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――"Shingle" and "Marron" and "Crystal".――


-1-


美山家はいたって平々凡々とした家庭である。但し、父親はいない。俺が幼い頃に事故で死亡した。

俺達はそう教わった。…誰からかって?母さんからだが?

俺が生まれる前には既に父方の祖父母、母方の祖父は高齢で死んだ。それじゃあ母方の祖母は?となるだろうが、病院のベッドの上だ。そろそろ末期らしい。だから母さんから聞くしか無いのさ。

母さんは女手一つで俺達兄妹を育てて来た。仕事はしているが、殆ど収入は無い。それでも何不自由なく生活出来ているのは、父さんが残した莫大な遺産があるからだ。

……この前、気になってこっそりと父さんの預金通帳を覗いてみたら、多分一生遊んで暮らしてもお釣が出る程あった。父さんの仕事が謎だ。

――――――――――――――――――

「真求、真論。帰るわよ。」

ばあちゃんが死んでから3年経った。これは、父さんとばあちゃんの墓参りからの帰り道だ。俺は17歳、真論は12歳になった。

「兄さん、早く行くです。」
「ん?あぁ。」

美山家の遺伝子を引きついだ栗色の髪を持つこのとても可愛い少女が美山真論(みやままろん)。現在、俺の手を引いている。
遺伝といえば美山家は代々、右目の色が薄くなるのが特徴だ。真論の瞳は右が薄い茶色、左が焦茶色になっている。

……そういえば、自己紹介がまだだったな。

「俺の名前は美山真求(みやましんぐ)。このブラウンのジャケットがトレードマークだ。」
「……兄さんが電波を受信したです。」

むぅ…どうやら真論に変な誤解を与えてしまったらしい。声に出してしまったのは不覚だったな……
これで嫌われる事は無いだろうが……

この穏やかな時の後にあんな事が起こるなんてな……


-2-


自宅へと辿り着いた俺達。夕食も食べ終えて、まったりと過ごしていた。
その時、玄関の呼び鈴が鳴った。

「……俺が出るよ。」

母さんは夕食の後片付け、真論は母さんの手伝い。この手伝いは一日毎に俺と真論で交代している。

「はいはい、誰ですかーっと……おぉっ!?」

玄関の扉を開けると、おそらく何処かの制服を着た三人組の男が入って来た。
そいつらは無言で俺を見詰めてきた。

「あんたら、何者だ。」

この制服、何処かで見たような気がする。思い出せない。
ちなみに俺は小学校中学年以前の記憶があやふやだ。何故だか知らないが、もう少し覚えていてもおかしくない筈なのにな……

「真求?どうしたの?」

しばし熟考していた俺の下へ母さんが来た。

「貴方達……真求、真論を連れて外へ出て。」
「えっ?なんで?」
「いいから早く。」

母さんはそう小声で伝えて来た。その場の雰囲気に押されそうになった俺はとりあえず従う。

「今からコンビニに行くけど、真論も行く?」
「行くで……どうしたですっ!?」
「母さんっ!?」

突然、母さんの悲鳴が上がった。俺達は悲鳴の下へと向かう。
扉の蔭から玄関を覗くとそこには、脇腹が抉れて大量の血が流れているにも関わらず立ち続けている母さんが居た。

