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村外れにある小さな丘

その丘にある小さな家に

よく当たると噂される占い師が居た

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「起きなさい!」

女性の声が響く
その声に揺さぶられてベッドの中の彼が小さく寝返る

「…また夜中まで本を読んでたの?」
『いや…頼まれ物作り…』

普通に聞けば当たり前のこの会話
だが、見た目も含めてこの二人には特別
長い間、彼が夢見た空間

『起きるから』と起きる気配の無い彼が呟く
「もぉ…」と彼の頭を撫でて部屋を出て行く女性
女性も彼も、二人とも何故かそれを楽しんでいる様に笑顔を作る

布団に口元まで潜り、部屋を出て行く女性を見送った彼は
そのまま視線を俺に向け、右手を俺へと伸ばす

また、抱き起こせと甘えた事を言っている手なのだろう
彼は以前から、何故か俺を特別扱いしていた
これでは、俺は契約者では無く執事だ…
だが自分もそれは悪い気がせず、今でも面倒を見てしまうからどうしようも無い

「ほら、起きないと」

伸ばされた彼の右手を掴み、抱き上げようとして腰を曲げた
その時、バサリという羽音の後に視界が金色に滲む
一瞬は戸惑いもしたが、すぐに彼が抱き着いて来たのだと理解する

『良かった……居た……』

耳元で彼が小さく呟く

「どうした?」
『夢を見た…皆と別れたあの日の夢』
「……大丈夫、俺は居る」

皆と別れた日…それは彼の居た機関が敗戦したあの日

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酷い戦いだった

どこを見ても死体と殺人兵器の残骸ばかり
呼吸をすれば死の匂いと味が口に広がり胸が焼ける
人同士の殺し合いはいつ見ても幼稚で無惨
殺す美しさのカケラも無く、ただ壊すだけ。

この俺ですら胸が焼けたんだ
死の匂いを嫌う彼にはそうとう苦しかっただろう

そして、その戦いは終わった後も彼にとって最悪な決断を強いた

………彼は、俺達との契約を全て切った



俺達は彼との契約を続けたかった
契約者が居ないからじゃない
彼だから契約したかった

だが……彼はそれを望まなかった
負けた機関の彼はこれから潜み生きて行く事になる
迫害…差別…機関員だと解れば命すら危うい
そんな自分について来て
神獣や聖霊、又は神と呼ばれた俺達が
迫害の目で見られるのは耐えられない…と。



余りにも優しく、余りにも残酷な決断に
イフリートやフェンリルは涙を零し
シヴァやオーディンは俯き堪えていた

一番ドライだったのはメフィスト
当然と言えば当然だろう、本来メフィストは仕える者ではない
人を誘惑して魂を狙う者なのだから
契約が切れてやっと自由になれたと言う所だろう。



今まで一緒に居た彼らとの別れ
消息も解らなくなった機関の仲間
最後まで対立するしかなかった仲間

仲間と、戦う術、全てを一度に手放し
唯一の母親をこの甘えっ子一人で守り逃げる

想像した俺には絶望しか見えなかった。
だから契約を切られても俺の意思で着いてきた。
もちろん、対価を貰わず自分の自由意思で。

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機関を離れ《少女と彼》の悪夢は見なくなった
今の彼は、時々《あの日》の夢を見ている

