遥か昔の記憶を悪夢に見て飛び起きる。隣りを見て、誰もいない事に安堵する。
途端強烈な嘔吐感が押し寄せて来た。
サイドテーブルに放られたシャツを着る余裕もなく、洗面所へと駆け出す。
吐き出した吐瀉物が赤と肌色にマーブル状になっているのを見て、ああ、と理解した。
師父は二回が限度と言った。三回目は体中の三元八力を使い果たし、砂へと消えると。
普段いけ好かないジジイではあるが、嘘であるとは思えないし、実際嘘じゃなかった。
全て吐き出し終えても腹のむかつきが治まらない。代償は、やはり大きかった。
寝起きの呆けも覚め、ふと昨日の事を思いだす。
心の中から、お前が殺したようなものだ、いやお前が殺したと、見えない何かに囁きかけられる。
それは違う、分かっている。頭では理解出来ている。
彼女は母のように接してくれた。彼は父のように接してくれた。
だが本当の父母じゃない。本物は今頃朝の風景を楽しみながら朝食を食べているんだろう。
頭では分かっている。分かっているんだ。
彼はこちらを攻撃した。ならどんな理由があろうと殲滅すべきだ。
フレイユ・リマーソンの時と同じだ。どんなに親しかろうとそれまでだ。
頭ではこんなに理解できているというのに。
なのに、心が、感情が受け付けない。
冷静にならないと、俺はこういう時こんな陰気なアクションを取るべき人間じゃない。
蛇口を更に捻り、頭を洗面台に沈めて冷水を浴びる。
アニーにだって言われた、昨日はっきりと説かれた。
これは俺のエゴであり、ただの自己満足だと。俺らしくないと。
俺の罪の意識は、彼に対する最大の冒涜だと。誰一人喜ばないと。
分かっている。頭では理解出来ているはずなんだ。
全ての理由は、俺があの時あの場所から動けていないだけだ。だから苦しいんだ。
けれど、呼び声が聞こえる。彼女の白骨化した腕が、俺の腕を引いている。
頭では分かっている。こんなに理解出来ているはずなんだ。
頭は感覚を無くすほど冷えているのに、体の中が熱い。ただ痛みを生み出している。
後悔は腹の底から身を焼き、精神を蝕んでいく。あの時と同じ感覚だ。
誰か教えてくれ。俺はどうしたらいいんだ。俺はどうすべきなんだ。
頭の痛みが治まらない。吐き気も、涙も、全て。
響きだけは優しい彼女の声に身を任せて、そっと意識を手放した。
――『TITLE:overkill』――
最終更新:2009年03月11日 05:50