「真論っ!?逃げるぞっ!?」

真論は母さんを見て、声が出せなくなっていた。
俺は咄嗟に真論を抱き抱えて、裏口から飛び出した。

だが、裏口を出てすぐそこに、奴等三人の内の一人が立っていた。


-3-


私達の前に立っていた男は、兄さんしか眼中に無いようでした、です。
兄さんの隣りに降ろされた私を見る事は無く、ただただジッと兄さんしか見てませんでした、です。

その男はゆっくりと私達に近付いて来ました、です。

「……真論は逃げろ。逃げて誰かに伝えるんだ。」
「それじゃ兄さんはどうするのですっ!?」
「俺は真論が逃げるまでの時間稼ぎさっ!!早く行けっ真論っ!!」

その言葉と共に、兄さんは男へと駆け出していました、です。
兄さんの脇腹に男の蹴りが入り、兄さんは飛ばされました、です。

当然です。スポーツ万能な兄さんだけど、格が天と地以上に違ったからです。

「いやっ!?兄さんも逃げてですっ!?一人はいやですぅっ!?」
「うぅ…早く行けっ!!真論っ!!」

兄さんの気迫に押されて、私はその場を振り返る事無く走り出しました、です。
目尻には涙が溜り、少しずつ零れていました、です。

既に辺りは真っ暗だったのと、涙のせいで視界がぼやけていたのとで転びそうにもなりましたがなんとか近くの橋の下まで辿り着きました、です。

「いやっ!?母さんっ!?兄さんっ!?うあああぁぁぁ………」

私はその場に座り込み泣いてしまいました、です。

暫く泣き続けていた私の前に、何かが音を立てて落ちて来ました、です。


-4-


「…ヒック…なん……です?ヒック…」
「…世界の座標自体が違う……またうっかりか?…はぁ……」
「……だ……れ…です…?ヒック」

目の前に落ちて来たのは水晶の欠片でした、です。顔を上げると地面に落ちた沢山の欠片の中心に人が立っていました、です。

「ん?…ど、どうしたのサ!?」
「あ…ぅ…わ、私達を助けて下さいですっ!?」
「と、とにかく落ち着いて、ね?」

私はいつの間にかその人へと駆け寄っていました、です。その人は泣いている私に微笑みかけ、優しく抱き締めて頭を撫でてくれました、です。
……初対面なのになぜだか少しだけ安心出来ました、です。

ある程度落ち着き、お互いに簡単な自己紹介をした後、私は先程の事を話しました、です。

「母さんと兄さんが気になる…です…」
「そう…じゃあ、これからマロンの家に行ってみようか。僕も一緒に行くよ。」
「クリスさん、ありがとうございますです……いたっ……」
「……足の裏、怪我してる…ずっと裸足で走ってたんだね……ちょっと、いいかな?」

歩きだそうとしたら足の裏が痛みだしました、です。家を出る時は兄さんに抱えられていたので、ずっと裸足でした、です。
その時、クリスさんが私の足に触れて来ました、です。

「……です…?」
「……じっとしてて……」

――『治癒』

クリスさんがそう呟くと、私の足が淡い光に包まれました、です。

それはとても温くて、とても優しい光でした、です。


-5-


暫くして僕は治療を終えました。いつの間にか消えていた光に、マロンは呆然としていました。

「……今…のは…何?…です…」
「魔法だよ。」

微笑みながら端的にそう伝えた僕は、未だに呆然としたままのマロンを抱き抱えました。所謂お姫様だっこ。

「ですっ!?」
「あー……今はいいかな?…急ぐよ。案内して。」
「……は、はいです!!」

そして、駆け出しました。……マロンの顔が赤くなっていたのには全く気付きませんでした。
数分後、美山家の前へと到着しました。

「……裏に回って下さいです。」
「分かった……花壇が荒れているくらいか……」
「兄さん!!いたら返事して下さいですっ!!」

マロンは呼ぶ。しかし願う者へは届かず、その慟哭に近い声はただ夜空へと融けていくだけ。

僕達は裏口から家の中へと入りました。

「……ここ以外は荒らされては無いのか…?」
「母さん、兄さん…どこに……です…」

血痕のみが残る玄関を見て、俯きながら呟いているマロン。唯一荒らされていた部屋に入り中を眺める僕。

「……父さんのスーツケースが無いです。」
「えっ…それって?」
「父さんが大切に保管していた物を入れていたです。」

いつの間にかマロンが隣りに立っていました。
この時僕はスーツケースの中身が何かを聞きませんでした。
後から聞いた話だと数枚の書類とマロンのお母さんにしか開ける事が出来ないからくり箱が入っていたみたいです。

「……ねぇ、マロン。……僕達の下に来ないかな?」

何故だかは分かりませんが、僕はそう呟いていました。


-6-


「……ねぇ、マロン。僕達の下に来ないかな?」

不意にクリスさんはこう尋ねて来ました、です。

「……行きますです。」

私は殆ど間髪を入れずに答えていました、です。

それからすぐに私は、必要そうな物を集め始めました、です。
クリスさんはそれと見た目は全く同じ物をいつの間にか手に持っていて、代わりに残していましたです。

後々分かった事なのですが、パッと見ただけで即興で創っていたそうです。

荷物はとても少なかったのですが、最後に兄さんの上着を何着か持って行こうと思ったです。

これが、私と兄さんを繋いでくれる事を信じて……です。

「……それじゃ、行こうか。…これで『美山真論』は永遠に行方不明になるけど…本当に良い?」
「……はい…です。」

私の言葉を聞き、クリスさんは黙って頷いてくれました、です。

――『帰還』

その言葉と共に、私達はこの世界から消失しました、です。


-7-


クリスの隣りに立ち、私に挨拶をしてきたのは栗色の髪を持つ可愛い女の子でした。

「は、初めましてです。美や…栗栖真論です。よろしくお願いしますです。」
「私は栗栖晶だよー。マロン、よろしくねっ!!」
「これから此所とは時間の流れが違う空間に連れて行くからアキラも付いて来てくれるかな?マロンにこの世界について教えてあげ「はーいっ!!」…最後まで聞いてよね…」

