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とある山のとある場所に大きなお屋敷があった。
見目麗しく庭の手入れも行き届いており、朝から使用人やメイドのものであろうたくさんの騒音も聞こえる
どこかそれなりの名家の別荘といわれても、疑う方がおかしいほどにそのお屋敷は雅であった


そんなお屋敷の中で、とある部屋に向かう影が一つ・・・
「アーもう・・・我が妹なガラ本当にネボスケさんでスネェ ママさんに似たんでショウカ・・・全く」
くたびれた白衣に銀縁の眼鏡、それに覆いかぶさるように被られているニット帽
年は20を越えた辺りだろうか。
身長は180ほどの長い金髪を蓄えた青年が、小言を吐き出しながら広い廊下を闊歩している
どうやら一向に起きてこない自分の妹を起こしに行こうとしているようだ
言葉ではどこか気だるそうな印象を受けるが、少し嬉しそうに歩いている姿を見ると実はそうでもないのかもしれない
彼が危なげに左右に揺れながらしばらく歩いていると、そのうち大きな扉の部屋の前までたどり着き、軽くノックをしてみる
「ジックー あーさデスよー? 今日の朝ゴハンは鳥の丸焼きデスヨー ジックー?」
いくら読んでも返事が無い。まだ寝ているのだろう。こんな時間になっても起きて来ない事を考えるとそうとしか思えない
一度ため息をついてから、意を決したように扉のノブに手をかける青年。名はガノックという
大きな扉を開け、部屋の中に入るとまず目に付いたのは武器。武器。武器の山である
所狭しと槍や剣、弓。果ては大きな鎚までが床や壁に散乱している
前に来たときと少しも変わっていない妹の部屋に若干呆れるガノックだが、自分の部屋も似たようなものなので何も言えない
武器が大量にある以外は特に変わった様子も無く、目を引くものといえば大量に集められている動物のぬいぐるみくらいである
化粧品などもいくつか見られるが、使った形跡は無いに等しい。埃を被って部屋の隅に放置されている
そういえばママさんが一時期ジックに女っ気つけさせようとしてましたねえ。とふと思い出すガノック
あまりにも女らしくないわが子を心配して珍しくやる気を出した彼等の母だったが、結果は惨敗。女らしくなるどころではなかった。
そもそも話になってる妹、ジックはこの上ないくらい女っぽくない。体つきはまだ女らしいが、性格がこの上ないほどに女らしくないのだ
言葉遣いは乱暴であるし、身なりも動きやすいようにと滅多に可愛い服など着ない
外に出ればそこら辺の傭兵や盗賊に喧嘩を仕掛けるし、屋敷の中においても常日頃から暴れまわっている
要は暴れることが大好きなのだ。それが女らしくないことに更に拍車をかけているのではないかと、密かに思っているガノックだったりする
そんなことを思いつつ、当のジックを起こすためにベッドに近づいていく。近づくにつれ、ベッドの上に人らしき影が見えてくる
「サテ・・・と。我が妹はドンナ寝顔をしているのデショウカ・・・クカカ」
などと冗談めいた言葉を発するが、優しく布団を剥ぎ取ってやると
「ジックー いい加減ニ・・・・・・アラアラ・・・」
そこには可愛らしい、しかし大きなトラのぬいぐるみを抱きかかえて寝ている一人の少女の姿があった
黒い少し大きめのタンクトップに、下はパンツしか穿いていない
下にそれ以外を穿いて寝ないのは、本人曰く
「寝るとき邪魔じゃん」
だからだそうだ
肩下まである艶やかな黒髪はベッドの上に散らばっており、口からはよだれが垂れている
とてもではないが品が良さそうには見えない。かといって下品に見えるというわけでもない
まるでペットの寝顔をじっくりと見ているような感覚。そんなところだろう
それにしても・・・。とガノックは思う
「ホントに大きいデスネェ・・・アレだけ飛び回ってイテ、何故ココに脂肪がつくのデショウか」
視線はぬいぐるみの顔に押し付けられている、そのはちきれんばかりの胸に向けられる
ジックは常日頃から暴れまわっているので、基本的に体の出るところは出ているし締まるところは締まっている
母の配下の盗賊団員達から、下品な視線を向けられることもしばしばである
しかしその中でも特に胸が大きい。そういうことを気にしないママさんでさえ
「・・・ちと食い物を与えすぎたかねぇ」
などと少しばかり恐ろしい台詞を言ったくらいだ
本人にとっては邪魔でしかないようだが、周りはそうは思っていないらしい
ジックがタンクトップ一枚で屋敷の中を歩き回っている時など、如実にその様子が現れる
そういう方面にあまり興味の無いガノックでさえ、ついつい目がいってしまうことも少なくはない


