―――――これは今から六百年くらい昔
とある人間と怪物の合いの子が特異体質になったきっかけの話―――
「――暗いな」
真っ暗な室内で一人呟く人影
その人影の正体は真っ黒なロングコートに身を包み、棺桶を引きずった男である
「とりあえず一番上まで行ってみっか」
そう呟き男は棺桶を引きずりながら螺旋階段を昇る
現時間はと言うととっくに零時を過ぎている
外は闇が支配し、空には星と巨大な満月が浮かぶ
『ズズズズズ・・・ガタン』
階段を昇り切り男は歩みを止める
棺桶を引きずり長い階段を昇るなど並の人間にできたものではない
だが彼は特別な様で、息を荒げてすらいない
「おうおう、なかなかいい部屋じゃねえの」
その部屋は階段から真っ直ぐ赤い絨毯が伸びており
壁に大きな隙間がありそこから外の景色が伺える
そしてなにより目を引くのは絨毯の先にある玉座
「ふーん・・・お偉いさんでも住んでたのかね」
男が呟き、玉座に触れようとした瞬間
「獲物ガ・・・来タ」
風が部屋を吹き抜け埃が舞う
男は声を聞き手で風を防ぎながら声のした方を向く
そこには多数の蝙蝠が飛び、その蝙蝠達が一つにまとまったかと思うと
「フフ・・・ご機嫌よう、今宵は綺麗な満月ね」
露出の高い服を来た端整な顔立ちな女性が現れる
女は空中に浮遊し、男に妖しい笑みを向けている
「・・・ヒュウ、驚いた、まさかこんな美しい女性がおもてなししてくれるとはな」
男はふざけるように口笛を吹き、大袈裟に身振りを加え言葉を発する
「フフ・・・驚かせてごめんなさいね・・・これからたっぷりとお詫びするから・・・」
女は地面に降り立ち男の体に手を回す
男は薄ら笑いを浮かべそれを受ける
「そりゃあ楽しみだな、一体どんな事をしてくれるんだ?」
「そうね・・・まずは・・・」
女は男の首筋に唇を近付け
「・・・私の下僕にしてあげるなんてどうかしら?」
牙を剥き、首筋に突き立て―――ようとした瞬間
女の体は大きく横へ吹っ飛んでいた
「・・・わりぃな、俺は誰かに従うってのは嫌いなんだ」
男が手を引くと鎖がジャラジャラと鳴り、女にのしかかっている棺桶を引き寄せる
「・・・クッ、フフ・・・効かないわよ?」
「だろうな」
かなり重い一撃を傷一つなく絶えた女
その女に向かい歩き
男が十字架の装飾が施された銀色のガンブレードをコートから取り出し
「んじゃあこいつはどうだ?」
女へ向け発砲、軽い音と共に空の薬莢が飛びリボルバーが回転する
そして発射された弾は女の腹に減り込む
「こんな豆鉄砲で私を・・・ぐ!?ガ・・・!!?」
一瞬余裕の笑みを浮かべた女だが、すぐにそれは苦悶の表情に変わる
弾が減り込んだ場所を抑え、床をのたうちまわる
「貴様・・・何を!!」
「こいつはな、てめえらみたいな奴に効果があるように特別な魔術だか祈りだかが篭ってんだよ」
ガンブレードを掲げ、得意気に男は話す
「貴様・・・許さん・・・」
「血を一滴たりとも残さず吸い付くしてくれるわ!!」
「やれるもんなら、な」
髪を振り乱し襲い来る女
それを真っ向から受ける男
一進一退の攻防は長く長く続いた
そして数時間は経ったであろうかと言う時
「どうしたの!?疲れてきたのかしら!!?」
(チィ・・・やっぱ正真正銘モノホンの化け物とは釣り合わねえか)
男は棺桶を盾にし攻撃を凌ぐ
どう見ても男の方が押されているだろう
(吸血鬼に有効な物・・・心臓に杭?にんにく?十字架?)
(・・・今、何時だ?)
突如、男が棺桶から手を離し、女に背を向け走る
「逃げる気かしら!?」
それを追い掛ける女
もう少しで追い付かれる、その瞬間
「・・・チェックメイトだ、ヴァンパイヤレディー?」
男が壁に向け銃を乱射、壁にひびが入り、崩れ、そこに入って来たのは―――
「なっ!?グ、ギャアアアアアァァァ!!!!」
崩れた壁から差し込む太陽の光に浄化され、女の体は灰と化していく
力の無くなった女が倒れ、男に抱き着くようにして持ちこたえる
「・・・完敗・・・ね・・・」
灰になっていく中、女は力を振り絞り言葉を続けていく
「あなた・・・なかなかイイ顔してたわ・・・」
「私が人間だったら・・・もしかしてたかもね・・・」
「死にそうだから世辞でも言って助かろうってか?」
女はフフ、と笑い
「せめて・・・名前くらい・・・聞かせて?」
「・・・俺か?俺は―――」
男の言葉は吹き抜ける風に掻き消される
「素敵な名前ね・・・」
「・・・そろそろ時間だわ・・・さようなら」
「・・・もし生まれ変わってから会えたら・・・その時は・・・」
そして女は灰になる
完全に灰になる瞬間、男の首筋に牙を突き立て、少しだけ血を吸って行った
「・・・生まれ変わったら・・・ね」
「もしかしたら会えるかも・・・な」
首筋に付いた牙の傷痕を撫で、男は外を眺める
少し太陽の日差しが肌に痛い気がしたが気の性と言うことにした
そして男は棺桶に入り休眠を取る
後に男が自分が半分の半分程吸血鬼化してるのに
そのせいで不老不死の体になってるのに気付くのは結構後になってからである
~終~
最終更新:2009年03月17日 04:04