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これは、こちら側の世界とは違う『世界』での出来事。


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広い廊下を歩く、否、フワフワと飛んでいる人影が一つ。どうやら女性のようだ。
腰辺りまである薄灰色の髪を持ち、ぶかぶかの白い服を着ている。

「クリスはどこかなー♪どこかなどこかなー♪」

……聞いてるこっちが恥ずか、失礼。かなり上機嫌だ。
小さな袋を両手で持ち、時折開いている扉の中を覗きながら廊下を進む。

「……どこかなー……どこ……どこにもいないー……」

探している相手を見付けられず、少し涙目になっている。
…その時、近くの扉が開き、中から出て来た人物が彼女に話し掛けた。

「あら?アキラじゃない。どうしたの?」
「あ、メノウさん、クリスが今どこにいるか知りませんか?」

話し掛けたのは妙齢の女性、メノウ・カルセドニー。通称『あの方』である。

「クリスならそうね……………何処だっけ?」
「うー、メノウさんのいつものうっかりですぅ……」
「ゴメンね、アキラ♪」

まったく悪びれた様子も無く謝るメノウさん。彼女はよくうっかりを起こすが、その内の7割が故意的な物なのは、既に周知の事実という困り者なのである。
……真面目に取り組んだ時の判断や指示は驚嘆に値するものがあるんだけど……

「……クリスの部屋に行ってみます。もしかしたら戻ってきてるかもですから……」

アキラと呼ばれた彼女は肩を落として歩き、いや、飛んでいく。


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彼女……アキラは件の部屋の扉の前へと到着した。
ここへ来るまでに、飛んでいるのにこけそうになったり、建物内を飛んでいた誰かの使い魔の鳩に袋を奪われそうになったりと様々な事があったが割愛させてもらう。

「クーリースっ!!いまーすかっ!!」

……はっきり言おう。うるさい。もしもこれが小さなアパートならば近所迷惑になるだろう。
周囲にこの扉以外の扉が見受けられないから良いものの……
扉を叩く事をしないのは袋を両手で持っているせいか、はたまた単に思い付かなかったからなのか……
……彼女を良く知ってる人達は高確率で後者を選ぶだろう。

「……いないー……」

挙句のはてに扉に顔を突っ込んで中を覗く始末。
彼女が霊体だから可能な行為であるが……何と言うか……なぁ……

「…………アキラ、何してるのサ…」
「わひゃうっ!!」

突然話し掛けられた事に驚くアキラ。……まぁ驚かせようとは思って無かったんだけどね。
てか自分の部屋の前でこんな事されてたら誰だって呆れるでしょ?……はぁ……

「く、クリスぅー……びっくりさせないでよぅ……」
「あのね……だったらそんな事しな「だってぇ……」いでよ……はぁ……」

アキラに話し掛けたのは彼女が探していた人物で、かつ目の前にある扉の部屋に住む住人。
個体識別コード『CR-Y002S』、通称クリスである。ちなみにこの時点ではまだ本名は無い。

足首付近まである薄灰色のコートを纏い、アキラと同じサラサラな薄灰色の髪をポニーテールにしている。
男性なのに似合っているのは線の細さのせいか、あるいは……

……この原稿書いたの誰だっけ……


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「で、僕に何か「どこ行ってたのっ」用でも……」

他人の発言に被ってしまうのは偶然だ。アキラにそんなスキルは無い。

「……ヘヴンのとこ行ってただけだよ。で、何か用かな?」
「ふーん……あ、そうだった。これ作ったのっ!!」
「……クッキー?」

どこに居たのかという質問に答えたのに、この反応。
僕、クリスはよくヘヴン…『彼』が眠る部屋へ行くので不自然では無かったようだ。
本当は……いや、教えられないな。
アキラから渡された袋を開き中身を確認する。

「さっき作ったのっ!!食べて食べてっ!!」
「んじゃ……うっ……」
「どう?どうっ?」
「う、うん…甘すぎだけど美味しいよ……」
「良かったー……」

美味しいと言われた事に安堵したようだ。というよりそれしか聞こえてない。
……実は有り得ない位に甘かった。作る時に立ち会った人に聞いたら、手元が狂って大量の砂糖を入れてしまったとのこと。
試食した時の感想が「……クリスなら絶対美味しいって言ってくれるっ!!」
……確かにそうだけどサ……はぁ……

「あっ!?今日、マロンが来るの忘れてたっ!?クリス、また後でねっ!!」
「うん、またね……」

何かを思い出したようで、急いで立ち…飛び去るアキラ。疲れた表情で立ち尽くす僕。

「……少し休憩しよ……」

そして僕は部屋に入った。
……僕が左足を引き摺ってたのをアキラは気付かなかったようだ。

さて、この話はこれでお終い。僕がナレーションをしている理由は……まぁメノウさんの命令……はぁ……

それではこの辺で。僕、クリスタル・カルム・クォーツがお送りしました。
ご静聴、ありがとうございました。


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「うっ……甘すぎ……です……」
「だよね……はぁ……」

アキラがいない時にマロンに食べさせてみた際のマロンの反応がこれ。

「……ところでクリス、左足どうしたですか?です」
「今回は左足が使えなくなった……でいいかな?」
「……無理しないで下さいです。……何と戦ったです?」
「ありがと。……フレイムドラゴン4、ウインドドラゴン2、サンドワーム3、巨大化したタコ1、よく分からない触手生物5……それから……」
「も、もういいです……」

こんなのがいる世界に行ってたなんてアキラに言えないでしょ……





今回のタイトル「The calm time.」。これを訳すと「穏やかな時間」となります。
クリスの本名のミドルネームもcalmなのでちょうど良いタイトルでした。
(本名の方は冷静という意味で使用)


――The calm time.――
(穏やかな時間。)

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最終更新:2009年03月24日 16:36