そこでマロンは私達、特に…ほとんどクリスから基本的な勉強や魔法について、戦い方に能力の使用方法などを教わっていました。

――『与えし無限なる可能性』――

元々一般人だったマロンに対して最初にしたのは能力を与える事でした。クリスが『ヘヴンズコード』、『彼』の力の一部を用いてマロンに能力を授けました。

――『解析』

「……なるほど…あえて名前を付けるなら…そうだな…『固定』ってとこかな。」
「『固定』…です…」

それから、私達の世界とこの空間を行き来しながら過ごし、マロンの肉体年齢は15歳になりました。

「はいマロン、改良したピアスと予備のカラコン。それと……僕の力と併せたジャケット。」
「クリス、ありがとうです。……いよいよ…です。」
「向こうの世界にはもうマロンのバックアップをしてくれる個体を送っているから、先ずはその個体がいる場所に転移。それからマロンがこれから住む家に向かうよ。」
「はいです。……アキラ、また来るです。」
「いつでも待ってるよ、マロン。」

――『座標確認、世界間転移開始』――

そしてマロンは、『美山真論』が誕生した世界へと帰って行きました。


-8-


「さて、最初に確認から。まず、あれからまだ一年間しか経っていない。それから……」

転移して来てから一番最初に、クリスから話を聞きました、です。

母さんと兄さん、そして美山真論は行方不明、そうされているそうです。美山の家はこの世界に来ている個体が保存してくれてたです。
……母さんの血痕は消してくれてました…です。

私達は当初の予定通りに行動しました、です。

「ここが私が住む家……です…」
「僕達の所有物件でセキュリティは万全だし、お金の心配はしなくていいから…どう生活するかはマロン次第だよ。」

都心に近い土地にある、それなりの大きさの集合住宅でした、です。
部屋も一人で暮らすのにちょうど良いくらいの広さでしたです。

それから私の、この世界と向こう側の「世界」とをたまに行き来しながらの生活が始まりましたです。


-9-


そして現在、マロンは僕達の「世界」へと遊びに来ています。どうやらこの生活にも慣れたようです。

「あんな所にクリスはっけーんっ!!突撃だぁーっ!!」
「アキラっ!?危ないで「はぶぉっ!?」…す……」
「……アキラ…だいじょぶ?」

アキラが派手にコケました……

「くりすううぅぅぅ……」
「…よしよし。」
「……アキラ、学習してよね、です…。ところでクリス、さっきの表情はどうしたですか?です。」
「あ、いや「まろんがつめたいよぅ…」…はぁ……何でも無いよ、マロン。」

まだ言えないんだよな…マロンの兄、美山真求、いや今は…シング・ジリオンが既に見付かっている事は……

―――――――――――――――――――

この数日後、僕の下へ「鼠の国への招待状」が届く事となる。

その後、マロンが能力者達の運命に巻き込まれる事となるのを、僕はなんとなく感づいていた……





今回はマロンの過去~最近までの話となりました。

タイトルの『「小石」と「栗」、そして「水晶」。』は、『"Shingle" and "Marron" and "Crystal".』の自己流の訳です。
(Shingle→Shing→シング)

ナレーターが一人だけじゃないのは、単純にこの頃のマロンの「~です」口調だけだと疲れるから(自分が)という理由。


ナレーター紹介
1:美山真求(みやましんぐ)
2:美山真求
3:美山真論(みやままろん)
4:美山真論
5:個体識別コード『CR-Y002S』(クリス)
6:美山真論
7:栗栖晶(くりすあきら)
8:栗栖真論(くりすまろん)
9:クリスタル・カルム・クォーツ


――"Shingle" and "Marron" and "Crystal".――
(「小石」と「栗」、そして「水晶」。)

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最終更新:2010年07月03日 23:55