「――こんな処までわざわざ使い捨て転移魔法陣使って呼び出して。あれ、なかなか高価なんでしょ?
そこまでするなんて、なあに、デートのお誘い?」
「……悪魔はジョークのセンスがない生き物なんだな」
「あら、失礼ね」
鬱蒼と生い茂る森の奥の、静寂をたたえた湖の岸。
黒い少女と、白い青年は対峙していた。
「わたしが水魔法使うの苦手なの知っててこの場所に飛ばしたんでしょ。天使の癖に、意地悪ねぇ」
「……相手に有利なフィールドで戦わせる馬鹿がどこにいる」
「そりゃそうね」
わざとらしく肩をすくませて見せる少女。
青年は、無表情のまま少女を睨んでいる。
「……今日こそは滅んでもらうぞ、サタナキア」
「――その名前で呼ばないで。今のわたしはウィッチ、人間の少女だ」
「……世迷い言を」
二人の間に、殺気が漂い始める。
黒と白、闇と光、悪魔と天使。相反する存在が同じ場所に存在するのだから、当たり前のことではあるのだろう。
「――ああ、憎み合うって悲しいことね」
「……悪魔が、何を言う」
「悪魔だって、心を持つのよ」
「……ふん。綺麗事を抜かすな」
少女は悲しそうに青年を見つめる。
青年は、相変わらず殺気を籠めた視線を少女に向けていた。
「……お前がどれだけ綺麗事を抜かそうと、人間として生きようと。悪魔であることには変わりはないんだ」
「そうね、でも心は変わったわ。正反対に」
「……言ってろ。俺がお前を滅ぼすという事実に変わりはないのだから」
「ああ、それは御免だなぁ」
少女――悪魔が右手を上げる。その先に緋い光を放つ魔法陣が展開された。
青年――天使が右手を上げる。その先に蒼い光を放つ剣が現れた。
「まだ、やりたいことが沢山あるもの。人間の少女、ウィッチとして、ね」
「……悪魔のサタナキアも、人間のウィッチも。今ここで、滅びるんだ」
「――殺れるものなら殺ってみろ、平天使風情が」
「……本性を出したな、悪魔サタナキア。元の姿に戻らなくていいのか」
「――天使ってジョークの下手な生き物なのね」
悪魔の手の先の緋い光が強まる。
それに呼応するかのように、天使の剣の蒼い光も強まる。
「――今の姿で十分よ」
「……後悔するぞ、馬鹿悪魔」
一瞬の空白の後、二人の姿は消え失せて。
そして、緋と蒼はぶつかり合う。
今まで幾度となく繰り広げられて来た殺し合いが、再び幕を上げる瞬間だった。
最終更新:2009年06月27日 23:50