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20XX NewYork 8
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「何やら遊びを始めたらしいな、アスラン」
「ハンターのことなら心配いりません」
「そうではない」
「ハンターのことなら心配いりません」
「そうではない」
他に俺が始めた遊びなどあっただろうか。
アスランが考え込んでいると、待つ気もないのかあっさりと答えを告げた。
アスランが考え込んでいると、待つ気もないのかあっさりと答えを告げた。
「また新しい機械を売り出すそうだな」
ああ、そのこと。
どうして知っているのだろう。
どうして知っているのだろう。
「お前とて、今がどれほど大切な時期が分かっているはずだ」
勿論。忘れたことはない。
イザークにも釘を刺されたばかりだ。
イザークにも釘を刺されたばかりだ。
「はい」
夜景を背負って俺を見る父は、睨むように視線を合わせる。小さく鼻で笑って、かすかに唇の端を上げると、また夜景を望む。
「いい加減、コートを脱げ」
言いたいことは別にあるのだろうに、どうでもいいことを紡ぐ。
俺はまた父の気に入らないことをしている。
俺はまた父の気に入らないことをしている。
背中越しに聞こえた言葉に肉親の情など何もなく、いや、吸血鬼に情などないのだと何度、教え込まれただろう。一緒に暮らしていたのはほんの幼少の時。その時から、父は変わらない。内も外も。若くもなく、かと言ってくたびれもせず、相変わらず年齢不詳だった。
「父上はいつこちらに」
アスランはコートを脱ぎつつ、尋ねる。
アスランはコートを脱ぎつつ、尋ねる。
「お前は、自分の会社の行事も把握しておらんようだな」
振り向かずに答える父の背を見て、キッチンへと向かう。リビングとベッドルーム、そしてキッチンだけが、アスランの住まいの全てで。たとえそれが、丸々ビル一つが全てアスランのものだとしても、1LDKは1LDKだ。下手したら、キラとカガリのアパートよりも質素かもしれない。
「何か召し上がりますか?」
そんなもの、聞かなくても分かっている。
今、俺の前に現れる理由なんて一つしかない。
今、俺の前に現れる理由なんて一つしかない。
けれど、一縷の望みをかけて、さりげなさを装って言う。目をあわせずに冷蔵庫を開けながら、流れるような一連の動作の一つとして口に出した。
しかし、過去の事例を違わず。
「咽を出せ」
「・・・父上!」
「・・・父上!」
やっぱり・・・。
「アスランッ!」
実の父の牙にかかって目覚めてから、その声は俺を縛り、自由を奪う。
今、この地上でただ一人のマスター。
今、この地上でただ一人のマスター。
アスランは牙を立てやすいように、シャツのボタンを一つ外す。
突っ立ったまま、コクリと頭を傾げるのと壮年の男が覆いかぶさるのはほとんど同時で、その瞬間、ピクリと指が震えた。
突っ立ったまま、コクリと頭を傾げるのと壮年の男が覆いかぶさるのはほとんど同時で、その瞬間、ピクリと指が震えた。
牙がめり込む度に、麻痺する思考が歓喜に染まり。
血を吸われる程に、身体を巡るのは至上の法悦。
血を吸われる程に、身体を巡るのは至上の法悦。
気が遠くなりかけ、瞬きすらできなくなってようやく解放された。
あっ・・・。
正気に戻ってようやく、軽く支えられていることに気が付く。
正気に戻ってようやく、軽く支えられていることに気が付く。
吸血のエクスタシーに勝るものはなく、何度経験しても、慣れることはなかった。もっとも、アスランの血を吸おうなどという同胞は父をおいて他になく、イザークですら牙にかけられたことはなかった。
吸血の最中に気を失うなど、失態もいい所である。
「・・・・・・は・・・っ」
アスランは崩れそうな足に力を入れて、昏倒することを辛うじて防ぐ。
指先に力が入らずに、未だ余韻がくすぶっていたが、何とか平静を装った。
アスランは崩れそうな足に力を入れて、昏倒することを辛うじて防ぐ。
指先に力が入らずに、未だ余韻がくすぶっていたが、何とか平静を装った。
「これでお前の血が人肌であれば、比類なきものを」
パトリックがハンカチで口をぬぐい、手品のようにそれを胸ポケットにしまう。
何の感慨もなく呟かれて、返す言葉もなかった。
パトリックがハンカチで口をぬぐい、手品のようにそれを胸ポケットにしまう。
何の感慨もなく呟かれて、返す言葉もなかった。
「まあよい、それは。復活の儀式にはお前の力が必要になる。分かっておるな」
「はい。・・・父上」
「お前も私も、この時を待ち望んでいたのだからな」
「はい。・・・父上」
「お前も私も、この時を待ち望んでいたのだからな」
この昼の世界も捨てたものではないけれど。
いつだっただろう。
あの夜をなくしてしまったのは。
我等が闇の世界に戻れなくなってしまったのは。
けれど、それももうすぐ終わる。
あの夜をなくしてしまったのは。
我等が闇の世界に戻れなくなってしまったのは。
けれど、それももうすぐ終わる。
母上の目覚めとともに、懐かしい夜への門が開く。
そう、夜。
甘く優しい、真実の休息を約束してくれる世界。
思い出すだけで、身体が軽くなった。
甘く優しい、真実の休息を約束してくれる世界。
思い出すだけで、身体が軽くなった。
俺が目を覚ましたのは一週間も後になってからで、持ちこたえたと思ったのに、駄目だったのか、よく覚えていない。いつの間にかベッドにいて、一週間も眠っていたことを知ったのだ。
父上が運んでくださったのか。
信じられないけれど、自分で行った記憶はないし、忘れているだけかも知れない。
信じられないけれど、自分で行った記憶はないし、忘れているだけかも知れない。
コムコンを起動してスケジュールを確認すると、プロジェクトの会合があったのに、すっぽかしてしまっていた。アスランは自分に負かされた箇所の進捗具合を思い出して、顔をしかめる。期限オーバーではないが、さほど余裕があるとも思えない。
進捗についてプロジェクトリーダーから何か連絡があったかとメッセージを覗いてみたが、ビッグニュースの知らせばかりで肝心の内容が分からない。仕方なく、そそくさと身支度を整えると、ミッドタウンのハロ・グループの本社ビルへと向かう。
本社ビル・トゥーレでアスランを待っていたのは、本社のセキュリティが再度アタックを受けている現場だった。