対角化と固有値問題

一次独立と直交の関係
内積があれば一次独立系から正規直交系を作り出すことができる。
一方,直交系は一次独立系である。
一次独立にならない(縮退)系でも,適当な摂動を入れて一次独立とみなすことができるが,
それを正規直交系にしても,限りなく0度に近い角度を90度に広げるようなもので,
歪みが大きく表れてしまうことには留意すべき。

半単純

Def. 半単純'
線形写像 A:V→V(すなわち正方行列A)が半単純とは,
Aの固有ベクトルがVの基底をなすこと。
Def. 対角化可能
正方行列Aがある対角行列Dと相似になること。
すなわち正則行列Bがあって,B^{-1}AB=D とできること。
Th. 半単純⇔対角化可能
[半単純⇒対角化可能]
Aの固有値と対応する固有ベクトルをそれぞれ以下のように並べたものをとる。
\Lambda := \diag \{ \lambda_1, \cdots, \lambda_n\}
P := [v_1, \cdots, v_n]
このとき,A = P^{-1} \Lambda P が成り立つ。
固有ベクトルは線形独立なのでPは正則である。

[対角化可能⇒半単純]
正則行列Pと対角行列Dがあって,AP=PDが成り立っているので,
ここから成分を比べて,一次独立なベクトルによって A v_k = \lambda_k v_k となることが分かる。

固有値

Th. 固有多項式は座標系に依らない
実際,座標変換Tとすれば T^{-1}AT=A' という関係がある。
このとき,|A'- \lambda I| = |T^{-1}AT-\lambda I| = |T^{-1}(A-\lambda I)T| = |A-\lambda I|
従って特に,その解である固有値も座標系に依らない。
Prop. 諸量との関係
{\rm det} A = \lambda_1 \cdot \cdots \cdot \lambda_n
{\rm tr} A = \lambda_1 + \cdots + \lambda_n
Prop. 他の固有値との関係
A^{\rm T}の固有値は \lambda_1,\cdots,\lambda_n
A^{-1}の固有値は \frac{1}{\lambda_1},\cdots,\frac{1}{\lambda_n}
A^kの固有値は \lambda_1^k,\cdots,\lambda_n^k 
f(A)の固有値は f(\lambda_1),\cdots,f(\lambda_n)  (f:多項式)

固有空間と固有ベクトル

Def. 固有空間
Aの固有値の1つをλとし,λに対応する固有ベクトル(0を含む)を全て集めた空間
F_\lambda := \{ v \in V | Av=\lambda v\}
固有空間はVの部分空間であり,固有空間の次元をλの幾何学的重複度という。
一方,固有多項式の解としての重複度をλの代数的重複度という。
Lem. 異なる固有値に対する固有ベクトルは一次独立
同じ固有値に対する固有ベクトルは,必ずしも分からない。
(固有空間の次元が2次元なら,平行なペアもとれるし,一次独立なペアもとれる。)

Th. 異なる固有値に対する固有空間どうしは互いに素。
互いに素というのは,直交よりも弱い条件であることに注意する!
つまり,直交補空間とまではいかない。

Cor. 直和分解
Aが半単純であることは,Vが固有空間の直和に分解できることと同値。
V = \coprod F_{\lambda_i}
Lem. 幾何学的重複度≦代数的重複度

Th. 幾何学的重複度=代数的重複度 ⇔ 対角化可能

Cor. 半単純の判定法
Aが半単純であることは,以下の条件と同値。
即ち,λiの代数的重複度をmiとして,
各固有値に対し{\rm rank}(A-\lambda_i I) = n-m_i
証明は次元定理を使う。

スペクトル分解

Def. 直和条件
U,V⊂W:sub sp
U,Vが直和条件を満たす,あるいは互いに素であるとは,以下が成り立つことをいう。
U \cap V = \{ 0 \}
集合としての互いに素 E∩F=φとは異なることに注意!
Def. 射影
線形写像 P:V→V が射影とは,以下を満たすことをいう。
P^2=P
さらに P^*=P を満たすものを正射影という。
Th. 直和分解
射影の組 {Pi} が以下を満たしているとする。
P_i P_j = \delta_{ij} P_i
このとき,異なる射影による像空間は互いに素である。
さらに,次を満たしているとする。
\sum P_i = I
このときVは像空間の直和に分解される。
V = \coprod P_i(V)

逆に,Vの直和分解があれば,上記2つの条件を満たす射影の組が唯一存在する。
Th. スペクトル分解
Aが半単純 ⇔ V=\coprod F_{\lambda_i}{}^\exists \{ P_{\lambda_i} \}_{i=1}^r
従って,Aは次のように分解できる。
A = \sum \lambda_i P_{\lambda_i}
これをスペクトル分解という。
結局,Aが半単純であることは,Aがスペクトル分解できることと同値。

Prop. スペクトル分解における射影行列の構成法
P_{\lambda_i} = \frac{(A-\lambda_1 I) \cdots (A-\lambda_r I)}{(\lambda_i-\lambda_1) \cdots (\lambda_r-\lambda_i)}
ただし,分母・分子のi番目A-\lambda_i I(\lambda_i-\lambda_i)は除く!

正規行列の場合

Def. 正規行列
Hermitian共役と自分との内積が可換になる行列。
A^* A = A A^*
Ex. 正規行列になる行列のクラス
実対称行列:A^{\rm T} = A
エルミート行列:A^* = A
直交行列:A^{\rm T} A=I
ユニタリ行列:A^* A = I

Prop. エルミート行列の固有値は全て実数
なかんづく,実対称行列の固有値は全て実数。

Prop. ユニタリ行列の固有値は絶対値が1
Th. 正規行列の異なる固有値に対応する固有ベクトルは直交する。
内積としては標準内積を入れる。

Cor. 正規行列の固有空間は互いに直交する。
V = \bigoplus F_{\lambda_i} 直交直和分解
Th. 正規行列はユニタリ行列で対角化可能
なかんづく,実対称行列は直交行列で対角化可能
Th. 正規行列の正体
Aが正規行列であるための必要十分条件は,正射影の組があって,以下を満たすこと。
P_1 + \cdots + P_r = I
P_i P_j = \delta_{ij} P_i
P_i^*=P_i
A = \alpha_i P_i + \cdots + \alpha_r P_r \quad {\rm for some } \alpha_i \in \mathbb{C}
最終更新:2009年08月20日 16:40
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