『お前を信じて無いわけじゃない…ただ…
 いつかお前が夜の闇に溶けてしまいそうで
 時々、本当に時々だけど怖くなるんだ……』

離れる様子を見せない彼に
俺はあの日と同じ言葉を口にする

「俺は亡霊(ファントム)だから
 取り憑いたら相手が壊れるか死なない限り離れない」

『………うん』

小さく答た彼の声には、まだ少し不安の色があったのを
聞き取り、俺は続けた

「それに時々、お前は俺を内に受け入れてくれる
 珍しいし美味いから、離れてやるものか」

言いながら彼の翼の付け根を撫でる

『…っファントム!今日は客の来る日だし、疲れちゃうから駄目だって!』
「不安になった罰、少しだけだから」
『駄目!!客が帰って余裕があったら全部いいから!!』

--何と言うか、この人は
本当に、この手の攻めが不慣れで、いちいち真面目に反応してくれる。
余裕があったら全部いい…か、悪い条件じゃないから飲む事にして体を離す

「客は昼過ぎに来るんだろ、もう昼だぞ?」
『ウッ……起きる…』

流石の彼もヤバイと思ったのだろう
いつものグダグダした時間を過ごす事無く立ち上がり
ベッド脇のクローゼットを開ける

彼の着替えの為に部屋を出る俺
部屋を出る時に、開けられたクローゼットの端で
隠される様に掛けられた制服が目につく。
処分した方が安全なのは彼も解っているはずだが、処分していない

一度だけ、処分しない理由を聞いたが
未練があるから…とだけしか答えてもらえなかった。
仲間への未練、思い出への未練、召喚師への未練
もしかしたら機関への未練か…俺には解らなかった。

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「あら、ファントムさん。ロプトは起きた?」
「ええ、今は着替えています」

キッチンでお湯を沸かしている女性
のんびりとした口調と柔らかい笑顔
こうやって見ていると、やはり彼に似ている。
見たことは無いが、二人の顔を見ていると
彼の父親の顔も何となく想像がつく

『おはよう、母さん』

俺がそんな事を考えていると
彼は着替えを済ませ、2階から降りてくる。

「お昼なのにおはよう?重役さんね~」
『母さん…からかわないでよ』
「ふふふ、ご飯たべる?」
『いや、時間も無いし紅茶だけ』

彼は少し拗ねた様な表情でキッチンのテーブルに腰を下ろし
テーブルに置かれた複数の石を集めて袋に収め始める。
石にはルーンが刻まれており、今の彼の仕事道具だ

彼は今、占い師紛いの仕事をしている。
元々、彼はこれを仕事にするつもりは無かったが
街で気まぐれに女の子を占って口コミで広がって
占いと呪(まじな)いのアクセサリーで稼ぎになってしまっている。

まあ、呪いのアクセサリーと言っても
恋が上手く行かない、告白がしたい
結婚指輪を作ってほしい
そんな子供レベルのカワイイ呪いアクセサリー

そんなレベルのアクセサリーにまで彼は微量ながら魔力を込め
時にはルーンを彫り込んで作ってやる
元・召喚魔導師がそこまでやれば効果もあるのは当然だろう。

女性が紅茶をテーブルに置きに来た時に彼が口を開く

『母さん、今からお客さんが来るから。』
「あら、そうなの?」
『うん。だから、羽は隠してもらえるかな?』
「あら~、忘れてたわ」

………どれだけ天然なんだろう、この女性は

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客人が来るであろう時刻、彼はドアの外に立っていた

丘の上にある家からは、訪問者が丘を上ってくるのが見えるからだ

安全も考慮してなのか、客が来る時に彼は決まって外で待つ。

そして決まって 空を見上げる



飛びたいのだろう…今まで、あれだけ自由に飛んでいたのだから

飛んでいる時が一番幸せそうで
飛んでいる姿は俺から見ても美しかった

あの姿は、もう一度見たい



『ああ、来たね』



彼が小さく呟く
丘を上ってくる人影は3人と2匹

『ファントム…お前……』

その影を見つけて、彼は俺の隣で驚いた顔を俺に向ける
俺は、なぜかこの時に笑うのを堪えられなかった

「お客さん…だろ?迎えに行ってやれよ」

笑いを必死に堪えて、彼の背中を軽く押す
一瞬だけ戸惑い、彼は嬉しそうに顔を崩し
そして……翼を広げて、その人影へと飛び立つ

『みんなーー!!』

久しぶりに聞いた彼の明るい声
そして、空に映える白羽

こんな小細工をするようになった俺は
口調だけじゃなく、何か変わったのかもしれない






しまった…あいつらを呼んだら
今日の俺の飯が

「後で」じゃなくて「おあづけ」になっちまう








[Fin]
最終更新:2010年03月27日 23:28