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20XX年 某月某日

日本史上最悪の犯罪者と呼ばれた、前科は容疑含み397犯の「鍵宮スミカ」が逮捕された。
以下は、その取調べの記録である。


「……なぁ、オマワリさん。煙草吸わせてくんね?」

目の前に立つ少女…いや、女性はそう言って、取調室の机に足を乗せている。
この場にいるのは私、彼女、そして監視の警官が一名。
にも関わらず、この女性の態度といったら……。

「お前さんが、これらの罪を認めるんならね。いいか、銀行強盗49件、空き巣20件、殺人11件……」
「ああ認める認める。全部アタシがやりましたぁ。さ、これでいいだろ?煙草吸わせろよ」

臆面も無く言い放つ。彼女は……どことなく誇らしげでもあった。
この女性の犯罪歴には、不可解なものが多い。
住基ネットの操作者IDを何処からか仕入れて名簿屋に売り、銀行の大金庫をものの数秒で開錠。
ブザー付きの車をいとも容易く盗み、不法侵入にはピッキングの痕跡もなく、合鍵も所持していない。
何度か留置所を抜け出しており、手錠、扉の鍵、全てが意味を為さなかった。

その異様な実績から、彼女は国外のメディアにも知られ、「ニュートリノ」とあだ名されている。
全てを透過し、決して捉えられない放射線の名前を冠しているのだ。
だが目の前の女性は……派手ななりではあるが、とてもそのような凶悪犯には見えない。

とはいえ約束は約束だ。
私は彼女に煙草を差し出し、火をつけてやった。
「んだよ。マルボロか?それに百円ライター?男のクセにジッポも持ってねぇのかよ」
「贅沢を言うな」
「……ところでオマワリさん。アタシがあんたと密室デート始めて何時間経ってんの?」
「…何だと?」
「いやァ、答えたくなきゃいいんだけどさ……花火は嫌いなワケ?」


遠くで爆発が起こった。
続いて、建物が崩れるような……雷のような、音が。
「お前、何をした!?今のは何だ!!」
「あーあ……アタシから携帯取り上げちまったのが悪いんだよ?」

間違いない。
この女が……何かをやった!
これは刑事としての勘だが、それ以外この状況で考えられるケースは無い。
「警部!××ホテルで爆発が起こり、倒壊したとの事です!!」
「なんだと……!!」
「くくっ……いーい花火だろ?オマワリさん……」


そう言って笑うこの女の顔は、……不覚にも、美しく見えてしまった。
おかしい。起爆スイッチ類は持っていないし、金属探知機にも反応しなかった。
携帯電話の類は真っ先に没収された。
この女が隠し持っていた武器類もだ。

「教えてやんよ、オマワリさん。……映画とかでさ、携帯で起爆する爆弾ってのがあんだろ?」
「…お前、隠し持っているのか?」
「逆だよ、バァカ。アタシにはトモダチなんていねぇし、カレシだっていねえ。……携帯いじって何してたと思う?」

「……アタシの爆弾は、『一定時間アクセスしないと爆発が起こる』んだよ」

監視の警官によると、私はその時……この世のものとは思えぬ程の表情だったそうだ。

「……全部で20発。ホテルかもしれねぇ。学校かもしれねぇ。もしかすると誰かの家かもね?」
「……解除しろ。今すぐ!」
「えー……?つまんなくね?花火嫌いなの?……だったらアタシの携帯返してよ」
「クソっ……!番号は何だ!言え!!どの番号にかければ、爆発を止められる!?」
「3、2、1……バーン♪」

再び、爆発。
続いて、建物が崩れる音。

「えーっと二回目だから……○○大学だねぇ。敷地ごとブッ飛んだと思うよぉ?」
「言え……!言うんだ!!」
「何をぉ?花火の間隔?あぁ、二分ごとに上がるよ。ドカーンってね……」

気付いたら、私はこの女の胸倉を掴んでいた。
監視の警官が止めに入り、引き剥がされたが。

「……そういえば、オマワリさん…名前、なんだっけ?」
「何だと!?貴様……!」
「白井義和…年齢は37、警部。奥さんの名前は文絵。ガキが二人いて、奥さんも妊娠中?頑張るねぇ。住所は……」
「な……に……?」

この女が言い始めたその内容。
それは全て、間違いなく、私の家族と住居に関わる事だった。
何故?
何故なのだ?

「……で、ローンはあと18年?頑張って払いなよ?」
「それがどうしたんだ!!」
「3、2、1……」
「お前……まさか……」
「どっかーん……」

三度、爆発。

数分して、警官が入ってきて、その爆発の起こった場所を報せる。
その場所は……間違いなく……。


「……くく……何その顔。マジウケル……」
「あ……あぁ……ああああああああああああああああああ!!!!」

はじめ、それが私の声だと気付かなかった。
意識はあった。だが、体を抑えられなかった。
私はテーブルを乗り越え、この女を押し倒し……そして、顔面を力任せに殴りつけた。
一発。二発。三発目を見舞う直前、取調室の扉を開けてなだれ込んできた警官たちに押さえられた。

「マジ痛ぇ……普通オンナの顔殴るか?マジありえねー……」

私が取調室から連れ去られる直前。
その女は血を吐き出し、それでもなお……笑っていた。
ああ、そうか。
私は……暇つぶしだったのか。
この女にとっては……罪など、単なるステータスに過ぎないのか。

「……この女を留置所に連れて行け。……だがその前に医者を呼べ」



その後17回の爆発が起こった。
死者数は1万人を軽く超え、重軽傷者はその数倍。
言うまでも無く、日本史上最大規模の連続爆破事件となった。


その後、彼女は留置所から忽然と姿を消した。
奇妙なことに、彼女の脱獄する時はすべての鍵が開いているというのに…全ての鍵は、閉じられていた。
向かいの房に居た者の証言では……本当に、目の前で姿が消えていったという。

彼女が再び日本に舞い戻る時。
またしても最悪の事件が起こるに違いない。




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最終更新:2009年03月12日 14:29