「やぁジャンカー」
任務を終えてぼんやりと廊下を歩いていると、後ろから誰かが俺を呼んだ。誰なのかは、声で分かる。
蒼い瞳に蒼い髪。ついでに万年青白い顔をしてへらへら笑っている、こいつは――。
「よぅアルカード」
吸血鬼、アルカード。個体名は別にあるが、俺達はそれで呼びあったりはしない。なぜかって?
嫌いだから、の一言で理由説明終了だ。
「さっきは何人、殺した?」
「俺は60だ。お前は?」
「42」
追いついてきたアルと一緒に廊下を歩きながら、一般人の目から見れば物騒な会話を、俺達は笑って語りだす。
「随分と少ねぇな」
「しょうがないよ――血を吸ってたんだから」
そしてこいつの二つ名がアルカードたる所以が、これだ。
生きる糧は人間の血液――戦場で血を啜り、そうすることで生きながらえる不死身の吸血鬼(Dracula)
「…前言撤回。今日もだいぶ吸ったな」
「まだまだ吸い足りないくらいさ……うっ…」
突然、アルがふらついて俺の方に倒れてきた。
「アル!?」
アルは細身とはいえ、俺よりだいぶ背は高い。
危うく俺まで倒れそうになったが、何とか踏ん張ってアルを支え、体勢を立て直す。
「大丈夫か、アル?」
顔色が相当悪いが、こいつは常に青白い顔をしているから顔色からだと何が起こったのかは判断できない。
まさか、毒でも飲まされたのだろうか……?
「……が…」
具合悪そうに、アルが小さく呟く。一体、アルに何が――?
「ち、血が足りない……」
「おめー、さっきなんて言ったよ」
思わず腕をハリセンに変形させ、軽くアルの頭を叩いてしまった。
「え?だ、だってぇ…」
「42人分の生き血を吸ってまだ足りねぇのか!!」
「せ、正確には…60人くらい……死んだばっかりのやつも、吸ったから……」
「吸いすぎだぁ!!」
パシン、と廊下に小気味よい音が響くも、全く気にしていないかのようにアルはへらへらと笑っている。
「だって、しょうがないじゃん~?」
「確かにな」
へらりと俺も笑い返し、アルに肩を貸す。アルはアルで、遠慮もせずに俺の肩に腕を回し、くすりと笑った。
「いつもごめんね、ジャンカー」
蒼い髪の吸血鬼は、いつもと同じように笑って。
「今更言うかぁ~?」
黒い髪の戦闘狂は、当然のように笑い返す。
「ふふっ……それもそうだね」
これが俺達の日常。どちらかが死なない限り永遠に続いてしまう、日常。
でもたまに――考えてしまう。
もしこの日常から抜け出せたら、と。
ここから抜け出せて、組織や戦場以外で人間と会えたら。
ここから抜け出せて、組織や戦場以外の場所に行けたら。
そんなことを――考えてしまう。
「……ジャンカー?」
その声で俺の意識は現実へと戻される。
「どうしたの?」
ふとアルに目をやれば、心配そうに俺を見ていた。
「…いや、ただのどうでもいい考え事さ」
自嘲的な笑みを浮かべ、アルの頭をガシガシと撫でる。
「部屋に行く前に医務室だな。輸血パック、もらいに行くぞ」
「あは……悪いね」
「気にするなって」
普段どおりのやり取りをこなし、医務室へと行き先を変更する。
――どうでもいい、か……はっ、確かにそうかもな
自分の考えを鼻で笑い飛ばし、俺はアルと共に再び歩き始めた。
最終更新:2009年03月11日 03:29