B : X \ni \mathbf{x} = \sum_i x^i \mathbf{b}_i \mapsto \mathbf{x}_B \in K^N
は,同型写像である。
これによって XをK^Nと同一視する。
従って特に,Xの内積としてK^Nの標準内積が入る。

X \ni \mathbf{x} \cong \begin{pmatrix} x^1 \\ \vdots \\ x^N \end{pmatrix} \in K^N
特に,
X \ni \mathbf{b}_i \cong \begin{pmatrix} b_i^1 \\ \vdots \\ b_i^N \end{pmatrix} \in K^N
注意
この同一視は,「基底の取り替え」ではない。
K^N の標準基底をE := [\mathbf{e}_1, \cdots, \mathbf{e}_N]と書くことにすると,
これはXの一つの基底と同一視することができるが,一般の基底Bに対して
B \mathbf{x}_B \neq E \mathbf{x}_B
だからである。
むしろ,後述の双対基底を並べた線形写像であり,その表現行列はB^{-1}である。

線形写像と線形形式

X, Y : 体K上の線形空間 (dim X = N, dim Y = M)
L(X;Y) := \{ f : X \to Y | \mathrm{linear} \} 線形写像の全体
T \in L(K^N, K^M)に対して,A_T \in \mathrm{Mat}(M,N;K)で,
任意の\mathbf{x} \in K^Nに対して T(\mathbf{x}) = A_T \mathbf{x} となる A_T が唯一つ存在する。
そして
\Phi : L(K^N, K^M) \ni T \mapsto A_T \in \mathrm{Mat}(M,N;K)
は同型写像である。
実際,A_T は次のようにして構成できる。
A_T = [ \mathbf{a}_1, \cdots, \mathbf{a}_N ] とおいて,
K^Nの標準基底に作用させると,
\mathbf{a}_i = T ( \mathbf{e}_i ) 
でなければならない。逆に,このように作ったものが所望のAである。
さらに,一般のL(X,Y)に対しても,適当な基底B,Sをとって(M,N)行列の全体と同型である。
X_i : 体K上の線形空間の族
L(X_1 \times \cdots \times X_n; Y) := \{ f : X_1 \times \cdots \times X_n \to Y | \mathrm{linear} \} n重線形写像の全体
Yとして特に元の体Kをとった線形写像を,線形形式あるいは線形汎関数という。
n重線形写像についても同様である。
また2重線形写像(形式)のことは特に双線形写像(形式)という。

双対空間

特に線形汎関数(線形形式,一次形式)の全体を X^* := L(X;K) で表し,双対空間という。
f^j \in X^* を以下のようにとると,
f^j( \mathbf{b}_i ) := \delta_{ij}
\mathcal{U}^* := \{ f^1, \cdots, f^N \} はX^*の基底である。
これをBの双対基底という。作り方から dim X = dim X^* = N であることが分かる。
双対基底ベクトルは成分を取り出す写像である。
 f^j( \mathbf{x} ) = f^j \left( \sum_i x^i \mathbf{b}_i \right) = \sum_i x^i f^j(\mathbf{b}_i) = x^j 
f^j は,K^n の標準内積から誘導された内積を利用して以下のように構成することができる。
\mathbf{f}^j \in \bigcap_{i \neq j} \mathbf{b}^\bot_i \subset K^N を一つとる。
f^j : \mathbf{x} \mapsto \left \langle \frac{1}{ \langle \mathbf{f}^j, \mathbf{b}_j \rangle} \mathbf{f}^j , \mathbf{x} \right \rangle
実は,f^j を行ベクトルとして,以下が成り立つ。
F := \begin{pmatrix} f^1 \\ \vdots \\ f^N \end{pmatrix} = B^{-1}
f もまた,F-座標を持つ。
X^* \ni f = \sum_j \alpha_j f^j = A_F F
特に以下が成り立つ。
f(\mathbf{x}) = \sum_i \alpha_i x^i

基底の取り替え(座標変換)

Xの基底として \widetilde{B} = [ \widetilde{\mathbf{e}}_1, \cdots, \widetilde{\mathbf{e}}_N ] が取れたとする。
基底は一次独立系なので,Bの逆行列がとれて,
P := B^{-1} \widetilde{B}
とおくと,これは基底の変換 \widetilde{B} = BP を与える。
このとき,座標ベクトルがどのように変換されるかを調べる。
\mathbf{x} = B \mathbf{x}_B = \widetilde{B} \mathbf{x}_\widetilde{B}
が成り立っていなければならない。
このとき,
\widetilde{B} = BP
\mathbf{x}_{\widetilde{B}} = P^{-1} \mathbf{x}_B
である。
また,双対基底についても,
A_F F = A_{\widetilde{F}} \widetilde{F} 
が成り立っていなければならないが,
\widetilde{F} = \widetilde{B}^{-1} = P^{-1} B^{-1} = P^{-1} F
であるから,
A_{\widetilde{F}} = A_F P
が成り立つ。

反変と共変

基底の取り替え P によって,
座標が P^(-1) で変換されることを,反変という。
座標が P で変換されることを,共変という。
X の元xは,座標x_Bが P^(-1) で変換されるから,反変ベクトルである。
X^* の元fは,座標A_Fが P で変換されるから,共変ベクトルである。

内積

非退化かつ正定値の対称双線形形式のこと。
K^N は標準内積(ユークリッド内積)\langle x, y \rangle := x^\mathrm{T} yによって内積空間。
さらに,正定値エルミート行列Aをに対して,
\langle x,y \rangle_A := \langle Ax, y \rangle
と置いたものもまた K^N の内積である。
一般の内積空間 X について,以下の事実は重要である。
Xの元aを任意にとって固定する。
\phi_a : X \ni x \mapsto \langle x,a \rangle \in K
とおくと,\phi_a \in X^* である。
逆に,任意のf \in X^*に対して,a \in Xが唯一つ存在して,f = \phi_a である。
実際,
f(\mathbf{x}) = \langle A_F, \mathbf{x}_B \rangle_{K^N}
であったから,
\mathbf{a} = X_B^{-1}(A_F) = \sum_i \alpha_i \mathbf{b}_i
ととれば良い。
(Xの内積が,K^Nの標準内積から誘導された内積である場合)
さらに,XからX^*への線形写像
\phi : X \ni a \mapsto \phi_a \in X^*
は,同型である。
また,汎関数ノルム(作用素ノルム)によって,
\| a \| = \| \phi_a \|
が成り立つ。

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最終更新:2011年04月30日 12:48
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