「・・・んぅ・・・むにゃ・・」
と、ついつい余計な方向へ考えを巡らせていると、なんとも愛嬌のある寝言が聞こえてきた
頭の中を切り替え、今すべきことを思い出す。自分はジックを起こしに来たのだと
「サスガにいい加減起こさナイと、ママさんに殺されちゃいマスしネェ・・・」
ものぐさそうに、しかしそれでいて殺気を放ちながら朝食の席についている母を想像し
「ジックー マジで起きなサーイ ママさんにぶっ殺されちゃいますヨォー」
本日何度目かわからない言葉を吐き、優しく、けれど確実に起きるようにジックの肩を叩いて起こそうとすると・・・
「むぅ・・・んがっ」
寝転がった状態からだというのに、この上ないほど体重の乗った蹴りをガノックの側頭部に向かって放つ
「おグァ!?」
いきなりのことに対処できず、蹴りの直撃を受けるガノック。その巨体が、壁に向かって一直線に飛んでいく
なかなかの速さで飛んでいき、そのまま壁に激突。壁に這うように地面に落下して、なんとも間抜けな姿で呻いている
「ヌゥ・・・ミスりマシタ・・・ジックの寝相の悪さ・・・すっカリ忘れてたじゃないデスカ・・・」
失念していた。この男勝りな妹は、家では寝相がとてつもなく悪いのだ。そんな自分のミスをぶつぶつ呟いていると
「んっ・・・むがっ・・・っふぁ~」
目をしばしばさせながら、ぬいぐるみを抱いた状態で億劫に起き上がる妹君
何度も出ているが、彼女の名前はジックという。彼女の母が適当につけたと言い張る名前だ
そんなことを言っているが、実は幼い日に部屋で何枚もの名前らしきものが書かれた紙と格闘している母を見ているガノックだったりする
閑話休題。起き上がってからも頭を動かし始めるのに5秒、部屋を見回そうとするまでに15秒をかけるジック
その時間を経て、ようやく珍妙な体勢で何事かを呟いている自分の兄を見つける
「んぁ?・・・あれ?兄貴じゃん。めっずらしー・・・なにしてんのー?」
まさか自分を起こしにきているとは夢にも思わず、なんとも間抜けな格好で独り言を呟いている兄に問いかける
「・・・ハァ・・・まぁいいんデスケドネ・・・ジック・・・朝デス・・・アナタはお寝坊をしまシタ・・・食堂にはママさんがイライラしなガラ待っていマス・・・オーケーデスカ?」
あっけらかんとしている妹に呆れるが、いつものことなので気にしない。それよりも今は優先すべきことがある
ママさんがそろそろ一緒に席についていたミケルに八つ当たりをしている頃だ
最近無縁だと思っていた恋心を抱き始めたであろう妹を見て、部屋に塞ぎこんでいた昔なじみの盗賊団員には少しばかり荷が重過ぎる
一刻も早くジックを着替えさせ、食堂に直行し朝食を始める。それが現時点での最優先事項だ
ママさんの八つ当たりは、下手をしたら屋敷を壊しかねない
そこまで考えて、自分がいかに大変なことをしたか理解したジックが慌てふためいているところに
「ホラ。ママさんにミケルを消し炭にされタクなかっタラ早く行きマスヨ!」
喝を入れる。すると、途端に要領よく準備を始めるジック
ミケルの話題を出したのが良かったのだろうか。彼はこの大所帯の中で、唯一家族以外でジックに近しい存在だ
他の連中も気が良い者ばかりなのだが、いかんせん父親や兄貴分のように接しているように見受けられる
幼少期から年の近い友達がいなかったジックとしては、ミケルはただの幼馴染ではないのだろう
そんなかけがえのない「友人」のために手際よく準備を進めるジックをチラリと見る
寝巻きにしていたタンクトップとパンツの上から紺色のスウェットを上下に着込み、ボサボサの髪は近くにあったシュシュで上に纏めている
ボサボサの髪を見られるのが恥ずかしいのだろう。なんだかんだで日々女らしくなっている妹を見て、少し複雑な気持ちになる
部屋についている洗面台で顔を洗い、うがいと歯磨きを済ませ準備は完了だ。そこまできてようやく言葉を発する
「ほら!!早く行こうぜ!!ママさんの八つ当たり洒落になんねーし!マジでミケル死んじゃうってっ!!」
いつも通りの妹に安心し、苦笑しつつ部屋の扉を開く。目指すは一階の食堂だ。
少し前から、そこで聞こえる衝撃音と悲鳴に心の中で謝罪をし、勢い欲部屋を飛び出す
後ろにジックがついてきていることを確認し、自分たちの母のストレス発散に付き合わされている不憫な家族の元へ駆けてゆく

そうやって今日も、騒ぎの絶えない一日が始まるのであった・・・



―――ジックの一日「寝起き編」―――
~fin~

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最終更新:2009年03月11日 04:07