とある次元。とある世界。そこにあったとある森の中に、3人の男女がいた。
1人。水色の瞳と漆黒の髪をした青年。
1人。帽子を深々と被り、昏々と眠っている少女。
1人。タンクトップを着た目付きの悪い男。
男は何かを考えるかのように少女を見つめ。
青年はまるで護るかのように少女を抱きしめていた。
彼らはしばらく沈黙を保っていたが、やがて青年がゆっくりと口を開く。
「君は……ユラを知っているね?」
青年の言葉は質問ではなく、確認だった。
男が少女を見つめる表情を見て、青年は彼が己の腕に抱いている少女の事を知っていると判断したのだ。
それに対し男は――何も言わなかった。
微動だにせずに影の宿った目をすぅっと細めて、ただ少女を見つめ続けていた。
青年はそんな男の様子を見てわずかな疑問を抱いた、が。ぎゅうと少女を強く抱きしめると早口で且つ自身の意図が確実に伝わるように、男に懇願した。
「君にお願いがあるんだ……どんな簡単なことでも良いからユラに」
「知らねぇ」
それまで何も語らなかった男が。青年の主張を一刀両断した。
「――え?」
予想もしていなかった返答に、青年は困惑する。そんな青年のことなどいざ知らず。男は淡々と語りだす。
「……。俺はとある組織に属してる。そこでの自由は制限されており、個人的な事情で一般人と関わることは快く思われていない。そんな俺が、そいつのことを知っていると思うか?」
感情を込めず一気にそれだけ言うと男はくるりと後ろを向き、青年と少女に背を向ける。
「……そう、か。勘違いして悪かったな」
青年は残念そうな表情を浮かべ、悲しそうに笑った。そんな青年の様子を知ってか知らずか。
男はズボンのポケットに右手を突っ込み、その場から動かず静かに彼らに告げる。
「……。……俺のフロイは、6年前に死んだ。組織の追手に殺されて、な。
そこで眠っている女は『偶然』フロイと歳が近くて『偶然』フロイと同じ性別で『偶然』フロイとそっくりなだけだ。
俺はそいつのことなんか全然知らねぇ。
――ただの、赤の他人さ」
ひゃは、と男はシニカルに嗤うとそのまま一歩、また一歩と彼らから遠ざかっていき。数歩ほど行った所で歩
みを一旦止め。
「――――……」
何も語らないまま、再び歩き始め。完全に彼らの前から姿を消した。
「……」
「ユラ?」
男が立ち去ってからしばらく経って。青年は少女が目を開いている事に気付く。
「――ジャンカー……」
少女はうっすらと目を開け、男が去った方へと弱弱しく手を伸ばし。
「怪我……もう必要としなくなったんだね……」
懐かしそうに目を細め、少女は笑う。
「……ばいば、い――」
そして別れの言葉を紡ぎ。彼女は再び眠りについた。
「――ふふ」
少女の言葉と、先ほどの男の態度。それらを交互に思い出しながら、青年は一人笑う。
「青春だねぇ……」
悲しそうに哀しそうに愛しそうに。眠ってしまった少女の頬をゆっくりと撫でる。
そして少女の腕を自身の肩に回して背中に背負い、ふと上を見上げるとそこに浮かぶは満天の星空。
ふふ。青年はどこか寂しそうに笑い。
「でも俺もいつかは……言わなくちゃいけないんだよな――」
小さく呟いた後、少女と共に森の奥へと姿を消したのであった……。
最終更新:2009年07月27日 01:09